ソ連軍将校教練コースの最高学府の1つ、通称としてはヴォロシーロフ士官学校で知られる場所で使われていた教材を一部紹介しようと思います。

当時の名称は『Military Academy of the General Staff of the Soviet Armed Forces named for Marshal К. Е. 』
現在はロシア連邦で『Voroshilov Military Academy of the General Staff of the Armed Forces of Russia』

 少なくとも1973~75年に使われていたこの軍学校講義資料は、本校の生徒であったアフガニスタン軍所属Ghulam Dastagir Wardak大佐がコピーしてアフガンへ持ち出しました。彼はアフガニスタン軍事大学に勤め、勃発した戦争で指揮官としての手腕を発揮します。1981年に彼は米国へ脱出しレジスタンス組織を作ります。そして米国との友好関係を育み後に秘匿し続けたこの資料を渡しました。米軍のソ連軍事専門家たちが集まり英訳が為され『ヴォロシーロフ・レクチャー』として各600頁ほどで3巻にまとめて出版されました。ソ連のドクトリン、戦略、作戦術、戦術に関する解釈といったソ連軍最重要事項について説明し、参謀や将軍の軍事的思考の基幹となる資料です。
ヴォロシーロフ レクチャー
 1巻は特に戦略原則や編制に戦争準備、2巻は指揮統制や航空に文民や経済との軍事的関係、3巻は作戦から戦術規模の原則が多めです。
 これを読む前に注意すべきことは、この資料は『冷戦期のソ連軍将校が実践的に身につける』ための教材であるということです。米軍や日本の各研究者の独自解釈や自国への適用を背景に持つ解説ではなく、概念を議論するための学術的論文でもない、特定の用途が背景にあることを念頭において下さい。
 今回は紹介のため3巻第1章"Operational Art"について試訳します。(WW2や21世紀、ソ連以外の国を想定した作戦術理論とは違う箇所がいくつかあるはずです。作戦術理論は時代と共に変化するものであり、固定概念とすべきでないことはソ連軍教本中にも述べられています。)

 英訳は多数の軍人が関わり語彙などで入念な翻訳校正が為されています。故に誤解を避けるため本文は少しくどい表現が為されており(何がするか、何のためかなどの言葉が省略されず繰り返されるなど)やや読み難いかと思います。今回の試訳もほぼ直訳としました。また文中の現代は冷戦当時を意味します。

 本来このような場末のサイトで一部紹介されて終わるべきものではないと強く思っています。この極めて貴重かつ高度な資料が、本分野に長けた日本の研究者の手によって多くの注釈をつけて翻訳され世に出てほしいと願っています。

以下試訳_______
第一章
作戦術(Operational Art)

1. 導入

 ソ連兵術は3つの主となる構成要素を有する。即ち戦略、作戦術、戦術である。これらの要素はそれぞれの次元での武装闘争において、理論と実践的適用の1グループで構成される。

 戦略は最高次元の戦争術である。軍事ドクトリンに基づいており、加えて国家経済の能力と潜在力に依拠している。戦略は国家政策から直接的に導出され、政治によって統制される。戦略は次の項目を含んでいる。

・戦争のために軍隊を準備すること
・戦争の計画を練り遂行すること
・様々な軍事部局を運用し部隊の統制を確保すること

 作戦術は戦略と戦術の中間次元領域にあたり、この2つの次元領域を接続する役目を果たす。戦略によって指定された各任務を達成するために、様々な軍事部局で構成する作戦的編制(方面軍、軍)の戦時運用に作戦術は関与する。

 戦術が関与するのは、作戦術によって指定される任務を達成するための、以下の項目の戦闘運用である。
・大規模部隊(師団、軍団)
・一般規模部隊(旅団、連隊)
・副次的部隊(大隊、中隊、小隊、および各セクション)
・部隊の戦闘手段および武器運用

2. 作戦術の論題および内容

 作戦術のサブジェクトは次の事項を含む。

・分析
・検討
・分類
・諸作戦の準備と遂行のための勧告提言
・戦略的軍事行動領域におけるある戦役での作戦的編制による戦闘行動

 作戦術の文脈の中で軍事科学を適用する1つのカテゴリーとしての『作戦』とは、あらゆる破壊手段あるいは通常兵器のみという2つのフォームを持つ各戦闘、打撃、攻撃の全体を指し示す。加えて作戦的編制の組織内の戦闘部隊及び戦闘支援部隊による各戦闘行動のフォームも含まれる。作戦は特定エリアで実施され各目標時間スペースの観点から調整される。それらは相互に影響し合い、統合的な計画とコンセプトの中で割り当てられた作戦的任務を達成するのである。
 現代における作戦術の主な内容とされるのは、作戦/戦闘行動の理論と実践であり、下記によって遂行される。

作戦的編制(方面軍、軍、集団および海軍、空軍、防空作戦隊)
・統合的または個別に遂行される空挺強襲

 こういった作戦/戦闘行動を遂行するための性質と手法の形は、未来の戦争においては変化しているだろう。
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 作戦術の内容には、行軍の準備と遂行および作戦的編制の広大な距離に渡る行動が含まれる。作戦術における議題は次のものからなる。

・諸作戦の性質と特徴および作戦的目標の達成を確実にする原則指針の計画
・様々な任務を達成するための、作戦的編制を運用するにあたってのフォームと手法の計画(様々な状況下での作戦的編制による諸作戦の準備と遂行のための主要指針と実践的勧告が含まれる)
行軍やその他輸送手段による部隊の長距離移動についての最高のフォーム、手法、編制を決定
・作戦中の部隊の戦闘支援に関するあらゆる局面に備えて対策、並びに部隊統制を組織し実行する処置を取ること

 作戦術は現代において相当な発展を遂げた。各軍事部局の作戦的編制による諸作戦に関する普遍的な理論コンセプトと原則を作戦術は内包している。各部局が特有する理論の一部も含んでいる。それにより戦時における各部局の作戦的編制の活動に関する専門的特徴を明確にしてくれるだろう。
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 作戦術は戦争術の他の要素、即ち戦略と戦術と密接に繋がっている。明らかに戦争術の3大要素はどれもそれ単体では、戦争や諸作戦そして戦闘の準備と遂行に関する事柄を、完全には処理することができない。なぜなら各要素は特定の原則を説明し、その1つの特定次元領域での軍事行動の準備と実施について実践的勧告をもたらし、他2つの要素を補完するものであるからだ。従って、戦争術のもとでの諸任務全体の完遂とは、3つの構成要素(戦略・作戦術・戦術)全ての相互作用と統合的活用により達成されるのだ。

 戦争術の全構成要素の中で指導的役割を担うのは戦略だ。よって作戦的および戦術的任務の達成は普遍的戦略目標に結び付けられ、統制される。さらに戦略ロケット軍及びその他戦略部隊といった短時間で大きな戦略的効果をもたらすのに貢献し得る部隊の運用は、戦略的軍事行動領域内での戦略の役割を拡げるものだ。そして戦争での全体目標の達成に貢献もする。

 これは戦争術の他の構成要素(作戦・戦術)の重要性とその役割を縮小することを意味するのでは無い。現代軍においては、作戦的編制部隊と戦術的大部隊は組織的核ロケットシステムを有している。これによりそれらの部隊は戦闘形態の選択がより自由になり、より主導的かつ独立的に活動するようになる。その結果として過去の戦例に見うけられるように、作戦的成果に対して戦略的成功が依存する程度と範囲は、並びに戦術的成果に対しての作戦的成功の依存度は変化しつつあるのだ。今や作戦次元の指揮は大規模部隊の任務について決定し分類するだけではなく、有する複数の能力を展開することにより同時的に複数の作戦的任務を達成し得るのだ。それは戦術的任務が達成される前にすら成し遂げられ得る。

 戦争術の各構成要素はそれぞれが巨大な独立性を有するにも関わらず、そこには密接な相互関係が存在している。これは戦争の進展と結果が直接的に依存するのは戦略的核戦力だけでなく、作戦的任務および戦術的任務の達成結果にも同時に依存しているということを示している。故に戦争の法則の分析と研究そして戦時に軍を運用するのためのフォームを作り出す上で、戦略は作戦術と戦術のステータス及び可能な事を、検討と評価の基本事項として考慮に入れるものだ。
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 次に作戦術だがその研究、計算、評価をする際に以下の事を厳重に考慮に入れることになっている。

・戦術のステータスと可能な事
・大規模部隊、一般規模部隊、副次的部隊が組織的に保有している軍事機器

 作戦術が機能するためには次のことが必要である。

戦略コンセプトの理解認識
各軍事部局の作戦的編制の戦闘用組織
・戦略コンセプトの実行をサポートすること

 戦闘任務の直接的遂行は戦術が受け持っている。だが同時に、部隊の戦闘組織において最も重要な主導権は作戦術に属するのである。
 各部局の作戦的編制による諸作戦(戦闘行為)の準備と遂行は、戦略的軍事行動領域内での戦略的諸作戦の枠組みの中で組織され実現化される。

3. 作戦術の内容と発展に影響する主要素

 作戦術の発展についての一般原則及び方向性は数多の要素によって決定される。その内容と進展を決め、そして戦争術の発展を導く基盤的要素は次のものである。

・共産党のリーダーシップ及び国家の指導
・軍事ドクトリンの原則
科学的かつ技術的な向上
・部隊の技術的装備の状態
・部隊の訓練及び戦闘即応性の状態
・敵となりうる軍の発展の状態と方向性、および敵の戦争術理論
・戦略的軍事行動領域の特性
平時における組織、戦争の経験、訓練、体制機構
・軍事科学の発展
・国家の防衛力を強化するための絶え間なく注意すること

 党の会議での決定事項を遂行する際に、ソ連共産党の中央委員会は軍の組織体制と準備のタスクと原則指針を決定する。それが一般的に戦争術、特に作戦術の発展の基礎を構築する。軍の体制において特に考慮しなければならない事項は、それが党指導部によって統制されるという事実だ。

 作戦術の内容と方向性を決定する要素の1つはその国の軍事ドクトリンだ。党と国家の指導、そして軍事科学が推奨する所に基づいて、敵の攻撃から母国を守る信頼性ある手段、フォーム、防御手法をドクトリンは明示する。ドクトリンは将来の戦争の全体的性質、軍が直面するであろう任務と戦時体制、そしてこれらの任務を遂行する形態を評するものだ。その軍事ドクトリンの本質に基づいて作戦術は、帝国主義者によって開始される将来の戦争が資本主義と社会主義システムの普遍的戦争であり、システム間の決定的な闘争となるだろうという想定に依拠している。

 局地的戦争または資本主義と社会主義間の戦争は全面的な戦争へと発展するかもしれない。戦争の実行特性と形態に応じて、その戦争は全面核戦争となるかあるいは通常手段での戦争に始まり核戦争へと進展する可能性がある。局地戦はおそらく核兵器の使用無しに始まりそして終結し、資本主義と社会主義の国家間戦争は通常兵器の戦争に始まり後に核戦争へと進展するだろう。帝国主義的国家はソ連と社会主義国家達へ奇襲して戦争を開始する準備を行う。
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 従って作戦術の最も重要なタスクは、多様な環境下での作戦的編制による諸作戦の準備と遂行に関する理論的かつ実践的な提言とガイドラインをもたらすことだ。核戦争のあるなし両面と敵の奇襲に対処し得るように戦争開始と遂行の準備をしなければならない。敵の奇襲を失敗させその打撃を退ける方法は、攻めてくる敵へ破壊的な迎撃を発起し、その後決定的な攻撃を行うことで短期間で敵の全面的な壊滅を達成することだ。

 作戦術の内容と発展は科学的かつ技術的な業績と進歩が広く繋がっている。部隊の技術的水準および戦闘装備標準も関係している。戦闘行動の特性と手段への科学と技術による影響は、主に兵器と戦闘装備の性質によって目に見えるようになる。戦史はこれらの要素による影響を暗黙に証明している。

 科学と技術の進歩と同じく、経済状況も軍事革新への主要な要素である。経済的、科学的、そして技術的成果物を活用しているソ連共産党と政府は軍の戦闘能力を促進するよう絶えず探究する。最新かつ最適のバージョンの兵器と装備を供給し、砲の部品や対戦車兵器、レーダーその他を継続的に生産したり改造することによって為される。

 武器と戦闘装備の漸進的な発展は激しい競争をもたらし、攻撃手段と守備手段同士で継続的な競い合いを生んだ。核兵器の導入は攻勢手段の膨大な増加をもたらし、しかし同時に、守備手段の能力もまたその発展に追いつき膨大な改良が為された。

 現代軍において、戦略的攻撃手段の進歩に加えて作戦的および戦術的核兵器も同じように急速に発展してきている。更なる強力で改良された核兵器と運搬手段が発展している。核兵器運搬手段の発達と同時に、通常兵器も量的かつ質的に発展し続けている。現代の全ての軍はそういった兵器の改造と近代化に大きな注意を払っている。通常兵器の種類は、その構造の複雑性と共に増加し続けている。現代の戦車、航空機、船舶は更に洗練され、最も複雑な技術的業績を表現するに至っている。このような兵器には先進的な計器やその他機器が幅広く装備されている。武器の破壊能力、射程、精度、効果力は急速に増大しており、その結果陸軍、空軍、海軍の火力及び打撃能力は常に向上し続けている。新開発された通常兵器の使用は戦闘行動のダイナミックな発展を強化し、場合によっては核兵器投入の必要性を回避しながら作戦に決定的な役割をもたらすのだ。

 同時的な核兵器と通常兵器の開発と改良は、作戦の性質と特徴に影響を与えるのみならず作戦的編制の構成、機構、組織を変化させる。また、作戦術の多くの理論的かつ実践的な原則と手法の再検討と調整が必要となり、同様に新兵器の運用と作戦の準備と遂行に関する事項の組織化も必要だ。軍隊が核兵器の使用の有無にかかわらず困難な状況下で強力な敵に打ち勝つために、作戦的再編と戦闘即応性の訓練を再構築する必要性および人員の精神面の準備が必要となる傾向がある。指揮官と参謀は最も複雑で困難な状況下での部隊統制方法を学ばなければならない。

 特に近年登場または開発中の、甚大な破壊力を持つ電子戦レーザー兵器システムの運用は諸作戦の性質と作戦術に影響をもたらす。作戦術理論は戦闘/作戦的即応性の状態にも影響される。政治的状態や部隊の精神状態も同様である。
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 作戦術が頼りとするのは、戦争の勃発にあたり軍が常に戦闘即応性を有することが敵の襲撃を撃退し諸作戦の成功を確固たるものにするという実情である。
 部隊の戦闘即応性の中で最も重要な要素はその戦闘効率である。これは以下の事項で決定される。

・大規模部隊、一般規模部隊、副次的部隊の戦力状況
戦闘準備がどれほどできているか
・人員の士気水準
・各機器が使用可能状態か

 士気と人員の精神面の準備状態は戦闘即応性を促進する重大な要素だ。士気が高いほど、軍人の義務を果たすことへの献身が深いほど、その部隊と大部隊の戦闘即応性は増大し強化される。
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 作戦術の適切な内容と発展の道筋を決める際には、潜在的敵勢力の軍事理論の性質と発展方向性を必ず考慮しなければならない。その長所と弱点に加えて、敵の戦闘行動実行に関する理論は特に重要である。軍事行動の内において最も効果的に敵の攻撃を退け敵軍を破壊する手段を研究する上で、これらの事項がソ連の理論家たちの助けになる。

 戦略的軍事行動領域での軍事的な地理状況は、どこで戦闘作戦が実行されるかを考慮されておくべきだ。このプロセスにおいて、過去と現在の戦争経験および平時での軍の編成と準備の実施訓練もまた考慮しておくべきだ。これらの経験を忘れてしまうと我々は不安定な立場となり作戦術の開発プロセスが危険に晒される可能性がある。

 戦争経験を活かし兵器と戦闘用機器の発展の中で生まれた成果物は、新たな条件下での軍再編成のプロセスで採用を検討されるべきである。よって、ソ連の作戦術の適切な内容と発展の決定は、マルクス・レーニン主義的方法論に基づいて深く包括的な研究と評価を幅広い要素に行う事によってのみ実現できるのだ。
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 前述の全ての事項は、全体的に作戦術の発展に影響するものだ。これらの要因の直接的影響により、現代の作戦術の傑出した特徴が次のように示される。

1
 マルクス・レーニン主義にも基づき、そして作戦の準備と遂行に関する法則と原則指針によって、作戦術の理論は全体が完全かつ暗黙的に識別され定義される。
2
 現代の作戦術は複雑で、多くの側面を持つ。作戦的編制が諸作戦を実行する際にその準備と遂行のプロセスは作戦術によって設計される。組織化された多様な部隊と部局が作戦の実施に参加しているが故に、作戦術は複雑な性質と膨大な側面を持つことになるのだ。作戦計画は全ての側面をカバーし詳細に検討され、作戦に参加する全部隊と手段が調整された行動を考案しなければならない。
3
 作戦術では、あらゆるタイプの軍事行動を使用する必要性とそれが可能かを考慮するべきである。各フォームの要請は、理論と訓練に適合したものであるべきだ。現代の作戦的編制の拡大した能力を考えると、時間を節約し主導権を奪い保持する事の重要性と同様に、作戦術の焦点は攻勢理論とその現実的な遂行を作り出すことにある。だが同時に、戦闘行動のその他の形態が無視される訳ではない。そのような作戦術の特徴は作戦実行に関する様々な形態と手段からに加えて、主に軍事発展のダイナミズムから生まれる。
4
 現代の作戦術において、集団的主導権の役割は増大している。戦闘時に多様な兵器を効果的に運用できるよう迅速に意思決定する必要性および戦闘中に広大な情報を分析する必要性と同様に、現代の戦闘の驚異的なまでに動的な性質により、戦闘を計画し実施する参謀将校として従事する膨大な数の将校と将軍たちを必要とするようになった。指揮官は意思決定するプロセスにおいてタイムリーな情報、計算、そして提言を与えてくれる彼らの貢献を必要とする。これは集団的な活動とコンセプトの重要性と意義を明白に示している。それでもやはり、部隊統制の基本原則とは統合指揮とリーダーシップの保持を常に遵守することだ。

 一般的に作戦術に関連していた上述の特性は、作戦上の役割、任務、部隊、方策、手段に関係する軍の多様な部局の他の特質によってさらに補完される。

4. 作戦術理論における一般原則と考慮事項

 ソ連式作戦術理論の一般的な内容は武装闘争の法則から導き出される。そして実際の所、それらが諸作戦の準備と遂行の原則と手段の輪郭を示すことになる。多様で別個の専門的な性質と特異性にも関わらず、様々な軍事部局による作戦的編制にとってそれらは重要である。作戦術理論における一般原則の性質を完全に理解するためには、各作戦的編制とその任務のタイプを端的に見直す事が必須だ。
 作戦的編制は次のものを含んでいる。

・各方面軍
・軍管区隷下部隊
・空軍及び防空軍の管区隷下部隊
・海軍艦隊
・諸兵科連合された各軍
・戦車軍
・防空軍部隊
・航空軍
・独自の軸を担う独立軍団
・その他部隊

 これらの編制は各々1つずつが特質的な任務、組織、部隊、手段(機材)を有している。作戦的編制は不変の組織を持つことは無い。戦略的軍事行動領域の性質、達成すべき任務の数と重要性、作戦環境、他の作戦的編制との相互関係にあわせてその組織と機構は決められるものだ。

【戦略ロケット軍の作戦的編制】

 戦略ロケット軍の作戦的編制は次のタスクを達成することとされている。

・戦略的、作戦的、戦術的な核兵器部隊の敵主力集団に対し損失及び破壊をもたらすこと
・敵航空部隊、地上部隊、防空部隊、海軍および戦略的軍事行動領域における最も重要なターゲットを撃破すること
・敵の軍事経済的基盤を破壊すること
・敵社会を機能不全にすること

 最高司令部における計画枠組みの中で、戦略ロケット軍の作戦的編制は敵へ核攻撃する事によってその任務を達成する。こういった編制は敵の試みを砕き、あるいは友軍や国家の重要施設への敵攻撃能力を減衰させる。彼らは他の作戦的編制が諸作戦を実施するのに良好な状況を作り出し得る。ロケット軍の大半かあるいはその複数の作戦的編制及び大規模部隊によって敵連合国領土内の致命的地域やターゲットに向かって核攻撃は実行される。それらは一通り連続した核攻撃によって構成されるだろう。けれども事前に準備されていた最初の核攻撃は続く作戦を成功させるために特に重要だ。

【陸軍の作戦的編制】

 陸軍の作戦的編制は、そこに付属する他の軍事部局の部隊と共に、以下のタスクを達成することになっている。

・戦略的軍事行動領域における敵の撃破
・敵領地の奪取
・敵の攻撃を撃退すること
・味方側の領地を保持する事

 こういった編制は核兵器のあるなしに関わらず独立して敵の大部隊を破壊する能力を有している。

【防空軍の作戦的編制】

 防空軍の作戦的編制の任務は次の事項である。

・敵の航空機、ロケット、宇宙軍事利用手段から防衛すること
・味方側の陸軍部隊が移動していくにあたり必須の対象及び部隊を敵の航空機、ロケット、軍事的宇宙船からカバーすること

 ロケットは敵の戦略核兵器の主要な送達手段であるので、防空軍の最重要任務は敵の核ロケット攻撃を成功裏かつ効率的に防ぐ対ロケット防衛をすることである。防空軍のもう1つの重要任務は、現代においては敵の宇宙を基盤とする兵器と手段を巡る争いです。防空軍は統合計画の枠組みの中で、独立的あるいは他軍事部局と合同しながらその任務を達成する。主に陸軍と共同することになるだろう。
 防空軍の諸作戦は核戦争において特に重要となる。例えば防空軍が戦略ロケット軍と共同し、敵核攻撃を撃退するという生存のために不可欠な役割を演じることができるのだ。

【空軍の作戦的編制】

 航空機の作戦的編制による任務は次のものとなっている。

・敵ロケット及び航空部隊を破壊
・航空優勢の確立
・敵経済及び通信ネットワークを破壊
陸軍及び海軍と統合的な行動をとること
航空偵察の実行
・エアボーン部隊の輸送
・部隊航空移動を支援して作戦を実行すること
・空路での物資輸送

 航空の作戦的編制は、長距離航空作戦及び方面軍航空部隊によってその戦闘任務を実行する。
 戦争初期段階の敵航空部隊の破壊を任務とする航空作戦において、長距離航空機に加えて方面軍の航空機、海軍航空機も同様の要請を受け得る。

【海軍の作戦的編制】

 海軍の作戦的編制による任務は次のものとなっている。

・敵海軍の破壊
・主に敵空母打撃群の破壊
・敵ミサイル潜水艦の破壊
・敵の海路の輸送手段を阻害または破壊
沿岸にあるターゲットを破壊

 海軍の作戦的編制は海路の補給を敵海軍の攻撃から護り、地上部隊の作戦を海洋の軸から支援もするのだ。
 海軍の基盤は、敵領内にある特別なターゲットへの核兵器のロケット攻撃が可能な核ミサイル潜水艦である。その目的は次のものとなる。

・敵軍事産業の能力を破壊
・敵政府及び軍の部隊統制システムを阻害
・敵の致命的なターゲットへ損害を与えること

 海軍の作戦的編制はその任務を海の諸作戦を実行することにより達成する。その目的と目標については次のように分類される。

・敵海軍の破壊のための諸作戦
・敵領内の致命的なターゲットを破壊するための諸作戦
・敵の海での行動を阻害するための諸作戦
・味方の海路を保護し確保するための諸作戦
・上記の目的の全て、あるいはいくつかを同時に達成するための諸作戦

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 現代戦において各軍事部局による作戦的編制は様々な作戦を通してその特定の任務を達成するものだ。だが、その全てを統制する作戦術には多くの一般原則が存在する。以下にはこれらの原則に関して説明する。

【決定的となる目的、広大なる範囲、作戦の複合的な性質】

 これらの特徴は、絶大なる破壊力と打撃力を有する現代兵器の多岐に渡るそして深められた業績の結果として、作戦術に組み込まれているものだ。このプロセスに影響するその他の重大な要素は次のものがある。

・核兵器または通常兵器のみを大量投入することにより敵を破壊する能力
・部隊移動において拡大し増大した機動力
部隊統制の有効力の増大
・兵員の士気と訓練水準の高まり

 味方の戦略核部隊と敵の核兵器の絶大なる潜在的能力が引き起こす状況の複雑さよって、諸作戦の範囲の増大と決定的な目的がもたらされるのだ。味方の作戦的編制が敵核攻撃によって非常に苦しめられている時に更に敵軍が攻撃してきた場合は、最も困難な状況が進展することになるだろう。
 通常兵器での作戦中において最も困難な状況は、我が方が敵の奇襲を撃退するために拘束されている時、特に敵の初期攻撃を撃退するために激烈な戦闘を展開している事態に直面した時だ。そのような状況においてはいくつかの軸で、一時的な防御態勢を取ることが敵の優越する攻撃を撃退するために必要となる。その間に第2梯団と予備部隊を前進させることで最終的に兵数と機材面での優勢を確立する。
 現在における作戦術の一般原則の1つは、多様な軍事部局の作戦的編制が行う諸作戦は戦略的軍事行動領域内での戦略的枠組みの中で実施されるものであるということだ。各作戦的編制の1つ1つが、他の作戦的編制の任務内容を互いに綿密に考慮しながら自身の任務を実行するのである。

【調整】

 調整の意味と本質とは、次に示されるものを調和的に協働させることだ。

・複数の作戦的編制
・複数の大部隊
・複数の部隊
・複数の副次的部隊
・多種の軍事部局
・多種の各部隊の兵器

 担った任務と作戦目的を達成するために目標時間空間が検討される。目標、必要行動、そして協働部隊集団の規模に応じて戦略的調整、作戦的調整、戦術的調整と称することができる。

 戦略的調整は、その戦略的目標を達成するために様々な軍事部局の作戦的編制たちによって織り成される協調行動である。統合計画とコンセプトの枠組みの中で、この次元の調整は最高司令部によって計画される。
 作戦的調整は、単体あるいは複数の作戦軸上で、各編制によって遂行される諸作戦で割り当てられた各任務を達成するために各作戦的編制が行う協調行動である。この次元での調整は参謀本部と作戦的編制の指揮官たちの指導にも基づいて計画される。
 戦術的調整は戦術的部隊がその担当任務を達成するためにする協調行動である。この次元の調整は次の者によってなされる。

・作戦的編制の指揮官たち
・大部隊(師団規模)の指揮官
・諸兵科連合および支援部隊の師団、旅団、連隊に含まれる部隊

 その目的は戦闘中に協調行動を取ることである。
 作戦的調整および戦術的調整の最も重要な点は、全ての部隊および資産の最も効率的な運用を為すために、核と通常兵器という2つの破壊手段の運用が各部隊の行動と協調されたものにするという事だ。各指揮官は隷下の各部隊間の調整を計画し、使用可能な兵員と機材を最も効果的にしておくのである。

【戦闘即応性】

 作戦術の一般原則の1つは、常に部隊が高い戦闘即応性を保持しておくことだ。即応性は戦闘任務の迅速な達成を促し、部隊が奇襲的行動をできるようにしてくれる。常時戦闘即応性の保持は、一般的な機構と組織、そして同様に軍の準備が充足されていることにより得られる。
 部隊の常時戦闘即応態勢は以下の事項を必要とする。

・敵に対し初期核攻撃を発起する事
我が方が奇襲的行動ができるようにしておく事
敵の奇襲はこちらが機先を制して防止する事
・主導権を握るために、開戦初期から積極的な戦闘作戦を迅速に展開する事

 軍では戦闘即応性のレベルが次のように定義されている。

・通常戦闘即応態勢
・増大的戦闘即応態勢
・完全戦闘即応態勢

 通常戦闘即応態勢とは、全ての部隊が事前に計画され、ルーティーンの諸作戦を効率的に実行できる状態である。一方で戦力が完全に充足した大規模部隊、一般規模部隊、副次的部隊は戦闘を実施する準備ができており、そして他の全ての充足率が足りていない部隊と支援梯団は動員を受け完全戦闘即応態勢へと移行する準備ができている状態のことだ。
 増大的戦闘即応態勢とは、部隊が最短時間で完全戦闘即応態勢へと移行できる状態のことだ。この場合、全ての大規模部隊は常設軍事駐屯地に集結済みとなっており、その戦闘及び動員準備態勢を向上する措置を取っている。
 完全戦闘即応態勢とは、迅速に戦闘任務を達成するための戦闘即応態勢の最高状態である。敵軍と互角あるいは敵が優越している場合でさえも、完全戦闘即応態勢であれば敵へ奇襲的行動を促進できる。これは次の要因によってである。

・短時間での敵の重い損失
・戦力の相対的バランスの急速な変化
・主導権の掌握
・その作戦において達成され得る決定的成果による好条件の提供

 従って、常に警戒ながら主導権、決断力、意思決定、機敏性を持ち行動するべきである。

【決定的重要軸での主要任務を達成するための戦力の大量投入】

 これは作戦術の重要な原則の1つであり、過去の戦争と比較するとその形態は大きく変容しつつある。現代においては、核兵器使用の可能性ある場合は多大な損失を出すリスクがあるため、大量の部隊を狭い範囲に集中させることは許可が下りず容認されない。今日において戦力の集中が達成されるのは主に以下の事項が為されることによる。

・ロケット投射と空爆
・我が方に有利な戦力バランスへと急速変化させるために敵へ核兵器を大量投下
・急速なる部隊移動の実施

 核兵器投入無しの諸作戦の場合、決定的となる軸に戦力優越を作り上げるには、限られた期間において限られた時間で強大な戦力集団を集中させることが必要である。そして敵防衛を突破した後または特定の任務を達成したら、迅速に散開すること。広幅マニューバは作戦術のもう1つの重要原則であり、WW2よりも今やその重要性が増している。

【包括的作戦支援】

 多様な軍事部局の作戦的編制による諸作戦の成功を確実にするために重要な条件の1つは、細部まで渡る徹底的なサポートである。これにより、敵核及び通常兵器攻撃の有効性を低下させ、敵部隊の戦闘行動に加え敵部隊の統制までも破壊し得る有利な状況をもたらす。全作戦的編制の支援手段の主要タイプは次のものとなっている。

偵察
・敵の大量破壊兵器から兵員と後方軍事施設を防御
・作戦規模の偽装隠蔽と欺瞞
・無線-電子戦
工兵、化学、水理気象学、地形測地後方サービスといった各支援

【部隊統制】

 もう一つの作戦術の重要原則は効果的で信頼性ある積極的な部隊統制である。過去の戦争経験から、作戦の成功が次の事項に依るものだと明確に示されている。

・兵器が使用可能となっているか
兵器運用手法
・部隊統制の状態、形態、方法

5. 陸軍の作戦的編制における基本事項

 陸軍は軍全体中で重要な構成要素であり、核兵器投入の有無に関わらず諸作戦において特別な役割を遂行する。戦略的手段は進歩したが、それは勝利を得るための陸軍の重要性を減少させはしなかった。むしろより重大な役割となったのだ。
 一般的な核戦争と同様に将来の局地戦ではそのペースは速く長く、より困難になるだろう。そういった戦争下で、最終的勝利は敵軍の破壊と敵領土の占領によってのみ達成される。それには我が陸軍の運用が必要不可欠だ。

【作戦の形態、目標、範囲】

 独自ので展開する陸軍の作戦的編制は次を含むこと。

・諸兵科連合の方面軍
・諸兵科連合の軍
・戦車軍
・軍団

 その機構と組織は恒久的なものでも標準化されるものでもなく、その作戦における目標、担当任務の性質、戦略的軍事行動領域の性質に適合したものを作る。作戦的編制で最大のものは方面軍(または正面軍)であり、以下の要素で構成されることが多い。

・3~4個の諸兵科連合の軍と戦車軍
・航空軍
・軍団
・歩兵及び戦車師団、幾つかの場合は空挺師団
・空中強襲大規模部隊
・ロケット、砲、地対空ミサイルの各部隊および大規模部隊
・工兵、化学およびその他戦闘支援部隊および大規模部隊

 いくつかの状況では、作戦的編制と他の軍事部局の大規模部隊は方面軍の作戦的統制下に置かれることになる。

【諸兵科連合軍】

 諸兵科連合軍は次の大部隊および中規模部隊を含む

・ロケット旅団
・4~6個の自動車化歩兵師団または戦車師団
・地対空ミサイルと対空砲の一般規模部隊および大規模部隊
・陸軍航空隊
・戦闘支援を行う各規模の部隊
・いくつかの場合は、砲兵軍団

【戦車軍】

 戦車軍は一般的に次のものから構成される。

・戦車師団
・自動車化歩兵師団(いくつかの場合)
・その他戦闘部隊および戦闘支援部隊

 作戦中は方面軍、軍、軍団は通常ならば増強される。追加部隊および上級の梯団によって付属している大部隊がそれを担う。
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 以下の部隊を使用可能としておくことで、戦略的軍事行動領域での作戦のいかなるタイプの任務も達成する能力を有する。

・複数の核ロケット部隊
・多種の戦闘及び戦闘支援部隊
・方面軍と軍を構成する複数の大部隊
・方面軍の構成内に一個陸軍航空隊

 作戦的編制により実施される諸作戦は目標実行方法規模の観点から分類される。
 目標と実行形態という観点において、作戦は攻勢か防御のどちらかのものとなるだろう。諸作戦での多様なフォームの能力、実現可能な結果、利点を検討することで、作戦術は各原則指針を打ち建てるのだ。その原則が提言するのは、戦略的軍事行動領域での戦略的諸作戦の目標と戦争の全体目的は以下の事項によってのみ達成され得るということだ。

・決定的となる攻撃
・全兵器及び全戦闘能力を発揮すること
敵の破壊を完遂すること

 だがしかし、個々の軸における戦略的作戦の特定段階では、攻勢作戦を実行するのに不利な情勢である場合は、軍規模だけでなく方面軍規模で守って防御作戦の実施が必要になり得る。従って、攻勢作戦が作戦術の戦闘行動の基本フォームである一方で、防御作戦は一時的に強いられるタイプの戦闘行動として考えられる。
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 海洋軸で展開する場合、他の軍事部局の作戦的編制と大規模部隊に協働する方面軍および軍は海挺強襲作戦または沿岸防御の構築を実施することができる。空挺部隊は空挺強襲作戦を実施することができ、そこには自動車化歩兵部隊も参加することができる。

 規模と所掌範囲の観点において、作戦は方面軍と軍の諸作戦に分けられる。方面軍規模の諸作戦は戦略的軍事領域での戦略的作戦の必要不可欠な構成パーツである。一方で軍規模の作戦は方面軍の作戦の構成要素となる。
 方面軍規模の攻勢作戦は1つの戦略軸または複数の作戦軸上において実施される。その各目標は次のようになる。

・敵集団の破壊、そこには核兵器及び縦深(戦略)予備を含む
・方面軍の攻勢ゾーンにわたって戦略軍事行動領域内での敵軍の動員及び展開を未然に防ぐよう機先を制し襲撃する事
・敵重要経済及び潜在能力を有するエリアを占領する事
・敵と同盟関係にあるあらゆる国をその戦争から排除する事

 如何なる特殊な状況であろうと、状況に応じて戦略的作戦コンセプトの枠組みの中で、作戦の目標と方面軍の任務は最高司令官によって断固として定められ明示される。
 方面軍の諸作戦の規模は下記の条件に応じて変化する。

・作戦の目的
・部隊および機材の能力
・戦略的軍事行動領域の地理的条件
・その他要素

 作戦の規模は下記事項によって区分される。

・作戦の縦深
・攻撃ゾーンの
・前進速度の平均
・作戦の期間

 後方連絡線が確立し戦闘行動に適した地形である場合の戦略的軍事行動領域において、標準的な方面軍の攻勢作戦の縦深は600~800km、攻撃ゾーンの幅は300~400km、平均前進速度は40~60km/日、作戦の期間は12~15日間である。他の地帯、特に山岳部では作戦の範囲はより広くなる。

 諸兵科連合軍及び戦車軍の各攻勢作戦は方面軍の作戦の一部であり、作戦軸の1つに沿って実施される。一般的に以下の部隊と共に軍はその作戦を実行し達成する。

・他の軍
・地対地ロケット部隊
・方面軍の防空部隊
・空挺強襲部隊
・海洋軸の海軍部隊

 特殊環境下や分離した軸上にいる場合、単体の諸兵科連合した軍は方面軍の作戦から離れ独立して各攻勢作戦を実行できる。平常状況での諸兵科連合軍の諸作戦は縦深が250~300kmあるいはそれ以上、攻撃ゾーンの幅は60~80kmまたは100kmまで行く場合もある。山岳地帯ではより広大になる。

【防衛作戦】

 防衛作戦とは、特に核兵器が投入される作戦では、一時的なものであり強いられてするタイプの戦闘行動だ。防御は平常ならば主攻撃軸のための支援として実行される。しかし核兵器が投入されない場合、部隊は意図的に防御態勢を取り優勢な敵を弱体化させ、我が方の攻勢部隊が展開するための時間を稼ぎ、その攻勢へ引き渡す準備をするであろう。

 敵が我々の領土へ攻撃してくる場合または敵がいずれかの軸の1つで戦力優勢となり主導権を握って戦略的作戦をしている場合、方面軍の防御作戦は我が方のある戦略的作戦の開始時に実行され得る。各防衛作戦はある方面軍の攻勢作戦の様々なステージにおいて必要不可欠となるだろう。あるいは方面軍の攻勢作戦の一部として統合されているかもしれない。

【防御作戦の任務と目標】

 戦略的軍事行動領域での各戦略的作戦の全般コンセプトの枠組みにおいて、最高司令部によって方面軍には各任務が割り当てられる。それらは方面軍の各作戦コンセプトを基盤にしながら割り当てられたものでもある。作戦的編制が活動するエリアの状況を綿密に検討した上で、広範なる目標を達成するために任務は策定される。
 部隊の増大された火力とマニューバ能力と同様に、防御作戦における及び化学兵器の投入は、過去のものより遥かに短時間で任務が達成できるように、防御戦闘が決定的かつ積極的に実行される事を必要とする。現代兵器を効果的に運用し、地形と工兵の作成した障害物のより優れた活用をする事によって、敵に更に多くの損失を迅速に与えることができる。防御作戦の目的と各任務は次のものとなる。

・敵主力に決定的な死傷者と損失をもたらす事
・敵攻撃の撃退
・重要地帯接近路の保持
・逆襲する組織構築のために時間を稼ぐ

 防御作戦をとればおそらく戦力の節約(効率運用)ができ、攻勢作戦が実施される軸上へ戦力を集中させられる手助けとなるだろう。各防御作戦は、主力打撃部隊が実施する攻勢作戦の側面をカバーすることにもなる。
 諸兵科連合したは主要軸での防御ゾーンを任され、その範囲は幅100~150kmまたはそれ以上となる。軍団であれば単一戦線の幅70km以上を防御する。方面軍が防御を取った時、その防御ゾーンの幅はおそらく500kmかそれ以上に達するだろう。特殊状況の戦略的軍事行動領域では、作戦的編制はより広い戦線で防衛することができる。
 防御は強力かつ積極的であるべきだ。更に、防御は縦深的に多様なパターンで、単純な防御形態にせずに設置されるべきである。部隊と機材は防御エリアに散開して配備され、砲撃計画、特に対戦車砲撃システム及び対空防衛は緻密に組織化されていることが望ましい。防御陣地及び強化防御地点を準備する際には、広範囲にわたる障害物を活用すべきであり、強力な予備(第2梯団)が縦深に展開しておくべきである。
 防御陣地の縦深は恐らく100~150kmで、方面軍では250~300kmに及ぶだろう。

 作戦的編制は防衛において限られた数の核兵器を持つことになるので、彼らはしばしば通常兵器だけで敵の攻撃を退けるよう挑戦せねばならないだろう。時には核兵器を使用するには制限があるが、その作戦を支援するために上級の梯団が核兵器投入してくれるのをあてにし、作戦的編制は敵を撃退するのに極めて効果的な役割を果たすことができる。今日においてこういった任務は敵の攻撃のどの段階でも行うことができる。
 作戦術理論では、海洋軸の防御行動は沿岸防衛および離島防衛として研究および考察される。あるいは沿岸防衛作戦のみが方面軍及び(陸軍の)軍によって実施される。幾つかの場合、海洋軸の防衛任務は海軍自身に、その海軍航空隊及び海軍歩兵部隊を運用させ担ってもらう事もある。

【海挺強襲作戦】

 海挺強襲作戦は次のものを奪取するために実施される。

・離島
・広い半島
海峡
・保持必須の沿岸地域
・軍事及び海軍基地

 これらのエリアの占領は敵海軍集団の撃破と同様に、より良い効果的な海軍の活用をするのに重要な基地と有利な状況を我が方にもたらしてくれる。こういった作戦は戦略ロケット軍、空軍、防空軍の支援の下で陸軍と海軍により統合的に実施される。
 通常、海挺強襲作戦は方面軍指揮官の統制下で組織され実施される。特殊なケースでは海軍の部隊運用のために艦隊司令官が方面軍の副司令官として勤めることもある。時には海挺強襲作戦は海軍司令官の下で実施され得る。

【空挺強襲作戦】

 空挺強襲作戦は通常なら最高司令部の指導に基づいて組織され実行される。戦略ロケット軍の核攻撃の成果を活用するため、そして敵後方地帯での作戦的任務と戦略的任務を達成するためである。いくつかの状況では、空挺強襲作戦は方面軍の攻勢作戦に組み込まれて実施されることもある。空挺強襲作戦の任務は以下のものとなっている。

・敵後方の極めて重要な対象および地帯の奪取
・敵核兵器及び司令部の破壊
・方面軍から出撃した友軍が敵主力を打破するのを支援することおよび敵縦深へと急速進撃するのを促進すること

 その達成すべき作戦目標と任務に基づいて、空挺強襲作戦を実行するために割り当てられる戦力構成は決められる。空挺強襲作戦を実施するグループの基礎は次の部隊である。

・空挺の大規模部隊および一般規模部隊
自動車化歩兵部隊
・特殊訓練を施しその目的のために準備された大部隊

 空挺強襲部隊投下(着陸)の距離は戦線から500~600kmにまで到達し得る。だがもし空挺強襲作戦が方面軍の各目標のために実施されるのであれば、空挺投下の距離は150~300kmになることもあるだろう。空挺強襲部隊とその戦闘行動は方面軍の各部隊によって支援される。その方面軍の担当エリアで空挺強襲部隊は空中移動または地上展開される。
 敵後方地帯への空挺部隊と大部隊の強襲着陸はリンクした後に方面軍による統制下で、または最高司令部の予備に構成されて実施される。
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 作戦術は多様な戦略的軍事行動領域の状況を検討し、作戦的編制の運用に関し理論的原則と実践的提言をもたらすものだ。山岳地帯、砂漠、極めて寒冷な北部地域、そして大規模に建設開発されたエリア、市街地、交戦、退却する敵を追撃する各作戦においてそれは為される。
 作戦術は特殊条件における戦闘行動のためのガイドラインを与えもしてくれる。次に挙げる事項がその内最も重大である。

広範囲に別離し個々に独立した各軸への攻撃を実施する
・作戦的編制及び大規模部隊のためにより広大な活動範囲を決定する
極めて縦深な部隊配置を作り上げる

 こういったガイドラインには次のものをカバーしている事。

・核兵器の運用方法
・諸兵科連合部隊及び航空隊の運用
・戦闘行動の方法および形態
・部隊統制の性質と特徴
・戦闘支援

6. 方面軍および軍の準備と運用の主要特性および原則

 多様な作戦の性質と内容そして作戦の準備と遂行の手法を示す言葉として、作戦の主要特性という表現が使われる。原則とは一般的ガイドラインの事で次の事を想定している。

・作戦の基礎
・準備手段
・作戦を遂行する方法と形態
・支援手段の組織
・部隊統制

 作戦の準備と遂行の主要特性および原則とは、固定化されたルールのことではない。それらは次の事項の発展と共に常に変化するものである。

・兵器と軍事関連の装備
・部隊の機構と組織
・軍事ドクトリンの調整
・戦争術の理論の進歩
・部隊の準備と訓練

 新たなそして更なる効果を持つ兵器の導入(主に核兵器とロケット)、並びにそれらの軍事組織への含包、陸軍の完全な自動車化と機械化、そしてその機構の発達は作戦の特性とその準備と遂行の原則に変化をもたらす。
 軍の作戦的編制により遂行される現代の作戦の主要特性と原則は次のものである。

・作戦の決定的目標広大なる所掌範囲
多様な戦闘部隊、作戦的編制に密接な連携を取った方面軍航空隊、他の軍事部局の大規模部隊を統合調整することによる作戦目標の達成
・核兵器の使用有無に関わらず戦争勃発時に起こり得る多様な状況下で任務を達成するため、現代的作戦に統合的に備えること
・主導権を取るための奇襲的行動と集中的戦闘
別々の軸上で同時的かつ多様な縦深で、崩した戦線を突き進んで行くこと
・決定的な軸に対して戦力を大量投入
・多種の方法により広大なマニューバと戦闘任務を達成すること
・状況の急速かつ劇的な変化
・作戦における物的手段の膨大な消費
・支援と部隊統制における著しい困難性

 現代の作戦の目標と規模はWW2のものと比べ、急速かつ深遠に発展増大している。例えばWW2終末段階において方面軍の攻勢の縦深が達したのは250~300㎞、いくつかの個別の軸で最大500㎞、一方で軍規模の攻勢作戦が達した縦深は200㎞であった。現代において、既に前述のように、1個方面軍の攻勢作戦は600~800㎞かそれ以上に達する。一個軍の攻勢作戦は350㎞あるいはそれ以上である。防御作戦もまた決定的となる目的をもって遂行されるのだ。上記これらの発展の要因は以下のものがある。

・戦争の政治的目標とその必要事項に対する決断力
・核兵器及びその他大量破壊兵器の大規模投入
・軍隊の広範にわたる自動車化と機械化、および戦闘車両数の増大
・部隊戦闘能力と戦闘支援手段の効果の大幅な増大
・ソ連軍人員の士気の上昇

 軍隊の作戦的編制により遂行される諸作戦において、他の軍事部局の戦力と同様に、長距離戦闘及び戦闘支援部隊が参与することになる。これは膨大な数および兵器と戦闘用装備の多様性を示しているのだ。これらの戦力はそれぞれが特定の特殊な戦闘任務を達成することになる。
 作戦に参加するよう要請され得るのは以下の部隊である。

・陸軍の戦闘および戦闘支援部隊
・方面軍航空隊
・長距離航空大規模部隊
・海軍部隊
・防空軍の部隊

 作戦的編制と密接な連携を取る全戦闘部隊と方面軍航空隊、そして他の複数の軍事部局の大規模部隊と同一軸上で統合的行動を取ることによってのみ、作戦任務を達成し成功を得られるのだ。従って、参加する各戦力で適用される方策と形態に関するルールを作戦術は集中して研究し、もたらしてくれる。
 将来の戦争で起こり得る情勢と環境は極めて多様になる可能性があり、如何なる初期状況でも核兵器の有無に関わらず作戦を遂行できるように事前に準備しておくが必要不可欠である。そこには奇襲攻撃を敵が発起してくる状況も含まれる。

 現代の作戦の主要特性は、広大に離別した各軸において、同時的かつ多様な縦深で、崩れた戦線突き進んで戦闘行動が遂行されるという事だ。これは現代環境では、核兵器投入状況だけでなく通常兵器のみで遂行する作戦でも適用される。戦闘行動は広大で別離した各エリアで実行される、というのも敵が大量破壊兵器を投入してくるリスクが常にあるためである。「勇敢な男が街々を征服する」という古きルールを熟知し、遵守するべきでもある。(米軍注釈:これは明らかに限られた範囲に部隊を集中することについての注意書き。)従って、敵側面を粉砕し包囲し完全に破壊するために、大胆なマニューバに挑戦する指揮官こそが勝利を達成できるのだと心に留めておくべきだ。

 現代の作戦では、主導権を握るための奇襲と奮闘は決定的なまでに重要となる。戦力の相対的バランスをより改善するために、奇襲的行動は同等あるいは優越する敵軍に対し多大な損失を短時間でかつ急速に与えることができるであろう。奇襲的行動は敵の抵抗意欲と主導権を獲得保持しようという意志を粉砕し得る。
 奇襲的行動と主導権の奪取は次の手段によって達成される。

機密(目的、意図、行動を敵から確実に秘匿する事)
・敵行動の目的、意図、性質内容を解き明かす事
迅速かつ秘匿されたマニューバを遂行する事
・敵が予期せぬエリアで、特に核とその他強力な兵器に対して、打撃を与える事
・作戦的欺瞞を効果的に適用する事
・信号の規律と部隊統制のルールについて徹底して遵守する事
・敵の予想外の新兵器と新たな戦闘方法を運用する事
・戦力の運用面で敵より巧く行う事
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 決定的な軸での重要任務を達成するために人員と物資の大量投入の原則は、現代の戦争でその重要性を保ち続けている。明らかにこの原則は新しいものではないだろう。過去の戦争でも重要であった。けれども、異なる様式でこの原則は現代に適用されるのである。今日において、決定的な軸へ戦力を大量投入する状況と実践的手法は過去の戦争とは大きく異なっている

 核戦争中に遂行される作戦において極めて重大なのは、敵主力集団および他の重要ターゲットに多大な死傷者と損失を出させるために、非常に重要な軸上へ核兵器とその他大量破壊兵器を大量投入する事である。そういった環境下では、昔のような大規模範囲での通常兵器の大量かつ集中的な投入は必要ない。しかし核兵器無き戦争で遂行される作戦では、大量かつ集中的な投入は敵を決定的に優越するために必要となるのである。核戦争無しの戦争の場合、決定的となる場所へ打撃部隊を急速に集中し、任務達成後に即座に散開させる事が重要となる。
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 現代の作戦の特徴は、作戦的任務達成のために高速の移動およびフォームを多様に変化させて行動することである。高いマニューバ能力は次の事項によって得られる。

迅速な準備
奇襲的大量の核および通常火力打撃を敵の各軸に縦深で投射する事。
急速かつ頻繁に包囲を使用
・敵の側背をとる為の迂回
・敵エリア縦深において攻撃軸の新規作成および急速な変更

 現代の作戦のもう1つの特徴は、作戦の途中で状況が頻繁かつ急速に変わることだ。作戦中の部隊は望ましく無い予測していなかった事態が起きる事に対処できるよう常に備えるべきである。状況と任務の性質に応じて、部隊は様々な戦闘形態を適用し多様な手法を用いることでその任務を達成することができるのだ。現代の作戦では以下のようなバリエーションの戦闘行動をとることになるだろう。

・戦術的交戦および作戦的交戦
・敵防衛の突破
・放射能汚染地帯及び大規模破壊地帯の通過
・渡河
・退却する敵の追撃

 その合間において、各規模の部隊には空挺か海挺強襲作戦を実施する事があるだろう。いくつかの作戦的編制と大規模部隊は、同時に防御も想定にいれるし、状況によっては戦闘から撤退するマニューバをとることもあり得る。

 現代の作戦の特徴の1つは、戦闘支援手段および部隊統制のための新規必要事項に対応する困難性と複雑性の増大である。次に記す戦闘支援手段はより重要となった。

偵察および欺瞞行動
・工兵および化学部隊の支援

 導入された新たなタイプの戦闘支援手段は次のものである。

・大量破壊兵器に対する防護
・無線電子戦
・水理気象学的サポート
・地形測地的サポート
・その他

 膨大な数の多様な戦闘、戦闘支援、特殊車両および機器が参画し、長大な縦深での複雑で全力を尽くす戦闘行動とマニューバは、膨大な物資の消耗を不可避のものとする。現代の作戦では、多大な死傷者と兵器及びその他機器の損失は避けられないものとなっている。従って作戦の成功は物資サポート、技術サポートそして医療支援をさらに広範に、もっと効率的に、より計算して組織する事にかかっている。

 作戦術において、決定的なまでに重要な事はその作戦に部隊統制をもたらすことだ。部隊統制とは、作戦的編制の指揮官と参謀による隷下部隊の行動に対する継続的かつ確固たる指導とリーダーシップの事である。部隊統制は部隊の尽力的活動を指揮する事で担当任務と作戦の目的を達成するためにある。部隊統制タスクの特定の事項は作戦や状況の特性に合わせて決められる。

 過去の戦争に比べ、現代の作戦での部隊統制は複雑になりより多くのタスクをこなさねばならなくなった。戦闘時における広大な機動力とマニューバ能力の発展には、状況に応じて頻繁かつ急速に変化するのと同様に、如何なる状況にも即応できるよう部隊統制を必要とするのである。

 時間は部隊統制プロセスにおいて決定的な要素となった。部隊統制と兵器及び各手段を統制するプロセスは、敵による無線電子ジャミングの積極的投入と傍受がされた状況下に置かれ得ることに注意しなければならない。敵が我々の司令所と指揮統制手段を破壊しようと試みてくることを忘れてはならない。

 準備期間および作戦中における部隊統制のために、継続的な指揮司令所システムが設置される。方面軍と軍の次元では、司令所は次のように置かれる。

・主要指揮所
・前方指揮所
・後方指揮所

 防衛作戦において、予備指揮所は前方指揮所の代わりに設置することができる。いくつかの状況では、主要指揮所または予備指揮所から統制ができないような別離した軸において部隊統制をとるために、補助指揮所が置かれる。
 現代では、次の項目が極めて重大となっている。

・指揮官が隷下部隊との継続的で信頼性ある通信を維持できるようにする効果的な通信手段を使用可能とすること
司令所がアクティブであり機動力を持つこと
・戦争開始に先立ちタイムリーで組織的な司令所の人員配備、及び作戦中におけるシステマチックな司令所の移転


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第3巻第1章 作戦術 終
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別資料 現代ロシア軍の作戦術について記されている。

リンク→【大隊戦術グループ(BTG)に関連するミッションコマンドと作戦術】
http://warhistory-quest.blog.jp/20-Feb-22

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以下 訳者あとがき
今回の紹介は以上となります。
ここまで長く、読みづらく、一切の図表なしの長文拙訳を読んで頂き大変ありがとうございました。

 繰り返しとなりますが、この資料はソ連参謀と将軍たちの軍事思考の基幹となる極めて貴重で高度な資料であり、本資料中の概念の多くが現代でも検討される価値を持ち続けています。故に日本の専門家たちの手で注釈と共にちゃんとした翻訳を為されるべきものだと思っています。ソ連軍事学に関する誤解が広まるのを減らし、そしてWW2および現代との差異なども検討できるようになるため陽の目を見てほしい資料です。
 もしかしたら私が知らないだけでタイトルを変えて日本語訳がされているのかもしれませんが…いずれにせよヴォロシーロフ・レクチャーの知名度はもっと上がってほしいと願い今回拙いながらも一部試訳しました。
 作戦術の章の次は3巻第2章『方面軍の攻勢作戦』でしてかなり面白いのですが分量が多いため、いつか抜粋紹介をできたらな…と考えています。