米陸軍が公開してくれているACCPに短くまとめられたソ連軍の追撃戦に関する項目があったので紹介してみることにします。以下の文は核攻撃の可能性を含む追撃条件の下で、相手(ソ連軍)がどう考えて行動してくるか想定できるようにするために米軍が作った教練項目の1つです。(本文中に出てくるものはほぼ戦術核想定)
 いつもながら推敲していない直訳なのでご助言大変感謝致します。
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 米軍の追撃戦に関してはFM3-90 chapter7などをご参照下さい。ソ連とおおよそ類似する概念が書かれていますが完全に同じではありません。
Frontal PursuitCombination PursuitPursuit Control Measures
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以下、本文開始

 学習項目2:

後退作戦実施時の米軍へのソ連の脅威を知る

 ソ連の軍事辞典は「追撃」を以下のように定義している。

『撤退中の敵軍への攻撃、敵軍の最終的な破壊か捕獲を目的とする進行中の作戦または戦闘を実施する事である。敵主力部隊へ(火力投射)打撃し、容赦の無い精力的な並行追撃や追尾追撃を実施し、敵撤退進路を塞ぎ、そして敵軍の側面や後背を攻撃することにより撤退中の敵軍の破壊は達成される。』

 撤退中の軍を追跡するソ連軍によって使われる戦術に関して、この教練は貴方を習熟させるだろう。ここでのデータはまるでソ連軍将校が使用するために書かれたかのように表現される。それにより追撃作戦中のソ連指揮官の目を通して戦場を「見る」ことをアシストするだろう。

追撃 Pursuit

 追撃は最も脆弱な領域にいる敵を打撃するため迅速かつ縦深の行動を計画に入れ込むことになる。追撃成功のためには3つの基本要求事項は計画編成撤退の発見ハイテンポの維持である。定義上、追撃は敵が撤退する時に発生する。
 敵が撤退せざるを得ないのは次の状況による。

・ある交戦の結果として必要になった状況
防御位置が突破された後の状況
・核攻撃に続く状況
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 敵が意図的に撤退をしようとするであろう状況は次のようになる。

包囲の脅威に晒された場合
・部隊の再配置をしようとする場合
・キルゾーンへと敵軍を誘き寄せようとする場合
・核攻撃からの安全圏へと撤退する場合

 一般的に、追撃開始の命令を行う最も低い階級は連隊指揮官となる。だが敵撤退の兆候が確認された場合、全指揮官が自主的に追撃へと移ることが期待される。
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 追撃規模は参画する軍の規模によって定められ、次のようにカテゴリー分けされる。

戦術的追撃
 戦術的追撃は連隊または師団によって遂行される。連隊の場合、追撃はおそらく10~20kmの敵縦深にわたって広げられることになるだろう。師団の場合は20~30kmである。

作戦的追撃
 作戦的追撃は軍あるいはそれ以上の戦線司令部の単位で実施される。その縦深は数百kmに渡って展開されるであろう。

 暫定的な追撃計画は初期攻撃計画に含まれている。詳細策定の程度は予想される敵の行動によって決まる。攻撃部隊の戦闘隊形や策定に使える時間の量にも依るだろう。

追撃のために計画する考慮事項

 追撃を計画する際に必ず考慮しなければならない事項は次のものである。

・敵撤退の可能性があるルート
・マニューバ計画
・追撃ルートが使用可能かどうか及びそのコンディション
・自軍部隊が活動可能か
・重大な地形的特徴(高所、交通結節点、河川、橋、隘路)
・前方派遣部隊(Forward Detachments)とヘリコプター攻撃部隊
・核兵器の配置と運搬システム
・戦闘支援と戦闘サービス支援のリソース
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 活発な偵察、敵戦術の洞察、そして現在の戦術的状況に関する知識は敵の撤退の指標を得るのに必須となる。撤退準備の兆候として考え得るのは以下のものがある。

攻撃態勢の第1梯団に対する核攻撃
・後背地帯への大幅の移動、特に砲兵と予備部隊
・戦線各所での砲撃の増加
・戦況の好転が明らかに起きないような離れた各エリアであるにも関わらず実施される激しい火力集中。また、全体的な火力減少があると思われる時期での激しい砲撃
・増強された偵察
・施設、設置物、機器の撤去や破壊の準備
・ローカルな限定的反撃

 一度追撃が発起されたなら、部隊の連続的な活用に伴う高速の前進を維持することにその成功はかかっている

追撃形態

 追撃の形態は「追尾(自軍正面)型」、「並行型」、そして「追尾と並行の複合型」となる。(下図4参照)
 最も望ましく効果的な形態は正面追尾と並行の複合型である。

Figure 4_Forms of Soviet Pursuit

 【追尾型追撃
 追尾(自軍正面)は接触中の部隊によって実行される。この形態が行われる可能性が最も高いのは敵撤退開始最初期、夜間、困難な地形を行く場合、障害物を越えていく時、または道路外でのマニューバが制限されている場合である。

 追尾型追撃は持続的なプレッシャーを敵にかけられる。敵のマニューバ、防御位置への展開力、そして離脱する力を制限することになる。追尾型追撃の目的は敵にとって不利な状態での展開と戦闘を強いること及び撤退を遅らせることにある。マニューバ及び側面攻撃が限定的ながらも実施される。追尾型追撃は普通は決定的なものにならない、というのも敵の後ろを彼らの予備軍へ近づく方向へ押すことになるからだ。

 【並行追撃
 並行追撃において、追撃部隊は敵撤退ルートに対し並進することになる。ハイスピードの並行追撃によって敵側面攻撃あるいは撤退ルートを先んじて遮断することができるだろう。側面攻撃の脅威下において、敵は追撃攻撃を防御する間その部隊を分割あるいは撤退を遅らせることになると考えられる。これだけでは、追尾追撃が伴われない限り、敵にマニューバを許し反撃の機会を与えることになってしまうだろう。

 【追尾並行複合型追撃
 追尾と並行追撃の複合型追撃において、追撃主力部隊は撤退する敵に対し並行を担当する。その他のより規模の小さい部隊は直接敵へ圧力をかけ接触交戦を保ち続けるべきである。複合型は追尾と並行追撃の両方の利点を持っている。複合型追撃は敵の離脱を防ぎ、側面攻撃も行われ、敵撤退路を遮断もするのだ。

指揮統制

 中央集権的な計画立案の後に離散的な実施遂行が為されるのが追撃の特性である。統制の維持は急速に移り変わる状況の中で最重要課題となる。同時に敵の指揮統制の妨害を試みるべきである。
 統制を連続的に行えるようにするのは次の要素によってである。

・進撃方向、ルート、前進する領域、統制線(段階線)、及び到達目標の計画設計
・特定任務達成の期限時間
・後の展開に必要となるように任務を修正
・航空中継を用いた通常無線通信の強化
2つの指揮グループの使用。(一人目の指揮官は戦闘部隊をその後ろから指導できるよう観測する位置におかれる。2つ目のグループは参謀長が率いる主力部隊となる。)
・段階を示す統制線の設計 (その線に基づいて砲兵隊は必ず砲撃準備を所定時間までにしなければならない)

追撃の指揮

 タイムリーかつ正確に追撃開始の意思決定をすることはその成功の決定的要素である。もし敵が気づかれずに撤退を初めることができたならば、敵はその行動を阻害してくる持続的な圧力から逃れることができてしまう。更にもし敵が撤退の安全距離を得ることまでできたなら、我が方の攻撃部隊は敵の戦術核攻撃に対して脆弱な状態になってしまう。

 敵が撤退を試みるのはそれに都合の良い時間となる、一般的にはである。接触を確実に維持するためにタイムリーな行動が取られる。砲撃と空襲により邪魔し敵の撤退を阻害する。初期段階において、戦車と自動車化歩兵の追撃グループは敵撤退路と並行して進撃するルートを拓くよう試みる。これは追尾追撃と並行追撃の複合を生み出す助けになる。
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 【初期追尾追撃
 接敵部隊は敵撤退を発見次第即時に追尾追撃を開始し、その時にどんな隊形であろうと行動を取ることが求められる。状況が許す限り追尾部隊は行軍または戦闘前隊形へと再編成し、ひとたび攻撃が必要になれば即座に攻撃隊形に展開する。
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 【初期並行追撃
 追尾追撃部隊の行動の目的は、並行追撃部隊(できれば戦車が望ましい)の責務をより容易にすることである。戦闘用展開が必要になるまで並進部隊は警戒部隊によって先導され、行軍または戦闘前隊形を使用していく。

 追撃において、指揮官は最大限の戦闘部隊を投入するよう試みる。追撃は広い範囲で実施される。これは1個師団最大30kmまでとなっている。指揮官は最重要攻勢軸に攻撃を集中させる戦術的オプションを保ち続けるか、新たに効果的な攻勢軸を再設定する。この柔軟性は前進してくる敵予備部隊と遭遇または反撃を受けた時にもまた必要となる。

 追撃の途上またはその前に、前方派遣部隊は主力追撃部隊に先んじて進撃するよう指定されるかもしれない。その際彼らは撤退する敵を引き離すために独立して作戦遂行をする。これらの部隊は与えられた目的エリアに到達するまで戦闘を極力避ける。同時に偵察報告や敵撤退ルートの重要地点を先に抑えることがその任務には含まれることになるだろう。また敵の核攻撃という手段を喪失させることも含み、戦術的な空挺投入やヘリボーンとの連携もなされるだろう。
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 【偵察
 追撃が進展するに従い、偵察部隊は退却中の敵の隊形配置及び敵予備部隊の前進行動に関する情報を提供していく。その作戦で可能性を有する縦深ゆえに、航空偵察は追撃部隊にとって重大な脅威を識別する重要な手段となるだろう。このインテリジェンスは追撃部隊が広がり過ぎるリスクに直面している段階では不可欠なものとなる。それは追撃停止の判断のための基盤となり得る。
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 【ヘリボーン及びエアボーン
 ヘリボーンあるいはエアボーン部隊はおそらく前方派遣部隊と類似する任務を指示されるだろう。垂直包囲により敵領域内への作戦遂行をより深くすることができる。
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 【砲兵隊
 追撃が発起された時、並行追撃部隊は一般的にまだ送られていない第2梯団から編成される。砲兵隊の統制は各大隊のマニューバのために分散させられる。諸大隊、更には個々の砲さえも直接射撃をもたらすために先導部隊と共に行動する。前方派遣部隊には通常なら砲兵部隊は所属している。

 追撃の間、砲兵隊の任務は敵隊列や集中箇所(道路ジャンクション、隘路、橋、交差点)への砲撃を含む。敵反撃を撃退し、敵予備を遅らせ、敵核攻撃の手段を破壊することもまた任務である。
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 【航空支援
 航空支援は退却中の敵を破壊し組織性を喪失させようするその他の火力支援を補完してくれる。特に移動するターゲットに対して効果を発揮する。追撃途中の状況というのは不明瞭なものになりがちである。従って航空偵察は追撃を確実に成功させるための重要な要素なのだ。

 航空偵察は下記の事項を見つけ出すために使用される。

・部隊の後方地帯への撤退の始まり
・撤退中の部隊の構成と行動していく方向
・前進してくる敵予備の構成と行動方向
・障害物の性質と中間にある防御陣地
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 【工兵隊
 工兵隊から提供される活動支援分遣隊(MSD)と障害物担当移動分遣隊(MOD)は前進速度を維持するために役立ってくれる。初期段階での彼らの任務は前進陣地から障害を撤去突破し地雷原を切り開く役目を含んでいる。追撃の途上においては橋の建設、道の補修、そして敵撤退ルートを地雷や建設物破壊、障害設置によりブロックする事も任務とする。
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 【ロジスティクス
 最も成功している追撃部隊にロジスティクスの優先権が与えられ、軍の最大限の関与、燃料や弾薬の要請、そしてメンテナンスの増加がある。追撃の縦深はロジスティクス支援の許容能力に支配されているのだ。追撃を持続するための1つの目安となる要求は、大規模攻勢の場合、輸送部隊の増強を受けた1個戦車師団が最大5日間を自給自足するべきというものだ。
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 【核攻撃目標
 前方派遣部隊や空挺部隊と併せて、追撃部隊の活動は核攻撃目標を創り上げるよう作用する。
 優先核攻撃目標は追撃のものになる。

・接近中の敵予備
・撤退中の敵主力グループ
・重要地域(橋、道路結節点、隘路)で集まっている敵部隊
・敵の核攻撃手段
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 【追撃の停止
 追撃は1つ上級の指揮官の命令により停止されることとする。追撃を停止する条件は次のものがある。

・敵が粉砕された場合
・追撃部隊へのロジスティクス支援が遠く離されてしまった場合
・追撃部隊が広がり過ぎて分断の危険に陥った場合
・追撃部隊にもう何もアドバンテージが見当たらなくなった場合

 ソ連軍の撤退中の敵への攻撃図解を下図に示す。
Figure 5_Soviet Tactical Pursuit
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修了
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 以上となります。
 ソ連軍の追撃戦に対する米陸軍学校の捉えた方は短くまとめられていますので分かりやすい分、詳細は恐らくもっと書けるのを抑えているのだろうと思います。ACCPということもあります。
 この追撃戦の考え方はあくまで戦術核兵器の存在する時代のものであり、必ずしも同概念が近代以前に適用できるかと言われると個々に再考する必要があるかもしれません。

原文
https://www.globalsecurity.org/military/library/policy/army/accp/in0813/lsn1.htm
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phase line =PL 統制線 目標群の総体範囲。これにより段階が示され個々の部隊目標だけでなく全体の統制を取る
Forward Detachment 前方派遣部隊。広い役割を持つソ連の攻勢で極めて重要な部隊。追撃の説明で現れるこの部隊の役割はごく一部である。David M. Glantz先生が専門解説論文を書いているので参照。
Movement support detachment (MSD)= Otriad Obespecheniya Dvizheniya (OOD)。活動ラインを準備又は維持した部隊。基本的に行軍に先立ち編成されルート偵察も兼ねる。Glantz先生が解説を『Soviet Military Intelligence in War』で書いている。FM5-102、FM100-61参照。
Mobile obstacle detachment(MOD)= 地雷敷設、塹壕掘削、障害物の設置及び取り壊しなどを担当した工兵隊。FM100-61参照。

Movement Support Detachment_OOD