英軍野戦教範1997年 想定され得る敵勢力(GENFORCE)の分析、作戦術および戦術ドクトリンより抜粋。ただし内容はソ連期の書籍からの抜粋がほとんどです。
 本稿は敵勢力が軍事計画及び行動時に使うであろう計算式について述べたものです。つまり敵勢力がどう解釈しているかが記されています。
※1997年英軍教範のGENFORCEはほぼロシアを暗に示している内容
公式集_突破幅_必要戦力_準備砲撃達成目標_進軍速度
以下 説明
_____________________
【第12章 指揮統制と通信】 
第2項 戦場の計算
ノルマに関する章

一般則

 兵術(ミリタリー・アート)とは実に適切に付けられた名だ。なぜなら軍事作戦を支配するのは事実に基づく戦争の各法則科学的現実であり、それを理解し適用する上で創造性が必要となるからだ。敵勢力の解釈では、これらの科学的に確実な事物を完全に把握することは最初の必須ステップであり、それなしには技巧は確固たる基盤を持てないとされる。敵勢力はほぼ全ての戦闘は数学的な計算におとしこめると考えている。これがなぜコンピュータが指揮官たちに極めて快く受け入れられたかの理由の1つであり、それらが敵軍の部隊統制システムに奇妙なまでに実によく適合しているかの理由でもある。

定義

  ノルマとは、所定の結果を得るための物的消費の尺度を、あるいは達成可能か達成すべきとされる基準を、科学的に導出されたものであると考えられている。軍事的ノルマは次のように定義される。

a
 作戦的ー戦術的な数量とはかつて部隊の作戦的または戦術的な行動およびその展開エリアのために、空間と時間のファクターを特性化するものだった。
 空間ファクターが含むのは、目標対象の縦深、区域の広幅、戦闘隊形の規模範囲、その他である。
 時間ファクターが含むのは、全任務を達成するのにかかる時間、行軍達成の時間、マニューバの時間、その他である。
 これらが編制、編制の能力、敵の戦闘能力、実戦および演習の経験、訓練水準、特別な調査研究成果、地形、気象、時刻に基づいて発達させられるのである。作戦的ー戦術的な基本ノルマは規則と指令に反映される。

b
 特定タスクを担う兵員および小規模部隊、武器の適用方法、または戦闘に備えるにあたってのテクノロジーによる任務達成のための、適時性量的ファクターおよび質的ファクター。ノルマは均一的かつ客観的なアプローチを確かなものとしてくれる。そのアプローチによって戦闘行動の達成にかける時間や、兵員と部隊の練度の評価の基準となる時間を決定するのだ。

ノルマの運用

 ノルマの運用は軍事のあらゆる所に普及しており、軍全体にわたって散在する多くの例がそれを証明している。GAZ66トラックのファンベルト交換に必要とされる時間から152㎜砲が距離15kmで戦術ミサイル発射機を破壊するのに必要とされるラウンドまで、ありとあらゆる全てにノルマは存在する。ノルマは参謀の計算の基礎として使われ、さらに兵士と部隊をテストして査定するための尺度としても使用される。
 ノルマを使っての計算をするために採択される3つの原則的方法がある。

数学的公式およびそれから派生したでノルマを直接的に適用
ノモグラム(計算図表)内の他の変数にノルマを結びつける
クリティカルパス方式におけるノルマの運用

 これら3つ全ての方法が今や広く普及したコンピュータとプログラム化した計算機を使用することで大幅に加速される。作戦的意思決定エリアに関する2つの鍵となる要素でのノルマ、計算、ノモグラムの使用について、次項で敵勢力流アプローチの例を説明する。

指針(ガイド)としてのノルマ

 18世紀末まで、作戦的ノルマと戦術的ノルマは必ず遵守されなければならない絶対なものとして捉えられていた。けれども今日においてはより現実的な見方が有力となった。ノルマは絶対値ではなくむしろ平均値であると捉えるべきであると提唱されているのだ。あらゆる状況で厳守される数値ではなく、計画する際の指針(ガイド)として見なされるのである。現代の軍事革命によって敵勢力が実証済みの技術を離れ未だ証明されていない技術に立脚するようになればなるほど、新たなノルマが何であるべきかについてさらに盛んな議論が起きるようになる。

___________________
【計算:2つの例】
___________________

計算例.1 打撃集団を編成

 敵防御を突破するために、決定的なまでの優位を打撃集団に創り上げることは極めて重要である。けれども受動的となる戦区は、敵がその受動的戦区を突破して打撃集団の側面または後背を突けたり我が主攻へ対応するめに部隊をシフトできたりすることを、許してしまうほど脆弱であっては決してならない。
各位置の部隊を相互接続(連携)するためにいくつかの変数がおそらく使用されることになるだろう。

 その戦線全体での全戦力相関(比)係数=(C)
 主軸で必要となる戦力比係数=(Cb) 
 攻撃全体正面の全幅=(W)
 突破ゾーンの幅=(Wb)
 他の軸で達しなければならない最小許容戦力比の係数=(Cs) 

【a】突破する幅の算定

 公式は次のものになる。
突破幅の算定
※ 突破幅=攻勢正面全幅x(戦線全体戦力比係数 - 他軸戦力比最小許容係数)/ (突破主軸戦力比係数 - 他軸戦力比最小許容係数)

 従って、例として次の値を当てはめた場合で算定すると

 攻撃正面全幅:W=120 km
 全体戦力比係数:C = 1 (例、自軍:敵軍=1:1)
 計画上の突破区域の戦力比係数:Cb = 3 (例、3:1)
 計画上の二次的(他)区域戦力比係数:Cs = 0.5 (例、1:2)

よって突破ゾーンの幅は
突破幅の算定_計算例
となる。
(例、この場合は、残り120-24 = 96㎞の戦線は受動的戦区としなければならない)
戦力配置と突破幅_試作図_【a】
  < 【a】の状況となる戦線の例_訳者作成 >

【b】突破区域で必要となる優越戦力の算定

 ただし条件として、他の区域が許容最小戦力比を保てる分を残すようにすること。
 公式は下記のようになる。
突破区域の戦力優越比算定
 従って、例として次の値で仮定して当てはめた場合で算定すると

 戦線全幅:W=400 km
 全体戦力比係数:C = 0.8 (例、敵軍優越)
 打撃集団の正面幅:Wb = 120 km
 その戦線の残りの箇所での最小許容戦力比係数:Cs = 0.5

よって突破区域で必要な戦力比は
突破区域の戦力優越比算定_例
となる。
 これは120 kmの突破正面においては、50%優越する戦力比配備を創ればよいということを意味する。
※あくまで比であることに注意。

【c】打撃集団が享受する優越戦力を増大させる

 計算【b】で導出された突破充分の優越戦力を満たせない場合、より大きな優越を生み出すための4つの方法がある。

・受動的戦区で敵がより戦力優越となることを許容する(こちらの戦力を減らし主軸へ抽出、敵戦力増大を黙認して我が主軸方面から抽出させる)
・打撃集団の戦線の広幅を減らす
・増援を投入する
・火力投射により敵集団を弱体化させる

(1)主攻戦区で充分な戦力優越を獲得するために、戦線の他の戦区で戦力比を劣勢化させる=抽出

 主攻区域で2倍の戦力優勢を創るとする。その他の戦線の戦力比は次の数式で導出される。
戦線の受動的戦区での戦力比
 主攻戦区戦力比2倍:Cb=2
 (他条件は【bと同じ) よって
    戦線の受動的戦区での戦力比_例
=2/7

 これが意味する所は、主攻戦区で2倍の戦力優越を得ようとした場合、我が受動的戦区においては敵は3:1以上の戦力優越を持つことになる、という事だ。これは我が方にとって基本的に許容し難い。

(2)打撃集団の突破区域を絞り幅を縮める

 式【b】が示すように、打撃集団の突破区域幅(Wb)を縮めたとしても、突破戦力比(Cb)は比例して増大はしない。
【例】:突破攻勢幅を120 km から60 kmへ1/2に減らしたとしても式【b】で出ていた突破戦力比 1.5:1は3:1となるわけではない。下記数式で示すように2.5:1になるのだ。
         突破幅を減少させた場合_例

 ではもし打撃集団突破区域で3倍の必要戦力優勢を達しようとするならば、48km幅となる。
突破必要戦力比が3倍の場合の突破幅

(3)増援を投入する

 増援は戦線全体にわたる戦力比にとりわけ影響を与える。戦線全体幅はWである。新たな全体戦力比(Cn)の決定は、打撃集団の正面で3:1の戦力優越をもたらすために必要となる。その公式は次のものである。
戦線全体の戦力比を好転させる増援
※どれだけの増援があれば突破に必要な条件を満たせるかを算出する Cn
よって、条件【b】の場合でかつCb=3すると 
戦線全体の戦力比を好転させる増援_例
となり400kmの戦線全体で1.25:1の優越をしていれば、120kmの突破正面で必要となる3倍の戦力優越が達成され、戦線の残り受動的な区域は0.5:1に抑えられるということになる。

(4)火力投射により敵を弱体化させておく

 戦線部隊の突破攻撃に先立って火力投射により敵に損失を与えて弱体化させることで、少なくとも我が打撃集団の正面で必要な戦力比となるようにする、そのような最小限度の破壊量を計算する。ただし敵は打撃に対して報復攻撃をして戦力比を変化させようとしてくるので、こちらの損失も考慮しておかなければならない。火力による破壊の必要量の計算式は次のようになる。
火力投射により敵に損失を与えておく必要量

 M = 必要となる敵破壊量(%)
 Ci = 初期戦力比係数
 Cn = 戦線突破のめに必要となる戦力比係数
 F = 自軍の砲撃戦における予想損失量(%)

【例】
 他エリアから抽出して秘密裏に突破区域に戦力比Ci=2(例:2:1)で再編成したと仮定する。ただし突破のためには戦力比Cn=4が必要であるとみなす。その場合の突破区域で攻撃成功するための火力投射での必要敵損失量は次のようになる。(火力投射時の敵反撃による自軍損失量=30%と仮定する)
火力投射により敵に損失を与えておく必要量_例
よって65%を火力投射で与えておくことが必要になる。
※ヴォロシーロフレクチャーは戦力という表現に加えて有用性(utility)を使っている。部隊全体が機能する力を失わせてその有用性を損失させると捉えられる。単純に敵兵数だけを言っているのではない。この訳における戦力の意味も同様とする。


 必要敵損失量と敵抵抗による影響を迅速に算出するために、図12-1のノモグラムを使うことができる。

図12-1_必要破壊量

【d】その他変数

 攻撃および突破する区域で必要な戦力比を得るための絶対的なノルマとは確立するのが困難なものだ。客観的または主観的な、そして広く変化する多数の要素が相関性に影響を与えるからだ。これらには縦深からのミサイルと空爆が含まれる。作戦的縦深での急襲及び機動グループそして空挺と海挺による活動もある。電子戦闘、指揮統制の有効性もある。戦線で直接的に睨み合う戦力とは違う外部にあるこれらの、そして他にもあるファクターが、真の両陣営の総戦闘力を計算するのを複雑にしているのだ。兵士、戦車、通常の砲、その他といった従来の意味合いの戦力比よりも、今やこれらの変数が実際はさらに重要となっている、と多くの敵勢力の理論家が指摘している。

計算例.2 戦力優越の関数としての進軍速度

 明確なノルマを設定するのには問題があるにも関わらず、経験的証拠は進軍率(R、単位はkm/日)と戦力比の影響係数(Ci)の間には相関性があると示している。その数式は次のように表される
前進速度と戦力比の関数
 140という値が表すのはノーマルな地形において可能な最大前進速度(km/日)であり、Ciが表すのは戦力比係数である。
 公式及び図12-2に示すノモグラムを使用することで、計画された前進速度を達成するために必要となる戦力比をおおよそ査定したり、あるいは逆に与えられた戦力比に基づいておおよその前進速度を決定できる。
図12-2_戦力比との前進速度の関数



【a】

 打撃集団の担当区域で計画されている平均前進速度は40km/日とする。それを達成するために必要となる優越戦力比係数は次のように計上される。
前進速度確保のための必要優越戦力比
 よって、Ciの戦力比係数は0.29となり、図12-2のノモグラムに当てはめれば優越戦力比は3.4:1を打撃集団の区域に確保する必要があるとわかる。

【b】

 打撃集団の戦区で、優越戦力比2.5:1を創り出せたとする。前進速度は次のように決定される。

 図12-2ノモグラムより、2.5:1の場合に対応するのは明らかに係数Ci=0.13だ。
 公式を使うと 平均前進速度はR = 140 x 0.13 = 18.2 km/日となる。

計算に関する注釈

 これらの公式は計画する上での多様な変数の査定を促進してくれるものだ。もちろん決定事項や計画された部隊行動を適用して実施する際に、それらに加えて更なる詳細な計算と数学的モデル化が為されるのを除外はしない。
 

____________
抜粋ここまで
____________

 軍隊に関する計算の説明試訳を読んで頂きありがとうございました。だいぶ簡易な式なので特に追加説明はいれていませんが、分かりにくい箇所あればコメントください。
 式は簡潔ですが別途細部を検討するようにと最後の注釈で英軍はきっちり述べていますし、コンセプト立案の時はむしろ縛り過ぎない方がいいとそこかしこで注意喚起している教範です。

 1997年の英軍野戦教範の中から抜粋ですが、想定される敵とはロシアを暗示する内容が大半になっています。教範の他の箇所はソ連の本で見たことがある図などあったりします。つまりこれはソ連・ロシアが攻める際に使うであろう計算式について英軍の理解を書いている項目です。

 ところで原文の英軍野戦教範は一応は軍の公開資料なんですが、誤植がいくつかあってだいぶ混乱を与えてくれます。公式の引き算記号が掛算記号になっていて…数値例を代入した式と合致していない、大文字小文字がバラバラなどあります。pdf化する時にエラーがいくつか出たけど査読なしで通してしまった気がします英軍。

 ヴォロシーロフ・レクチャーにはもっと詳しくノルマに関する数値が載っています。英軍pdf化時エラーの検証はこれと比較して行いました。もしこういったソ連の軍事計算式に興味ある人がいてくれたら、他の箇所も今後紹介していこうと思います。