米陸軍野戦教範のFM3-90 Tacticsの要点抜粋をだいぶ昔にしたのですが、今回はその補足資料として戦術的ミッションタスクについて記されたFM3-90 Appendix Bを翻訳紹介しようと思います。
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リンク→FM3-90 Tacticsの要点抜粋
http://warhistory-quest.blog.jp/18-Feb-27
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 戦術的任務上のタスクと呼ばれているものは例えば「脱出せよ」「拘束せよ」「突破口形成せよ」といった様に指揮官が部隊に任務命令を発する際に任務綱領に明示する「効果」や結果のことです。「中央部隊は前進せよ」といった指示はあくまで「行動」を表現するものであり、指揮官が戦術/作戦/戦略的に達成したい効果や目的そのものではありません。(任務の焦点はあくまで中央部隊が前進するという行動によって突破口形成をする、ということです。)効果は敵にもたらすものと自部隊にもたらすものに大別されます。
   
 こういった戦術的タスクについて各人で認識齟齬があると任務遂行がズレる危険性があります。ですのでいずれも理解しておくべき戦術的基礎事項とされています。またこれらの効果があるということを知っておかなければ指揮官が用いれる戦術の幅は著しく小さくなってしまいます。近代以前の戦史でもこれらの要素を把握しておくことは有用です。

 以下には指揮官が部隊に命令を出す際に明示するその戦術的ミッションタスクについて各々の説明を記載します。本文はあくまで米陸軍の任務綱領上での意味だということに注意してください。本文中にもありますが、一般的な用語とはやや違う、あるいは状況限定的な意味を持って使われています。(また、米軍の考える意味の軍事用語を日本語訳する上で、意味が分かりやすく誤解を招かないと個人的に考えている用語をあてています。)
 本サイトを訪れるくらいの人には大部分が既知だと思いますが、bypassとexfiltrate、secureはどうか目を通してほしいと思っています。
Tactical Mission Task
figb-1
block_Fix_Disrupt_Turn

___________以下本文____________________________________
付録B

戦術的ミッションタスク_Tactical Mission Task

 この付録内で記される所の戦術的ミッションタスクとは、指揮官が達成を欲する結果あるいは効果のことだ。その達したいものとは任務綱領の「何を(what)」と「なぜか(why)」のことである。任務綱領にはその特定の任務に関連するように「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「なぜ」が含まれる。任務綱領の「何を」と「なぜか」は異なるものであり、そして共に必須のものだ。「何を」とは一般的に定量的測定可能なある効果のことだ。一方で「なぜか」とはその任務の目的を与えるものだ。(目標と目的は違う。指示された行動は重要だが達成すべき目的ではなく、あくまでその行動で生み出される効果の方が求められている。)
 これらのタスクは特別な軍事的定義であり、民間の辞書で見られるものとは異なる。場合によってはその検討の中には単なる定義以上のものが含まれるだろう。即ち、特定タイプまたは形式の作戦に(直接的には)関わっていない敵や地形または友軍に影響するような結果または効果も含まれる。自軍の行動を指定するようなタスクでは滅多に任務綱領のために充分な明確さをもたらしてくれない。(行動を指示するのではなく、任務のためにもたらしたい効果や結果を理解させる。)

 戦術的ミッションタスクとはある戦術的オペレーション中またはマニューバをしている部隊によって実施される特定の行動のことだ。自軍による行動または敵軍への効果のどちらかで表現されるだろう。表B-1、表B-2、表B-3に示すように、任務綱領の内容と理由を説明するための明確な単語や用語のリストではない。指揮官はこのリスト上の戦術的ミッションタスクに縛られることはない。この戦術的ミッションタスクのリストはある作戦命令または作戦計画の中で望ましい行動を示しているのだ。
(略)

自軍が執る行動

 この章では戦術的ミッションタスクの内で自軍による行動の事項を記す。「何を」指揮官が自軍に執り行ってほしいか、という行動である。
(略)

【火力攻撃(Attack by Fire)】

 火力攻撃とは指揮官が直接火力投射、間接火力投射による支援、撃滅のために敵へ近接することなく交戦すること、拘束、あるいは欺瞞を用いて行う戦術的ミッションタスクだ。(※この場合の火力投射という語は射撃、砲撃、爆撃を内包する。)
 このタスクを課す指揮官は隷下部隊に敵にもたすべき効果を必ず述べなければならない。例えば(敵を)無力化、拘束、混乱(妨害)などである。おそらく指揮官は隷下部隊に火力攻撃を実施する配置地点を、火力を振り向ける区域あるいは交戦エリア(EA)と共に指定することになるだろう。または目標への前進軸を割り当てることになる。その際の敵は静止していることもあるし動く可能性もある。

figb-2
 図上ではこのシンボルを使い火力攻撃を表現する。

 矢印はターゲットを指し示すことになる。下にある基礎部はその攻撃をそこから実施するであろうエリアを表現することになる。




 火力攻撃は火力による支援のタスクとかなり似ている。主な違いは別部隊が敵に対してマニューバできるように、ある部隊が火力支援タスクを実施するということだ。次の事項を火力攻撃タスクは含んでいる。

・敵防御位置または敵接近路を射程に収めることができるように火力投射区域または交戦エリアを隷下の各部隊各兵器に割り振って起く。
・集結や分散そして直接または間接火力投射へとシフトするための統制手段を指定しておく。
・戦闘位置、作戦エリア(AO)、または前進軸を指定しておく。これにより友軍部隊も敵と交戦することが可能となる。
・従属(隷下)各部隊の連携と隠蔽位置の最大効力を確保しておくために、セキュリティ及び全周防御をその統制手法を含み行っておく。
・作戦セキュリティ(OPSEC)を使い自軍の移動、占有位置、そして作戦意図について敵に把握されぬようにする。
・主部隊の移動前に偵察、準備、移動ルートと射撃位置を確保および補給クラスⅤ(弾薬)の備蓄を行っておく。
・初期戦闘配置への移動指導を行っておく。

【突破口形成(Breach)】

 突破口形成とは部隊が敵防御、障害物、地雷、要塞地帯を突破路あるいは通過路を作るためにあらゆる可能手段を用いる戦術的ミッションタスクである。
 テンポ勢いを維持するために、指揮官は障害と敵防御地点を小迂回し避けるよう試みる。敵防御と障害システムに突破口形成することは通常は最後の選択肢である。(※手薄な所狙う。敵防御地帯を突破するための行動であり、敵防御そのものの破砕は必須ではない。)
 突破口形成は諸兵科連合各部隊の動きを統制する1人の指揮官の下での協調的行動である。
figb-3
 図上シンボルはこれが使用される。
 このグラフィック上の左右両部隊の間のエリアが突破口形成箇所を示している。
 部隊の長さは突破口形成が必要なエリア縦深全域にわたり伸びている必要がある。

 事前に練っていた攻撃だろうと急遽することになった攻撃だろうと一連の攻撃を支援するために、突破口形成作戦はおそらく必要になるであろう。攻撃が敵連続体のどこに行われるにせよどんな時も、攻撃を支援する際の突破口形成オペレーションの実施時は、突破口形成の原則(インテリジェンス、突破口形成の基盤、組織、多数集中的戦力配備、各部隊協調)が適用される。

【迂回(Bypass)】

 (小)迂回は、敵部隊との戦闘を慎重に避けながら作戦の勢いを維持するために、自軍部隊に障害物や陣地あるいは敵部隊の周りを移動するよう指揮官が指示する戦術的ミッションタスクである。
 指揮官は迂回を命じ戦力を任務達成のために指向させる。迂回は攻勢でも防御でも使える。
 図上シンボルは次のものである。
figb-4

(※bypassは上述のように敵との交戦を避けて移動をすることに主眼が置かれる。日本語でもう一つ迂回と訳されるturning movementは敵とその場での交戦は避けるが、後方へ進出することで連絡線などに脅威を与え敵をその陣地から引き剥がし優位な地点で交戦することを重視する。そのためturning movementは「迂回攻撃」と捉える方が混乱を招きにくい。)

 迂回(bypass)を指揮官が決める要因は次の事項がある。
・勢いとアグレッシブな行動を保つ(任務上の)要求がある。
・敵の強さ、意図あるいは任務を我が方が知っている。(例えば拠点確保なら飛び出して攻撃して来にくい)
・迂回される敵がどの程度我が方の前進へ干渉できるか。
・敵部隊の全般的状態。例えば敵抵抗が崩壊中であれば自軍は高いリスクでも取ることができる。
・何らかの迂回条件基準が上級司令部から通達されている。

 迂回実施中の部隊はバイパスした障害物や敵部隊があれば何であろうとも上級司令部に即時報告する。通常なら迂回された敵部隊をその後も監視下に置いておき別部隊が来て解放されるまではそのまま続けることとされる。ただしその迂回部隊が急襲を実施する部隊の一部であれば別である。
 通常は上級の指揮官は迂回するためであろうとも大隊規模未満のタスクフォースに(独立的)権限を分与はしない。迂回を認可する前にその指揮官は迂回部隊が迂回ルートを敵の存在や通行性について検証したかどうか確かめる。(略)

 用いることができる2つの迂回テクニックは次のものである。
・敵を完全に避ける。
・敵を火力投射により拘束しそれから迂回を実施する。

 もしその部隊が敵を回避することができなければ、その迂回中の部隊は敵(特にマニューバ部隊)を拘束しなければならず、それから優位な部隊をもって迂回する。
figb-5
 
 もし拘束のために戦闘部隊の1/3より多い量がさく必要がある場合、一般的には指揮官は敵を迂回を試みはしない
 この上図の状況においては、指揮官は隷下の1部隊を拘束の任務に割り当て、METT-TCの各状況に応じて増強を行う。拘束に割り当てられた部隊は可能な限り早くその拘束任務から解放されるように友軍の部隊と連携を取り、そして拘束を引き継ぐ際にはその新たな指揮官に敵情や地形などあらゆる利用可能な情報をわたしておく。通常は後続し支援のタスクを任されることになっている別部隊がその解放部隊の役割を担当することになる。拘束任務から解放されたら、その部隊は元の所属上位組織の所に合流しに行くか、あるいは後続する部隊の統制下に置かれることになる。

 他の迂回部隊が迂回を完了した後に、指揮官はその拘束部隊に敵との接触を断つように指示することもある。こういった状態が起きるのは例えば急襲の際のように、その迂回をしている部隊が途切れないロジスティクス路を維持し続ける要求が無い場合だ。このケースにおいては、拘束部隊は防御及び限定的攻勢行動をあらゆる火力支援の協調と共に運用することで敵を拘束し、迂回部隊へと合流するよう命令が来るまで拘束を続ける。

【クリア_安全確保_掃討(Clear)】

 ある割り当てられたエリア内における全敵兵を除去し組織的抵抗を排除することがクリアの意味に含まれる。
 部隊は敵に撃滅、捕獲、あるいは撤退を強いることでこれを為す。クリアをすれば敵は我が方の任務を妨害できない。如何なる状況であれクリア任務は全体を偵察し敵の場所を発見する事で為される。発見後にクリアを行う部隊が敵へマニューバを行う。
figb-6
 図上のシンボルはこれが使われる。
 矢印と接している横棒は、クリア実行部隊にとって望まれる前進境界を示している。
 加えて横棒はクリアを実施するエリアの幅を表す。



 このタスクはかなりの時間とその他のリソースを必要とする。
 任務綱領の中で撃滅や捕獲あるいは撤退強制に関係している掃討タスクが割り当てられている目標を、指揮官が修正することができるのは敵規模が事前情報以上であった場合のみである。その場合は見方が迂回している間、クリア実施部隊はより小規模の敵を監視下に置いておく。

 クリアは移動的なタスクでもあり、通常なら工兵に後続して障害物を全て除去するし、それは火力を降らしている状況下では行われない。(略)

【コントロール_統制_(Control)】

 敵によって活用されないように、あるいは自軍の諸作戦の成功に必要な状況を創り出すための、ある特定のエリアに物理的な効果を維持することがコントロールの意味に含まれる。
 そういった効果は自軍がその特定エリアを占有的に位置取るかあるいは兵器によってそのエリアへ支配的態勢を取れるかすることで成し遂げられる。あるエリアをコントロールするということは、その特定エリアから敵兵を完全に掃討しきるということを要求するものではない。コントロールは安全確保(secure)とは違う。なぜなら安全確保とはその確保されたエリアへの敵攻撃をされてはならないからだ。我が方がコントロールしているエリアの中のターゲットと敵は交戦することができるが、我コントロール下のエリアの中で地上部隊が移動することはできない。

 コントロールとはミッション・コマンドによって活動する指揮の関係性あるいは機能ということを意味することもある。

【偵察対策_(Counterreconnaissance)】

 偵察対策(対偵察)とは、指揮官によってとられる敵の偵察と監視への対抗策のための全ての手段のことである。偵察対策は別個で課されるような任務では無く、あらゆるセキュリティ活動で含まれる要素である。
 我が方の部隊またはエリアを敵が観測することを妨害する。偵察対策は全てのセキュリティ活動にある要素であり最もローカルな措置である。それにはアクティブとパッシブの両方を含み、敵偵察部隊と監視機器の撃滅または撃退という戦闘行動も含まれる。
 
 (略)

【戦闘離脱_(Disengage)】

 敵との接触を断ち、別のミッションを遂行できるようにすること、または決定的な交戦を避けることがdisengageの意味に含まれる。
 そこには敵が直接または間接火力投射で交戦することができないような場所に移動するという意味も含まれる。ある位置から別の位置へ移動しながら敵から離脱するのは困難な過程である。戦闘離脱計画は次の事項を含む。

・戦闘離脱後の隷下各部隊の移動ルートに加えて、部隊が行うその作戦でのマニューバのコンセプト。
・敵を火力で抑え込み(制圧)し我が方の部隊の移動を掩護する。
遮蔽煙幕で部隊の移動または通過地点を隠す。これは軍事的欺瞞作戦の一部である。
・友軍のラインを通って移動する場合は連絡接触をとり各地点を通過する。
・戦闘離脱を開始する時間。
・(多)機能的な支援とロジスティクス部隊の移動の最も早い時間。
 
 上級の司令部が戦闘離脱部隊を支援する作戦を実施し、敵と接触中の部隊を圧力から解放する。例えばある師団が遅滞を実施している場合、その師団司令官は付属の航空戦力を使い近接戦闘中の旅団戦闘チーム(BCT)が戦闘離脱するのを助ける。同時にその師団は長距離砲、ミサイル、電子戦システムを使い敵の後続梯団を撃滅または妨害する。その意図は決定的戦闘を避けている間に部隊が戦闘離脱できるような状況を創り出すことである。

 戦闘離脱を促進するために、指揮官は離脱する部隊以外の戦力で爆撃及び直接/間接火力投射することで接触中の敵を抑え込む。通常、開けた地形では部隊はその短距離システムを最初に動かす。込入った地形では砲撃陣地で支援をするために長距離システムを最初に動かす。移動をする際はあるシステムを次の位置へと動かすことを含む時間が影響してくる。戦闘時無線機の範囲が限られていることに加えて部隊の戦線の戦術的状況は多様であるので、小規模部隊の指揮官は通常ならこの移動を指示する。そのプロセスは必要がある限り繰り返されることになる。
 1つの戦闘離脱が始まれば各部隊はそれを急ぎ完遂させなければならない。指揮官は支援部隊または予備を投入し離脱部隊の側面を守りあらゆる交戦していた部隊を行動自由にする。離脱部隊は次の配置へと適切なテクニックを使い移動していく。(参照:FM3-90-2)

 もし敵火器の射程範囲内に我が方の離脱部隊が入っていなければ、味方の激しい火力と煙幕の掩護の下で全部隊は同時に移動をすることができるだろう。実行速度と調整継続がこのタスクを成功させるためには必須である。

【隠密脱出_(Exfiltrate)】

 ステルスまたは欺瞞、奇襲、秘密手段によって敵コントロール下のエリアから自軍部隊を立ち去らせることがexfiltrateの意味に含まれる。
 自軍の部隊が敵に包囲されてしまい突破脱出やあるいは外部救援による解囲が不可能な場合、隠密脱出を実施する。また、急襲や浸透あるいは敵戦線背後のパトロールへと出ていた部隊も(戻ってくるときに)隠密脱出を実施できる。指揮官は敵包囲下から友軍の保護ができている陣地へと脱出させる。
 隠密脱出の方が部隊全体が敵の捕虜になるよりはまだましである。必ず部隊の有する機器で置いて残さざるを得ないものは全て破壊して使用不可能にしてから隠密脱出を行うこと。ただし医療関係は除く。もはや脱出しなければ全部隊捕虜しかない場合にのみ、最後の手段として補給や従軍牧師及び医療要員のある場所に死傷した仲間を残して隠密脱出を実行する。

 敵の観測と火力で軽くカバーされているような荒れたまたは困難な地形を通るのなら隠密脱出が最も現実的な方策となる。これらの条件では多くの場合、小規模部隊各々の移動は検知されにくく部隊全体で動くよりもリスクは小さい。隠密脱出には機知に富み、高度な規律を持ち、専門的地形ナビゲーションスキルを有し、そして士気を保つことが必要とされる。
 部隊の一部は恐らく陽動をしなければならないが故に、部隊全体が脱出できる可能性は低い。この種の作戦においては小規模部隊の優れたリーダーシップが不可欠である。

 隠密脱出部隊はまずその再集結地点を決め、次に脱出路を決める。友軍との接続計画を調整しておく。指揮官は脱出路を(友軍の脱出支援攻撃の)火力限定エリア(RFA)または火力投射禁止エリア(NFA)として指定しておく。隠密脱出部隊は準備射撃を用いてその動きをカバーしておき、弾薬備蓄を費やしておく。偵察と得られる限りの情報に基づいて、敵防御地点を通過または回って進む。もし発見されたならば迂回を試みる。
 隠密脱出は戦闘及び戦術車両にとっては恐らくより困難であろう。車両の出す騒音と車両が課されてしまう制限があり敵により脱出路が発見されやすくなってしまうためだ。

【後続&引受_(Follow and Assume)】

 後続&引受とは攻勢タスクを実施している部隊に第2の配属部隊が後続し、もしその先導部隊が拘束や損耗しそれ以上攻勢継続できなくなった場合にその任務を引き継いで続けることである。
 後続&引受をする部隊は予備部隊ではなく、特定のタスクを達成するよう活動する部隊である。
 下図は後続&引受のグラフィックを示している。
figb-7

 後続&引受部隊のタスクは次の事項を含む。
・先導部隊のあらゆる任務を実行できるように準備しておく。
・先導部隊の後尾とコンタクトを維持する。
・先導部隊を超越して前方へ進展するラインを準備をしておく。(超越交代)
・あらゆる戦闘情報と先導部隊からもたらされる情報をモニターしておく。
・先導部隊が迂回した敵部隊とは戦闘を回避する。

 攻勢の勢いを攻撃部隊が確実に維持できるようにするために指揮官は後続&受入の任務を課す。後続&受入をする部隊は即座に前方へ超越交代を行い先導部隊の任務を引き受ける。

 指揮官は後続&受入タスクをする場合に先導部隊と後尾部隊の関係性について2つのオプションを持っている。通常なら指揮官は両方の部隊の指揮を保持し、支援される部隊から支援する部隊へのあらゆる要請を指揮官の本部(headquater)を通すようにする。別のオプションは、指揮官が両部隊をコントロールを維持しきれない状況において、付属/作戦的コントロールのように支援する部隊は支援される部隊と標準の指揮系統におかれる。これが起きるような事例としては、両部隊が後退中の敵に対し包囲を試みており指揮官が敵に直接圧力をかける部隊の所にいる場合などがある。

【後続&支援_(Follow and Support)】

 後続&支援とは、ある攻勢において先導する部隊に対しもう一つの部隊が後続していき支援を行うタスクを指す。
 後続&支援をする部隊は予備では無く、特定のタスクを課された部隊である。
figb-8

 後続&支援をする部隊のタスクは次の事項を含む。
・先導部隊がその前進の際に作戦エリアを掃討しなかった場合に(先導部隊が)迂回した敵部隊を撃滅する。
・敵増援のブロック。
(敵による)何らかの直接的圧力を軽減する、または敵を逃さぬように取り囲んで停止している友軍部隊の負荷を軽減する。
・連絡線を確保しておく。
・障害物を取り除く。
・捕虜、重要エリア、設備を護衛する。
・味方の戦闘での損失を埋め合わせる。
・重要な地形を確保する。
・立ち退かされた民間人の統制をとる。

 攻勢作戦の勢いとテンポを遅くしてしまうような、支援を受ける部隊が決定的作戦以外のタスクに戦闘力を割く事態を防止するために、指揮官は後続&支援のタスクを割り当てる。後続&支援を行う部隊は敵部隊や障害物などが攻勢作戦を妨害するのを防ぐタスクを担うのである。特に連絡線への敵妨害を防ぐ。

 後続&支援のタスクを割り当てる際に、支援を行う部隊と受ける部隊の関係性に関し指揮官は2つのオプションを持っている。まず、付属/作戦的コントロールのように支援する部隊は支援される部隊と標準の指揮系統におくことができる。別のオプションは、後続&支援部隊の指揮を保ち、支援を受ける部隊から来る要請を指揮官の本部を通して行わせるようにするというものだ。

【占領_(Occupy)】

 あるエリアをコントロールできるようにするために、ある部隊をそのエリアの中に移動させることがoccupyの意味に含まれる。部隊の移動と占領は両共に敵の抵抗なく行われる。(敵の抵抗があるならそれは占領では無くなんらかの攻撃行動であり、その戦闘が終わった後に占領が行われる。)
 占領すること無しにあるエリアをコントロールをすることはできる。しかし逆はあり得ない。占領とコントロールは違う戦術的タスクなのである。
figb-9
 図上のシンボルはこのようになる。
 シンボル上のXマークは特別な意味を持っていない。(単に他の記号や線と混同しないようにわかりやすくするため)
 占領するエリアは全てを線で包み込む。



 典型的な例では、部隊は集結エリアや目標対象、そして防御陣地を占領する。

【整理_(Reduce)】

 我が方が包囲したかあるいは迂回した敵を撃滅することがReduceの意味に含まれる。
 該当する図上シンボルはない。
 このタスクは戦場のあらゆる場所で起こりうる。(FM3-90-2で包囲下の敵の整理について述べられている。)
 また、整理とはある障害物が効果を発揮しないように充分な通路を作ることも含まれる移動用のタスクである。
(※文章にはreduceは敵を「削り、減らせる」という意味で文中に登場することが珍しくない。整理はあくまで任務綱領で指揮官が命令を出す時の明確化で使われる用語である。)

【保持_(Retain)】

 我が方の部隊によって既にコントールされているある地形的要点を敵に占領または使用させない状態で維持し続けることがRetainの意味に含まれる。
figb-10 指揮官は指定されたエリアと保有期間(時間あるいは何らかの条件イベントが過ぎるまで)を保持するようこのタスクを割り当てる。部隊はこのタスクを遂行しながら、敵の攻撃を予想しそして決定的交戦へと入る準備をする。地形のある特定の一部を保持するようにタスクを課された部隊は、それを占拠する必要はない。

 図上のシンボルはこのようになる。
 シンボルにある矢印は特別な意味を持っていない。保持するエリアを全て線で囲むこと。

【(安全)確保_(Secure)】

 (安全)確保とは、ある部隊/施設/場所が敵行動によってダメージを負ったり破壊されないようにすることがsecureの意味に含まれる。
 通常このタスクはエリア・セキュリティ作戦を実行することを含んでいる。(参照:FM3-90-2)
figb-11 道や基地のような部隊/施設/場所を安全確保する任務を課された部隊は、その安全確保した所を敵戦力が蹂躙したり占領することを防止する。それだけでなく、敵の直接火力投射および観測下の間接火力投射が我が方の安全確保地点に損害をもたらすのを防止する。これがコントロールと安全確保の主な違いである。
 戦術的ミッションタスクとしてのコントロールは、コントロールしている場所に対して敵が直接/間接火力投射をしてくる可能性を有している。必ずしもその部隊/施設/場所の周辺エリアを物理的に占拠しなければならないわけではない。
 図上のグラフィックはこのようになっている。矢印は意味を持っていない。安全確保するエリアは全て線で囲まれる。

【奪取_(Seize)】

 圧倒する戦力を用いて指定されたエリアの所有権を獲るということがseizeの意味に含まれる。もはや敵戦力は奪取された目標に対して直接火力投射はできない。
figb-12
 図はこのようになる。矢印は奪取する場所または対象を指し示している。
 安全確保とは違い、奪取のタスクは指定エリアまたは対象のコントールを手に入れるための攻勢的行動を必要とする。
 占領とは違い、奪取のタスクは予期されている敵抵抗に打ち勝つことが含まれている。
 部隊はある物理的目標を奪取したら、その目標領域の中で敵戦力を殺傷し、捕虜にし、あるいは撤退を強いることでその場所を掃討(clear)する

【火力支援_(Support by Fire)】

 火力支援の戦術的ミッションタスクの中では、別のマニューバ部隊の支援の下でマニューバしているある部隊が直接火力投射で敵と交戦できる配置へと移動をする。(この表現はfire & movementの原則を念頭に置いている。火力支援をするのであれば必ず同時に支援を受け主目標を達成するため行動する別部隊が存在する。米軍はこの別部隊はマニューバを行う部隊であると明言している。)
 通常なら支援部隊の主目標は、敵が効果的に我が方のマニューバ部隊へと火力投射できないように敵を拘束し抑え込むことである。支援部隊の副次的目標は敵が再配置(reposition)を試みた際に撃滅することだ。このタスクを担うことになったら指揮官は敵へ与えたい効果を指定する。
figb-13
 火力支援のタスクを実行している部隊は、(自ら)敵戦力または地形を獲るマニューバは行わない。このタスクはより広大なマニューバの一部として別部隊に任せられる。
 火力支援任務を割り当てられた場合には敵、攻撃時間、作戦行動を開始する発起地点、支援する友軍部隊、そして拘束や抑え込みといったようにタスクの目的を指揮官は指定する。
 図はこのようになる。矢印方向がおおよそのターゲットの方向を示し、基底部は火力をそこから投射するであろうおおよそのエリアを指し示す。(中央の赤色菱形は敵部隊のシンボル)

 指揮官は火力支援のタスクをある部隊に課したら、その部隊は隠蔽及び掩蔽され、良好な観測ができ、火力投射の場所が明確にわかるような火力支援実施位置を占拠しておくべきである。火力支援部隊は次の事項を為すべきである。

・その火力支援陣地のセキュリティをチェックする。
・ターゲットの探索をする。
・敵位置と考えられる所に武器を向けておく。
・戦闘する際にある程度の防護がもたらされるような位置を想定する。機甲及びストライカー装甲車を備えている部隊は車体遮蔽をしながら砲撃できる位置を占拠しておく。歩兵戦力は木々や自然の盛土、建物、その他同様の地形的特徴物を使用して遮蔽を行う。
・観測所を各兵士または兵器システムに割り当てておく。
・木々などで隠れた敵車両や観測所のような裸眼では見えないようなターゲットのために、熱源の位置を探知するサーマルサイトを使用する。

 火力攻撃に火力支援はよく似ている。その違いとは、火力支援は別部隊が敵に対してマニューバできるように支援するのであるが、火力攻撃は友軍別部隊のマニューバを支援するのではない(本質的目的ではない)ということだ。

敵戦力へもたらす効果

 以下の項目には敵戦力へ効果をもたらす戦術的ミッションタスクについて記す。それらは任務綱領における「何を」と「なぜか」にあたるものだ。これらの効果の大半は軍事的意思決定プロセスの一部としてのスケッチの中で展開される行動を示すのに使われる戦術的任務グラフィック(シンボル)が割り当てられる。

【ブロック_(Block)】

 ブロックとはあるエリアへの敵のアクセスを拒絶する、またはある方向や接近経路での敵前進を防止する戦術的ミッションタスクである。
 通常ならブロックの任務はある時間または特定の出来事が起きるまで敵部隊をブロックすることが求められる。
figb-14
 敵の前進ラインに対して垂直のラインが敵前進を制限するものとして示される。
 ブロック部隊はおそらくある場所を保持し、そして決定的な交戦へと到るであろう。
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 またブロックには火力計画障害物効果組み合わせて、ある特定の接近経路で攻撃してくる敵を止めるか、あるいは交戦エリアを通ってくる敵攻撃部隊を防止するという場合も含まれる。

figb-15 障害物効果を示すグラフィックに描かれている垂直の線は敵前進を制限することを表している。また障害物が結び付けられる通行が限定されるような地形も示す。
 部隊はブロック用障害物を任務を補助するために運用するであろう。接近経路から敵が近づくのを防止し敵が進むには唯一膨大で受け入れがたいほどの代償を払うようにするために、ブロック用障害物は複雑にして且つ縦深的に置きそして火力と組み合わせる。
 ブロック用障害物は展開されたら敵を制限する物体として機能するようにし、敵がその地点を超えて来れないようにする。障害物のみではブロック任務は達成することは不可能である。(FM90-7に工兵のブロック障害物効果に関して述べられている。)

 戦術的ミッションタスクとしてのブロックは拘束とは違う。なぜならブロックは敵部隊がある方向で移動できないようにすることなのだが、拘束とは敵部隊が如何なる方向にも動けないようにすること(ある場所や対象に固着されてしまい他活動ができなくなること)であるからだ。

【方向限定_(Canalize)】

figb-16 方向限定とは障害物や火力または友軍のマニューバと提携して地形を活用することによって敵の移動を狭い区域に制限してしまう戦術的ミッションタスクである。
 図上のグラフィックはこのようになる。敵編制または兵士たちと兵器システムが事前に我が方によって定められていた地点へと移動する結果になっているのが成功した方向限定である。恐らくそこでは敵は各個撃破されることになる。


figb-17

【封じ込め_(Contain)】

figb-18 封じ込めとは敵を停める/ホールドする/取り囲む戦術的ミッションタスク、あるいは与えられた戦線にその敵活動を集中させ他の場所で使用するために敵部隊の一部を撤退することをさせないようにするミッションタスクである。
 封じ込めは(我が方の意志で)指定されたエリアの範囲内で敵戦力が再配置することを許容する。拘束(fix)の場合は再配置を許容しないのが違いである。(ある与えらた戦線内に敵を留まらせるが、その戦線内での移動は許容するのが封じ込め。拘束は対する箇所に張り付けにして動けなくする。)
 地理または時間によって封じ込めのリミットを表すことになるだろう。封じ込めを表す図上グラフィックは指揮官が代わりの行動を展開中に封じ込めを望むエリア全体に描くこと。

【撃破_(Defeat)】

 一時的または恒常的に敵戦力がその物理的手段または戦闘意志を喪失する時に発生するのが撃破という戦術的ミッションタスクである。撃破された敵部隊の指揮官はその際に行うはずだった行動目標を追い求める意志を喪失するかまたは不可能になるが故に、我が方の指揮官の意志(の行動)に屈してもはや我が方の戦力に対し大幅な妨害をすることができなくなる。撃破は武力行使またはその脅威によって生まれるだろう。

 指揮官は敵戦力撃破のために多様な効果を敵に対して生みだし得る。
【物理的手段】
・敵に戦闘継続するための物理的手段を喪失させる。敵戦力はもはや人的、兵器的、装備的、補給的にその任務を遂行することができなくなる。

【精神的手段】
・敵に戦闘意志を喪失させる。敵指揮官と兵士たちは心的に消耗し、士気が甚大に低下しもはやその任務を達成できなくなる。

 通常これらの効果は長期継続的に消耗させられるかあるいは極めて短期間で負わせられた崩壊的損失の結果として発生する。
 
 イデオロギー的動機を持っていない敵であれば、その敵がいる位置に対して圧倒的な戦力を投入されることが明白な我が方の準備を見たら心的に撃破されるだろう。(逆に言えばイデオロギー的こだわりを有する敵は絶望的状態でも物理的手段を喪失するまで戦闘を継続する可能性がある。)
 撃破は何らかの物理的行動、例えば大量降伏や機材の大量放棄または退却作戦の形で現れる。

【撃滅_(Destroy)】

figb-19 撃滅とは再構築(再建)するまでは敵戦力を戦闘不能にすることである。或いは敵の戦闘システムを撃滅することとは、全体的再建無しにはもはや活動できるコンディションに回復することができなくなるまで、または如何なる機能も果たすのは不可能となるまで敵に深刻な損害を与えることである。
 敵部隊がそのタイプや規律及び士気(が崩壊すること)により戦闘不能となるに値する敵損失総量が必要になる。火器を有し尚且つ装甲を備えていたり地盤掘削して遮蔽された各ターゲットを撃滅するのにはかなりの量の弾薬と時間を必要とするので、精密誘導兵器を持っていない限り通常は(いきなり堅固な対象には)撃滅を試みはしない。
(撃滅は充分な弾薬と時間を準備し圧倒的火力と戦力をもって行う。)

【妨害_乱調化_(Disrupt)】

figb-20 乱調化(妨害)とは直接/間接火力投射、地形、障害物を統合的に運用して敵フォーメーションやテンポを乱すこと、または敵のタイムテーブル通りに進むのを阻止すること、あるいは敵戦力に予定より早い行動やバラバラの状態で攻撃するのを強いる戦術的タスクミッションである。
 乱調化は友軍の火力投射に対する敵の脆弱性を増大させる。乱調化は一時的に敵をその戦いで機能不全にするだろう。乱調化(妨害)は決して終わりではない。終わらせるための(その途上で使われる)手段なのだ。
 図上グラフィックはこのようになる。中央の矢印が乱調化する敵対象を指し示す。

 妨害を試みるマニューバ部隊は、1度の集中攻撃で望む結果を得るためにあるいは望む結果が得られるまで攻撃を持続するために、必ず充分な戦力をもって防御する敵を攻撃しなければならない。恐らく集結エリアに敵がいる時や接近行軍をしていてまだ戦闘フォーメーションへと展開していない時に敵に攻撃することも妨害には含まれる。予想される自軍損失量、攻撃場所、攻撃の回数、その他リスクマネージメントに必要な要素に基づいて、指揮官は許容可能なリスクの度合いを決める。
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 また妨害(乱調化)とは敵部隊にそのフォーメーションとテンポを崩させ、タイムテーブルを中断させ、予定より早く突破口形成のために用意していた戦力を投入させバラバラな状態で攻撃を行わせるための、障害物と火力計画に焦点をあてた障害物効果でもある。
 味方の防御陣地の位置について敵を欺くこと、敵の戦闘梯隊を分離すること、戦闘部隊をロジスティクス支援から切り離すこと、これらに妨害は役立ちもする。
figb-21 
 図上グラフィックはこのようになる。障害物効果の妨害グラフィックの所にある短い矢印は、その障害物が敵のマニューバ能力へインパクトを与えるということを示している。長い矢印は我が方の指揮官にとって敵が障害物を小迂回することを許容する場所を示し、我が方の防御部隊は敵に対し火力をもって攻撃することができる。矢印は敵の攻撃方向を表している。通常なら防御する指揮官は障害物効果の妨害を交戦エリア前方で用いる。
 障害物のみでは敵部隊を妨害することはできない。(参照:FM90-7に妨害用障害物効果の工兵工作物について記述がある。)

【拘束_(Fix)】

 拘束とは、ある特定のエリアの特定の期間、敵戦力の如何なる部分も移動しないようにする戦術的ミッションタスクである。
 拘束はおそらく如何なる場所にも退かせないように敵戦力と交戦することによって発生させられる。あるいは偽の命令書を発信したりして軍事的欺瞞を用いることで拘束を行う。(※脅威または可能性による拘束効果)
 攻勢でも防御でも指揮官は拘束を用いる。拘束は常に形成(shaping)作戦である。

figb-22 図上のグラフィックはこのようなものが描かれる。
 矢印によって拘束をしたい敵部隊を指し示す。
 ジグザグ線の部分は拘束を起こすのが望ましい場所を表している。(※射撃の場合ジグザグ部分は拘束を意味するだけで場所を指定はせず、矢印で拘束対象または場所を指す場合もある。)

 敵戦力を拘束する、というのはそれを撃滅することを意味しない。我が方の戦力はその拘束する敵のあらゆる方向への移動を防止する。通常は拘束タスクは時間的制約を課される。例えば「敵予備戦力を決定的作戦である目標Fが確保されるまで拘束せよ。」といった具合である。
 拘束という戦術的ミッションタスクはブロックとは異なる。拘束された敵ならばその場所から移動することができないが、ブロックされた敵ならば1つの阻止方向以外ならばいかようにも移動することができる。

figb-23 拘束とは、特定のエリア(通常は交戦エリア)の中で敵攻撃部隊の移動を遅くするために障害物火力計画組み合わせた障害物効果の場合もある。
 敵を補足し狙いを定め敵攻撃を接近経路または交戦エリアの縦深にわたる直接/間接火力投射によって破砕するために、我が方の部隊が時間を得るようにこの障害物効果の拘束は主に使用される。

 図上グラフィックのジグザグになっている部分は複雑な障害物によって敵の前進速度を遅くする場所を示す。矢印は敵の前進方向である。(参照:FM90-7に工兵の工作による拘束用障害物効果の記述がある。)

【(使用)阻止_(Interdict)】

 (使用)阻止は敵があるエリアやルートを使用するのを防止、妨害、または遅延させる戦術的ミッションタスクである。
 使用阻止とは、他で実行中の攻勢または防御タスクを補足や補強するために実施される形成作戦の1つである。(※主に航空戦力によって実施され、BAI=戦場航空阻止と呼ばれるものなどがある。)
figb-24
 図上グラフィックはこのようになる。

 2本の矢印が使用阻止ターゲットになる敵部隊または場所の上でクロスして描かれる。使用阻止タスクは必ずどれだけの期間か、使用阻止をやめるまでの時間または必要なイベントを明確に指定する。あるいは必ず使用阻止によって望まれる効果を正確に定めておく。


 通常は攻撃部隊が阻止を実施する縦深によって、友軍部隊の行動の自由が決まってくる。(阻止)作戦の縦深を増大させることは、航空戦力と地上戦力への同士討ちの危険を減らし、必要な調整作業が減り、更に柔軟な作戦が可能となる。攻撃ヘリや固定翼機のような航空戦力は作戦エリア全域で敵の移動を阻止する攻撃が可能である。

 使用阻止が実施される場所の縦深は、その効果が観測される速度も定めることになる。通常は、地上のマニューバ部隊はまず自軍前方ライン(FLOT)に近いターゲットに集中する。(前線近域で実施される場合の)使用阻止は阻止攻撃対象の近くの敵戦力に即時に影響を及ぼすが、敵大規模戦力の影響能力には効果を及ぼさない
 自軍前方ラインから広く離れた場所への阻止攻撃は、近接域の戦闘に対し遅れたインパクトを及ぼすのであるが、やがては敵大規模能力も減衰させる。
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・戦線近域への使用阻止攻撃→ 阻止攻撃対象近域へ即座に効力発揮、ただし広い範囲で敵戦力が影響を受けることは無い。
・戦線から離れた縦深で使用阻止攻撃→ 戦線付近での戦闘への効力波及は遅い、ただし広い範囲で敵戦力が影響を受ける。
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 阻止能力は、敵の計画及び我が方の行動に対処する敵能力に対し、崩壊的な影響を与え得る可能性がある。例えば敵のマニューバを遅らせるか中断させるような使用阻止攻撃は、我が方の戦術的アドバンテージを獲得する能力を高めるであろう。敵補給を遅延または乱調化させることで、敵の激烈かつハイテンポの攻勢または防御行動を維持支援する能力と敵の移動性を制限することができるのだ。

 敵部隊の移動を阻止することは、敵を包囲及び最終的な撃滅をアシストするのに極めて効果的である。拘束された敵地上部隊(あるいは罠にかかり移動性を喪失した敵部隊)は利益あるターゲットをもたらす。(拘束された敵部隊は移動できないため連絡線がほぼ特定の限られたものとなり、阻止爆撃をすれば容易に大きな効果をもたらし得る。)
 また、指揮官は追撃を強化するために撤退中の敵部隊に対し阻止攻撃の実施を計画する。使用阻止は増援と補給を妨げることで作戦成功に貢献することができる一方で、更に敵を罠にかけ(行き止まりにさせ)たりマニューバを方向限定することで、敵の徹底的な撃滅へと繋げることもできる。

【孤立化_(Isolate)】

figb-25 孤立化とは、ある敵部隊の支援源を断ち物理的及び精神的にも封鎖をして、移動の自由を奪い取り、他の敵部隊とコンタクトを取るのを妨害することである。
 指揮官は、孤立した敵部隊がその現在位置で安らげる領域にするのではなく、敵部隊に対し継続的に攻勢行動を実施する。
 図上グラフィックはこのようになる。矢印は意味を持たない。ただし範囲が孤立化ターゲットの敵を線で取り囲んで表している。


【無力化_(Neutralize)】

 無力化とは、ある特定の作戦で敵人員又はマテリアルを(我が方への)干渉不可能にする戦術的ミッションタスクのことである。
figb-26 図上グラフィックはこのようになる。
 ターゲットになる敵部隊または施設シンボルの上で2本の線が交差しているのが無力化を表している。
 無力化のタスクを割り当てられた際は、指揮官は無力化する敵戦力またはマテリアルとその期間(時間または特定イベントが起きるまで)を指定する。死傷した人員交代や損傷部修理または無力化をもたらすものが解除されれば、無力化されたターゲットはおそらく復活するだろう。
 通常、指揮官は致死的/非殺傷型の効果を組み合わせて敵人員とマテリアルを無力化する。ターゲットを無力化するために必要なアセットは、ターゲットの種類とサイズ及び使用される兵器と弾薬の組み合わせによって異なってくる。

【抑込_制圧_(Suppress)】

suppress 抑込(制圧)とは、一時的に敵戦力または兵器の活動力を我が方の任務達成に必要なレベルまで低下させる結果をもたらす戦術的ミッションタスクである。
 指揮官は敵の火力投射やセンサー及び視覚的観測を防止または低下させるために、砲撃や電子戦または敵人員/兵器/装備へ煙幕といったような致死的/非殺傷型の効力を運用する場合に抑込は発生する。
 無力化タスクとは異なり、抑込を行っているシステムがそれを止めたり別ターゲットに移行すれば(増援などによる)再建をしなくても元のターゲットはその効力を回復する。

【進路変更_(Turn)】

 進路変更とは、敵部隊をある接近経路または移動路から別の道へと強制的に行かせるという意味を含む戦術的ミッションタスクである。
figb-27 指揮官は敵状態を悪化させながら自軍の戦術的状況を改善するために、障害物や火力そして地形を組み合わせる。例えば攻勢において、追撃を受けている敵戦力を進路変更させて敵戦力を撃滅できる位置に行かせようとするといったものがある。防御においては、攻撃してくる敵戦力を進路変更させて我が方の戦力が敵の側面へと逆襲実施できるようにするといったものがある。
 図上のグラフィックはこのようになる。矢印が折れ曲がる所が一般的に敵を接近経路から別の道へ行かせるための障害物複合地点である。
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 また進路変更とはある接近経路から隣の道または交戦エリアへと敵フォーメーションを逸らすための、火力計画と障害物を組み合わせた戦術的障害物効果でもある。
figb-28 進路変更を展開するには明確に定義された移動可能通路と接近経路が必要だ。進路変更効果を達成するために、障害物は次の図に示すように敵の接近に対してさりげない指向性を有している。障害物と連携をとる火力によって(敵がその障害地点を)迂回して我が方のマニューバ計画にとって望ましい方向へ行くことを可能とするのだ。最終的に、この図上の障害物は最初の進路変更ポイントで通行を限定する地形へと連なっている。通常なら指揮官は交戦エリアの側面に進路変更効果を行使する。図上グラフィックの矢印の方向は我が方にとって望ましい方向を示している。
 










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出典:US Army Field Manual FM3-90 Appendix B

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補足:作戦の形態(form)
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攻勢の形態

会敵移動(Movement to Contact) ※接敵移動とも言われるが、敵と接触することを目的とするため接近で終わらない
  ー索敵攻撃(Search & Attack)

攻撃(Attack)
  ー伏撃(Ambush)
  ー示威行為(Demonstration) ※欺瞞に近い意味で使われる
  ーフェイント(Feint)  
  ー急襲(Raid)
  ー攻撃妨害(Spoiling Attack) ※敵が攻撃準備している時に攻撃して妨害する。正確には敵攻撃妨害攻撃

拡張(Exploitation)

追撃(Pursuit)
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攻勢マニューバの形態

包囲 (Envelopment)
正面攻撃 (Frontal Attack)
浸透  (Infiltration)
突破  (penetration)
迂回攻撃  (turning movement)

※迂回攻撃は敵をその準備していた位置から引き剥が別場所で戦闘を強いるという意味。迂回(bypass)は攻撃そのものではなく移動時に敵を避け回り込むことを意味する。
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防御の形態

・エリア防御(Area Defense)  ※陣地防御と訳されることが多い
・モバイル防御(Mobile Defense)  ※機動防御と訳されることが多い
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後退系作戦

遅滞(Delay)
撤退(Withdrawal)
離脱(Retirement)

※「後退」とは単に後ろ方向への移動を意味し戦術的効果のことではない。離脱、撤退、退却は効果である。
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偵察作戦】(Reconnaissance Operations)

セキュリティ(警戒)作戦】(Security Operations)

情報作戦】(Information Operations)
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【諸兵科連合部隊による突破】
【作戦】
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超越交代】(passage of lines)
持ち場交代】(relief in place)
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渡河作戦】(River Crossing Operations)
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部隊移動

管理移動(Administrative Movement)  
接近行軍(Approach March)  ※敵との戦闘するために近距離の行軍をし接近すること。この後行軍から会敵展開をする
道路行進(Road March)

※管理移動とは高速での移動のこと。敵の妨害がなさそうな場合、兵員と車両が動きを速め、時間とエネルギーを節約するようにアレンジされる移動。

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FMの他にTRADOC(米陸軍訓練教義コマンド)が発行してるADRPシリーズがあり、こちらも現代軍事コンセプトの理解に役立ちます。
特にADRP3-0 Operationsなど読んでみてください。
https://fas.org/irp/doddir/army/adrp3_0.pdf

【戦闘能力】とは
 破壊的、建設的、情報的能力を統括した手段と定義される。
リーダーシップ、インフォメーション、インテリジェンス、ミッションコマンド、移動とマニューバ、火力、防護力、維持支援の8要素で構成され、相互に影響し合う複合的概念としている。特にラスト6つを戦闘機能と捉え指揮と統制で統合的に調整する。
Elements of combat power_ADP3-0

decisive action

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以上です。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
何か用語などについて、別の単語の方がよいといったように、思う所あればどうか教えてください。

これらの用語の意味はあくまで米陸軍の指揮官が戦術的命令を発する際のものであり、民間書籍はもちろん米軍内の戦史文書の中ですらこのFM3-90添付Bで定義された使い方をしていないものがあると感じます。特にsecure、occupy、control…いいのだろうか、と思うこと多々あります。任務綱領上で誤解を避けるための狭義のものなので他文章ではこだわるものではないのかもしれません。







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Mission Statement = 任務綱領
hull-down = 車体遮蔽。丘などを利用し砲塔だけがでるようにして車体中心部を防護/遮蔽する。
combat-ineffective = 戦闘不能