近世と日本では呼ばれる17世紀欧州の騎兵及び歩兵の発展史は最も戦史で興味深いジャンルの内の1つです。その戦闘の様相が具体的かつ詳細に説明できるのは(そして議論が巻き起こるのは)、素晴らしい史料が複数残されている故です。エンブレム・ブックと呼称される大量かつ精緻な挿絵を使った書籍が流行し印刷され知識を広め、そして保存されました。
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 恐らく17世紀前半の兵士の様相が記されたエンブレム・ブックで最も知名度があるのはジョン・クルーソーの騎兵本などでしょう。他にもヨハン・ヤコブ・フォン・ヴァルハウゼンのコマ割りのような銃兵の挿絵はこの時代に興味を持つ人なら一度は目にすると思います。

 今回紹介するのは上述の者達と比べると知名度で劣りますが、やはり貴重な記録を残してくれたハーマン・ヒューゴの遺作となった書籍です。亡くなられた直後の1630年に出版されました。彼の書籍の絵はどちらかと言えば1626年出版のブレダの戦いについて焦点を絞ったものの方が目にしやすいかもしれません。そちらの方はスピノラ将軍の戦いを緻密に記録した本で全体図も多くの歴史家が参考にしたと思います。


 1630年発行書籍は主に騎兵の隊形について書かれていますが、全体陣形も複数あり非常に興味深いものとなっています。

】De militia equestri antiqua et noua ad regem Philippum IV libri quinque
著者】Herman Hugo(1588-1629)、Cornelis Galle(1576-1650)、Jacques Callot(1592-1635)
出版年度】1630年
使用言語】ラテン語

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 wikimediaにおいて絵のページのまとめを造ってくれている方がいらっしゃいるものの、途中で止まっています…。また記事には殆ど使われていません。
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:De_militia_equestri_antiqua_et_noua_ad_regem_Philippum_IV
 本記事では紹介のため挿絵のみを抜粋しておくこととします。かなり簡易な紹介記事となりますがご容赦ください。wikimediaの方のカテゴリーまとめに画像の端的な解説付きでまとめてくれる人が復活したら、そちらのリンクだけにしてここの画像集は消そうかと思っています。或いはどなたか本文のラテン語翻訳をして頂けたら…。どうかお願い致します。


_____以下本文___________________________________
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< p.0_タイトル >

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< 左_p.138 右_p.149 >
基本的に右手に銃は持ち左端のみが左手に持っている。

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< 左_p.150 右_p.154 >
待機する馬。p.272やp.274の全体布陣図の中では中央最後尾に置かれている。目隠しして馬群の横隊を突っ込ませるような類ではない。
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< 左_p.192 右_p.193 >
 いわゆるランバス隊形が描かれている。方向転換の有効性が説かれるが楔型と比較されながら議論になる。衝力についてはハルケバイザーのみにHugoはこの図を用いたことに注意。槍騎兵の隊形は後半に登場するが薄い横隊を有効的としている。→レイターの練度、士気に基づくフォーメーション効果と比較へ。
 菱形隊形は戦史においては古代マケドニア王国軍が活用したテッサリア騎兵の事例が挙げられる。
 楔型隊形は方向転換の強みに着目することが多いが、槍騎兵、騎銃騎兵、短銃+抜剣騎兵で隊形が内包する各性質の度合いの変化に留意。

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< p.194 >

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< p.211 >

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< p.219 >

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< p.258 >
槍騎兵

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< 左_p.259 右_p.260 >

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 < 左_p.261 右_p.262 >

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< p.263 >

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< 左_p.266 右_p.267 >
カラコール

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< 左_p.268 右_269 >

 左_少数の横隊を複数かつ移動スペースを残して並べる。全体として楔型を形成。最も柔軟だが最も命令無視及び逃走、統制崩壊が起きやすい。
 右_密集隊形の縦列数ごとに性質が違うことを強く認識しており、論争があったことを確認できる。逃走を防ぐ意味合いの強さと火力の展開効率のせめぎ合い。横隊の度合いが強くなると方向転換が難しいが、分散的に各列が逐次出て行く場合は別。

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< 左_p.270 右_p.271 >
 ・先頭楔型+後方横隊の組み合わせで偵察、ハラッシング→最大火力の連携となる
 ・鋒矢(先頭楔型+後方密集縦隊)の組み合わせで対応力を上げている
 間隔の空いた複数の小部隊の一体的連携が必要。士気、命令伝達の速度と詳細度を考えるとこの真価を発揮できるのは練度が極めて高くなければならないはず。初期配置のみ?

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< p.272 >
 中央に描かれているのは槍をおろしている歩兵。後方には待機する馬群。

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< p.272 fig1 >

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< p.272 fig2 >
 各部隊を先導する騎兵の位置に留意。
 銃歩兵隊は前面、後方に槍歩兵隊、両翼に騎兵隊となっているが騎兵隊の位置は槍歩兵隊より前に出ており最前面のラインが銃歩兵隊と揃うようになっている。敵が突進してきた場合に銃歩兵隊がセオリー通り射撃後に槍歩兵隊の傍に待避すると自動的に騎兵によって包囲的位置関係になる。比喩的に言うなら弓形(弦が薄く動きやすい銃歩兵隊、弓幹が堅い槍歩兵隊の中央と、動きやすい騎兵の端)

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< p.272 fig3 >
 中間地帯にいる騎兵に留意。

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<  p.274 >

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< 左_p.275 右p.276 >
 全体陣形状は同じでも中身のA,Q,Mの位置関係が違っている。

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< 左_p.277 右_p.278 >

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< 左_p.279 右_p.281 >

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< p.298 >
 これは古代(ローマ)の隊形を紹介するための図。

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< p.298 >
 中央には槍歩兵方陣を中心に周辺+4隅に銃歩兵隊を1セットとした大隊方陣。





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以上です。
他に何らかの資料や分析本をご存じの方いらっしゃったら、どうか教えてください。