現在オーストラリア軍では急速に変化する世界情勢、技術性能、そして軍事理論に対応しようと政府を含めた全体で取り組んでいます。
 今回紹介するのは技術進化の個別事例ではなく、変化に対応するための根本的な備えを身に着けようという基幹コンセプトです。

 その基盤となるのが「適応戦役化」という考えです。事前に計画していたことだけでは対処できず新たに逼迫した習得すべき事項が生まれる、つまり変化に適応するアクションを取ることになると豪軍は考えています。必ず将来的にその個別の適応化事項について「学習」をするが故に、豪軍がすべきことは「学ぶ方法を学ぶ=Learn how to learn」組織・意識・システムを作ることとされています。
 そのための1つが特に司令官・戦略レベルで有効とされる適応化サイクルあるいはASDAサイクルと呼ばれるコンセプトです。豪軍はそれを「正しく課題を解決する」よりもまず「正しい課題を解決する」ように戦略・作戦レベルで変化に適応しなければならない、そのためのツールとしています。
The Adaption Cycle_ASDA loop
※ Discovery Actionからスタートし最低一周してからDicisive Action(かつDiscovery Action)へと移るという意味の図。

 一見するとジョン・ボイド大佐のOODAループに似ていますが、ASDAサイクルはそれと対立はしない別の理論です。本文中にも説明がありますが最後の訳者追記箇所に補足を入れました。
 以下にはAaptation Cycleが述べられた第4章についての訳文を記載します。…意外と長いと感じられる方は【4.9】項、【4.10】項、【4.15】項にとりあえず目を通していただければ要旨は把握できます。

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以下、訳文

【題】陸軍の将来的陸戦運用コンセプト_ARMY’S FUTURE LAND OPERATING CONCEPT
【製作】豪陸軍総司令部_HEAD MODERNISATION AND STRATEGIC PLANNING - ARMY
AUSTRALIAN ARMY HEADQUARTERS

【発行年】初版発行2009年、改定2012年

第4章 適応戦役化_Adaptive Campaigning

【序論】

【4.1】
 将来的な安全保障の複雑性に対応する陸軍は適応戦役化を実施することになる。適応戦役化は次のように定義される。
『紛争解決及び国益を進展させるための統合的政府全体アプローチへの軍事的貢献の一部として地上軍により遂行される行動』
国防白書2009で説明されているように、適応戦役化が狙いとするのは平和的に政治的談話を促進し、国益に繋がる条件で状況を安定化させるように全体環境へ影響を及ぼしそして形作ることだ。

2017110_豪軍_adaptive campaign

【4.2】
  将来的統合作戦コンセプト(FJOC)は6つの統合戦闘職分を定義している。それは次のようになっている。
・軍の適用
・軍の展開
・軍の防護
・軍の生成と維持
・指揮と統制(C2)
・知識的優越

 これらの戦闘職分から多くの幅広い要素を導き出し、統合的政府全体構想の中で陸軍の作戦をサポートする。 これらの要素と関連する統合戦闘職分を以下に列挙する。

a状況形成活動 (指揮と統制、知識的優越、軍の展開)
  効果的な形成作戦はおそらく武力介入するための必要事項を減少または消滅させる。そして/あるいは反応時間を減少させるだろう。協力的な地域交流、部隊の準備、事前配置、水陸両用作戦、特殊作戦といったものが形成活動に含まれるが、これらに限定されるわけではない。

b】介入のための委任権限 (指揮と統制、知識的優越、軍の展開、軍の防護)
 国際法や戦時国際法、オーストラリアの国家的方針そしてオーストラリア戦争アプローチに合致した上で介入のための委任権限を設けること。委任権限は、暴力の適用によってサポートされる政治的提議案の相対的妥当性についての国際的合意を反映する。委任権限を設けるための政治的談話が許可されるのにかかる時間は、紛争解決の全要素に影響を与える。この間に逆に悪化していく状況もあり得、そこに突入していくことを想定して陸軍は備えておかねばならない。

c】軍の投射および維持支援 (指揮と統制、軍の生成と維持、軍の展開)
 これは統合的な文脈で、個人及び集団訓練を必要とする戦争準備、軍の準備と任務演習、戦場の作戦準備、先駆的部隊作戦、偵察、展開、軍のローテーションそして再編成を含んでいる。必要に応じて、少なくとも局所的な海と空のコントロール、船から陸へと行う維持支援、沿岸でのマニューバ、そして可能性がある水陸両用作戦マニューバの要件を含める必要がある。 部隊の維持支援には統合的海上輸送と航空輸送の両方が組み込まれる。

d】軍の打倒 (指揮と統制、部隊展開、部隊防護、知識的優越)
 通常戦力、非通常戦力、不正規戦力を打倒することは必須事項である。即ち次のことを行う。
・我が方の領域、重要シーレーン民衆インフラを防衛すること。
・領域内で、我らの同盟国とパートナーへの威圧や侵略に対して反撃を行うこと
・安定化および治安作戦において、地元の人々との持続的なつながりを維持すること。

e対反乱作戦法の支配 (指揮と統制、知識的優越、軍の適用、軍の展開)
 法律、秩序、正義のコンディションを確立するために、反乱を防ぐために十分な環境管理を設け、あるいは既に存在する場合は犯罪行為と闘い打倒する。これには被災者の当面のニーズを満たすために、援助や不可欠なサービスの分配を伴う場合もある。
 
f管理統治 (指揮と統制、知識的優越)
 民衆のニーズを満たせる管理統治を有する受け入れられる政府の発展のためのコンディションを設けること。

g移行の支援 (指揮と統制、知識的優越)
 可能な限り早く、許容可能なそして容認された先住民、国際機関、各種サービス提供者に管理を移行すること。

【作戦の5つのライン】

【4.3】
 図8に示すように、適応型戦役は5つの互いに補強し合う独立した作戦のライン(5 Line of Operation= LOO)を有している。5つの作戦ラインは適応戦役化を遂行するための概括的な概念上のフレームワークを示し、全ての紛争に存在する。各々の比重は各紛争の状況ごとによって決まるものだ。ただしこれらは規範的なものではなく、戦役計画の直接的な適用をするテンプレートになるよう意図されたものでもない。添付Aに詳細な5つの作戦ラインの機能分析を示しておく。5つの作戦ラインは次のものである。

a統合陸上戦闘_Joint Land Combat
(略)

b】地域住民の保護_Population Protection
(略)

c情報活動_Information Actions
(略)

d】地域住民サポート_Population Support
(略)

e】先住民社会の活動能力構築_Indigenous Capacity Building
(略)
5 Lines of Operations_Adaptive Campaign

 図8は陸軍の対応に関する概括的フレームワークを示している。 これは、同時に全ての作戦ラインでアクションを実行する必要があることを表しているが、必ずしも同等の労力や不変の優先順位が必要というわけではない。 当初は、統合陸上戦闘(図8緑ライン)は作戦開始時の陸軍の最優先事項であるかもしれないが、先住民社会活動能力構築の成功が軍のプレゼンスの低下を可能にする恒久的に許容できる条件を確立することが多い。 情報活動の作戦ラインは戦役の成功の中心であり、他のすべての作戦ラインを結びつける。 作戦上の不確実性の結果として、陸軍は状況に応じて作戦ライン間および作戦ライン内で主力をシフトできなければならない。

【4.4】
 作戦の5つのライン全てに渡って労力を効果的に統合調整する(orchestrate)陸軍の能力に、成功は依拠している。
(略)

【複雑性への対処】

 「兵に常勢なく、水に常形なし。よく敵に因て変化し勝を取る者、これを神と謂う。」
 孫子の兵法 より抜粋
【4.5】
 現代そして将来の戦場の複雑性に対処するための4つの鍵となる必須要素がある。

a】成功の作戦的理念_Operational Tents of Success
b】適応サイクル_The Adaptation Cycle
c】人間的次元_The Human Dimension
d】作戦術と戦役化_Operational Art and Campaigning

【成功の作戦的理念】

【4.6】
 環境の複雑性と作戦上の不確実性の見込みを注視すると、陸軍の成功の鍵となるのは作戦の5つのラインに渡って労力を効果的に統合調整する能力である。この能力はタイムリーにフィードバックを実施し、そのフィードバックを適切に解釈する充分な理解認識を基盤とするものだ。フィードバックと理解は短期、中期、長期の学習ループを通じて可能になる。学習ループはその戦域内ならびにより広い範囲で組織的適応と学習を促進する。適切な時間と場所に適切な労力を集中する必要がある。そのための能力は次の作戦的理念に基づく。

a柔軟性
(略)
b機敏性
(略)
c回復力
(略)
d即応性
(略)
e頑健性
(略)

「文字通り数百もの予期せぬ出来事がある。貴方の最も壮大な夢でも遭遇しないような事件だ。その時こそ、我ら皆は訓練と適応性を拠り所にするのだ。」
Mick Slater准将 DSC, AM, CSC, Timor Leste 2006

【適応サイクル_Adaptation Cycle】

【4.7】
 現代的戦場の複雑性を遠隔分析のみで理解しきることは不可能である。むしろ詳細な状況把握は問題に対するフィジカル的な交流の結果としてのみ得られるだろう。そして成功とはこの交流から学ぶことによって達成されるのだ。それ故に陸軍の活動は適応化サイクルによって描かれる。これを図9に示す。
The Adaption Cycle_ASDA loop

 適応化サイクルはジョン・ボイド大佐のOODAループをすげ替えるものではない。OODAループは観察(observe)された状況を認識理解し状況順応し方向づけ(orientation)する重要性に重点を置いた意思決定モデルであり、これが決断(decision)と行動(action)の基盤となる。OODAループの主幹となる理解と効用は空対空戦闘での反応性、戦術的な起源を反映したものである。適応化サイクルは適応化のための処方箋をもたらすものであり、行動には先入観があるものだ、そこをOODAループは補完してくれるのだ。

 適応化サイクルは経験、知識、計画立案を通して問題を理解することに重点を置く。適応化サイクルは個人規模でも組織規模でも、交流(相互作用)によって理解することを強化し、学習と適応のために必要な事項を明白に引き出すのだ。適応化行動のプロセスはミッション・コマンドによって可能となる。ミッション・コマンドは共通理解認識と行動の自律性を通して指揮官の意図を伝搬するものである。適応化行動の成果とは、複雑な状況をより広く理解することと同じく対処する能力を強化することでもあり、あらゆるレベルで学習する能力であり、そしていつ適応化が必要なのかを把握することだ。

【4.8】
 この構成概念において、作戦環境下に対する全体の反応を活性化するために考慮された行動を陸軍はとる必要がある。戦術的レベルでは、我が陸軍の識別限界を越えない範囲で作戦行動を試みている敵に対する反応を活性化する行動となるだろう。注意深く精査された反応がもたらすのは、実際の戦術的状況の部分的な光景のみであり、戦術的状況そのものは常に流動的である。部分的光景であるので、必要に応じて次の行動に移る前に陸軍の計画や態勢は調整される。頻繁にこのサイクルを繰り返すことで陸軍は徐々に戦術的問題の絵図を更に完成させることが可能となる。主導権を獲得し維持するために、陸軍は常時かつ急速に学び続け、必要に応じて興りつつある状況に適応し続けなければならない。脅威勢力は継続的にその戦術、技術、手順(TTPs)を敵よりも速く適応させ、その社会から忠誠あるいは少なくとも黙認を獲得しようと試みながら同時に発見した弱点を活用する、それこそが現在及び将来的紛争のリアリティである。従って複雑的戦争とは競争的学習を続ける環境なのだ。

【4.9】
 同じことが戦争の作戦レベル及び戦略レベルにも適用される。けれども戦争の戦術レベルの課題は複雑であるのに、課題そのものは高級司令部によって構築されるかあるいはタスクが与えられる前に既に組み上がってしまっている。それゆえしばしば「課題を正しく解決する」必要性は、「正しい課題を解決する」必要性よりも巨大となってしまう。戦争の作戦及び戦略レベルにおいて誤った問題の処理に取り掛かるのは、当然より深刻な結果をもたらすだろう。従って作戦及び戦略レベルにおいて「正しい課題」を解決することが最も重要なのである。

【4.10】
 一般的に統合軍が運用される戦争の作戦及び戦略レベルでは、複雑性の増大は課題構築にさらに巨大な困難をもたらす。複雑な適応化システムの中から新たな状況が発生するように、課題は時と共に変化しがちであるだろう。陸軍が「正しい課題」を解くのを確実にするため、適応化サイクルは補助するのだ。個々の行為主体だけではなく1つのシステムとしての作戦環境を理解するために、作戦及び戦略レベルで統合軍は熟慮された行動を取る。統合軍はその作戦環境から全体における各反応を引き出すよう探求する。これらの反応は統合軍の全体問題に対する理解が正確かどうか問いかけるのに使用される。全体の各反応が統合軍の問題認識がもはや正確ではないと暴いた際は、新たな課題構築を発展させる必要があり、それが適応化の基盤となる。

【4.11】
 敵が通常兵器戦の作戦行動を選択する情勢及び我が陸軍の識別限界上では、適応化サイクルと適応化行動は運用可能であり続ける。政治的目標及び軍事的目標が密接に提携している(例:ある1つの国家の軍部を打倒する)ような通常兵器戦の場合においてすら、「正しい課題」を解決する必要性は残っている。

【4.12】
 従来は陸軍とは同様に構成された敵に対して大規模な効果をもたらすために編成されてきた。これらの成果を達成するために、陸軍は中枢統制の順々に高度になっていく大隊、旅団、師団、軍団として闘うように編成される傾向がある。その結果として陸軍はより小さく機敏で制約の少ない敵と同等の速度率で適応する能力を欠いてしまった。従って代替的アプローチは、陸軍を個人及び集団レベル両方で敵よりも速く学習し適応できるような存在とすることが要求されるのである。そのようなアプローチは適応化サイクルの相互に繋がった2つの鍵となる要素によって説明される。『適応化行動』と『ミッション・コマンド』である。

【4.13】適応化行動

 従来は、入念に計画することで課題事項との相互作用が限られた状態で解決策まで立案に至ったものだった。このアプローチは、作戦前に費やす時間がより長いほど成功の可能性がより高くなるという前提を基盤にしている。入念な計画は依然として基礎事項であり続けている、しかし現代の環境における高度な適応性を有する敵の存在とは、我々はこれから学習するという計画を立てる必要があることを意味するのだ。従って、計画は規定化された指示よりもむしろ適応化の基礎となるものをますます必要とする。

【4.14】
 適応化行動は入念な計画を出発点に到着するための手段として捉える。問題事項に対する1つのメンタルモデル(心智モデル)とそれがどう進化するかの考えと共に、敵と接触し適切に発揮される解決策となるに充分に適切なリソース時間と共にその出発点につかねばならない。この理念を受け入れるために決定的な交戦となる前に陸軍は、紛争の行為主体と観察者の間に存在する相互作用の、それぞれの目標または最終目的の、そして如何に彼らが反応し時間とともに適応するかの理解認識を発展させて試験を行う。さらに陸軍のあらゆるレベルは各々が、何が成功と失敗を構成するのか、どうやって成功と失敗を測るのか、その戦役の戦術/作戦/戦略レベルでしばしば同時に理解することを必要とする。

【4.15】
 適応化行動は反応を活性化するまでは問題の程度を完全には知ることができないということを現実として認めるものだ。それは即ち適応を促進するための「発見と学習」を組み合わせた反復プロセスである。我々は学び、必要に応じて行動を変化させる。 要するに適応化行動は「状況適応化動作」なのだ。 適応サイクル(図9)内にある内容は次のように示される。

a行動_Act
 状況に対する限られた理解認識に基づいて、決定的な状況になる前にシステムについてさらに学ぶことを目的として反応を活性化するように陸軍は行動する。 その行動の特徴は次の2つである。

 【1発見活動_Dicovery Actions
  戦場の理解認識をテストまたは確認するため、陸軍はそのシステムを学習しようと徹底調査する。 例えば守備陣地への攻撃を行う前に小規模チームが前進し敵陣地の防御態勢を精査し、守備陣地及び接触する可能性のある敵の反応についての理解認識を確認するのだ。

 【2決定的行動_Decisive Actions
  通常、「適応化サイクルを最低1回は周回を繰り返す」ことにより戦場の充分な理解を深めた上で、陸軍は決定的な行動を行うことを選択するだろう。 決定的行動をとる際に我が陸軍は、おそらく相互作用や敵の行動の結果として生じる問題のより深い理解に基づいてその行動方針に対する更なる修正がある、ということを現実として認識しておく。

b感知_Sense

 我が陸軍の行動への反応を観測し解釈を為さねばならない。つまり陸軍が必要とするのは次の2つである。

 【1何が重要かをわかることができるよう学習する

  陸軍が変化に適応できるようにするには、脅威勢力と住民のグループの反応と適応化を同様に観察するための計画を開発する必要がある。 この計画には長期に渡って計画を改善するための戦略を含めなければならない。

 【2何が重要かを測れるように学習する

  何が重要かをわかることと同じくらい大切なことは、作戦の5つのラインにわたる陸軍の活動の有効性を測定するための計画を策定することだ。 有効性の尺度(MOE)は、定量化可能な成功の尺度(MOS)と失敗の尺度(MOF)との関連で測定可能で意味のあるものでなければならない。 成功尺度と失敗尺度は、明白に定義された我々が許容できる恒久的状況と相関性を持つ必要がある。

c意志決定_Decide
 問題の完全とはならない理解に基づき、いつ、どのように適応するかを決定する鍵は次のものである。

 【1】その反応が何を意味するかを理解する

  反応を活性化するように行動し反応を感知した後、重要なことはその反応の意味と潜在的な影響を理解することです。

 【2何をするべきかを理解する

  その反応が何を意味するかを理解した後、何をすべきか理解しておくことは必須だ。理解したら、何が起こっているのかを「判断決定」しそして何をすべきかを「意志決定」する

c適応化
 我が陸軍の活動の結果として、その情勢と敵勢力が適応化するのは避けられない。つまり陸軍はこの変化に対応し、必要に応じて敵よりも速い速度で適応できなければならない。

 【3どうやって学ぶかを学ぶ_Learn how to learn

  小規模チームは、他のチームには知られていない成功した問題対処アプローチをしばしば発見する。従って成功した方法の普及を促進し、失敗した方法の知識をチーム間で共有して、部隊の全体的な有効性を改善しなければならない。多くの場合最も重要な教訓は人々の間違いを早期に特定することだ。つまり陸軍は「欠陥ゼロの精神」を否定し、学習を受け入れる文化に賛同しなければならない。より上層においては陸軍は、本物の学びゆく組織になるのであれば、その学ぶ諸能力と如何ににこれらが改善できるかを批判的に反映できなければならない。

 【4いつ変化するかを知る

   学習化の大切な側面は何を学ぶべきかを知り、将来的妥当性を理解することだ。特に何の教訓が、複雑な運用環境(脅威勢力と住民のグループ)内で発生する適応化に反応・対抗する上で陸軍を支援する可能性が高いかである。将来に備えるために何が重要な教訓かを特定したら、いつ変化すべきかを特定することが重要だ。 この変化を効果的にするために、軍全体に普及させ文書化とモニターの両方を行う必要がある。

 【5理解と認識への挑戦

  成功は自己満足を生み出し、個人や組織は成功すればするほど変化に対する反応性が鈍くなる。本質的に、我々が適応化行動を採用することにより目指しているということは、もし戒めがなければ我々は反応性が鈍くなってしまうかもしれない。つまり全てのレベルの個人と指揮官は、その理解と認識に対し絶えず挑戦するよう奨励されなければならないのだ。さもなくば彼らは敵に欺かれる危機に陥るであろう。

【4.16】適応化行動の達成(問題の枠組み化)

 何が重要かをわかる学習、何が重要かを測る学習、いつ変化するかを知ること、理解と認識への挑戦などの適応行動の反復的な要素は些細な問題ではない。作戦レベルで適応化行動のこれらの要素を処理する鍵とは問題の枠組み化(Framing)である。1つの問題枠組みはその問題を明確な文書化図式化し、「無定形で不明確な問題的状況を理解し対処できる視点」を形成する。事実上、問題枠組みとは間近の情勢についての1つの理論である。適応化の基盤は、その理論(問題についてのある受け入れられた理解認識)を反証するための継続的な努力なのだ。 問題の枠組み化に挑戦する絶え間なき努力は、挑戦的な理解と認識の大部分を成している。

【4.17】
 何が重要かを知ることは、問題の枠組み化とも密接に関係する。 作戦レベルでは、問題の枠組みが間近の状況を正確に表していないことを明らかにするのは、主にプロキシまたは指標(インジケータ)を識別するプロセスである。故に何が重要かを測ることの学習は、多くの場合は発見活動を通じ、これらの指標をテストおよびモニターするプロセスに関係するのだ。 プロキシを使用して、問題枠組みが状況を正確に表さなくなった時(その理論が反証された時)を明らかにすることは、いつ変化すべきかを認知する強固な方法だ。その後の新たな問題枠組みの作成(新しい仮説)が適応化の推進力となる。組織の端から生まれた新しいアイデアや理解認識を取り入れる能力と相まって、問題の枠組み化、問題枠組みへの挑戦、問題の再枠組み化のプロセスは、陸軍が学ぶ方法を学ぶ主たる道なのだ。

【ミッション・コマンド】

(略)

【人間的次元】

(略)

【作戦術と戦役化】

(略)

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第4章 ここまで
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原文
https://www.army.gov.au/our-work/publications/key-publications/adaptive-campaigning-future-land-operating-concept
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以下【訳者捕捉】


豪陸軍Michael B. Bassingthwaighte少将がアメリカ陸軍指揮幕僚大学で発表した論文

オーストラリア軍がイラク&アフガニスタンで採用実施したAdaptive Campaigning
https://apps.dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/a561111.pdf

 2006年のアフガンおよび2007~2008年のイラクでの軍事活動において、戦役化計画とAdaptive Campaigningというラベルは貼られていなかったが、明らかにそれを豪軍は適用していた。戦術では哨戒線と探索、哨戒線と巡視に対し適応化サイクルが使用されていた。これはただ部隊の能力を発揮し充分な情報などの獲得をできただけでなく、さらに多く情報をもたらされ、さらに効果的にシステムを活性化させたと評価されている。つまり充分な結果をただ得ただけでなくそこから更にその活動中に変化を続けていたと観測され、この戦例においてであるが、戦略的目標に貢献する戦術的行動にも効果があったと結論付けている。
Adaptive Campaigning_Example_Iraq & Afgan_by Australian Army
Adaptive Campaigning_Example_2007~2008

適応化戦役の概念が公式に導入され始めたのは下記であるとのこと。
Australian Army Headquarters, 2004, "Complex Warfighting"
Australian Army Headquarters, 2007, "Adaptive Campaigning: The Land Force Response to Complex Warfighting" 

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 上述のイラク・アフガンの戦訓を踏まえ2009年オーストラリア国防白書が発行されadaptive campaigningは本格的な段階へ入りました。豪軍が00年代半ばから進めていた第一段階の近代化再編成計画がある程度の成果を収め、現在の豪軍は新たな、将来的紛争に適応するための進化の挑戦段階にいます。本論のAdaptiveもそうですが、情勢・敵能力・武器性能・敵と味方そのものなどが「急速に変質する」という考え方を豪軍全体がしており、豪軍の各論文や記事では極めて頻繁に同種の「変質に対応する、備える」概念が見受けられます。

 以前翻訳紹介した「
加速されゆく戦:Accelarated Warfare」もまさにこれと同じ考えが根幹にあります。
リンク↓
http://warhistory-quest.blog.jp/19-Mar-06

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 「適応化サイクルはOODAループで補完される」と本文で述べられているように、戦術的・戦法的意思決定モデルとしてはOODAループは否定どころか使用が望ましいかもしれません。これは米軍のhuba Wass de Czege准将が "Military Review" (May-June 2012,)で掲載した論考の中で触れています。准将はOODAループが特に効果を発揮する戦闘の瞬間的最適化及び敵サイクル妨害の領域ではASDAサイクルは不器用だと批評し、むしろASDAサイクルは指揮官レベルでの論理展開において真価を発揮すると考えています。
OODA Loop

 訳者が個人的に豪軍の各文を追う限り、准将とほぼ同じ印象を受けました。即ちASDAサイクルは作戦~戦略の策定及び修正で効果を特に発揮する高級司令部(時には政治指導部)用のツールであると考えています。
Adaptive Campaignは(高級司令部や政治指導部の)失敗または不完全な計画策定に基づいて軍が現場で活動しなければならないことがある現実を踏まえ、改善を根本から狙うものです。これをBassingthwaighte少将はWay of Warと述べ(Way of Battleとは書かれていない)ています。もちろん上記例のように戦術レベルでも使用可能です。

 実戦ではわかりやすい「与えられた問題事項を何とか解決する」戦術的(時に作戦的)処理能力に目がいきがちですが、解決すべき「正しい問題事項をまず選ぶ」戦略的処理能力はより根本的な影響をもたらします。そのために豪軍指導部は適応化戦役コンセプトに挑戦しているのではないでしょうか。

"it is paramount to solve the right problem."








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以上です。
長文かつ拙い堅苦しい訳文となってしまいましたが、ここまで読んで頂き本当にありがとうございます。
何か本論に対してご意見や別の知見があれば、どうか教えてください。


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その他メモ

Discovery Actionからスタートし最低一周してからDicisive Action(かつDiscovery Action)へと移るという意味の図。

Whole of Goverment Approach= WGA=特定省庁だけでなく政府全体により問題解決にあたろうというオーストラリア政府の方針概念。軍政一体で現在オーストラリアはこのアプローチを実践的にしようと取り組んでいる。

オーストラリア戦争アプローチ
https://www.defence.gov.au/Publications/taatw.pdf

Advanced Force Operations:先駆的部隊作戦あるいは高度部隊作戦。米国防省が使っているニュアンスと同じ。シールズやデルタといった精鋭を用いて行う作戦のこと。だいいは特殊作戦や秘密作戦になる。

TTPs = Tactics, Techniques, and Procedures

メンタルモデル:認知心理学で使われる実物対象を頭(精神)でどんなモデル(この対象事象はどのような作用をもたらすか)で捉えているかを表した用語。中国語では心智模型という漢字をあてている。

Measures of Effectiveness = MOE = 有効性の尺度
Measures of Success = MOS = 成功の尺度
Measures of Failure = MOF = 失敗の尺度

AC-FLOC = Adaptive Campaigning - army's Future Land Operating Concept

ASDAサイクルは政府と軍全体で意識統一して急速な変化というテーマに対処するために進める組織作りの一部である。そのために00年代半ばからの近代化編制計画での基盤づくりと現在進める次段階といった多岐かつ長期の試みが豪軍の背景にはある。そのような準備をしていない他国でいきなりASDAサイクルだけを使用するのは齟齬を生む可能性がある。

ミッション・コマンド:指揮官意図を基幹とする委任型の指揮統制手法について米軍なりの解釈をしたもの。豪軍もおおよそ同じだが書き方が少し違っている。近年米軍では再評価が進んでいるのだが、豪軍でも同様でありadaptive campaigningはその背景の1つである。

米軍も変化をし続けることを着目している
Field Manual 4-0 Driving Sustainment Change
https://www.armyupress.army.mil/Journals/Military-Review/English-Edition-Archives/January-February-2020/Lundy-FM4-0/
January-February 2020年Military Reviewより