2018年8月8日、オーストラリア陸軍本部長は「加速されゆく戦(Accelerated Warfare)」と題する将来の軍事態勢・戦争に関する論述を発表しました。 以下ではAccelerated Warfareに関する声明の試訳を行います。

 該当となるのは現代戦及び近い将来に予測されている軍事コンセプトに限定されます。具体的には2018年より開始された豪軍の加速戦への試みについてです。用兵面でのテンポアップなども含みますがそれら細部はここでは記述されず、より包括的な戦争の様相の加速とそれに対応する必要性を提言する豪軍の紹介のみです。

 Accelerated Warfareとは何かを述べるのではなく、むしろこれからそれを考察・具体的に落とし込むために協力してほしいと言うのが豪軍声明の要旨です。
【原文】
https://www.army.gov.au/sites/default/files/publications/futures_statement_accelerated_warfare_a4_u.pdf

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以下訳文____________________________________

加速されゆく戦

 豪陸軍の将来のあり方に関する論述は下記2点からデザインされている。
・豪陸軍自身を急速に変容する状況の中に置かれた軍なのだと考えることを奨励する
・(将来の予算投資と軍組織構造検討を行うことになる)統合コンセプトへと貢献する

 モーション中の軍であるため、アイディアの継続的な切磋琢磨を豪軍は求めている。ここには国防省だけでなく政府全体・産業界・学術界・国際軍事パートナー・更に新分野の交流が必要である。その目的は、将来の課題に対処可能となるよう戦略とコンセプト主導で統合戦闘フィロソフィーを強化することだ。

 私(豪陸軍本部長)は現在「加速されゆく戦」と呼んでいるものから想起される各テーマについてあらゆるレベルで議論することを全軍に要請する。

 その中核となるアイディアとして加速戦が示すのは、その作戦環境及び「どのように対応するか」という2つのことだ。戦争のためにどのように考え・装備し・訓練し・教育し・組織し・準備するか、それらの出発点を与えてくれる。これこそが将来へ備える重要なステップだ。

挑戦

 我々は国際秩序がますます強い圧力を受け競争が激化する時代に生きている。将来へ備えるということは、開かれた公正な国際社会への貢献を継続し、変動性不確実性複雑性曖昧性が増大する事態に対し備えることを意味するのだ。

【地政学】
 オーストラリア地域は、
ますます変化する地政学的秩序と協力・競争・紛争によって立場が定められつつある。同時に沿岸環境における都市発展と地域競争の速度は独特の複雑性をもたらしつつある。これらの傾向こそが、他勢力との外交的情報的経済的そして軍事的な交流のスピードとダイナミズムを加速させている主な要因だ。

【脅威】
 豪軍の活動展望は変質しつつある。(過激派や自国内に拠点を置く脅威勢力も含む)敵は今や全ての活動領域を統制し影響をもたらすことができてしまう。急速な進化の出現、容易にアクセスできるテクノロジーは非対称の能力をますますもたらしている。それは各政権だけでなく非国家主体、個々人ですらも対象とする。数多ある低コスト技術と同様に、長距離から探知し打撃する能力は既存主要軍事システムの脆弱性を増大させている。将来の打撃能力は物理的なものだけでなくデジタルも含み、その打撃遂行はマウスをクリックする速度で実行されることもよくあることだろう。高度化した接近阻止/領域拒否(A2/AD)能力はマニューバを阻止しうるが、一方では「よりスマート」かつより小さな分散型システムが生存には必要不可欠に更になってきている。ネットワークは「共同交戦能力(CEC)」システムを作り出すという点で重大である。

【テクノロジー】
 意志のぶつかり合いとしての戦争の本質は変わらず在るものの、技術的混迷は戦争の性格を急速に変えつつある。これらは精密機器と共にビッグデータ収束・人工知能・機械学習・ロボット工学・無人機・自立機能を含む。意思決定を優位に行うために、融合し・統合し・確証された情報も戦場で不可欠な成功要因となる可能性がある。そこには混乱や偽装からこの情報を守る試みも共にあるだろう。テクノロジーが唯一絶対の答えであるとは限らない。我々の挑戦は技術的変化を下支えすることであり、(将来の投資・軍組織構造・動員及びロジスティクスの変革に繋がる)統合戦闘フィロソフィーを用いて現代の作戦環境に適応し存続できるようにするのだ。
accelerated warfare_OZ

【領域】
 探知と攻撃の射程範囲が意味する所は、陸軍は全ての領域(ドメインに対処しそれらを包括的に統合しなければならないということである。宇宙とサイバー空間はかつての戦争で完全には闘争が為されたわけではなく、それ故にこれら将来競合されるであろう領域に関して我々の知識は限られている。伝統的な空・海・陸の領域で作戦実施をする我々の能力は宇宙やサイバー空間では弱体化する危険性がある、だが同時に軍事的アドバンテージをこの領域で得る大きな機会があるとも言える。未来の紛争は各ドメインで為され、そこではネットワーク化と統合が軍事力を生み出す鍵となるだろう。
AFD_joint-terminal-attack


 まとめると、地政学的背景・脅威の変化・破壊的テクノロジー・ドメイン統合があるが故に我々は加速的環境に対し備えなければならないのである。未来の紛争はある部分において、機械の速度で戦われることになるだろう。そこでの成功は最速に適応できた者の側が手に入れるのだ。

 未来の優位性は、「時間を我が物とし」その環境に対し最高の備えをできた側のものとなるだろう。

対応

 この加速的情勢の中で陸軍は対応をしなければならないのである。戦闘フィロソフィーを適切にし将来の必要能力を伝えるものに確実にするため、我々はクリエイティブかつ制約無く思索しなければならない。

 統合軍にアクセス
(望む場所へ到達する能力)持続性(展開を続ける耐久力)致死性(戦闘能力)を創造するための豪陸軍の役目は、より大きな議論をするべき項目である。これにより共有利益を調整し、我々にとって好ましい作戦環境・技術・パートナーを創り上げるのだ。どのように持続的プレゼンスを活用するかを、アクセス・忍耐・人と人とのつながりを通して議論しなければならない。全領域に渡って潜在的効力と影響力を持つため、軍事的致死性を地上で・地上から・地上へともたらすことは、統合軍における豪陸軍の役目の中心的焦点であり続けなければならない。
AFD_Battlefield

 「どう対応するか」を議論する時、我々は組織的要素についても思索することになる。我らは多岐に貢献するリーダーやインテグレーター、即ち不確実性の中で繁栄し、変化に適応し、解決策を生み出せる存在に成らなければいけない。新技術を統合軍の中に取り込み、優位性をもたらす潜在的な源として活用をしなければならない。国際軍事パートナー・産業界・学術界と提携することは、相互利益の可能性を切り開き関係を強化するために最も重要である。

 ただ待つのではなく未来を我々の方へたぐり寄せなければならない。陸軍は統合戦闘フィロソフィー・戦略・コンセプトへの寄与の仕方を再考し、積極的に対応しなければならない。一緒にこれらのアイディアを探求し、次のステップを見つけ、我々の能力開発の優先事項を伝えてもらえるよう、私は貴方の参画を楽しみにしている
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訳文終了____________________________________


 以上がオーストラリア陸軍本部長(Rick Burr中将)より発表された声明となります。

 Accelerated warfare については各国でも類似の研究が進んでいるとは思いますが特にADF統合軍の記事で近年は目立つようになりました。以下には一部具体例を
まとまりはありませんが抜粋しておきます。

 豪軍司令部のGus McLachlan少将は次のようにも述べています。
 「モーション中の軍と加速されゆく戦争は原則的に次のように要約される。変化とは普通のことなのだ、軍を全面的により機敏で柔軟にしようじゃないか、と。」

 豪軍は2014~2017年に実施された組織改編「ベエルシェバ計画(Plan Beersheba)」で最新技術・情勢に本当の意味で適切な諸兵科連合に改革しようと試みてきました。
 ※ベエルシェバは聖書に登場するユダ王国南部の都市。平和条約の締結が行われた。

 そこでは流動的な戦術と戦略に21世紀の戦場では直面することになると述べられています。具体的には水陸両用部隊含む諸兵科連合の戦闘効率の発展が鍵とされ、大規模な訓練が行われています。2018年から国防長官となったAngus Campbell大将も以下のように述べました。
「ベエルシェバ計画で、21世紀のバックボーンとなる諸兵科連合軍を我々は保有している、だが未来のものではない。そこは『加速される戦争』が活動し始める所だ。その狙いとは陸軍を適応可能かつ有効的な軍にすることだ。」

 マルチドメインの試みの1つとして豪海軍は新しい「Air Warfare Destoryers」と呼ばれる対空システムを、豪空軍はF-35sとE-7A Wedgetails早期警戒機の実戦投入とシステム改善を勧めてきています。
E-7A Wedgetails_ADF

 Mclachlan将軍は陸軍でも同種の試みが為されていると述べています。また少将は産業界との提携についても重視し次のように話しています。
「陸軍UASプログラムは、最先端製品を短期間で軍へと提供するために、どのようにして陸軍と産業界が提携するかの鍵となる実例だ。」
UAS = Unmanned Aerial System.
 加速される戦争において統合軍が戦略的抑止力となるため「オーストラリア産業界は調達ライフルサイクルの短縮によってもたらされる機会を把握している。軍は正確なフィードバック(彼らが欲し本当に必要な事項は何か)を確実にしなければならない。」

 加えて、豪軍はアフガニスタンとイラクに展開しており、ここで各勢力の各機能が一緒に機能しているのを目の当たりにし、統合軍のメンタリティの発展が必要であると実感していると記述されています。

【参照】
Industry engagement central to accelerated warfare: MAJGEN McLachlan
https://www.defenceconnect.com.au/land-amphibious/3156-army-a-keen-partner-for-industry-to-develop-

accelerated-warfare Accelerated warfare and preparing Army for future conflict
https://www.defenceconnect.com.au/land-amphibious/3219-accelerated-warfare-and-preparing-army-for-

future-conflict Army rolls out Unmanned Aerial Systems
https://news.defence.gov.au/media/media-releases/army-rolls-out-unmanned-aerial-systems Accelerated Warfare – Four Imperatives for Change -

Accelerated Warfare – Four Imperatives for Change - Major General Chris Field
https://www.army.gov.au/our-future/blog/cognitive-edge/accelerated-warfare-four-imperatives-for-change-major-general-chris
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豪軍以外では米軍士官学校のJan Kallberg准教授がAccelerated Warfareにおけるサイバー関係について小論を出されています。その文中ではやや具体的に述べられており、特にOODAループについて、Accelerated Warfareの中ではループをより速く回す側がComprehension Barrierを破れば、劣勢側のOODAループを消失させると述べています。

Supremacy by Accelerated Warfare through the Comprehension Barrier and Beyond: Reaching the Zero Domain and Cyberspace Singularity
https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/1808/1808.06028.pdf
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メモ
state-based threats
Cooperative Engagement Capability= CEC共同交戦能力
Fluid Tactical & Strategic

豪陸軍で進むLAND400のPhase2と3及びLAND19のPhase7B、LAND907 Phase2の計画

Rick Burr中将のSNSアカウント
https://twitter.com/chiefausarmy

Accelerated warfare におけるLogisticsについてもそのうちできれば…。
まだまだ不明瞭なことばかりで手探り状態の紹介です。別の見識ある方、ご助言いただけると大変感謝いたします。