【迂回攻撃の概念】

4-1. 迂回攻撃の概説

  軍事的な迂回攻撃(Turning Movement)とは敵の待ち構えている箇所でぶつかることを避けて先に進むことを指します。
迂回によって敵の主力または一部をその陣取っていた場所から引き剥がし、戦闘効率を低下させた場所で決戦を強制させることができます。
 野戦築城技術や火力の向上によって陣地戦が強力になった時代で迂回は必須のマニューバであり、広義の意味では間接アプローチ(Indirect Approach)の一部とみなされます。
image492

迂回はその性質上包囲と密接な関係があります。ただ両者には米軍の定義通り明確に「包囲はその場所にいる敵に対し」「迂回攻撃は敵をその場所から移動させるため」と分けられています。
 包囲はその場での会戦において勝つための行いですが、迂回はそもそも会戦の場所を変えてしまおうというわけです。もう一つ迂回と日本語で訳されるbypassという語は「その敵との交戦を避ける」ことに比重が置かれますが、turning movementの方は「その場での交戦は避けるが敵を移動させて別場所で攻撃するための行動」という意義が強くなります。

 攻撃における迂回とは敵の陣地をかいくぐり通り越していくこととなります。必然的に敵後方の拠点即ち補給基地、後方連絡線、後方予備地点、通信基地、交通要所などへ脅威を与えることができます。逆に言えば充分な脅威を与えることができなければ迂回する意味がなくなります。

 もし迂回したのに敵主力が動かなければ遠慮なくこれらを攻撃して、敵主力を弱体化し最高の場合主力と戦わずして勝利を得ることができます。よって充分な脅威を与える迂回をされた場合はそれに対応するために移動せざるを得ません。
 迂回をしようとしていると感じたらその進路を妨害できるように移動する必要があります。

 これらを踏まえると比較的大きな規模でする際に効果が発生しやすいと言え、米軍野戦教範FM3-90では師団規模かあるいはそれ以上の部隊で行うことが最も適していると述べられています。
bypass_小規模迂回

※大規模な迂回(Turning movement)は敵の現在位置からの引き剥がしを目的とするマニューバで、小規模迂回(bypass)は敵への攻撃のため優位な位置を占めるために回り込むことです。

 近代以前ならば接触前の優位な陣取り合戦と言えるでしょう。
 (戦例:スペイン継承戦争の各軍団マニューバ)
Chancellorsville_Hooker's_Plan

(戦例:チャンセラーズヴィルの戦い_北軍の計画)
※チャンセラーズヴィルの戦いは会戦前の優れた騎兵迂回行動を北軍は示しましたが充分な脅威を与えられなかった結果、南軍の主力を移動させることができずリー将軍の戦術によって肝心の会戦で敗れ去ります。この場合は戦力量が充分でなかった、より正確な表現では「脅威」が充分な水準に達しなかったとみなされます。 (別途詳解)
しかしそれでも南軍の補給線に損害を与え悩ませたことは明確でした。
 
 迂回が成功しても勝てるとは限りません。しかし大きく状況を相対的に以前より優位にできることは確かです。
 また迂回は包囲と同じく戦術、作戦、戦略のあらゆる領域で適用可能な概念です。
 迂回がうまくいき更に主力部隊との連動性が良ければ大規模な包囲作戦に移行できます。
 また、包囲と同じくその発起において敵の防御の弱い箇所をまず突破してから奥へ進行し行われる場合があります。

米陸軍野戦教範(FM3-0 Operation_2017版)での迂回攻撃と空挺の重要性

 WW2以降急激に存在感を増す航空アセットは敵戦線を越えて実施する迂回攻撃の際にも大きな貢献をしています。最重要FMの1つFM3-0『作戦』では次のように記されています。

【Turning Movement】 (2017), FM3-0,p.7-30 抜粋翻訳

 迂回攻撃とは、攻撃部隊が敵現在位置の後ろにある各目標を奪取することによって敵部隊にその現在位置から移動することあるいは敵戦力の多くをその(後ろに現れた)脅威へ差し向けることを強いる状況を引き起こす、敵主要防御陣地を避けることを求めるマニューバの1形態である。
 迂回攻撃は指揮官が運用する連続領域または非連続の作戦枠組みの中でも発生し得る。けれども指揮官は空挺あるは空中強襲部隊を投入することで垂直包囲を実施し、迂回攻撃の効果をもたらすことができる。
 エアボーン・アサルト(airborne assault)とは空挺戦力をある目標エリアへパラシュート降下させ攻撃し敵抵抗を排除し、指定目標を確保することである。
 エア・アサルト(air assault)とは回転翼機あるいはテイルローターの航空機によって敵と交戦し撃滅、そして重要地点を奪取及び保持する強襲部隊の移動のことである。(参照:JP3-18)
 水上輸送(waterborne)あるいは水陸両用の手段も投入し得る。(参照:JP3-02)
 図7-13に迂回攻撃の図上グラフィックの例が描かれている。
FM3-0_figure 7-13

Figure 7-14_コンタクト地点の指示
 指揮官はその宇秋攻撃に参加する各部隊に境界線を設けることでそれぞれの作戦エリア(AO)を指定する。隷下部隊の各作戦を協調(シンクロ)させるために必要なら他の追加手段も指揮官は指定すること。これら追加手段の中には段階線(PL)、コンタクト地点、各目標、前進境界(LOA)、火力支援調整手段(FSCM)などを含む。地上戦でのコンタクト地点とは、容易に判別できるある地形において2部隊以上がコンタクトをとる場所のことである。(参照:JP3-50)そこにはコンタクトを行う日時も含まれる。(参考図7-14)

 敵主力が撤退または支援や増援を受ける前に、敵支援エリア内にある必須エリアを奪取するために迂回攻撃を使用する。
 指揮官はこのマニューバの形態を攻撃から拡張あるいは追撃へと頻繁に移行させることになる。
 迂回攻撃は包囲攻撃(envelopment)とは違う。なぜなら我が方の部隊が敵をその現在位置から配置転換させることを追い求めるのが迂回攻撃であり、一方で包囲攻撃部隊は何らかの敵が事前予測していない方向からの攻撃をもって敵をその場に拘束し撃滅することを求めるからである。(参照FM3-90-1)
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※訳者注:追撃段階で退路遮断または先回りを行うために包囲攻撃部隊としてヘリボーンやエアボーンを実施し得る。FM3-0のpp.7-49~7-50にある追撃の項目に明示されている。
追撃時のヘリボーンまたはエアボーンによる包囲
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4-2. 迂回の影響

 迂回はどのような目的で行われるかは概説で書いた通りですが、派生する敵への影響についてもう少し追記してみます。

・補給、増援を妨害される
・後方に敵が現れたことで情報の錯乱に陥る
(最高の場合は後方がすでに完全占拠されたと勘違いし投降する)
・後方に行かれたルートがあることから、その後大規模な包囲をされる不安にかられる
・これまで確保し固めてきた防御設備を捨てて戦闘しなければならなくなる
・これまでは定位置で戦闘していたものが、移動して即戦闘という状況に急に変更される
・既存の防衛線の計画が破綻する
・迂回され取り残された前線部隊の救出と同時に、侵入された境界に新たな防衛線を造らなければならない

 以上のように迂回された側は、即座に軍が消失するわけではありませんが近い将来の崩壊的な状況を予期することになります。
Taqba攻勢

(戦例:2017年 Tabqa攻勢_アメリカ精鋭部隊のピンポイント投入_図上はTabqaの綴り誤り)
※空挺による後方橋頭堡確保、水路の後方連絡線という非常に興味深い作戦。別途詳解。
タブカにはダムがあり、ここで長期戦闘あるいは猛烈な砲爆撃をすると極めて危険であった。そのため米軍とSDFは精鋭部隊をアサド湖を越えてユーフラテス川後方の敵領域に進撃する作戦に出た。これにより敵の大部隊をタブカダムから引き剥がし、最終的に包囲遮断し抵抗力を減衰させてからダムを奪取した。ユーフラテス川という巨大な障害を越え、まだ友軍が全くいない背後領域へ突出するこの作戦は大きなリスクを有していたが成功し巨大な成果を上げた。

4-3. 迂回の準備

 まず指揮官は迂回をしようと考えるにあたり自軍を迂回部隊、主力部隊そして予備隊に分け編成します。(主力部隊の位置づけは適宜変更すること)
 この際に全部隊が独立して警戒と偵察を行える能力を有していなければなりません。なぜなら行動開始と同時に各自がほぼ独立したマニューバを行うことになり部隊間距離を生み出した状態で敵がいるかもしれないエリアに踏み込むからです。
 現代の米軍は迂回は師団規模かそれ以上の戦術的機動性を保有する部隊が行うよう指導しています。
また、迂回部隊に後続する梯団は迂回したあとの外周部を警戒し状況次第では外部からくる敵を撃退する能力があることが望まれています。
 即ち高い移動力、突破力、迎撃力、対応力そしてそれらを独自である程度保てる能力が必要です。
 戦史においてほぼ必ず精鋭にやらせていることがその証左です。
 尚且つ速度を維持できるなら、敵の予備に確実に対応できる大規模な部隊を投入するのが最高の状況です。
Ulm Campaign

(戦例:ウルム戦役_ナポレオンの7軍団の奔流)
※マックのウルム前衛の防衛戦をプロイセン側から迂回した。迂回後ウルムの大軍勢と堅固な防御群は大規模な戦闘を行えないまま降伏した。
 

4-4. 迂回の注意点

 迂回は可能ならば他のマニューバと併用して行いたい有用な行為ですが、もちろんリスクはあります。それを避けるための注意事項をいくつか列挙します。

4-4-1. 迂回で踏み込んだ後その外周部への警戒

 迂回した部隊が奥地にいた敵と接触し大規模な迎撃に晒されることはまず避けなければならない自体です。
 後続する梯団の一部が外周への対応を担当します。
 大規模な兵力で新たな戦線を作れたら良いのですが、そのような大兵団を持てる状況というのはめったに無く、尚且つ大兵団を準備していて相手に意図を悟られないと考えるのは楽観すぎます。何よりも大兵団の展開には時間がかかります。
 よって梯団で移動能力のある部隊を交通の緊要用地(橋や高台、交差点、駅など)に最速で突進させ奪取して即座に防御陣地を構築しておくことが重要です。

 これは特にナポレオンが敵地に作戦規模の広大な飛び込みを行い各個撃破する際に使われたことでその名を知られています。規模を戦術/戦略でわけていた昔は「戦略的な包囲」と呼ばれていました。私も近代以前の戦史について書く際はこの表現を使いたいと思っています。
ナポレオンの迂回包囲戦術

(作戦概念:ナポレオンのイタリア戦役における迂回→各個撃破(包囲)_D・チャンドラーの分析)

4-4-2. 主力とのリンクを繋ぐこと

 迂回した後は包囲状況になることが多く、その後の戦闘を効率的に進めるためにも主力と連携をとり時間的にも物量的にも適切な調整がなされなければなりません。

 そうしなければ後方を脅かされた敵が移動して来た時に迂回部隊が孤立して戦うことになりかねません。
包囲の話であげた戦例:リヴォリ戦いの後方遮断部隊と同じことになるわけです。
 
 基本的に迂回部隊はその部隊の地理的目標を達成後には防御態勢へと移行させ、敵の後方への脅威を保持することに努めます。
 (ここで欲張りすぎて当初の計画になかった攻勢を更にしてしまうのは、失敗した際に部隊のみならず作戦全体の破綻をきたす高いリスクを背負うことになります。)
 主力部隊はその間に移動を始めた敵を攻撃します。あるいは迂回部隊の後続主力が移動する敵を攻撃します。これらの連携が取れていないと、せっかく敵を釣り出せた意味が喪失してしまいます。

4-4-3. 補給、整備、増援の目処をつけること

 また、当然ながら補給の目処を建てておかなければもし失敗してしまった際に直ぐに大損害が発生します。迂回部隊は距離的に離れる上に敵地に踏み込む事が多く、その間隙は常にリスクをはらみます。
 数量もそうですがそれを行う時間も考慮に入れて、更にバックアッププランを準備しておくべきです。
 迂回部隊は虎の子と言える精鋭に行わせるため、彼らの戦闘能力を減衰させて喪失することは全軍に影響を与えます。
 士気を保つ方法まで含め指揮官はマネージメントしなければなりません。

4-4-4. 同士討ちを避けること

 迂回部隊は敵の主力、前線を残したままその奥地へ踏み込みます。即ち敵エリア内部で活動することになります。
 今後味方の部隊がその付近に進行して来た時に敵と間違われて攻撃を受けることは避けなければなりません。迂回部隊が優秀すぎて早く進みすぎると逆に危険があります。例えば空軍が進行ルートを予め対地攻撃して航空支援する予定などが組まれていると、その攻撃に巻き込まれたりするわけです。

 よって迂回部隊はある程度の隠密性を要求されますが同時に友軍には位置を確実に知らせる必要があります。

4-4-5. 迂回中にその意図を敵に早期察知されないこと

 迂回部隊の意図に気づかれることは大変危険です。事前の情報の流出に気をつけなければなりませんし、開始後に迂回部隊が簡単に敵の偵察網にかかってしまうことも避けなければなりません。

 もし気づかれると敵は迎撃をしてきます。それも迂回部隊がまだ所定の目標まで到達しておらず防御態勢が整っていない、最悪の場合は行軍中に攻撃を複数方向から受けます。敵地の中なので包囲、側面攻撃を覚悟しなければなりません。
 その場合は壊滅的な打撃を受けるとまず考えておくべきです。
ロスバッハの戦い_gif

(戦例:ロスバッハの戦い_迂回中に察知され迎撃された事例)

 気づかれてもなんとかなくくらいの戦力差があれば実行する指揮官は戦史上いますが、それでも被害率が上がることを考慮するとやはり望ましくありません。

4-5. WWⅠ後半以降の迂回作戦・戦術

 WWⅠ では浸透戦術と呼ばれる手法が萌芽し後期には各国がそれぞれのやり方で導入しようとしていました。
 その基盤は各部隊の小規模な敵強固点の迂回を基本とした浸透の思想です。これは迂回を小規模に適用したものですが、近現代以降の比較的大きな規模の部隊での運用が想定される迂回とは別系統の発展と言えます。

 戦後研究が進むと小部隊の浸透を広域にそして深く、更に迂回を使用した作戦概念がより発展します。ただ迂回すればよいということではなく他兵科との密接な連携、新たな兵器、通信技術が加わりその効果は大きく発揮されました。

 WWⅡ では更に漸進した理論が使用され戦線に劇的な流動性を生み出します。横に広く、縦に深い大規模な迂回が連続的かつ複数同時的に行われ戦線及びその後方予備を破壊していきました…。

 現在それらは軍事作戦としての意味でソ連の縦深作戦、そしてドイツの電撃作戦と戦史家から呼ばれます。 もちろんどういった迂回をするか、迂回した後どうするかといった選択で大きな違いが存在しています。

 ただこの作戦戦術概念の基盤の1つに迂回というマニューバが各軍に確かに根付いています。

 とても端的に説明できる内容ではないため別途詳解します。

4-6. 概括

 迂回攻撃は敵の戦闘効率の高い箇所を避け、こちらの望む位置での主力戦闘を強要することになる有効なマニューバです。
 それは包囲や突破とも密接に繋がっており、敵主力との会戦の前段階のマニューバと呼べるかもしれません。
 敵後方へ侵攻するため大きなリスクを背負いますが成功すれば大規模な戦果が望めます。
 そのために充分な準備を行い、尚且つ実行中は情報、補給、そして主力や後続といった他部隊との高度な連携が求められます。

 古代から近現代に至るまでも迂回は戦争で重要な要素でしたが、20世紀以降は更に高度な発展を遂げ、今なおそれは続いてます。