本稿は2018/1/20に始まったトルコ軍及び親トルコ派反乱軍によるシリア北西部アフリン郡への侵攻作戦『オリーブの枝作戦(Operation Olive Branch)』の諸条件を記述する。

 空軍を含めた各地点戦闘の日足分析は別拙稿 [トルコ軍の空爆・砲撃と陸軍の進軍経過]を参照
olivebranch
(画像ソース:http://www.haberyirmi.net/2018/02/tskoso-duz-ovaya-indi-afrin-son-duru.html )

戦略目標

 トルコの大戦略域の目標は「シリア、イラク北部にまたがる反トルコ過激派の撃滅」とそれに伴うトルコ国内の過激分子の撲滅であると表明されている。
iraq_syria_control_08_01_2018_map

 従属する戦略目標として、アフリン(シリア北西部)、イドリブ(シリア西部)、マンビジ(シリア北中部)、ロジャヴァ(シリア北東部)、南クルディスタン(イラク北部)からの反トルコ系過激派の一掃という目標が存在する。ただしこの戦略目標群のどれに本気で軍事行動を企図しているものなのかは不明。同時並行でトルコ国内での過激派掃討作戦が大規模に行われている。
 シリア、イラクそしてトルコ内に散らばるクルド系人種の自治独立獲得を目指す勢力が本質的な敵性対象である。その中でも武装組織YPG(クルド人民防衛隊)を中心に構成されるアラブ等の多人種多思想の混合軍SDF(シリア民主軍)が特に攻撃対象となる。これによりトルコ国内で長年に渡りテロ活動を行うPKKの外部根拠地を喪失させる。
 領土的な制圧は二次目標にすぎず、その地に根を張るクルド武装勢力の撃滅が優先軍事目標であると考えられる。= 【仮定パターン2】
⇒ 2018年8月までの段階で、作戦群の傾向から見るにこのパターンは非合理である。むしろテロ回廊を構築しないように国境沿いで地理的な管理能力獲得を優先戦略目標にしていると考える方が合致している。 =【仮定パターン1】
 ただし次の作戦段階において戦力殲滅を狙うような動きをする場合もある。パターン1が有力と現段階では感じるが、結論は次の段階に入ってからでないと判明はしない。(2018/9/8 追記修正)

(経済的に非合理とはいえ単純なエルドアンの領土征服意欲の可能性もないわけではないため旧き領土拡張型戦争の場合も別途想定する必要有)

 この戦略に基づき各作戦が起案される。反トルコ系過激派の撲滅のためには必ずその敵勢力の軍事能力の喪失と、恒久的に新たな反トルコ過激派が育つことを防ぐために領土的管理の必要がある。(トルコ系かシリア政府かは問わない)
 これが作戦目標となる。

 作戦目標に関する考察は別拙稿「戦略目標および作戦目標に関する小考」及び「アフリン域包囲戦の作戦・戦術に関する考察」を参照。

 本作戦「オリーブの枝」はそのうちのアフリン域を作戦域とするものである。
 また最初の作戦「ユーフラテスの盾」はクルド系組織がクルド人口が少ない地域まで勢力を伸ばしていたシリア北部の領域を奪還しクルド系の支配域拡大を阻止するという点で戦略目標に則っている。
=====================================
 トルコ大統領エルドアン及び首相、副首相が同じ発言をしていることから首脳部でこの大戦略は統一されている。しかしこれがどの程度のスパンで実現しようと考えているものなのかは不明である。シリア、イラク北部の国境は端から端まで直線で730km、クルド勢力の支配域は南に250km以上の深さに渡る。この全域をトルコ単独と僅かな親トルコ派で制圧するというのは壮大すぎる大戦略目標である。しかもシリア政府、イラク政府、ロシア、アメリカ、イラン、そして欧州と深刻な外交軋轢が生まれることは避けられない。逆に戦略目標が各国政府と協力することで削減、節約できる可能性もある。例えばエルドアン大統領はマンビジやロジャヴァを「元の治める者に返す」という趣旨の発言をしている。これはシリア政府との協調を期待したものである。
 そのためいくつもの段階に分けて世界情勢を鑑みながら少しずつ進めていくようにしている。一挙に大縦深を突破制圧することを理想としてきたソ連、米国型の超大国ドクトリンとは全く別の中堅軍事先進国の戦略として見なければならないことだけは確かである。同時に一気に制圧する国力も軍事力も同盟も無い故の現実的判断となるのか、それとも複数根拠地を残したせいで長い長い抵抗を行われて国力を削り取られる結果に終わるのか、判明するのははるか先のこととなる。

=====================================

トルコ国境におけるテロ回廊構築を容認しない

(ソース:http://www.trt.net.tr/japanese/toruko/2018/02/03/bozudafu-shou-xiang-torukoguo-jing-niokeruterohui-lang-gou-zhu-worong-ren-sinai-902906
http://www.afpbb.com/articles/-/3160176?cx_position=5
http://www.trt.net.tr/japanese/toruko/2018/01/16/yurudourumushou-xiang-amerikahatorukohenodi-dui-xing-wei-woyameyo-888963
http://syriaarabspring.info/?p=44977
http://www.afpbb.com/articles/-/3160246?cx_position=3
http://www.hurriyetdailynews.com/i-told-putin-and-trump-we-wont-step-back-in-syria-erdogan-129210
https://aa.com.tr/en/turkey/over-20-terrorists-neutralized-in-turkey/1100384
https://aa.com.tr/en/turkey/27-terrorists-neutralized-across-turkey-last-week/1099712)
population-syria
population-iraq
< シリア及びイラクの人種と人口密度分布 >

より新しい2018年中盤までの人種分布がMichael Izady博士の運営するサイトで公開されているため参照。

SDFの戦力と準備

[背景]
 アフリン郡は2012年の政府軍撤退以降、クルド系中心の支配域として比較的安定していた。SDF(シリア民主軍)がこの地域で主な軍事の統括を行っている。ロシアが外国勢力として担当駐留していたこともありISILも侵入できなかった。しかし2016年8月から始まったトルコ軍のシリア干渉域拡大(ユーフラテスの盾作戦)が始まるとそれに接するアフリン郡は孤立し親トルコ系に囲まれたクルド域として存在することとなった。トルコ首脳部はそれ以前より過激な発言を繰り返しておりアフリン郡のSDFは侵攻に対して長い対策期間があった。

[戦力]
 2018年1月末時点
  SDF:約 8000人~10000人 
    (大半が歩兵でATGM多数、テクニカル多数、装甲車両及び戦車は少数)

 2018年2月時点
  SDF:約 20000
  親シリア政府系武装勢力:約 800人前後

 2018年3月以降
  SDF:不明

 SDFの増援は対IS戦闘を遂行していたロジャヴァ域の戦闘員が多く送られたと報道されている。
また、クルドは対IS戦期から一貫して女性の権利が他イスラム過激派よりあることをアピールすることを兼ねて女性兵士が多く存在することをアピールしている。外国人兵士はあまり多くはないが、米国、英国人等が確認されている。
 シリア政府系軍は義勇兵が援軍として入ったが正規軍は動かず、規模も数百名程度である。
 3月の崩壊的状況でもSDFは増援を1700人送りこむと発表しているが、単に抵抗ゲリラの士気のためである可能性があり実際に送ったか不明。
 兵士たちは地上だけでなく地下に張り巡らしたトンネルや塹壕を通って移動
し迎撃した。
2018-03-afrin_tunel3
2018-03-afrin_tunel2
ISILも使用した小型のトンネル掘削機がアフリンでも発見された。この種の建機はゲリラ側に必須となりつつある。
塹壕トンネル内動画
https://aa.com.tr/tr/vg/video-galeri/aa-teroristlerin-afrin-merkezindeki-tunellerini-goruntuledi/0

YPGの使用がこれまで確認されている兵器(アフリンにあるとは限らない)
YPG_weapons
 ただしこれは対ISIL用にアメリカ等が支援をSDFに行ったロジャヴァで確認された兵器である可能性が高い。今回のアフリン郡に対してはアメリカの支援はロジャヴァ域などに比べて遥かに少ない。トルコ系メディアがアメリカがSDFに支援した武器弾薬と報道しているものはあるがその量はやはりロジャヴァより見劣りする。ロジャヴァ域SDFが行った対ISIL戦での順調な進展はアメリカ等の有志連合の航空支援や訓練、特殊部隊投入に依る所がある。アフリンではそれら直接的アメリカの支援は存在しない。また、対ISIL戦ではトルコもまたクルド系武装勢力がトルコ領内を通過することを認めるなどしていた。

(ソース:http://www.suriyegundemi.com/2018/01/19/ypg-envanterinde-bulunan-askeri-araclar-ve-ekipmanlar/
https://www.aljazeera.com/news/2018/01/erdogan-operation-syria-afrin-begun-180120120424928.html
https://www.reuters.com/article/us-mideast-crisis-syria-turkey-sdf/kurdish-allied-arab-fighters-move-to-syrias-afrin-from-is-fronts-idUSKCN1GI1J2
https://www.nytimes.com/2018/02/28/world/middleeast/syrian-kurds-isis-american-offensive.html?smid=tw-share
http://www.bbc.com/news/world-middle-east-42929247
https://edition.cnn.com/2018/02/20/middleeast/turkey-syria-ypg-afrin-intl/index.html
http://www.suriyegundemi.com/2018/02/26/batinin-gormedigi-tehdit-ypgye-katilan-yabanci-savascilar/
https://aa.com.tr/tr/dunya/aa-teroristlerin-afrin-merkezindeki-tunellerini-goruntuledi/1094161)

地形と気象

  シリアの国境線であるアフリン郡は山岳地帯である。南西から北東に向かって斜めに山中をアフリン渓谷が広がっている。渓谷内の平野部はほぼ畑として使用されており多くの村が点在している。
 北西から南東に向かっても細い渓谷が通っており、鉄道が現在は使用されていないが通っている。
 この2つの渓谷は東よりの中央で交わっており、その交差点にアフリン市街が位置している。
 アフリン市街の南側にも山岳は広がり、南東の大都市アレッポとの間にまたがっている。
 アフリン市街のの山嶺を超えると広大なクワイク平原につながる。この平原はアレッポとの交通の便が良く都市が多い。その大半は親トルコ系の支配下に置かれており、その最西端がアザーズ市街である。アザーズが突出する形で、周囲の平原がSDFの支配域であった。



 山岳部は特に国境線となる外縁部がその標高が高く、東側のバルサヤ山(標高863m)、北部のドムリク山(1230m)、北中央部のハリール山(1102m)、西部にはマアバトリ町一帯に700級の山岳が埋め尽くしている。
 アフリーン渓谷平野部への入り口は全て山岳がその入口に向かって狭まっており隘路を形成する凄まじい天然の要害である。
 また山岳地帯からの水を集積するミーダーンキー貯水池が北東部に細長い形状で置かれておりアフリーンなどに水を供給している。
 アフリーン渓谷の中央部を走る217号道路が最も整備された通行路である。
 アフリン市街の人口は紛争前は3万人程度(郡全域で17万人強)であったがその後流入者があり大幅に増えたものと推定されている。次に大きなものが南西部の平野部入り口に位置するジャンダレス町である。その他、アザーズの真西にあたる山のふもとにアトゥメ町があり一帯は要塞化されている。
 特にアザーズの北部にあたるバルサヤ山は険しい山地に加え著しい要塞化が進んでいた。
 また、クワイク平原南部は細長く突出する形でシリア政府支配域と親トルコ派支配域の間にSDF支配域を獲得していた。

 アフリン郡から国境をでたトルコ側には西にアミク平原、北にムサベィリ郡の山岳、東にムワイク平原、南にシメオン山などの山岳連峰が広がっている。

 作戦期の季節は冬の末~春の雨が最も多くなる季節であり降水量は60 mm~100mm/月、気温は1月が平均7度前後、2月が9度前後、3月が12度前後である。ただし日中の最高気温は20度を越す。
afrin-climate
(ソース:https://en.climate-data.org/location/47637/)

トルコ軍とTFSAの戦力

 主力はあくまでシリア国籍の親トルコ派反政府勢力であるTFSA(自由シリア軍)である。トルコはその訓練、兵站支援、航空支援、電子支援を行った上でトルコ正規軍を参加させた。
[ 戦力 ]
 作戦初期
  TFSA(親トルコ系自由シリア軍):10000人以上 (大半が歩兵)
  TSK(トルコ正規軍):6400人以上 (砲兵隊、戦車、歩兵戦闘車両、工兵車両含む)
  トルコ空軍:戦闘機 72機(作戦初期投入量)

 作戦中期以降
  不明

重車両は山岳部で厳しい走破を迫られたこと。砲兵隊はトルコ国内からも砲撃を加えていたことを注記する。

親トルコ派参加各武装勢力の序列は下記トルコ語サイトを参照。
http://www.suriyegundemi.com/2018/02/18/zeytin-dali-harekatina-katilan-suriyeli-muhalif-gruplar-18-subat-2018/

2月半ばのトルコ軍の車列写真及び砲撃動画
https://www.yenisafak.com/en/world/latest-updates-on-turkeys-operation-olive-branch-3114843

(ソース:https://www.globalresearch.ca/turkeys-operation-olive-branch-against-kurdish-ypgypj-in-syrias-afrin/5626828
https://www.yenisafak.com/en/world/seventy-two-turkish-jets-take-part-in-biggest-ever-sortie-during-afrin-op-3003091
http://www.haberturk.com/afrin-operasyonundan-son-dakika-gelismeleri-zeytin-dali-son-dakika-1806027
https://www.mintpressnews.com/afrin-turkeys-operation-olive-branch-is-testing-the-us-kurdish-alliance/239436/ )

作戦時間区分

 2018年初頭より空爆は激しさを増していた。
1/20『オリーブの枝』作戦開始。
 空軍による多点一斉爆撃を合図とする。陸軍は即時に国境を越え複数箇所に突破口を形成する。
1/21時点で突破口を複数形成しSDFの反撃の状況を確認。
 北部に2~4箇所、南西部に1~2箇所、東部に1~2箇所形成を試みる。
突破口形成後に1ヶ月半をかけ各突破口の拡大と連結、全周における前進を行う。特に南西部渓谷入口にあるジャンダレス町、北東部山岳の要塞化地帯の制圧を必須とする。
2月中旬は特に北部及び西部の山岳地帯突破口の連結を行う。
3月初旬から平野部複数箇所で急進を行う。
 並行して側面山岳部も抑える。これにより3月中旬までにアフリン市街を挟撃、包囲する。
3月末までにアフリン周囲の山岳部を全て制圧し。
 同時に西部、北部の山岳地帯をアフリン市街から分断し孤立させる。
3月中旬~末にアフリン市街突入。
 アフリン市街の制圧と並行し西部、北部の山岳部の掃討。
以上が終了次第再度部隊を編成し残る南部、南東部の制圧を行う。

民間事情

 アフリンはクルド系住民以外も多く、更に内戦後は周囲から流入している。食糧事情は他地域よりは良好で水源は南北にあるが、南部のイドリブ、南東部のアレッポはシリア政府軍が反政府勢力と激戦を繰り広げている地域であることに注意。
 流通路はトルコ国境及び停戦監視区域は遮断状態に近いものの交流が絶えたわけではない。南東部に位置する政府支配域は事実上他のロジャヴァ、マンビジといったクルド域からここを経由してのアフリンへの通行を黙認している。
 アフリン市街には大きな病院があり、市街の爆撃目標の直近、またはそのものとなる可能性がある。外部監視勢力としてヒューマン・ライト・ウォッチ(HRM)及びシリア人権監視団(SOHR)がアザーズ及びアレッポに拠点を構え情報を収集している。複数の記者がアフリン市街に入り込み、またネット環境が比較的整備されていることから個人レベルの携帯機器が使用可能で、戦闘の情報は多数リアルタイムまたは準速報型で流れ出ることとなる。よって完全な情報統制は難しいものと見なすことができる。
 アフリン郡に天然資源は乏しく大企業も拠点を置いていないため利権干渉は少ないと予想される。この地域の経済活動の影響は周辺諸国には小さいものと考えられるが、これはあくまで直接的な部分のみであり連鎖的波及は否定できない。

空軍条件

 別稿:トルコ空軍の制限条件参照
 トルコ側が完全に航空優勢を得ているがその投入量はトルコ空軍の全保有戦力の極一部に限られている。
 インジルリク空軍基地からならF-16は10分もかからずアフリンに到着できる。

外交関係

 アメリカに対してトルコはクルド系に加担しないよう度重なる要請をしている。
 ロシア、イラン、シリア政府等とトルコはアスタナ合意で非紛争地域の設置を決定している。
 その他にも政府最高首脳クラスでロシアと交渉を直接行っている。
 シリア政府に対してはユーフラテスの盾作戦から一貫して敵対的中立の立場であり戦闘が突発的に起きることは合っても拡大しないように両者が取り計らっている。またエルドアン大統領はシリア政府に対してクルド支配域を制圧した後にその統治権を渡すといった趣旨の発言をしている。
 欧州は基本的にトルコに批判的であり、特に重大な貿易国ドイツは非難を強めている。

 プロパガンダ的な部分が多く実際のやり取りが非常に不明瞭であるため今回はこれ以上記載しない。

情報戦

 両陣営共に激しいプロパガンダ戦を繰り広げているが、基本的に侵攻をしかけたトルコ側が劣勢である。
主戦場としてあるのは下記2域である。
・既存のメディアツール(TV、新聞、公式サイト)報道型の情報拡散
・SNS系統の情報拡散

 SNSをソースとする高速拡散型の情報を基にメディアが保証性を後付することもある一方で、メディア企業をソースとしてSNSが情報を拡散することもある。即ち2ルートは互いに途中で情報を交錯させる。トルコもYPGも互いの情報をフェイク・ニュースと非難し合うが、実際に効果があるのは真実性より拡散性と思われる。

 トルコの情報戦部隊はこの情報の削りあいに付き合うことをせず、そもそもクルド系メディアに対する攻撃により情報策源地、情報結節点を物理的・電子的・経済的に破壊する手段も取っている。
←【要再確認】