※本稿は現代戦の作戦コンセプトを規定したFM3-0を踏まえた上で米軍野戦教範FM3-90 第2章を編纂者が拙い邦訳抜粋を行い、軍事思索の際の基本とした上で近代~古代戦において注記しておくべき箇所を別記事で書いていくためのドラフトです。
酷い散文になっていても何卒ご容赦ください。
【作戦/戦術のコンセプトにおける汎用的事項】
米軍事作戦ドクトリンの階層構造
- Doctrinal Hierarchy of Operations -
<米軍野戦教範FM3-90 Chpater 2 添付図邦訳>- Doctrinal Hierarchy of Operations -
上記の軍事ドクトリン構造図は米軍の作戦の基本事項とその従属項目のコンセプトを示しています。
指揮官はこれらの異なった作戦事項を、更にそれぞれ異なったタイプの従属作戦と共に使用することになります。指揮官は軍隊を最大限能率化しながら各種作戦を使い分け、時に急速に別の作戦にシフトし、敵を排除する優勢を維持するのです。
この軍事ドクトリン階層構造は各作戦を個別の排他的存在としては記述しません。全ての戦術的任務は複数の異なったタイプの要素を内包し得ます。例えば指揮官が攻撃を指導する時、攻撃の従属項目の「包囲」を行っているときに、敵を拘束するために別の従属項目である「正面攻撃」も指揮するといったようにです。
これから記述していく各原則、条項、要素が作戦そのものの決定的成功のために考慮されます。
作戦枠組 (Operational Framework)
作戦枠組は友軍と共に時間、空間そして目的を調整することを含んでいます。更に次の3つの区域を考えます。・作戦地域 (Area of Operation)
・戦闘空間 (Battlespace)
・戦闘地帯区分 (Battlefield Organization)
指揮官が敵に対しどのように軍隊を組織するかを明確化するために、作戦枠組は地理的領域と作戦責任担当域を設立します。
軍事的意思決定プロセスの一部として、軍隊の配置の仕方によって指揮官は戦闘空間と決定的要素を明らかにします。戦闘地帯区分はその目的によって各作戦地域の中で軍隊を割り当てることです。
全ての作戦カテゴリーは次の3つを含みます。
・決定的作戦(Decisive)
・助作戦(Shaping)
・支援作戦(Sustaining)
また、指揮官は作戦地域(AO)を3つに分けて描写します。
・縦深域(Deep)
・近接域(Close)
・後方地帯(Rear)
※各記号の意味などはFM1-02 Operational Terms and Graphics にまとめられていますのでご参照ください。
防御においては次のように自軍の防御領域を区分する
・FLOT(またはCL)=Forward Line of Own Troop=自軍前縁
・BHL=Battle Handover Line =引き渡し線
・Security Area=セキュリティ域
・FEBA=Forward Edge of the Battle Area =戦闘域前方境界
・MBA=(Main)Battle Area=主戦闘域
・Rear Area (またはSupport Area)=後方域
また、防御エリアは複数の戦闘ポジション(Battle positions)から構成される。
これらを状況判断(METT-TC分析)をする際の要素として参照します。(後述)
9つの戦争原則 (Principles of War)
「戦争の原則(Principles of War)」はクラウセヴィッツやカール大公といった近代の軍事思想大家の書籍のタイトルでもありますが、その表記の通り戦争には時代地域によって多少の差異はあれど共通して適用できる原則があると分析しています。これは近代~近現代で非常に盛んに行われた議論です。(別途詳解)
米軍ではフラーの論を改良し次の9つを戦争の原則として定義しています。
- 目標の原則 (Objective)
- 攻勢/主導の原則 (Offensive)
- 集中の原則 (Mass)
- 節約の原則 (Economy of force)
- 運動の原則 (Maneuver)
- 指揮統一の原則 (Unity of command)
- 警戒の原則 (Security)
- 奇襲の原則 (Surprise)
- 簡明の原則 (Simplicity)
陸軍作戦教義( Tenets of Army Operations)
更に米陸軍での作戦教義として下記5つの条項が存在します。・主導性(Initiative)
・敏捷性(Agility)
・縦深性(Deep)
・同調性(Synchronization)
・多能性(Versatility)
状況判断手法 METT-TC分析
状況判断をする際に役立つ手法としてMETT-TC分析と呼ばれるものを米軍は導入しています。METT-TCとは下記6つのチェック項目の頭文字です。
・任務 (Mission)
・敵情 (Enemy)
・地形と気象 (Terrain & weather)
・部隊と支援 (Troops and support available)
・時間 (Time available)
・民事 (Civil considerations)
各要素ごとに詳細な分析を行います。
これらの要素をマニュアル化された手法で分析して列挙することで抜け落ちを無くし、更に情報伝達スタイルを統一化しわかりやすくしています。
作戦企画の要素(Elements of Operational Design)
主要作戦はその企画、即ち作戦指揮指針(計画、準備、実行、査定)の設定から開始します。作戦企画は終局状態、道程そして手段を結びつけるコンセプトを提示します。(Ends, Ways and Means)
この作戦企画の要素がその意図と主要作戦の明確化を指揮官に可能とする援助になります。
それはフレームワークを以て行われ任務と目的の作戦項目を明確にし定義する助けになるのです。
詳細はFM3-0に記載してありますが、その主要項目を列挙しておきます。
- 終局状態と部隊状況 (End state and military conditions)
- 重心 (Center of gravity)
- 決勝点 (Decisive points and objectives)
- 作戦線 (Lines of operation)
- 限界点 (Culminating point)
- 作戦上の到達、接近、そして休止 (Operational reach, approach, and pauses)
- 同時的に、そして連続的な作戦群 (Simultaneous and sequential operations)
- 線形と非線形作戦 (Linear and nonlinear operations)
- 作戦速度(Tempo)
戦場作戦指揮システム (Battlefield Operating System)
戦場では技術的にそして組織的に指揮統制を能率的に行う改良が進められてきました。米軍では7つの戦場作戦指揮システム(BOS)を設定しています。詳細はFM7-15参照。
- 情報 (Intelligence)
- マニューバ (Maneuver)
- 火力支援 (Fire support)
- 防空 (Air defense)
- 機動性/対機動性/残存性 (Mobility/ countermobility/ survivability)
- 戦闘後方支援 (Combat service support)
- 指揮統制 (Command and control)
マニューバ(運動)システムは敵に対し優位な地点に到達しするための部隊の行動のことです。このシステムは、戦場での直射攻撃や攻撃可能性による連携をしながら軍隊を展開することも含みます。
火力支援システムはターゲットの共同と位置設定の用途、間接攻撃兵器、固定翼航空機、情報攻勢作戦、そしてその他の作戦域内の敵に致命傷または打撃を与える手法を含んでいます。
防空システムは空域に現れた敵の航空機とミサイルに対し効果的に攻撃し減衰させるための全てのアクティブ機器を展開することです。
機動作戦は友軍の行動の自由を保ちます。
対機動作戦は敵軍の機動を阻止することです。
残存作戦は友軍を敵兵器システムの効果から守ることです。
戦闘後方支援は軍隊が戦争機関と戦争以外での軍事作戦(Military Operations Other Than War)においてその能力を維持できるようにサポートとサービスを行うことです。
指揮統制(Command and Ccontrol)システムは、任命された適切な指揮官によるその権限の行使を、サポートすることに関連した全ての共同タスクを含みます。(司令部など)
作戦指揮システム(BOS)は陸軍に共通的なクリティカルな戦術的行動の分類を与えます。それらは計画、準備、実行を査定するための個別の項目を指揮官と将校たちにもたらします。
基本戦術コンセプト (Basic Tactical Concepts)
これ以降の項は攻勢と防勢の両方に共通する基本戦術コンセプトを含んでいます。戦争の原則や作戦教義、METT-TCの要素、推測、他の司令官からのインプット、そして指揮官の経験と判断にそった基本戦術コンセプトは作戦を達成できるように明確化(visualize)してくれます。<以下は詳細戦術項目です。後日追記します>
添付B_____戦術的ミッションタスク
戦術的ミッションタスクと呼ばれているものは例えば「脱出せよ」「拘束せよ」「突破口形成せよ」といった様に指揮官が部隊に任務命令を発する際に任務綱領に明示する「効果」や結果のこと。長いため別記事にしました。
リンク→【米陸軍野戦教範FM3-90 Tactics _付録B_Tactical Mission Task】
http://warhistory-quest.blog.jp/20-Feb-20
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【参考文献】
米軍野戦教範FM3-0, 3-90
補足_米陸軍教範変遷
米陸軍教範は1976年までは防御的かつ消耗戦の傾向が強かったが、少しずつマニューバよりになっていったと報告されている。参考文献:THE EVOLUTION OF U.S. ARMY DOCTRINE FROM ACTIVE DEFENSE TO AIRLAND BATTLE AND BEYOND