2019年春、米空軍大学出版のAir & Space Power Journalにある論考が掲載されました。論題は「Small Unmannned Aerial Systems and Tactical Air Control」。ハースト少将が記述したこの論文は空軍そして陸軍による航空軍事作戦・戦術のコンセプトに対して極めて興味深い思索をしています。これから少し経った3/28、ハースト少将は軍事安全保障サイトWar on the Rocksに寄稿、論作の中で取り上げた戦術的空域コントロールの概念とその背景について要約した解説をしてくれました。
 今回この戦術空域コントロールコンセプトについて意見を少しでも聞けたらと試訳を行いました。

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 以下訳文
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発達しゆく戦術空域コントロールを巡る戦闘

Jules Hurst著  2019年3月28日

 空域コントロールを巡る競争の中で、小型無人航空システムの成熟と拡散普及により新たな段階が生まれている。2017年、ISILと米軍の支援を受ける軍事勢力との間で戦術的制空権(Tactical Air Supremacy)を巡る最初の戦闘の1つが戦われた。1000$未満の商業ドローン即席ジャマー、そして小規模武装の間の戦いだ。ISILが2000フィート(約600m)以下の航空優勢を握っていた期間でも、米軍と連合軍はそれより上空の制空権を握っていた。
ウクライナでは、ロシア系分離主義者とウクライナ軍が同様の戦術空域コントロールを巡る戦いを繰り広げていた、ただこちらはより高度なものである。アメリカ人ではない、ロシアとウクライナの革新者達は電子戦と直接攻撃任務の遂行能力を持つ多様な小型無人航空システムを開発し、それらの実践使用により先駆的な戦術を展開している。
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 従来は「空域コントロール(Air Control)」、「航空優勢(Air Superiority)」、「制空権(Air Supremacy)」という用語は全空域に対し適用されてきた。しかしもはやその限りではない。さらなる使える・手頃な小型無人航空システムの出現は空域へのアクセスを民主化し始め、2つの空域コントロールの段階を創り上げた。1つは戦術的な、もう一つは作戦的な空域コントロールである。米国、NATO、中国、ロシアなどの軍事大国を相手に航空域のコントールを巡って競争できなかったような勢力に対して、この発展は大きな機会を与えることになる。同様にそれは近代軍に対して、エアパワー資源の供給と効率的に陸軍と海軍への支援を配分する道筋を増大させ得る。
 米国が制空権獲得に関するほぼ完璧なこれまでの記録を継続するために、国防総省は無人航空システム技術にさらなる投資をするべきである。将来の紛争でそれを支配するこのエアコントロールの新たな次元、軍役の任務、またはサービスについてドクトリン上の定義付けをする必要がある。

戦術的・作戦的エアコントロール

 空域コントロールを2つの段階に分ける必要性は、応対するシステム内における性能差から生まれている。従来の戦闘機及び防空システムは小型無人航空システムとの交戦に対して限定的な能力しか持っていない。例えもしその能力を持っていたとしても、F-35のような航空機を600$のDJIファントムドローンとの交戦と破壊に使用する機会費用は膨大なものになってしまう。F-35の一回の飛行費用はファントムドローンの83倍以上にあたる。次に、小型無人航空システムは飛行中の有人航空機を攻撃・撃墜する能力をほぼ持っていない。この性能差と2つの異なるクラスの資産を別側と交戦させるという非効率性によって、空域コントロールの2つの次元は創られたのだ。
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 国防総省はまだこの2つの空域コントロールの次元(領域)を定義づけしていない。しかしここで私は実用的な定義の提案を次のようにしたい。

 【作戦空域コントロール(Operational Air Control)】
 作戦的空域コントロールは従来の競争領域であり、制空戦闘機や防空システム、ミサイルシステム、そしてその他の中空~高空高度の空域支配に影響を与えることができるプラットフォームの間で行われる。

 【戦術空域コントロール(Tactical Air Control)】
 戦術空域コントロールの競争領域は、安価の無人機システムや短距離防空システム、電子戦、そしてサイバーシステムといった地上部隊や海上部隊の近接空域を巡って行われる。

 戦術的航空優勢と戦術的制空権それぞれが、この低層域において保有する空域コントロールの度合いを定義する。だがますます重要なレベルで、空域争奪戦の度合いも定義するのだ。

経済力の小さい勢力による空域へのアクセス

 小型無人航空システムは今や貧しい国々にもただ防るだけでなく空域固有の利点、即ち制限された地形に邪魔されることのない不変の戦場上空域を活用する機会を与えた
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  エアパワーは長らく富める者たちの競合場所であった。富裕国家のみが第4、第5世代ジェット戦闘機を購入する余力が有り、それを支援するインフラを構築することができ、そしてそのパイロットが効果的に操縦できるよう適切に訓練することができた。1個編隊12機のF-35A戦闘機を持つには追加のメンテナンスや軍需品、燃料、インフラ、クルー、パイロット抜きでも10億$近くの費用がかかる。貧しい国々が防空システム可動域外で富裕国家に対して空域コントロールを争いに来るのをこれらの厳しい費用負担が効果的に抑止している。だがしかし、防空システムはあくまで敵が空域をコントロールする能力を制限するのみである。防空システムはその使用者自身が空域の戦術的・作戦的な有意性を活用できるようにしてくれるわけではない

 iPhoneや商業衛星システムあるいはインターネットのように、小型無人航空システムは従来の航空機に比べ僅かな費用で効果的な性能を提供できる民主化する技術(Democratizing technology)となっている。小型無人航空システムは国家が生産する航空機のような極上品と比類できるようなものでは無いが、作戦的領域まで影響を及ぼしうるかもしれない戦術的成果や戦闘を形成する小規模能力を各勢力にもたらすことができるのだ。
 小型無人航空機は既にイラク、シリア、ウクライナでの作戦で影響をもたらしており、それはアメリカ特殊作戦軍レイモンド・トーマス将軍が、ISILの攻勢はドローン使用は特殊作戦部隊が2017年に直面した最も手ごわいものであると述べるほどまでになっている。

 人工知能と機械知覚の継続的な進歩と活用、精密誘導兵器やその他ペイロードの発展、そしてより高性能の運行領域限界(距離、速度、上昇限界、揚力)は戦場での戦術的航空優勢と戦術的制空権の影響をより大きくするのだ。

経済力のある勢力にとっての供給増加

 比較的裕福な軍隊にとって小型ドローンは戦場へのエアパワーの供給と効率的配分を増大させる方法をもたらすものだ。1機分のF-35A取得費用は6000機の小型無人航空システム(各15,000$)にあたり、各々が戦場で別個の要素をサポートする能力を持っている。比較的経済力のある国家はエアコントロールを得ることによるアドバンテージを長い間持っていた、ただそれは莫大な財政負担により為されていたものだ。空軍を創設し維持する関連費用の膨大さは確実に、陸軍と海軍を支援可能な航空機の数を限定し続け、航空支援要請がいつものように不足してしまう状況を生み出す。ここ40年、ワールドクラスの軍隊はさらに高額なマルチロール/マルチミッション航空機を配備したことでこの欠乏状態を悪化させた。マルチロール機は数多の素晴らしい性能を持っているとはいえ、1度に戦場の1つの場所にしか存在できないのだ。
12ポンド爆弾
 小型無人航空システムのポテンシャルは有人/大型無人航空機の性能に匹敵することは決してない。500ポンドMk爆弾を運ぶこともM1126ストライカーの様な歩兵戦闘車両を運搬することもできない、だが12ポンド精密誘導兵器を迅速に投下することが可能であり歩兵中隊が必要としている弾薬の束を運ぶことはできるのだ。技術的に機能可能化になるのと並行して無人航空システムの独立性能は上昇するので、多くの戦術的エアパワー任務を低コストで実施する能力を手に入れるだろう。小型無人航空システムは有人航空機に適さない全所掌領域に渡ってエアパワーを分割し分配する驚異のオプションを指揮官達に提供する。これは必ずしもスウォーム(群)戦術というわけではなく、低階層域に対して航空支援能力をもたらす手段の1つである。
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誰が戦術空域コントロールを己がものとするか?

 1948年、フロリダ州キーウェストで空軍創設後の責務所掌を明確化するため陸海空3軍の参謀長達が会合を行った。キーウェスト合意により陸軍は航空部隊を偵察及び医療支援用とし縮小し、海軍は戦闘航空部隊を維持すること許可され、そして空軍に対し残りのエアパワーの任務と資産に関する責務を与えた。
 1952年のペース・フィンレター了解覚書で陸軍と空軍の長官達が合意したことは、陸軍の回転翼機から重量制限を撤廃し、インテリジェンス・観測・指揮統制任務の支援を行う軽量の固定翼機を使用することを認可した。
 1966年のジョンソン-マコーネル合意で最後に、陸軍は戦術的輸送機を空軍に譲り渡し代わりに回転翼機の優位性を得た。これら3つの合意により軍事サービス達の間に航空責務の分割を形作った。だが第4の時が来たのだ。

 国防総省司令5100.01は現在、米空軍に全般的な航空優勢を獲得する任務を課している。だが米陸軍(及び米海兵隊)に最大の作戦的ニーズ、即ち戦術空域コントロールを確実に維持させ対空、近接航空支援、電子戦、再補給任務への対応能力を持つ小型無人航空システムを所有する必要性があるのだ。米陸軍は既に近接航空支援が可能なスイッチブレード小型無人航空システムをうまいこと導入し、おまけに空軍の査定から逃れるため「徘徊型兵器」とラベルを貼ってのけている。
 米国が全次元領域で航空優勢を確実に維持するため、参謀長と長官達はキーウェスト合意の次の進化の形を図式化するべきだ。かつてのヘリコプターの登場と同様に、さらなる性能向上をしつつある小型無人航空システムはその運用領域についての再考を必要としている。小型航空ドローンの進化の中で米国が航空優勢獲得のほぼ完璧な記録を継続するために、米国防総省は5000フィート(1500m)以下の空域をコントロールし活用する責務所掌を明確に定義する必要がある。
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著者
Jules "Jay" Hurst 米陸軍予備役 軍事戦略家(EA59)
元 米国国防長官府インテリジェンス担当(USD(I))オフィス勤務 『Mavenプロジェクト』Algorithmic Warfare 機能横断型チーム所属
論考「Small Unmanned Aerial Systems and Tactical Air Control (小型無人航空システムと戦術空域コントロール)」を宇宙航空ジャーナルに寄稿。
述べられている見解は著者自身のものであり、必ずしも陸軍省、国防総省、米政府の公式方針又は立場を反映するものではありません。
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2019年4月13日 試訳

元記事 The Developing Fight for Tactical Air Control
https://warontherocks.com/2019/03/the-developing-fight-for-tactical-air-control/?fbclid=IwAR0nukzLYRvqASLRskvmkcd4RCQJ53SXk6o5eaK659f9hCLxZ08qLmZ6uN4

論考「Small Unmanned Aerial Systems and Tactical Air Control (小型無人航空システムと戦術空域コントロール)」
https://www.airuniversity.af.edu/Portals/10/ASPJ/journals/Volume-33_Issue-1/F-Hurst.pdf

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The Fighting Drones of Ukraine :In garages and warehouses around Kiev, an army of gadgeteers takes on the Russian war machine.
https://www.airspacemag.com/flight-today/ukraines-drones-180967708/

A US ally shot down a $200 drone with a $3 million Patriot missile
https://www.theverge.com/2017/3/16/14944256/patriot-missile-shot-down-consumer-drone-us-military

Producing, Operating and Supporting a 5th Generation Fighter
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The Democratization of Airpower: The Insurgent and the Drone
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Pyros Munitionsmall, lightweight, tactical munition
https://www.raytheon.com/capabilities/products/pyros-munition
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米空軍George M. Dougherty大佐は無人機が地上10m以上だとスムーズに行動できるとし、こういった滑らかな移動が可能になる高さ方向で領域を分け『Atmospheric Littoral(空の岸辺)』 Operationsと呼びここを重要視している。
https://ndupress.ndu.edu/Media/News/News-Article-View/Article/1913099/ground-combat-overmatch-through-control-of-the-atmospheric-littoral/
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以上です。

 陸軍系研究者と空軍系研究者それぞれのご意見を何としてもお聞きしたい、極めて興味深い論考です。ドローンの軍事利用が発展の最中にある現代では、低空における地上部隊支援運用コンセプトについて多くの人が似たようなことを肯定的にせよ否定的にせよ考えたことがあると思います。それを挑戦的なまでに少将は非常に明確な定義付をした提案を行って国防総省がドクトリンを新たに設定することを望んでいます。
 もし少将がF-35に代表される高額マルチロール機に対し否定的だと感じられたならそれは私の翻訳が稚拙なために生じた誤解であり謝らなければなりません。少将の論考はあくまで能率的な担当所掌分けとそれによるさらなる技術発展に伴う戦術コンセプトの発展です。ただやはり問題が起きないとは言えない分け方であり米軍各省同士の権限争いまで相まってどうなるか言えません。ですが少将の定義が採用されなくとも何らかの類似コンセプトが設定されると考えます。

 ぜひ本稿を読んだ人のご意見や類似論考が記された書籍・論文があれば教えていただきたく、宜しくお願い致します。