低空域の軍事活用は現在驚異的な進化の最中です。技術的発展はそのドメインの戦闘の様相を変え戦術・作戦に新たな可能性をもたらし、陸海空軍は様々な観点から新たな軍事思想を検討しています。
 以前その1つ、ハースト少将の提唱した『戦術空域コントロールと作戦空域コントロール』を紹介しました。
リンク→http://warhistory-quest.blog.jp/19-Apr-13

 今回は2019年の米国防大学季刊誌掲載ドハティ米空軍大佐の論文の一部を紹介したいと思います。近い将来技術的発展がもたらすであろう、極低空を含んだ領域の地形的特性とその領域での戦闘作戦についての考察です。
 極低空を含んだ領域と言ったのは低空域の一部のみを指すのではなく、そこに地上から伸びる様々な物体とその隙間各要素も含むためです。この空と陸が混ざる領域のことを『空の岸辺(Atmospheric Littoral)』とドハティ大佐は呼びました。

 軍事において海岸部で、そして海岸を越え展開する活動は水陸両用作戦と名付けられ、陸のみとも海のみとも違う独自の扱いが必要とされる領域となっています。技術的進化は海岸と同じ様に空と陸の混ざる領域の軍事的可能性を拡張しつつあります。空と陸の軍事的性質が共に在り、強い相互作用を持続的に及ぼす領域で遂行される戦闘に着目し、大佐は『空岸作戦』というコンセプトで発展させようと試みています。
Colombian soldiers_outskirts of Medellin
< 画像:foreignpolicy より >

 下記の論考訳文は大佐が「一例」と述べられているように、現実的に直面しているドローンに主眼を絞ったものですが、空岸作戦の一部をイメージしやすいものかと思います。読まれる際は米空軍畑エリート将校の視点という所を念頭に置くと面白いかもしれません。
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以下抜粋訳文  

空岸コントロールによる陸上戦闘での優位性確立

著:George M. Dougherty米空軍大佐 2019年7月 統合軍季刊誌94号 第3四半期

 潜在的敵国は急速に進歩しており、米軍は技術的アドバンテージを維持する破壊的な革新を探し求めている。その必要性は陸上戦闘において特に重大だ。陸上戦闘は米軍の死傷者のほとんどが出ている領域で且つ画期的な技術革新が他の軍事任務領域よりも一般化していないのである。

【戦術的優位性の模索】

 技術的プレッシャーの増大に加えて、近年の連合軍の戦闘経験と国防研究は将来の戦場が過去のものより更に複雑となることを示している。大都市を含む市街地での戦闘はもはや普通のこととなる。
(中略)
より高度になった即席爆破装置、RPGや爆発成形侵徹体のような人力運搬可能な兵器、そして武装した商業用ドローンといったように激増しつつある低コストで致死性ある兵器が都市部でも他エリアでも戦いに投入されることになるだろう。極超音速兵器やその他の長距離スタンドオフ火力のような高度な技術には各々の役目がある一方で、将来の紛争に勝利するには地上戦の近接戦闘で戦術的優位性が究極的には必要となるはずだ。

 ロボット工学及び自律行動技術の活用は素晴らしきされど未だ定義されていないポテンシャルをもたらす。この分野における新たな革新は米軍が無人システムで早期に技術的かつ作戦的なリードすることによって創造され得る。戦場のネットワーク化、ロジスティクス、技術的修練における米国のアドバンテージが活用されるはずであり、そして米国に死傷者を出させてその政治的意図を砕こうとする敵の試みを防ぐ手助けとなり得るのだ。これまでのほとんどのコンセプトは、現在の作戦コンセプトで使われている無人または有人プラットフォームの単純な代替を意味していた。例としては有人打撃戦闘機の「僚機」としての無人機、爆発物処理ロボット、「荷運びの騾馬」としてのロボット、補給物資を運ぶ自律型トラック、遠隔操作で発砲できるポジションを取れる武装地上ロボットなどだ。これらは全て既存の軍事能力をより効果的にする方策だ。けれども米軍にとってそれらが決定的な優位性をもたらすかというとそうではない。ロボットと自律技術の可能性は、全くの新しい作戦的コンセプトを戦場に与えうるのだろうか?当面の技術的限界を乗り越えたとしたら、この先起こり得る戦いで破壊的なまでの戦術的優位性をもたらすために、一体どんな新しい能力と戦闘ドクトリンがこれらの技術によって可能となるだろうか?ここに1つの例を提案しようと思う。

【空岸作戦】

 ロボット工学と自律技術を陸上ドメインへ直接的に適用する事についての現在までの米軍公式の思案では、無人陸上車両に主な焦点が当てられてきた。この重点が見られるのは、例えば『米陸軍ロボット&自律システム戦略』の文中で2030年代及びそれ以降の長期展望を広げた地上車両を中心としたアプローチが描かれている。けれどもこういった車両は将来の戦場において、特にナビゲートが必要となるような状況下で、物理的な複雑性に直面することになるだろう。現代の最先端自律型地上ロボットは比較的シンプルな地形でも通過失敗してしまった。2015年の国防高等研究計画局ロボティクスチャレンジでは、自律型ロボットはでこぼこの地面上を動いたりドア開けといった人間が些細な事と感じる最も基本的なタスクの達成に長々と苦闘した。2017年の別例ではセキュリティ監視ロボットがオフィスパークプラザにある噴水に倒れこんでしまった。最近のイラクとシリアの戦いに見られるように、市街戦が繰り広げられる地形はバリケード、建造物の残骸、クレーター、壊れた乗り物といった障害物がかき集められることでそれより遥かに複雑になり得る。現代の自動運転車を超える人工知能世代を使用したナビゲーションまたは人の手による継続的な遠隔操作をもってしても、物理的な障害物にはどんな陸上用ロボットだろうと妨害されてしまう可能性が高い。
Drone-Maker Armed a Quadcopter with a Sniper Rifle
< 画像:Military.com より >

 だがしかし、おそらく10mほど移動平面を高くすると、全てが実験室の床と同じくらい滑らかになる。飛行ドローンはこの高度で運用できるのだが地上戦闘に密接に参戦し続けられもするのだ。それらは事実上の陸上部隊であるが、エアパワーの戦術的優位点を有しながら空中で動作できるのである。それらは「空の岸辺」と呼べる領域で作戦行動する。大地に空が隣接する所だ。将来の軍事作戦に関して、次のコンディションが適用される場所になっているだろう。

・地上障害物のほとんどが影響を及ぼさず航空機と同じように、しかし局所的な規模で、部隊が支障なく移動、集結、散開できるに充分な高さの空中で作戦が実施される。

陸上部隊と近くかつ密接にコンタクトし、他陸上部隊ができないような敵陸上部隊への攻撃が可能または友軍部隊への支援が可能となるに充分な低さで作戦が実施される。

・建物、丘、木々などの大きな地物を遮蔽物や隠れ場所として使用できるに充分な低さで作戦が実施される。

 要するに「各建物の間の空」と考えることができ、それは数百フィートの高度までまたがっている可能性がある。現代のヘリコプターはしばしば空の岸辺で作戦行動を取るのだが、戦闘では長くそこに留まらない傾向がある。なぜならその高度ではヘリは敵攻撃に脆弱であり、パイロットと乗組員を運ばねばならないヘリのサイズでは建物や木々の間あるいは通りに沿って安全かつ効果的に飛行するのは難しいからである。ヘリが敵の小火器の危険から逃れるに充分な高度になると、戦術的に言って空岸の外に出てしまうのだ。

【空岸のアドバンテージ】

 空岸での戦闘作戦は破壊的なまでの新たな軍事能力もたらし、陸上部隊のための優位性を創り出す可能性がある。地上の戦場を小部隊レベルで2次元から3次元へと有効に拡張する。これにより戦術的マニューバの全く新たな次元が拓かれることになるのだ。例えば隣の街道で敵の側面を取るために脇道を通っていく代わりに、その部隊は分遣隊を送り出し街道間にあるブロックを「昇り、そして越えて」上方から敵軍の側面を突くことができるである。

 3次元的にマニューバを行う空岸部隊の能力、そしてそれが可能にする地上障害物からの自由は、いくつかの広範なアドバンテージをもたらし得る。

【速度】
 航空部隊と同じように、空中での移動は速くそして障害物が無いが故に、後退する敵部隊の退路を遮断するといったような厳しい時間的制約がある目標のために我が方の部隊を急速に送り込むことが可能となる。


【戦力集中】
 航空部隊と同じように、地形や他の陸上部隊の位置取りとは関係なく移動する能力があるので指揮官は戦場の決定的な時間と場所に戦力を集中することが可能となる。他の各友軍部隊から物理的に隔絶していたとしてもである。

【持続性】
 陸上部隊と同じように、空岸部隊はその地形を占領しコントロールすることができる。大地と近密にコンタクトを取りながら作戦行動ができるので、物理的に目標を占拠し敵がそこを使用するのを阻止するために空岸部隊は着陸しその場所を長期にわたり維持することもできる。

【物量】
 他の部隊とは違い、空岸部隊はその空間内で任意に配備することができ、ユニークな火力の集中を可能とする。例えば部隊を3次元的に並べることで、1つの範囲で様々な高度の各プラットフォーム全機が敵へ同時に持続的な直射照準射撃を行うことが可能となる。

 空岸作戦の更なるアドバンテージは、他の陸上部隊の諸作戦を補完し統合することが期待されている。空岸戦闘部隊は他の陸上部隊に付随し1つの指揮統制下に置かれ、諸兵科連合部隊の中でその有機的な組織を拡大するものとして従事することになる。

 空岸作戦のドクトリン・コンセプトは、そのマルチドメイン的性質を考えると、複数の要素に影響されるものだ。エアパワー理論が、陸上ドメインからは小部隊の戦術が、空中機動/空中強襲ドクトリンがそこには含まれることになるだろう。

【空岸武装システムの特徴】

 技術的に適切なプラットフォームが無かったのでこれまでは空岸での作戦は不可能であった。可能ととなり得る空岸戦闘機体の特徴は次のものを含むだろう。

【3次元的マニューバ能力】
 高度数百フィートまで及ぶ空中でのマニューバ能力があり、2次元的にも3次元的にも複数軸方向に動け、あるいは位置を保持できる。これは事実上、固定翼機は除外されると考えられる。

【小型サイズ】
 建物間や塔や電線といった高めの障害物の間のスペースを効果的にマニューバするのに問題がないサイズとなる。これは事実上、人間が搭乗し操縦する機体を除外することになると考えられる。

【有効積載量】
 軽歩兵、充分な攻撃力を持つ携行型兵器などを運ぶに充分な積載可能重量とする。

【コントロール】
 センサーと通信機を備え、状況を探知して報告しさらに指揮統制を受けることができる。

【自律性】
 独自の安定性を持ち、ナビゲーション、その他機能といったものを人の継続的な操作を受けることなく活動できるに充分な自律性を有する。それは単一の集団として調整された行動を含む、一人の「オペレーター」によって多数の機体を集合的に操作することが可能なこと。

【持久力】
 小部隊が交戦しエネルギーを使い果たす前にロジスティクス地点に戻るというタイムスケールにおいて、意味のある戦闘作戦を遂行するに充分な持続力を有すること。ロジスティクス地点を訪れてまたすぐ作戦に戻る能力を有するには、約30分が実践的な許容最短時間であろう。

 現代の4回転翼または6回転翼大型ドローンは空岸戦闘に適した基本特性を有する最初のプラットフォームだ。必要なサイズを満たしたドローンについて現在実証研究段階にある、例えば米陸軍研究所にあるJTARV(統合戦術再補給航空機)技術プログラムの一部がそうであり、200ポンド以上の搬送能力を目標としている。多様な推進モードやその他機能を有するプラットフォームが将来さらなる能力をもたらす可能性もある。

【空岸作戦の基本部隊】

 このタイプの個々のドローンは生存能力と攻撃力に限界がある。小型であるので、個々の機体は小火器やレーザー、それに高出力マイクロ波のドローン撃墜兵器に対して脆弱である。それ故にドローンの生存性能は遮蔽物に隠れる能力とマニューバ能力に依存するのだ。10mまでの極低空での飛行も含まれる。ドローンは人を運ぶには小さすぎるが、人に匹敵する軽装備を運搬できる。例えば、突撃銃や分隊支援火器、小型チューブ発射のできる直接攻撃弾がこれにあたる。従って、1個の機体は兵士1人分あるいは数人分の戦闘力に匹敵し得る可能性がある。

 だが、複数の機体を組み合わせることで絶大なる生存能力と攻撃力を持った総体が産み出されるのだ。ドローン1機の損失は総体の能力を僅かに低下させるにすぎず、集団の火力を大量集中させる能力は相当な戦闘力を有し得る。
Future-Battlefield_Drone & Soldiers
<画像:War on the Rocksより>

 現在の用途において、複数の無人システムを一緒に運用し1個の集団とすることをスウォーム(群)と呼ぶ。これは昆虫の群れのように、多数のランダムな配置を取る緩やかな集合体を意味する。事前にプログラムされたライトショーや同種エンターテイメントが公共の場で実践してきたものにも一貫性があるだろう。けれども軍事的戦術の文脈で兵士、車両、航空機のスウォームについて話すことはあまり盛んではない。友軍部隊と緊密に連携を取りながら戦闘で充分な水準の規律と統制をもたらすには、最低でも他の陸軍部隊と同等の規律が必要だ。これに関しては「隊列」のような表現がより正確であろう。構成機体のそれぞれが統制された配置をとるスウォームの規則正しい形態という意味を示している。

 他の軍隊と同じように、ドローン隊列は任務に合わせて様々な戦術的フォーメーションを想定しておける。これぐらいの複数プラットフォーム連携調整は小型商業ドローンによってある程度コントロールされた環境下で既に実証されている。これには、高度に規則正しいフォーメーションの迅速な形成と再編、フォーメーションが出入口などのくびれ地形を通って移動しさらに反対側に移ってから再編するといった複雑な行動が含まれます。

 機体個々ではなくドローンの隊列そのものが空岸作戦での基本単位となるだろう。個々のドローンのナビゲーションや障害物回避などの多くの詳細作業を自律処理することで、1人で1つのスウォームを指揮統制することは実現可能だ。人間1人の指示でドローン隊列は1つの部隊として移動し、攻撃し、フォーメーションを変形するだろう。戦闘でダメージを受けたとして、数機の損失があろうとも隊列は任務遂行可能であり続ける。そのフォーメーションに再集結して残りの機体で作戦を遂行するだけだ。優雅なまでに損耗を受け得る。分散的な性質故に如何なる強力なものでも1度の攻撃でスウォーム全体を倒すのは困難であろう。

【空岸の戦術的運用】

 空岸で作戦行動をとるドローンの隊列は強力かつ柔軟な新しいオプションを陸上部隊にもたらし、高強度および低強度紛争どちらだろうと近未来の戦役で予想される複雑な状況に適した決定的な戦術的アドバンテージをもたらしてくれるだろう。例えば今日におけるストライカー旅団戦闘団の歩兵中隊や海兵隊の歩兵大隊と同じく、市街地帯で作戦行動を取る中隊または大隊レベルの部隊に付属するのを作戦基本コンセプトとして想定している。特殊作戦部隊から更に重装のマニューバ部隊までの広い範囲の戦闘部隊と共にドローン隊列が作戦行動を取るという役割もまた想定される。通常戦と不正規戦どちらでもその役割は担える。ドローン隊列の戦術的運用の幾つかのケースでは次に示す小部隊のマニューバを含むことになる。

【接敵行動】
 高い移動能力と地形効果への耐性を持つため、接敵行軍中にドローン隊列は極めて効果的な掩護部隊となるだろう。ISR(諜報、監視、偵察)情報を司令部にリアルタイムに伝える。会敵交戦(遭遇戦)が起きた場合、ドローン隊列の機動力によって敵より迅速に反応し主導権を奪取し敵部隊を拘束することで更に大規模な交戦で望ましい態勢を形作ることができる。ドローン隊列の機動力と摩耗性能は決定的な交戦突入を防止することができもするので、友軍部隊は離脱するオプションを保持できる。望むなら撤退もできる

【形成交戦】
 ある攻撃中において、準備済みの敵軍陣地を発見して交戦し制圧射撃を与え敵部隊をオープンエリアから追い出すために、友軍後続部隊が到着する前にドローン隊列は市街地に侵入できる。敵の待伏せ地点の可能性がある所を特定して遮蔽煙幕をはることもできる。隊列には人間の兵士が含まれておらず摩耗可能であるが故に、ドローンは我が方の攻撃部隊の危険を大幅に減少させ交戦を加速させることができる。

【垂直包囲】
 空岸作戦は戦術的な優越性をもたらせる。なぜなら敵を2次元的に押し込められている間に友軍部隊は3次元的にマニューバを行えるからだ。側面包囲に加えて、ドローン隊列は間にある建物や丘その他障害物の上を越えて動き、垂直包囲を実施できる。これは敵が障害物の影に隠れていたり塹壕の中にいて遮蔽されている場合に特に役に立つのだが、ただし敵に上部掩蔽が無い状況である。従来の航空支援と違い、ドローン隊列は包囲ポジションに留まり敵を拘束し連続的に火力投射し続けられる。

【浸透及び阻止】
 ドローン隊列は分離可能な部隊であり望めば自在に散開も集結もできる能力を持っている。地形に関係なく動けるので、隊列の構成機体は通常は友軍部隊がアクセスできない所を通過したり入ったりできる。ドローン達はその地形を個別に浸透して敵後方で集結し後背攻撃、敵補給や増援あるいは指揮系統への攻撃を実施できるのだ。ドローン達は散開し再び浸透して自陣に戻ってこれるし、もし望むなら敵陣に残って全機が消耗するまで交戦し、友軍兵士に死傷者を出さずにできる。

【決定的な交戦】
 空岸作戦は3次元的な火力の集中能力を創り出し極大の致死的攻撃力をもたらす。要請に応じてドローン隊列は3次元的戦術フォーメーションを編成して多数の直接射撃が収束するユニークな攻撃を実行可能だ。垂直方向の階層隊形を組むことができる。例えば壁の様に垂直方向に列を重ねてフォーメーションを作ったり、半球型フォーメーションを組んで要塞化された建物のような個別の標的に火力を集中するのだ。

【陣地防御】
 他の陸上部隊と同じように、空岸部隊は地上のある地点を奪取し保持する手助けができる。ドローン隊列は着陸可能で、それによってパワーを節約してある場所にいつまでも駐留して監視および防御そして敵の撃退に使用することができるのだ。もし攻撃を受けたら飛翔し戦闘に入れる。未来のドローンは着陸時に配列を変更して監視、エネルギー補給、陸上移動、陸上モードでの兵装展開といったものを最適化できるかもしれない。

【機動防御と後退】
 攻勢時のマニューバにもたらされる性能と同じものが、防御の状況でも優位性をもたらしてくれる。例えば急速に移動と集結を行う空岸部隊の能力は有力な予備部隊を創り出す。どんな地点であろうと敵攻撃に対応し、防御中の友軍が迅速にその戦闘力を持ってこれるようにする。それはたとえ険難な地形で隔てられているものだとしてもだ。後退行動中にドローン隊列はおそらく掩護部隊として効果的な防御を展開し、人間の部隊が離脱するのを助けてからドローン自身も自在に危険地帯から秘密裏に離脱する。

【技術的挑戦】



【ロジスティクス】



【疑問と懸念】

 ロボット戦闘システムの導入に関していくつか重大な懸念事項がある。ドローン隊列を使い空岸を活用するドクトリンの枠組みは次に記す事項に対処することになる。

【ドローン隊列は誤射や暴走しないか?】
 ドローン隊列の自律性は限定的である。複雑な状況下では完全な自律性には限界があるという現実的な見方をしているためだ。武器使用の権限は、ドローンを監視し連携して行動する人間のオペレーターによって提供されそして制限される。

【戦闘中にドローン隊列の操作はむしろ重荷にならないか?】
 大量の機体の自律行動用ロジスティクスおよび直観的コントロールをたった一人のオペレーターが行うことが空岸作戦コンセプトの鍵となる観点だ。従来の武器システムを扱うよりもむしろ負荷は軽くなり得る

【空岸で同じことができるシステムが他にもあるか?】
 空岸のドローン隊列は陸上車両、有人航空機、大型固定翼ドローンなどの既存の手段では基本的に入手できない機能を提供する。空岸は開拓地広がる新しい戦術次元だ。

【通信はジャミングを受けるか?】
 たとえもしデジタル無線通信が信頼性を損なった場合でも、ドローンは互いに近くまた友軍とも比較的近い距離をとれるので優れた代替オプションを提供してくれる。例えばレーザーデータリンクを使用した送受信可能範囲の通信は実践的で使いやすくそして極めてジャミングが激しい状況下でも運用し続けることが可能である。
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<画像:techcrunch より>

【次のステップ】

 自律型ロボットの軍事的ポテンシャルを現実のものとするには、単に無人システムを既存の作戦ドクトリンに導入するだけでは足りない。そこには包括的な一連の変化があるかもしれない。1940年代後半に始まった陸軍と海兵隊が航空機を導入していった変化と同じように、1970年代から「夜を我が物とする」夜間戦闘技術の変化があったようにである。しかし米国の敵勢力にとって破壊的となる変化を与え、戦術的優位性の源泉を確保し続ける機会というには未だ遠いかもしれない。

 空岸作戦は無人システムと自律機能の有する能力がどれほど優位性をもたらしうるかの1例である。特にこれからの数十年で起きる数多の紛争を決定づけるであろう陸上領域での近接戦闘では顕著である。空岸コントロールを活用するドクトリンは戦術的アドバンテージをもたらす。そしてそのアドバンテージは陸上戦闘へのロボットシステム適用を駆り立てる軍隊を生み出すだろう。そのポテンシャルを十分に探究するために必要な次のステップは上述した分野の技術的研究と開発努力に注力し、そして戦術的経験と手法を進歩させるために軍事的実証実験を行うことだ。

 必須となるハードウェア技術は基本的には可能であり、ソフトウェアは急速に進歩している。完全に成熟したテクノロジーを事前にそなえる必要はない。少数のプロトタイプ軍事ドローンを実験用に調達し、実験結果を活用して次世代のドローンの必要機能を改善していく必要があるのだ。

 如何に他の小部隊と最高の連携をとり尚且つ如何に大きな自律性を確保するかといったような、鍵となる軍事的な疑問は訓練の場で解決されておくべきだ。その将来性は徐々にそして低コストで研究されうるものだ。陸軍や海兵隊そして他の軍事部局は最新のプロタイプ・ハードウェア&ソフトウェア、新ドクトリン・コンセプト、そして先進的装備の兵士を統合するプログラムを立ち上げるべきである。そうしてから現実的なフィールドの実験で繰り返し発達させる最適アプローチを為すべきだ。このアプローチは過去に成功している。例えば海兵隊の実験的ヘリコプター部隊であるHMX-1で、回転翼機の軍事的将来性を探求する作業を1947年に始めたことがある。

 他の標準的部隊にドローン隊列を加えることで多くの戦闘アドバンテージがおそらく得られるので、部隊あるいはドクトリンに漸進的な変化による進化が見られるだろう。軍事力とは小さなことからまず始めて、可能性が成熟していくにつれその関与を増やしていけるものだ。陸軍兵士と海兵隊員は市街戦でシンプルな武装ドローンを投入してくる敵と既に遭遇している。米軍がこのタイプの作戦を習得しなかった場合、将来3次元的戦闘を行い得る敵に直面しなければならなくなるだろう。プロトタイピングと実証実験という低コストのプログラムを追求することにより、米軍は無人システムがもたらす新興の戦闘能力分野をリードし技術的なサプライズを避け、これまで有した戦術的優位性をこれからも保持し続ける新時代を迎えることができるのだ。

 統合軍季刊誌
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原文
https://ndupress.ndu.edu/JFQ/Joint-Force-Quarterly-94.aspx

ドハティ空軍大佐のプロフィール
https://www.wpafb.af.mil/Welcome/Biographies/Display/Article/1941845/colonel-george-m-dougherty/

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以下訳者あとがき

 ここまで読んで頂きありがとうございました。
 いくつか疑念点はあるものの、ドローンおよびスウォーム、極低空を陸上部隊が活用する手法についての個々の記述はそこまで珍しくはないと思います。ただそれを統合して落とし込む軍事ドメインとして『空岸』というコンセプトを使っていることが非常に興味深いです。この論考を紹介しようと思った理由はそこにあります。

 本文はドローンと陸上部隊兵士にほぼ絞られていましたが、今回大佐が述べた範囲以外にも『空の岸辺』という概念は多くの議論事項・発展性があるのではないでしょうか。空軍のプラットフォームや空挺にとっても重要な可能性を秘めていると感じます。

 さらに空岸という軍事思想の中で空軍側も陸軍側も新たな手段を創造するだけでなく既に存在する手段、空挺や各種対地攻撃、ドローンや回転翼機などがその可能性を拡げると思われます。また、空岸は海岸と同質な点をいくつか持ちそれが拡張されるのではないでしょうか。海岸と比較して考えると、水域~水岸~内陸に対して空岸では空~空岸~地中になるのではないか等、色々と気になることが多々あります。本文に全くでなかったことを何か連想された人もいらっしゃるのではないでしょうか。個人的には空軍大佐としてはこう考えるのか…と思うところがありました。

 この空岸コンセプトについて何かご意見を教えていただけないでしょうか。もし他の書籍や論文を教えて頂けたら感謝の至りです。

 では、改めてここまで読んで考えて頂いて本当にありがとうございました。

Swarming_Concept_UK
< 画像: GrobalResearch より>


追記:ロシア語での該当軍事用語を発見した。2024年3月号「軍事思想」p.42 
     『приземного воздушного пространства』=航空空間の表層 の活用が主に戦術的レベルで拡大している、と述べらている。
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UK Rapidly Developing New Drone Programmes: “Mosquito” and “Swarming”
https://www.globalresearch.ca/uk-rapidly-developing-new-drone-programmes-mosquito-swarming/5688065

This Drone-Maker Armed a Quadcopter with a Sniper Rifle
https://www.military.com/defensetech/2017/08/18/armed-quadcopter-sniper-rifle

DARPA wants new ideas for autonomous drone swarms
https://techcrunch.com/2018/04/01/darpa-wants-new-ideas-for-autonomous-drone-swarms/

TACTICAL ART IN FUTURE WARS
https://warontherocks.com/2019/03/tactical-art-in-future-wars/

Alarmed by Venezuela, U.S. Military Seeks to Sell Arms to Colombia
https://foreignpolicy.com/2019/07/18/alarmed-by-venezuela-u-s-military-seeks-to-sell-arms-to-colombia/