【包囲運動の基本概念】
3-1. 包囲運動の概説
包囲(envelopment)は戦史において突破と並びその絶大なる効果を示してきたマニューバです。包囲は敵の側面や後背を含む複数方面から行われる攻撃であり、実行ためには指揮官や兵卒に高い練度が必要です。
包囲は古より現代まで試行錯誤がなされ発展し続けています。ある程度の原則を基にしながらも時に新技術や兵科により全く斬新な包囲方式が考えられることもあります。
(戦例:Battle of Klokotnitsa_ブルガリア軍が東ローマの大軍を包囲撃滅)
米軍野戦教本 FM 3-90 Tacticsにおいては以下のように定義されています。
「包囲とは、敵現在位置において撃滅するために、敵軍の側面を目標として追い求めることによって攻撃部隊が敵防御の主体を回避することにつとめる運動の1つである」
敵の弱点箇所を突くことになるので高い戦闘効率を誇り、自軍の被害を少なくできることも多いため包囲は各国軍で必ず強く推奨されています。
軍団や大隊のみならず、最小単位の分隊規模ですら共通します。
包囲概念は戦術域(Tactical Level)、作戦域(Operational Level)そして広大な戦略域(Strategic Level)において、地理的な概念のみならずあらゆる分野で適用されます。
このマニューバは必ず複数部隊の別行動を、それも指向性が違う進行を必要とします。
そして失敗には高い代償を払うことになります。
また、指揮官が意図せず偶然この形になることもありますが、その場合は地理的特性と兵士の練度に着目して今後記事にします。
※包囲には膨大なパターンと複雑な運用思想が存在します。本記事はその基本概念を導入するためのものであり、各バリエーションの詳解については別途行います。
米軍ではenvelopmentを多角的攻撃マニューバ、encirclementを周りを取り囲むことと解釈を分けているケースが見受けられますが統一的定義ではなさそうです。
なぜ包囲すると戦闘効率が上がるのか、軍事研究者たちは様々な議論をしてきました。
効果が発揮される要因とどの状況でそれが生まれ、どの包囲では生まれないのかを場合分けする必要があります。
ただし大概の共通される項目があるため本記事ではそれを記載し、戦例の個別解説記事で各場合分けを見ていくこととします。
(戦例:三王の戦い_近世におけるモロッコ軍によるポルトガル王と貴族の殲滅)
【被包囲側に現れる影響】
・内線的になり多方面に同時対応せざるを得なくなる
・攻撃方向が分散し、連携が低下する。前進時には更に顕著と成る
・囲まれているという精神的な圧力が兵卒全体にかかる
・指揮系統が麻痺する
・後方拠点へ敵に行かれる不安が発生する
・側面や後背といった戦闘準備が充分になされていない脆弱箇所を攻撃される
・戦術的マニューバを展開するスペースが消失する
・補給・増援が妨害される
【包囲実施側に現れる影響】
・最初は分散的だが外線的になり進行方向で戦力が次第に集中する
・接敵距離が最大化され火力が大規模に発揮される
・包囲しているという優越心が兵卒に生まれる
・敵の脆弱部を攻撃できで、戦闘効率が上昇し被害少なく戦果をあげられる
・少なくとも局所的に数的優位が発生する
これ以外にもあるため整理できしだい追記する。
包囲戦術・作戦は様々な基準で分類が可能です。
・正面+両側面
・両側面(=挟撃:Pincer )
・正面+後背(=挟撃:Pincer)
・正面+片側面+後背
・両側面+後背
・全方位攻勢
たとえ全周を包みこんでいたとしても攻撃集中の原則によって主攻を何箇所かに絞るのが常道です。
攻勢側にとって方向性が絞られることで統率しやすくなります。包囲陣形は完全な円形ではなく角形になることをイメージすると良いかもしれません。
ただ圧殺するような平攻めを全周からする場合も無いと考えられるわけではありません。
(戦例:Battle of Walaja_ハーリドの深夜後背への隠密移動からの挟撃)
両側面+後背、というのは奇妙に感じるかもしれませんが、ゲリラ戦など相手の位置情報が極端に掴めていない場合に発生します。
========================================
作戦例:待ち伏せしておいて敵の隊列がある程度通りすぎるのを待ち、先頭を障害物などで足止めした瞬間に後衛部隊を攻撃、前衛&後衛が止まったことで隊列全体が動きを制限された処で一気に側面から攻撃し背面からも追撃する。敵は動き難く隠れることもできないため損害が急速に広がる。
(戦例:パンジシール渓谷の戦い_第682自動車化歩兵連隊第1大隊の死_マスードの山岳ゲリラ戦)
========================================
正面攻勢とのセットになっているのが多いですがこれは包囲のために別働隊が動いているのを邪魔されないよう、または相手を誘引するように、敵の注意をひきつけ動きを拘束する部隊を必要とするためです。
正面が必要でないのはよほど相手と情報格差や指揮官、移動能力の差がある場合だけです。
複数方向から敵に迫れたからといって包囲になるとは限りません。
箇所分類は各種攻勢で必ず現場の指揮官が包囲が机上の空論にならないよう検討する項目になります。
(戦例:Battle of Vaslui_モルドヴァ軍のオスマンへの勝利)
[1] 片翼包囲 (Single Envelopment)
[2] 両翼包囲 (Double Envelopment)
[3] 立体包囲 (Vertical Envelopment)
攻勢側の指揮官は部隊編成し準備展開するためにまずこの3種類のうちのどれかを選択します。
片翼包囲は自軍の片翼から包囲運動を行うことで両翼包囲はそれをどちらの翼からも行うことです。古代より重要な概念であり続けています。
立体包囲(垂直包囲)とは航空部隊と連携した包囲攻勢のことで20世紀以降急激に広がり、空挺の編成、投入量、タイミングなどで最も急速な発展を遂げている作戦・戦術です。
他の2つの包囲と併用もできます。
将来的には立体包囲を航空勢力だけでなく、電子戦、情報戦そして衛星による宇宙戦にも本格導入する可能性があります。
また両翼包囲はリスクも巨大化します。
簡単に言うと相手が動いて来るのを待ち構えるか、自分から動いて包囲するかです。
混乱を避けるため本記事では下のように仮称します。
① 能動包囲
② 受動包囲
③ 受動→能動移行
まず、能動包囲について述べます。
【能動包囲】
能動包囲は包囲を企図する側が積極的に攻勢や移動を行い、敵を押し込み包囲形を造る手法です。
よって初期配置が包囲を匂わせない形でも、それからの動きで包囲に持ち込めます。
特に下記3点がその遂行手法として上げられます。
1. 敵翼の更に外側を回り込んで、接敵時には既に中心方向へ志向する動きで敵側面を攻撃する
2. 敵の片翼または両翼を押し込み、前進に成功した部隊はその後旋回するように中心方向へ志向する
3. 敵戦列を突破することで新たな敵側面を作り出し、その後突破拡大部隊が敵側面と後背に進行する
能動包囲はいずれの場合においても包囲マニューバをする部隊に移動力、突破力、制圧力を要求され高い練度や武器または数の優勢を要求されます。
(戦例:Battle of Malayer Valley_ペルシャ騎兵を率いた梟雄ナディル・シャー)
【受動包囲】
接敵する前の展開まで含めるとある意味全ての包囲は能動包囲であると言えるかもしれませんが、相手を待ち受ける形は戦術的な意味では他と区分するべきと考えます。
待ち伏せはこの形ですることが多いでしょう。
(戦例: Battle of Abdullah-e Burj Bridge_アフガニスタンゲリラのソ連軍への伏撃)
受動包囲をする際は情報戦または指揮官の能力差によって優位に立ち、接敵前に予め包囲形を取ります。
半月形、鶴翼形、V字形、八の字形などの呼ばれ方をする陣形を展開しておき、その中央部に敵をおびき寄せてから集中的に攻勢にでることで包囲に持ち込みます。
これはおびき寄せることが難しいですが、それができれば包囲部隊が比較的高度な動きを要求されることなくできます。
待ち伏せからの包囲は部隊の組織的練度がそこまで高くなくてもやりやすいと言えます。といっても隠密性や統一性といった点で難易度が高い点は変わりません。
受動包囲を成功させた後でも完成度を高めるために、予備などを動かして能動的に包囲を更に進めることは珍しくはありません。
(戦例:Battle of Taginae & Battle of Volturnus_東ローマのナルセス)
【受動→能動移行】
また、対峙までは正面から行うタイプの受動包囲もあります。
即ち、対峙までは包囲陣形ではなく、戦闘が進む中で敵に前進させ、それに合わせて自陣形を変更していき包囲形に持ち込みます。
この難易度は跳ね上がります。
・最初からこれを狙って行うことを本サイトにおいて「偽装退却から包囲」と位置づけます。
(Feigned Retreat / Withdrawal) 別途詳記
・狙ったわけではないにも関わらず敵が攻勢にでてきた状況に驚異的な順応速度で対応し包囲形に持ち込む反撃(Counter)を本サイトでは「逆襲包囲」と位置づけます。
(Counter Envelopment)別途詳記
英語ではdeliberateという単語で事前準備したか応急的に対応したかを表現します。
騎馬民族と呼ばれた者たちを含む場合に多く使われることが見受けられますが、彼らには農耕民族には維持が困難な「組織力のある大量の騎兵」という巨大なアドバンテージがあったからこそできたのであり、特殊な練度がありました。
(戦例:Battle of Urmia_サファヴィー朝中興の祖アッバース1世の戦術)
いかなる場合でもこの2つの包囲攻勢形態は想像を絶する統率力とタイミングを見極める戦術眼が必要とされ、成功させればそれだけで名将と呼ばれます。
それ故にこれをほぼ完璧に成功させたハンニバルやバイバルスたちは不朽の名声を戦史の中に刻み込んだのです。
(戦例:カンネーの戦い_ハンニバルのローマ大軍殲滅)(アインジャールートの戦い_バイバルスのモンゴル撃破)
戦線が巨大化してからよく見られるようになりましたが、近代以前でも使われています。
また、巨大な敵軍に対して複数箇所で同時並行でいくつも包囲戦を展開することを同時性と表します。
本サイトではこの2つを特に重視しており、単一で完結する包囲戦と分けるために仮称ですが下記のように表現します。
『単一包囲』
『連続包囲』
『同時包囲』
(戦例:1205年のアドリアノープルの戦い_偽装退却からの連続包囲攻勢)
あるいは縦の連続性、横の連続性と捉えるべきかと考えています。
嬉しいことに本サイト編纂者とこの概念について全く同じ表現をしている人物を見つけました。JAMES J. SCHNEIDERの作戦術に関する論文ではLateral Distribution =横方向の広がり、Depth of the entire theater of operations =縦の広がりという表現で考察がされています。
20世紀以降の非常に大規模でハイテンポになった攻勢規模の包囲では次の要素が重要視されています。
・各単一作戦それぞれを協調(synchronize)させること
・同時的に(simultaneous / concurrently)行うこと
・各作戦が相互に連携をとって(related)実施すること
・最大限一挙に行う作戦的な縦深性を持つこと
・もし段階性(phase)が発生せざるを得ないならば、単発を複数するのではなく連続的(successive operations)になること
ただし同時的か連続的にするかは、具体的には段階を分けるかでリソース量が変わるため様々な議論を呼びます。端的に言って一時期絶賛された「同時複数作戦」は圧倒的な物量を必要とし国家に重い負担をかけることが複数の調査で問題視されるようになりました。
連続作戦理論や作戦術とも関連するため別途詳記します。
この状態に陥った敵は補給も増援も遮断されるため物的にも精神的にも急激に弱ります。
しかし、ここで重要なことですが、降伏をし易い状況を作っておく必要があります。なぜなら逃げ道を絶たれた敵は死に物狂いで戦うしかなくなるからです。
窮鼠猫を噛むと言われるように追い詰められた敵を殲滅するのは包囲側の被害も増大するため効率性が低下します。
寛容性を予め示し包囲下の者達が投降しても安心できる風潮を造る情報戦は非常に重要です。
よって戦術的には包囲は部分的にしておき、補給や増援を邪魔さえできれば、敵が細々と逃げることが可能な箇所を残しておくことが望ましいです。
そうしておけば生きる望みにしがみついて逃走を始め組織性を自壊させます。
そのタイミングで包囲を抜ける敵を追撃すればほとんど損害無く敵を壊滅できるでしょう。
(追撃戦については別途詳解)
ただし敵がゲリラ戦などでいつまでも戦い続けるタイプであったり、周囲に示すための見せしめであれば完全包囲が行われることはあります。また、補給線を断つために現実的には完全包囲せざるを得ない状況はおかしいことではありません。
作戦・戦術的に重要なのは「完全包囲される可能性がある」と敵に思わせることです。
※野戦における包囲と城攻めにおける包囲は重大な相違点があるため別途詳解します。
硬性包囲は包囲側が硬い戦列により相手の反撃を寄せ付けず(あるいはひたすら押し込める強靭さで)反撃を始めることすらさせずに包囲環を縮めていくパターンです。
逆に包囲環が相手の動き、例えば解囲のための突撃に合わせて柔軟に後退を部分的に行う包囲です。削りながら包囲環を広げ、相手の突撃の動きが止まったら押し返してまた包囲環を縮めます。
それぞれ保有する兵科の質によって大きく実行可能性が変化します。どちらにも長所と短所があります。
詳細は別途、戦例と共に記載します。下記リンクをご参照ください。
【弾性包囲概説と戦例】
http://warhistory-quest.blog.jp/18-Apr-12
包囲は成功すれば我軍の被害を抑えながら敵に大規模な損害を与えることができます。にも関わらず優れた指揮官がいつも包囲を狙うわけではありません。なぜなら包囲はその実現が困難であり、尚且つ失敗した際には甚大な被害が予期されるからです。今回はその代表例を幾つか紹介することとします。
2. 各部隊の兵卒は単一でない複雑な移動を要求される
3. 分離した部隊との密接な連絡は困難
4. 広げられた戦列は他陣形よりも薄くならざるを得ない
5. 敵に情報で優位に立たれてはならない、特に攻勢が本格化する前に気づかれるのは絶対に避けなければならない
6. 包囲の外からくる敵の解囲部隊を阻止しなければならない
7. 時間的な連動性も持たせないと効果が激減する
2. 突破され急速に崩壊する可能性
3. 修正命令はほぼ伝わらず、伝わったとしても現場の急速変化についていけず、立て直しは非常に困難
4. 退却も統一してできず、最悪別方向へバラバラに逃げることとなる
5. 味方が敗れたことに気づくのが遅れ、逆に包囲されることすらある
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(戦例:リヴォリの戦い_カスダノヴィッチの包囲狙いとナポレオンの阻止)
[要点解説]
・後背狙いの部隊が孤立し連動性が無く、フランス軍の後続に逆に挟み撃ちにされてしまっている
・総数は優勢なのに正面部隊が薄くなりすぎてフランス軍に押し負けた
・側面攻撃を行う部隊の展開スペースが狭くナポレオンに対応されてしまった
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その戦闘効率の良さから寡兵で多勢を撃破できる戦術として知られますが、
これらのリスクを考え包囲は他のマニューバと同様に、あるいはそれ以上に数が優勢な場合にすることが望ましいと言えるかもしれません。
高名な孫子兵法では「自軍が相手の10倍のときに包囲するべきである」と述べられているほどです。
また、包囲戦術は古来より戦術家たちの間では知られており彼らは様々な方法で対策を行いました。
それらは『対包囲』と言われる逆襲戦術です。
これについては別途専門記事を設け詳解することとします。
包囲のリスク及び統制と方向転換の困難性についてカリニクムの戦いの記録を基により詳しくしたものを別途記載しました。対包囲戦術として鈎型陣形に一部ですが触れています。
【カリニクムの戦い_531年_片翼包囲_鈎型陣形による対包囲】
http://warhistory-quest.blog.jp/20-Mar-14
包囲は非常に有効なマニューバであり、戦術・作戦・戦略域全てに適用可能です。
成功時の自軍の被害の被害が少なくなる可能性が高く尚且つ相手に甚大な損害もたらせるためその戦闘効率は大変高いと言えます。
よって基本的に包囲が可能ならば他のマニューバより優先して狙われます。
古より現代まで行われており、今なお発展し続けています。その種類は膨大な量に及び地形、時期、兵卒や将校の練度、指揮官の能力といった様々な場合で使い分ける必要があります。
効果が大きい代わりにリスクもまた大きく、包囲を行う際には深い注意を図らなければ逆にこちらが大損害を被ることがあります。
包囲されないようにすることは指揮官の当然の勤めであり様々な対策を行います。その努力をする敵を上回り初めて包囲できます。
今後本サイトでは包囲の各バリエーションを具体的な戦例と共に詳解していきます。
軍団や大隊のみならず、最小単位の分隊規模ですら共通します。
包囲概念は戦術域(Tactical Level)、作戦域(Operational Level)そして広大な戦略域(Strategic Level)において、地理的な概念のみならずあらゆる分野で適用されます。
このマニューバは必ず複数部隊の別行動を、それも指向性が違う進行を必要とします。
そして失敗には高い代償を払うことになります。
また、指揮官が意図せず偶然この形になることもありますが、その場合は地理的特性と兵士の練度に着目して今後記事にします。
※包囲には膨大なパターンと複雑な運用思想が存在します。本記事はその基本概念を導入するためのものであり、各バリエーションの詳解については別途行います。
米軍ではenvelopmentを多角的攻撃マニューバ、encirclementを周りを取り囲むことと解釈を分けているケースが見受けられますが統一的定義ではなさそうです。
3-2. 包囲の効果
なぜ包囲すると戦闘効率が上がるのか、軍事研究者たちは様々な議論をしてきました。効果が発揮される要因とどの状況でそれが生まれ、どの包囲では生まれないのかを場合分けする必要があります。
ただし大概の共通される項目があるため本記事ではそれを記載し、戦例の個別解説記事で各場合分けを見ていくこととします。
(戦例:三王の戦い_近世におけるモロッコ軍によるポルトガル王と貴族の殲滅)
【被包囲側に現れる影響】
・内線的になり多方面に同時対応せざるを得なくなる
・攻撃方向が分散し、連携が低下する。前進時には更に顕著と成る
・囲まれているという精神的な圧力が兵卒全体にかかる
・指揮系統が麻痺する
・後方拠点へ敵に行かれる不安が発生する
・側面や後背といった戦闘準備が充分になされていない脆弱箇所を攻撃される
・戦術的マニューバを展開するスペースが消失する
・補給・増援が妨害される
【包囲実施側に現れる影響】
・最初は分散的だが外線的になり進行方向で戦力が次第に集中する
・接敵距離が最大化され火力が大規模に発揮される
・包囲しているという優越心が兵卒に生まれる
・敵の脆弱部を攻撃できで、戦闘効率が上昇し被害少なく戦果をあげられる
・少なくとも局所的に数的優位が発生する
これ以外にもあるため整理できしだい追記する。
3-3. 包囲の分類
包囲戦術・作戦は様々な基準で分類が可能です。3-3-1.【包囲対象が受ける攻撃箇所による分類】
・正面+片側面・正面+両側面
・両側面(=挟撃:Pincer )
・正面+後背(=挟撃:Pincer)
・正面+片側面+後背
・両側面+後背
・全方位攻勢
たとえ全周を包みこんでいたとしても攻撃集中の原則によって主攻を何箇所かに絞るのが常道です。
攻勢側にとって方向性が絞られることで統率しやすくなります。包囲陣形は完全な円形ではなく角形になることをイメージすると良いかもしれません。
ただ圧殺するような平攻めを全周からする場合も無いと考えられるわけではありません。
(戦例:Battle of Walaja_ハーリドの深夜後背への隠密移動からの挟撃)
両側面+後背、というのは奇妙に感じるかもしれませんが、ゲリラ戦など相手の位置情報が極端に掴めていない場合に発生します。
作戦例:待ち伏せしておいて敵の隊列がある程度通りすぎるのを待ち、先頭を障害物などで足止めした瞬間に後衛部隊を攻撃、前衛&後衛が止まったことで隊列全体が動きを制限された処で一気に側面から攻撃し背面からも追撃する。敵は動き難く隠れることもできないため損害が急速に広がる。
(戦例:パンジシール渓谷の戦い_第682自動車化歩兵連隊第1大隊の死_マスードの山岳ゲリラ戦)
========================================
正面攻勢とのセットになっているのが多いですがこれは包囲のために別働隊が動いているのを邪魔されないよう、または相手を誘引するように、敵の注意をひきつけ動きを拘束する部隊を必要とするためです。
正面が必要でないのはよほど相手と情報格差や指揮官、移動能力の差がある場合だけです。
複数方向から敵に迫れたからといって包囲になるとは限りません。
箇所分類は各種攻勢で必ず現場の指揮官が包囲が机上の空論にならないよう検討する項目になります。
(戦例:Battle of Vaslui_モルドヴァ軍のオスマンへの勝利)
3-3-2.【運用上の概念による分類】
箇所を踏まえた上で、攻撃側の運用概念で米軍式にわけられます。[1] 片翼包囲 (Single Envelopment)
[2] 両翼包囲 (Double Envelopment)
[3] 立体包囲 (Vertical Envelopment)
攻勢側の指揮官は部隊編成し準備展開するためにまずこの3種類のうちのどれかを選択します。
片翼包囲は自軍の片翼から包囲運動を行うことで両翼包囲はそれをどちらの翼からも行うことです。古代より重要な概念であり続けています。
立体包囲(垂直包囲)とは航空部隊と連携した包囲攻勢のことで20世紀以降急激に広がり、空挺の編成、投入量、タイミングなどで最も急速な発展を遂げている作戦・戦術です。
他の2つの包囲と併用もできます。
将来的には立体包囲を航空勢力だけでなく、電子戦、情報戦そして衛星による宇宙戦にも本格導入する可能性があります。
可能ならば両翼包囲が望ましいですが、両翼からいける場合というのは地形的、戦力的、情報的に恵まれていなければならず、現実的な戦力集中によって片翼包囲を選択することは珍しくありません。
また両翼包囲はリスクも巨大化します。
3-3-3.【受動/能動による分類】
包囲に持ち込むために受動的な配置をするか接敵後に能動的に行うかの違いがあります。簡単に言うと相手が動いて来るのを待ち構えるか、自分から動いて包囲するかです。
混乱を避けるため本記事では下のように仮称します。
① 能動包囲
② 受動包囲
③ 受動→能動移行
まず、能動包囲について述べます。
【能動包囲】
能動包囲は包囲を企図する側が積極的に攻勢や移動を行い、敵を押し込み包囲形を造る手法です。
よって初期配置が包囲を匂わせない形でも、それからの動きで包囲に持ち込めます。
特に下記3点がその遂行手法として上げられます。
1. 敵翼の更に外側を回り込んで、接敵時には既に中心方向へ志向する動きで敵側面を攻撃する
2. 敵の片翼または両翼を押し込み、前進に成功した部隊はその後旋回するように中心方向へ志向する
3. 敵戦列を突破することで新たな敵側面を作り出し、その後突破拡大部隊が敵側面と後背に進行する
能動包囲はいずれの場合においても包囲マニューバをする部隊に移動力、突破力、制圧力を要求され高い練度や武器または数の優勢を要求されます。
(戦例:Battle of Malayer Valley_ペルシャ騎兵を率いた梟雄ナディル・シャー)
【受動包囲】
接敵する前の展開まで含めるとある意味全ての包囲は能動包囲であると言えるかもしれませんが、相手を待ち受ける形は戦術的な意味では他と区分するべきと考えます。
待ち伏せはこの形ですることが多いでしょう。
(戦例: Battle of Abdullah-e Burj Bridge_アフガニスタンゲリラのソ連軍への伏撃)
受動包囲をする際は情報戦または指揮官の能力差によって優位に立ち、接敵前に予め包囲形を取ります。
半月形、鶴翼形、V字形、八の字形などの呼ばれ方をする陣形を展開しておき、その中央部に敵をおびき寄せてから集中的に攻勢にでることで包囲に持ち込みます。
これはおびき寄せることが難しいですが、それができれば包囲部隊が比較的高度な動きを要求されることなくできます。
待ち伏せからの包囲は部隊の組織的練度がそこまで高くなくてもやりやすいと言えます。といっても隠密性や統一性といった点で難易度が高い点は変わりません。
受動包囲を成功させた後でも完成度を高めるために、予備などを動かして能動的に包囲を更に進めることは珍しくはありません。
(戦例:Battle of Taginae & Battle of Volturnus_東ローマのナルセス)
【受動→能動移行】
また、対峙までは正面から行うタイプの受動包囲もあります。
即ち、対峙までは包囲陣形ではなく、戦闘が進む中で敵に前進させ、それに合わせて自陣形を変更していき包囲形に持ち込みます。
この難易度は跳ね上がります。
・最初からこれを狙って行うことを本サイトにおいて「偽装退却から包囲」と位置づけます。
(Feigned Retreat / Withdrawal) 別途詳記
・狙ったわけではないにも関わらず敵が攻勢にでてきた状況に驚異的な順応速度で対応し包囲形に持ち込む反撃(Counter)を本サイトでは「逆襲包囲」と位置づけます。
(Counter Envelopment)別途詳記
英語ではdeliberateという単語で事前準備したか応急的に対応したかを表現します。
騎馬民族と呼ばれた者たちを含む場合に多く使われることが見受けられますが、彼らには農耕民族には維持が困難な「組織力のある大量の騎兵」という巨大なアドバンテージがあったからこそできたのであり、特殊な練度がありました。
(戦例:Battle of Urmia_サファヴィー朝中興の祖アッバース1世の戦術)
いかなる場合でもこの2つの包囲攻勢形態は想像を絶する統率力とタイミングを見極める戦術眼が必要とされ、成功させればそれだけで名将と呼ばれます。
それ故にこれをほぼ完璧に成功させたハンニバルやバイバルスたちは不朽の名声を戦史の中に刻み込んだのです。
(戦例:カンネーの戦い_ハンニバルのローマ大軍殲滅)(アインジャールートの戦い_バイバルスのモンゴル撃破)
3-3-4.【連続、同時性の分類】
包囲における連続とは一つの包囲戦が終結に向かう中で続いて次の包囲マニューバを開始することを指します。戦線が巨大化してからよく見られるようになりましたが、近代以前でも使われています。
また、巨大な敵軍に対して複数箇所で同時並行でいくつも包囲戦を展開することを同時性と表します。
本サイトではこの2つを特に重視しており、単一で完結する包囲戦と分けるために仮称ですが下記のように表現します。
『単一包囲』
『連続包囲』
『同時包囲』
(戦例:1205年のアドリアノープルの戦い_偽装退却からの連続包囲攻勢)
あるいは縦の連続性、横の連続性と捉えるべきかと考えています。
嬉しいことに本サイト編纂者とこの概念について全く同じ表現をしている人物を見つけました。JAMES J. SCHNEIDERの作戦術に関する論文ではLateral Distribution =横方向の広がり、Depth of the entire theater of operations =縦の広がりという表現で考察がされています。
20世紀以降の非常に大規模でハイテンポになった攻勢規模の包囲では次の要素が重要視されています。
・各単一作戦それぞれを協調(synchronize)させること
・同時的に(simultaneous / concurrently)行うこと
・各作戦が相互に連携をとって(related)実施すること
・最大限一挙に行う作戦的な縦深性を持つこと
・もし段階性(phase)が発生せざるを得ないならば、単発を複数するのではなく連続的(successive operations)になること
ただし同時的か連続的にするかは、具体的には段階を分けるかでリソース量が変わるため様々な議論を呼びます。端的に言って一時期絶賛された「同時複数作戦」は圧倒的な物量を必要とし国家に重い負担をかけることが複数の調査で問題視されるようになりました。
連続作戦理論や作戦術とも関連するため別途詳記します。
3-3-5.【全周包囲、部分包囲の分類】
敵を包囲する際に完全に包み込んで逃げることも入ることもでき無くすることを完全包囲と言います。この状態に陥った敵は補給も増援も遮断されるため物的にも精神的にも急激に弱ります。
しかし、ここで重要なことですが、降伏をし易い状況を作っておく必要があります。なぜなら逃げ道を絶たれた敵は死に物狂いで戦うしかなくなるからです。
窮鼠猫を噛むと言われるように追い詰められた敵を殲滅するのは包囲側の被害も増大するため効率性が低下します。
寛容性を予め示し包囲下の者達が投降しても安心できる風潮を造る情報戦は非常に重要です。
よって戦術的には包囲は部分的にしておき、補給や増援を邪魔さえできれば、敵が細々と逃げることが可能な箇所を残しておくことが望ましいです。
そうしておけば生きる望みにしがみついて逃走を始め組織性を自壊させます。
そのタイミングで包囲を抜ける敵を追撃すればほとんど損害無く敵を壊滅できるでしょう。
(追撃戦については別途詳解)
ただし敵がゲリラ戦などでいつまでも戦い続けるタイプであったり、周囲に示すための見せしめであれば完全包囲が行われることはあります。また、補給線を断つために現実的には完全包囲せざるを得ない状況はおかしいことではありません。
作戦・戦術的に重要なのは「完全包囲される可能性がある」と敵に思わせることです。
※野戦における包囲と城攻めにおける包囲は重大な相違点があるため別途詳解します。
3-3-6.【硬性、弾性の分類】
この分類は近世以前では大きな意味を持ちます。硬性、弾性は仮名称ですがイメージは文字の通りです。硬性包囲は包囲側が硬い戦列により相手の反撃を寄せ付けず(あるいはひたすら押し込める強靭さで)反撃を始めることすらさせずに包囲環を縮めていくパターンです。
逆に包囲環が相手の動き、例えば解囲のための突撃に合わせて柔軟に後退を部分的に行う包囲です。削りながら包囲環を広げ、相手の突撃の動きが止まったら押し返してまた包囲環を縮めます。
それぞれ保有する兵科の質によって大きく実行可能性が変化します。どちらにも長所と短所があります。
詳細は別途、戦例と共に記載します。下記リンクをご参照ください。
【弾性包囲概説と戦例】
http://warhistory-quest.blog.jp/18-Apr-12
3-4. 包囲を仕掛ける際のリスク
包囲は成功すれば我軍の被害を抑えながら敵に大規模な損害を与えることができます。にも関わらず優れた指揮官がいつも包囲を狙うわけではありません。なぜなら包囲はその実現が困難であり、尚且つ失敗した際には甚大な被害が予期されるからです。今回はその代表例を幾つか紹介することとします。【困難性】
1. 統帥をとる指揮官から離れて部隊を独自に動かせる優秀な将校が必要2. 各部隊の兵卒は単一でない複雑な移動を要求される
3. 分離した部隊との密接な連絡は困難
4. 広げられた戦列は他陣形よりも薄くならざるを得ない
5. 敵に情報で優位に立たれてはならない、特に攻勢が本格化する前に気づかれるのは絶対に避けなければならない
6. 包囲の外からくる敵の解囲部隊を阻止しなければならない
7. 時間的な連動性も持たせないと効果が激減する
【失敗時の損害】
1. 広がった部隊の各個撃破2. 突破され急速に崩壊する可能性
3. 修正命令はほぼ伝わらず、伝わったとしても現場の急速変化についていけず、立て直しは非常に困難
4. 退却も統一してできず、最悪別方向へバラバラに逃げることとなる
5. 味方が敗れたことに気づくのが遅れ、逆に包囲されることすらある
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(戦例:リヴォリの戦い_カスダノヴィッチの包囲狙いとナポレオンの阻止)
[要点解説]
・後背狙いの部隊が孤立し連動性が無く、フランス軍の後続に逆に挟み撃ちにされてしまっている
・総数は優勢なのに正面部隊が薄くなりすぎてフランス軍に押し負けた
・側面攻撃を行う部隊の展開スペースが狭くナポレオンに対応されてしまった
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その戦闘効率の良さから寡兵で多勢を撃破できる戦術として知られますが、
これらのリスクを考え包囲は他のマニューバと同様に、あるいはそれ以上に数が優勢な場合にすることが望ましいと言えるかもしれません。
高名な孫子兵法では「自軍が相手の10倍のときに包囲するべきである」と述べられているほどです。
また、包囲戦術は古来より戦術家たちの間では知られており彼らは様々な方法で対策を行いました。
それらは『対包囲』と言われる逆襲戦術です。
これについては別途専門記事を設け詳解することとします。
包囲のリスク及び統制と方向転換の困難性についてカリニクムの戦いの記録を基により詳しくしたものを別途記載しました。対包囲戦術として鈎型陣形に一部ですが触れています。
【カリニクムの戦い_531年_片翼包囲_鈎型陣形による対包囲】
http://warhistory-quest.blog.jp/20-Mar-14
3-5. 概括
包囲は非常に有効なマニューバであり、戦術・作戦・戦略域全てに適用可能です。成功時の自軍の被害の被害が少なくなる可能性が高く尚且つ相手に甚大な損害もたらせるためその戦闘効率は大変高いと言えます。
よって基本的に包囲が可能ならば他のマニューバより優先して狙われます。
古より現代まで行われており、今なお発展し続けています。その種類は膨大な量に及び地形、時期、兵卒や将校の練度、指揮官の能力といった様々な場合で使い分ける必要があります。
効果が大きい代わりにリスクもまた大きく、包囲を行う際には深い注意を図らなければ逆にこちらが大損害を被ることがあります。
包囲されないようにすることは指揮官の当然の勤めであり様々な対策を行います。その努力をする敵を上回り初めて包囲できます。
今後本サイトでは包囲の各バリエーションを具体的な戦例と共に詳解していきます。