「カバゾス将軍が37の戦闘指揮訓練プログラムの先任管轄者としての経験を述べた所によれば、指揮将校学生を含むあらゆる(米軍の)指揮官は少なくとも一度は彼らが機動防御と呼んだ作戦を実施してきたという。さらに続けて彼は断言した、現在に至るまで機動防御を1度でも実際に実行した指揮官は1人も存在しない、と。」
「戦術について真面目に取り組む学生なら皆、現在の米陸軍ドクトリンに組み込まれている2つの基本マニューバ形態の概念的な理解を深める必要性にすぐに直面する。」
本記事は日本で機動防御と呼ばれる防御形態について、特に米軍の解釈とそこに巻き起こった混乱に関する基礎情報を記します。別途製作する論文及び教範の抜粋試訳を読む際の基盤にして頂けたら幸いです。誰もがわかっているようでいざ話してみると詳細が一致せず、米軍の教範に書かれていることを深く考察すると様々な疑問点が生まれ出でます。むしろ教範を1つしか読まない方がその迷路に入らずに済み、年度別版や実戦用の師団や旅団の教範など複数を読み進めていくと謎が深まっていきます。
本稿は混乱を紹介するものであり、解答を示すものではありません。この難題に関する考察や資料が何かあればどうか教えてください。
___以下、本文_________________________________________
【言葉の前提】
※ mobile defenseの日本語化の際に「機動防御」をあてることが多いが(少なくともmaneuverを巡る概念的発展があった現在では)無用な混乱を生んでしまうため今回は避ける。機動とは何か、別の言葉の方が良いというよくある議論以前にこの場合はmobileの話しとなる。mobileは移動能力が高いこと/可動/運動可能が(拡張しない場合の)その意味である。モバイルだと明記することはソ連・ロシア軍のマニューバラブル防御との同一視の誤解を避ける上でも役に立つ。ロシアではmobile defenseを米英日などが使う防御バリエーションの1つと紹介した上で、自軍の基幹コンセプトにはポジショナル防御とマニューバラブル防御を用い、mobile defenseは採用していない。よって機動防御という語では何を指すのか不安定になってしまうので、「米軍の防御方式」を紹介する本稿ではモバイル防御と言う文字を使うこととする。
※日本で使われる「機動打撃」という言葉は米軍のモバイル防御の基幹説明文(FMのOperationsの該当章、1954年版~現在時点まで全ての版)には存在が確認できなかった。あるのはmobile striking forceであるが、このモバイルはforceにかかっている。他の文章を読んでもmobile forceやmobile reserveが登場してもmobile strikeで完結する言葉は現れない。(ニュアンスは部隊を移動させて打撃をするものだと伝わってはくるので個人的にはそれほど問題ある言葉だとは思っていませんが、米軍の概念を説明する際には一応避けておこうと思います。他では使うかもしれません。)
________________________________________
モバイル防御を定義する上で考えるべき根幹的な質問は「何が動ける性質を持つのか」である。ここにエリア防御と区分するための特色性を見出すことに米軍は苦しんでおり、そして実はロシア軍と着眼点が違う所でもある。また「どういう動きなのか」も重要な要素だ。
米軍ドクトリン上でその明確な指定はないが、文中でmobileだと述べられるのは各防御拠点の戦力とは別に置かれ、状況に合わせ投入する部隊である。mobile units/forceと記されている。恐らくそれに基づき、単純化して「部隊が移動して打撃する防御」がモバイル防御だと主張するのを見かけることがある。これはエリア防御を「陣地の阻止火力による防御」とイコールで捉えるのと同じ不具合を生じさせるものであり、米軍も教範中にそのような定義はしていない。モバイルの打撃戦力(striking force)または予備(reserve)は確かに重要であるが、それは防御システムを構築する1要素であってシステムそのものではない。モバイル防御に含まれてもそれ全体を定義はしてくれないのだ。
エリア防御の中に(予備)戦力のモバイル運用、特に逆襲が組み込まれていることからもそれは明らかにできる。
エリア防御において、モバイル部隊(mobile units)による逆襲は事実上ほぼ不可欠の要素である。エリア防御をしているある部隊の領域に突入してきた敵に対して、陣地からの阻止火力で減殺し更に予備(または後方梯隊)を投入することで決定的に敵攻撃を破綻させる、というのは至って普通の手順である。故に、エリア防御でのモバイル部隊運用とモバイル防御でのモバイル部隊運用の両方があるのに「モバイル部隊で打撃する」のを定義の基準としてしまうと両者の区分が混迷してしまう。最も初期に抱く疑問がこれだろう。恐らくこの軍事理論の詳細を重視しない書籍では、侵入してきた敵に対して部隊をモバイル運用して撃退すればそれを「機動防御」をしたと書いているのを目にするだろう。それは完全な誤りというわけではないのだが、米軍の定義上では不整合だ。
< 図1:2017年版FM3-0で使われている「エリア防御での逆襲」を示した図 >※図番号は修正、以下同様
逆襲について書かれた箇所を1973年Militery Review12月号の論考から抜粋する。
「エリア防御において、師団は2つの旅団をFEBAに沿って前方防御エリア(FDA)に展開し、そして1個旅団を予備に置いておく。(中略)その(エリア防御の)予備旅団はそのFEBAを回復するための逆襲に備えるよう指示される。(中略)もし敵突入が進展してしまったなら、各階梯の予備がその突入部内にいる敵戦力へ攻撃をしかけ、敵を撃退しそのFEBAを回復させるよう試みる。」
「モバイル防御の現行版において、師団は通常は2個旅団をFEBAに沿って前方に配置し1個旅団を予備として置いておく。(中略)通常は1個旅団が幾つかの所定ラインの前方で敵を遅滞及び封じ込めをするように指示される。もう一つの旅団は通常は防御するよう指示される。その防御を行う旅団には、その旅団及びその隷下各部隊が重要な局地的予備戦力を保持できるだけの充分な戦闘能力を配分される。(中略)予備旅団は逆襲する準備をするよう指示され、優先は遅滞行動をしている旅団の区域となる。」
上述で明らかなようにエリア防御でもモバイル防御でも初期配置概観(この場合2個旅団が前で守備をし1個旅団が予備として後方待機する)が同じになる場合がある。何個部隊かは場合によっては違うのでより概念的に言いかえれば「前方に部隊を置き敵減殺を担わせ、後方にも部隊を置きモバイル運用を行う」のは両方に共通するのである。防御の間隙を埋めたり守備要員の交代にも彼らは使われるが、特に逆襲を実施した場合にコンセプト上の差異が極めて曖昧になる。
1968年版師団教範のエリア防御とモバイル防御の図を基に逆襲を描いてみると、似た形が現れることになる。上図左がエリア防御での逆襲であり、右図がモバイル防御での逆襲である。両方とも後方の旅団内に置かれていた戦力を前方の旅団が防御している所に投入している。逆襲のためにモバイル部隊を投入するというコンセプトだけではエリア防御とモバイル防御の区別はつけられない。
米軍がこの混乱を解決するため要素として盛り込んでいるのが打撃戦力の『配分割合』である。最も頻出するのは『bulk of』 force(又はcombat power/unit)という言葉であり、「その指揮官が有する戦力の内の大部分」をどう扱うかで分けるというものだ。モバイル防御はその戦力の大部分をモバイル部隊に置きそれを打撃戦力と呼ぶ、というのが米軍の定義の一部である。(2019年版ADP3-90参照)
日本語では「陣地の阻止火力を主体とする防御」と「モバイル戦力の打撃を主体とする防御」という表現がある。一見意味がわかるように思えるが、防御における何の主体なのか、そして主体と言えるのはどんな水準になったらなのかをぼかした書き方になっている。(敵損失量 / 自軍戦力配分割合 / 決勝点となる所 / その他の内のどれなのか、そして何を持って主体と言える水準に達したかの不明瞭さ、複合条件の不安定性。)それを明確化するため米軍は「自軍戦力の」大部分であるとしたのである。この条件を条件主軸とした場合、WW2やその他戦争を記した各軍事史書籍の中で機動防御と呼ばれている事例の大半がその名にそぐわなくなるだろう。モバイル部隊を運用し逆襲していようとも、全体戦力割合で見て大部分が逆襲部隊に置かれていなければエリア防御と米軍の定義上では区分されるからである。
何%のことなのかが明示されていないのでこれも混乱の元だが、大部分と言うなら51%以上になると仮定する。戦力の物理的重心位置という観点において、その重さの大部分が打撃部隊に置かれていて彼らが移動すれば、部隊全体の重心も大きく移動するのでその様相はモバイルだと言える。エリア防御より戦力の重心の移動が大胆だ。
これを採用すれば一応は防御を2つに分けられる。ただ区分できるがそれが正しくモバイル防御の様相を表すかは別の話だ。上述の師団のモバイル防御の図3を見て、その予備戦力から1個大隊減らしたら他は全く同じだろうとエリア防御となってしまうことをすんなり受け入れるわけにはいかない。bulk of を60%以上あるいは40%だと議論することは本稿ではしないが、この条件を定義の基軸とするならいずれ必要になるだろう。
_________________________________________
それを許容したとしても混乱は続く。なぜなら保有部隊数だけでは矛盾する状況が幾つも発生するからだ。
例えば1973年Militery Reviewや1968年師団教範でのモバイル防御の初期配置について、師団司令部は隷下の3個旅団の内2個を前方のFEBA付近に置き、1個を後方予備としている。(そしてエリア防御も全く同じだ。)ここで旅団数で数えると前方の方が多いのでこれではモバイル防御ではないと言われてしまう。そのため「予備旅団は戦車の重部隊で4~5個の大隊から構成され、機甲騎兵スコードロンももし他に任務がなければ割り当てられる。」という文章を入れて大隊数で数えた時に予備の占める割合が50%以上になるように書いている。旅団数では無く大隊数で数えて初めて大部分だと言えているのである。もし大隊内訳が大きく違えばこれすら機能しないだろう。
つまり上位階梯指揮官の視点において、部隊数を基準とした配置ではこの定義は機能せず、中身を調べて初めて有効になるのである。よってこの「戦力の大部分をどこにおくか」はより正確に『物量』と記述しなければならない。
だがここで更に問題が起きる。物量と言っても部隊には機甲や歩兵など多種があり一概の計量ができない。
< 左図4:1973年版軍および軍団教範_モバイル防御の例 >
別兵科部隊の割合をどう評価するのか個々人の価値観で振れ幅がある。例えば機甲部隊所属の人員なら戦車2個大隊は機械化歩兵3個大隊より遥かに「重い」と言うかもしれないし、逆に歩兵部隊所属の人員は歩兵軽視を招きかねないことを避けるだろう。前方に4個機械化歩兵大隊+1個戦車大隊が守備につき、後方の予備に4個戦車大隊が打撃に従事する予定で置かれていた場合、これはエリア防御だと上述の定義で判断できるかといった議論になってしまう。
具体的に1973年の軍及び軍団教範において左図4がモバイル防御の例として図示されているが、逆襲戦力は物量が明らかにbulk of forcesでないにも関わらず彼らはそれをモバイル防御だと言っている。この場合はモバイル性質の強い機甲師団が打撃戦力として投入されているからモバイル防御と呼んでいるように思える。
モバイル的性質の戦力を機械化または機甲部隊と新たに定義し、「戦力の内の大部分が」ではなく「全モバイル部隊の内の大部分が」という定義に絞ることも考えらる。しかし現代の米軍の機械化水準では解決策とはならない。
_________________________________________
< 左図5:2個+3個大隊前方で4個大隊がモバイル部隊の防御_エリアorモバイル? >
そしてもし純粋な同一規模部隊だったとしてもこの定義をすんなり受け入れてよいだろうか。例えば大隊が同一物量だと仮定して、前方2個旅団の内のA旅団が2個大隊保有でB旅団が3個大隊保有であり、後方のC旅団が増強され4個大隊を有しているとする。前方は計5個大隊で後方のモバイル部隊が4個大隊なので、もしbulk ofの基準が51%以上だとするとこれはエリア防御になる。
これの違和感は逆襲戦力が他のあらゆる部隊より大規模でありモバイルの運用をしているにも関わらずモバイル防御ではない、と言っている所だ。
ここでもう一度教範や論文を読み返した時目に入るのが「major」といった『主要な』を表す言葉だ。主要とは相対的な位置づけであり51%以下であっても他と比べて最も多ければその言葉を使う可能性がある。上述仮定のA,B,Cの旅団の内で最も主要な部隊とはC旅団であり、大半の部隊による打撃ではないが、後方の主要部隊による打撃とは言えるのだ。これなら上述の軍団の図でも一応モバイル防御だと言える。
だがFMにもADPもmajorを定義の主軸にはしておらず、bulk ofの方が使われている。それに比較する階梯における部隊数が細かい場合、主要な部隊でもそれほど多くない可能性もある。多数の小規模部隊が連動して小規模逆襲をし総体として大規模な打撃となる場合はどう扱うかも考慮しなければならない。他にも、遠大な距離の戦線の各所を1つの火消部隊が駆け回って戦線各所を突破してきた敵を次々打撃して決定的な役割を担ったとしても、戦線全体の方が量が多いからエリア防御だと主張するのが戦力割合基準の定義なのだ。
防御概念の区別を考える際に、その逆襲部隊の量が多くないからモバイル防御では無いと単純に言っていいか慎重になる必要がある。戦力配分割合はおそらく重要な要素であるが、元に立ち返ってモバイル防御とエリア防御をそれぞれ特色づけている要素に目を向けることとする。
その前に無用な混乱を避けるために階梯(師団、旅団、大隊...など各々のレベル)の話を入れておく。
「The two levels of counterattacks are major and local counterattacks.」
立案時の混乱と誤解を避けるために必須の区分がある。モバイル防御とエリア防御を階梯ごとにしっかりと基準と整えて見るということだ。この区分は定義を直接もたらしてくれるものではないが、それを取り巻く多くの曖昧さを解消してくれるだろう。
なぜ立案時または命令文中に階梯視点区分が必須かというと、ある階梯の司令部の部隊全体で実施する防御形態がその隷下部隊個別の実施する防御形態と一致するとは限らないからだ。従属部隊各々の行動の組み合わせがその上位司令部の計画した防御形態である。図3をもう一度見ればわかりやすく、師団全体がモバイル防御をしている時でも前方に配備された旅団の区域内での視点でみればエリア防御または遅滞行動を前方旅団自身は実施している。
< 左図6:旅団のモバイル防御であり且つ師団のエリア防御 >
逆に左図6の例において、前方左側の旅団が有する3個大隊の内で後方に置かれていた1個大隊が戦力の大部分を有していると仮定すると、この旅団は旅団階梯でのモバイル防御を実施しているということになる。そしてこの旅団を有している上位階梯の師団司令部の視点では、師団の予備(後方の大部分戦力)を投入しておらず前方の旅団区域内で敵攻撃を撃退したため、師団はエリア防御を実施したことになる。
_____________________
時折この階梯区分をせず混同している書籍が見られる。師団あるいは軍団規模以下で行われたモバイル運用を指して機動防御を軍や軍集団が行ったと言われてしまうがこれは誤りだ。ただしこれも書き方が少し変われば正しくなる。例えば軍そのものがモバイル防御をしていなくても、軍司令部(司令官)の直接指示で隷下軍団や師団がそれをしたなら、「軍司令官は」モバイル防御を使ったと言える。軍事コンセプトを重視するなら、主語と使役動詞及び目的語をしっかりと省略せず書く方が良いだろう。
_____________________
この区分で見ると、ある階梯の部隊が自身の区域内で且つ自身の戦力だけでモバイル/エリアいずれにせよ防御に成功したら、その上位階梯部隊はエリア防御を成功させたということになる。
ある階梯の部隊がモバイル防御をしたとして、もしその隷下部隊を前方においたらそれら隷下部隊自身はエリア防御または後退行動を実施することになる。
階梯ごとに視点を分けた時、打撃戦力が自身の置かれていた最初の区域線を越えるか否かという要素は防御の実施に重大な差異を幕僚たちに与える。特に命令を出す際にそれは意義を持つだろう。
__________________________________________
階梯を分けた時、逆襲もまたそこにあった曖昧性が一部解消される。それは英語でmajor counterattackとlocal counterattack、日本語で主逆襲と局地逆襲と呼ばれる分類のことだ。凡そニュアンスやすることはわかるのだが、誰にとってのローカル/メジャーなのかが判然としない場合がある。
階梯で視点を分けると具体的に部隊規模名を書き、そして基軸となる階梯の主語を入れてローカルを使う際にはlower/higher echelonを判別できるようにれば無用な混乱を避けられる。上図の例で言えば旅団予備の大隊による逆襲なので旅団逆襲となり、師団にとっては下位階梯範囲内での逆襲、旅団にとっては自己階梯による逆襲、前方の大隊にとっては上位階梯による逆襲だ。
これらを踏まえた上で別要素の検証に移る。
幾つかの教範中のモバイル防御の章内に、その戦闘/作戦行動をとる縦深が非常に深くなる可能性があることを示している記述がある。モバイル防御では戦力の乏しい前方配備部隊が突破されるか遅滞行動を執りながら大幅に後退する可能性があるため、自軍領域の奥深くで打撃戦力が駆け付けて決定的戦闘をすることを基本的に考慮しておくべきである。
しかし結論を言うと縦深性での区別は全くできない。自軍領域の深くでの戦闘はエリア防御でもあり得るものだからだ。例えば打撃戦力が集まらない場合に縦深に散らばった各防御ポジションにどんどん配置し、後退も許す(そして逆襲も複数回行う)ことで相手の突進の勢いを長大な領域で摩耗させ最後には止めてしまおうと言うのは特殊な発想ではない。縦深性で区別できるのではないかという主張は、エリア防御を前方防御のイメージで捉えていたり或いは陣地の阻止火力によるものだと言う狭義的認識をしているために引き起こされている。時折モバイル防御こそが縦深防御なのだと主張することすら見かけるが、縦深性の影響力はもっと広範に渡る。現代の米軍教範では明確にエリア防御の章内にDefense in Depthという項目を作っており、自軍の奥深くまで至る全領域での戦闘をする考えはモバイル防御であろうとエリア防御であろうと共通して組み込まれている。
________________________________________
またモバイル防御は殆どが敵を引き込むことになるが、ドクトリン上において相手を深く引き込むことは絶対的な定義にはならない。明文化された目標は「攻撃してくる敵戦力をより不利な場所へと方向限定」していき打撃戦力は防御側にとって「最も好ましい時と場所で」敵を攻撃するのであり、つまりもしそれが比較的前方で起こるならば遠慮なく打撃するであろう。現行のADP中にも「決定的逆襲に晒される地点へと敵が前進するのを許容することによって」と書かれておりあくまで許容するだけで「必ず深くまで前進させよ」とは書かれていない。奥地かどうかではなく晒される場所かどうかだ。(ただし、米軍の現行定義とは違うものだとしても、これをモバイル防御の重要要素と捉える考え方は非常に有意義な再定義をもたらす可能性があるので後述する。)
多くの場合で奥深く引き込む状況を想定しているのは、それにより敵攻撃の勢いが消耗して尚且つモバイル部隊との距離が縮まるという理想的状況に近づくからであり、少数の前方配備部隊だけで有利な機会をいきなり創れる現実性が低いからだ。
それにエリア防御での縦深防御の場合でも、前方は欺瞞の防御帯として置き敵に踏み込ませてから強固な主陣地帯の火力または逆襲で粉砕するのは普通の計画であり、かなりの距離を敵に進ませることもある。現代の防御形態において全く相手をエリア内に引き込まないのは極端な前方防御の場合のみであり、セキュリティまたは遅滞行動を合わせ程度の差こそあれ引き込みは発生する。
深く引き込むかどうかは定まった防御形態では無く指揮官が状況に合わせて選ぶ戦術的バリエーションである。
______________________________________________
モバイル防御においてその広大な縦深の奥まで防御部隊は後退をすることができるので、敵が前進を(早く/長く)し過ぎて短期的なロジスティクス上の問題を発生させ瞬間的な戦闘能力低下を引き起こすことが期待できる。その瞬間を見逃さず打撃することが望ましいとされている。ただし当たり前だがこれは敵側の事情によるので必ず起きるとは言えず、あくまで狙う理想というだけだ。打撃に好都合の時と場所は諸条件を複合的に考えて決定される。
影響力は絶大ではあるがそもそも部隊規模が小さすぎるとあまり期待できないので、FM3-0第6-174項では「師団や軍団」といった規模が比較的大きい戦闘エリアを持つ階梯の時に敵連絡線を過度に伸ばすことを引き起こすのを言及している。
別の争論を呼んでいるのは『攻勢限界』だ。FMのモバイル防御の説明の中に「敵が(攻勢)限界に達した時に打ち負かすためにその予備戦力を使用する」と言う文があるために、奥地引き込みを連想させているだろう。ただこの言葉はもっと根本的に攻勢限界とは何なのかそして果たして実戦の計画上で有意義なのかという議論に入ってしまう。限界点ではなく限界エリアだというよく聞く話はまだ簡明な部類だ。その広い戦場と戦力に散らばる無数の変数を統合し相対的比較した限界点というのが予め定まるのか(結果論でなく、計画立案に使えるのか)は厄介な問題である。ADPのモバイル防御の項目にはこの単語は使用されていない。これ以上は話が逸れるのでここでは踏み込まないこととする。
ちなみに「攻勢限界に敵が達した時にそれを倒すために予備戦力を投入する」のはFM3-90-1に記されているように、エリア防御での逆襲でも為されるのでいずれにせよモバイル防御の特性扱いはされない。巧みな逆襲のためのノウハウと言うべきだろう。
______________________________________________
敵進撃方向についても議論がある。勿論自軍にとって都合の良い場所に誘引する理想的モバイル防御は望むべき姿であり教範中の説明事項に記されてはいる。ただ、前方部隊は敵進行方向限定を試みるがその少数戦力で耐えられない場合があるのは想定の範囲内であり(むしろそれ故にエリア防御を諦めモバイル防御にする傾向が冷戦初期の米軍には強く)、戦線のどこかが食い破られ突き進まれても駆けつけて強力な戦闘能力を投射できるようにとモバイル防御に期待している。打撃を実施する好ましい時と場所というのは相対的な言葉なのだ。それをある程度は防御側が選ぶことができるという点で主導権を奪いやすくなっている。自軍にとって都合の良い場所に敵を誘導することはモバイル防御の条件ではないと考えるべきだ。
或いは逆に、意図した方向への誘引を成功させることをモバイル防御の定義としてしまうのも一考の価値がある。ただしその場合は誘引が失敗したり予想外の場所での敵突進に対してモバイル部隊を投入するケースを別の定義に入れ込む必要がある。または最上層定義にはいれず、バリエーションの中に入れることも考える価値がある。(後述)
______________________________________________
なぜこの奥地引き込みの話をしたかと言うと、ある指揮官が正確かつ早期に敵主攻箇所を特定した場合の対応を考えたためだ。または情報機関が活躍し敵の攻撃が事前にあると教えてくれていた場合だ。その指揮官が優れた判断で迅速に主要なモバイル部隊をそこへ動かして防御成功し(そして次の場所へまたモバイル部隊を再移動させて防御したら)、それはモバイル防御と言うべきだろうか。
敵攻勢事前察知のケースで起こり得る理想の1つが『敵攻撃妨害攻撃(spoiling attack)』だ。この要素は名の通り攻撃的行動であり、FM中では攻撃の6形態の内の1つとして数えられている。敵攻撃が発起される前の準備段階で自軍が討って出てその準備中の敵に攻勢能力を失わせてしまおうという試みである。
これは逆襲と同じく、全体で見ると作戦的守勢期であるにも関わらず部分的に攻撃的行動を防御側が執る。長距離で運用できる火砲または航空戦力による攻撃妨害攻撃が主となるはずだが、敵領域奥へ迅速に前進する必要がある場合は地上戦力はモバイル部隊がそれを担う。それも強力な打撃力と速度を有する部隊だ。
情報が筒抜けで敵がまだ攻勢に出てこないと分かっていれば、大胆な指揮官は前線各ポジションの戦力を削ってこれを実施するだろう。もしかしたら「防御戦力の大部分を集めた打撃戦力」まで至るかもしれない。するとその攻勢的防御行動はモバイル防御の形と似通っていく。違いは敵が攻勢実施中であるかだけだ。それも逆襲とは攻勢中に敵攻撃が一時停止した際に行うのが好ましいという条件から見れば形状の差異は更に薄くなる。この大規模なモバイル部隊を用いた守勢での攻撃行動はモバイル防御と言えるのだろうか。
攻撃的行動であるので防御ではない、と言うだけでは不十分だ。なぜなら戦術的な攻撃行動としてのspoiling attackは、作戦的守勢の中での活動で起こり得るからだ。そもそも攻撃的行動でないから防御から除外すると言うなら逆襲も扱いを考え直さなければならない。米軍の定義においてspoiling attackという1要素は防御の項目の中にも存在している。(ただし米軍の現行教範の様に防御中の攻撃行動を決定的要素と見なすのではなく、ロシア軍のように防御そのものの決定的条件とは見なさず、別の視点で防御に関連した攻撃行動を位置づけることは有意義である。)
もしモバイル部隊を投入し敵を打撃するのがモバイル防御だとする狭義の話で済んでいれば敵攻撃妨害攻撃もそこに含まれるだろう。だが上述のようにモバイル防御の米軍内定義はモバイル部隊の有無では無く、エリア防御でも起こり得るため一概に言えなくなってしまっている。
________________________________________
実際に敵攻撃妨害攻撃が現行のFM3-90-1のどこに含まれているかと言うと、序盤の章で言葉の意味を説明した後にエリア防御の章内でどう運用されるかが記されおりモバイル防御の章にはspoiling attackは登場しない。一方でFM3-0のモバイル防御の範囲には敵の勢いを削ぐためにspoiling attackを1回かあるいはそれ以上計画するだろうと書かれている。(第6-178項参照) 1968年版師団教範では機甲部隊が討って出ることを強調する図となっている。
攻撃妨害攻撃は逆襲と同じくその扱いを米軍は測りかねており、bulk ofのような量的な区分も現在されていないため完全に浮いた存在となっている。冷戦中期に米軍は対ソ連開戦時に受動的となる想定で動いていたため攻撃妨害攻撃は一時期軽視されたこともあったのも影響しているかもしれない。
「現行ドクトリンは(中略)先制攻撃とFEBAで停止しない(敵の予備と支援火力を志向する)逆襲についての重視も失われている。」(Military Review 1973 p.17より抜粋)
これは引き込みが定義の一部かという議論を考え直す促進剤となるだろう。上述では現行の定義ではエリア防御でも縦深引き込みはあるから区別にならないことは明らかにしたが、それはエリア防御の中には引き込みをすることがあるというだけで、エリア防御とは引き込みをすると定義したのではない。モバイル防御での引き込み要素は、現行のドクトリンでは完全な条件とは言えないが、重大な要素であることは間違いない。もし引き込みの縦深距離を規模ごと(浅い深いの何らかの基準で)に規定した上で、それがあるか無いかを基準に再定義してしまうならば、それはもしかしたら意義を持てるかもしれない。例えばspoiling attackはエリア防御だと言えるし、モバイル部隊が前方へ駆けつけるのもエリア防御だ。
当然これでは小規模なモバイル部隊による縦深での逆襲はどうなのかと問われるし、他にも再定義する必要があり特にエリア防御が大規模な改定をしなければならず、その中で複数の問題が起きるだろう。
この思索で提起したことは今とは別のものを主基準として再定義した方が明確化するのではないかということだ。最初に「モバイルとは何が動くか」と言う問いで、予備または打撃戦力がmobileと書かれていると述べたがそれは果たして良い基準だったろうか。逆襲でのモバイル部隊運用はエリア/モバイル両方でするのにそれを基準にしてしまったが故にbulk ofに関する議論が必要になり、更に他の要素での定義が跳ねのけられてしまってる。もし引き込みを定義とした時、モバイルとは何が動いているのだろうか?
理論家の一部が好む表現がその防御の意図(志向)であろう。各意図というのは定義を明確にしやすく、しかも技術や編制が変化しても影響を受けにくい。この場合逆襲や陣地形状といったのものは全てその具象化のためのプロセスであり、防御コンセプトそのものに影響を与えない。
具体的に米軍が選び出したのはエリア防御とは「領土域志向(terrain oriented)」であり一方でモバイル防御とは「敵戦力撃破志向(enemy force destruction oriented)」である、という定義だ。
エリア防御の逆襲は領土域を保持または奪回が狙いとなるため、別に逆襲で敵を撃滅する必要はなく、敵を打ち倒し(defeat)したり攻撃を頓挫させて諦めさせることで退かせてしまっても良い。モバイル防御の逆襲はただひたすらに敵を撃滅することを狙いあらゆる手段を使うため、領土域は放棄しても良い。
だが実践されるモバイル防御とエリア防御の姿に明瞭なる差異をもたらしてくれはせず、この基準はかなり早期からあったものの米軍内の論議は続くことになった。そもそもエリア防御の逆襲だろうとモバイル防御の逆襲だろうと、敵攻撃を負かす(defeat)のと撃滅する(destroy)はすることになるとされている。「The mobile defense focuses on defeating or destroying enemy forces」(2019年版ADP3-90第4-17項)
領土域を護るために敵撃滅を狙う場合、戦力差があり敵撃滅をできるほどではないが戦力割合の大部分をモバイル部隊において移動して打撃させるのを試みた時はどう言えばいいのか、様々な疑問が生まれることになる。
他にも例えば1964年の歩兵学校での記事(翻訳別記事参照)に論述されているように、この志向基準だとエリア防御にも齟齬が生まれる。
エリア防御とはFEBAで(at)相手を撃退するものではなく、FEBA付近(near)の戦闘つまりその内部に敵が入られることを想定の範囲内とするものだ。そして縦深防御においてその戦闘範囲はかなりの敵前進を戦闘推移次第では許容する。この様相を説明するにおいて『領土域志向』という言葉は明瞭さを下げていく。誤りというわけではない。エリアという用語にポジションから修正したおかげで、幾つかのポジションを放棄する場合があり、エリア全体で見てそれが破綻しないように保持するのだという思想がしっかりと表現できている。縦深まで敵が進んでくるとしてもエリアを破綻させないということは即ち、後方にあるクリティカルな地域までは行かせないか、エリア全体として敵の侵攻をある程度(恐らく逆襲で回復できるように)コントロールするということになる。『領土域志向』と言いながら部分的または一時的には領土を譲ることを許容するのがエリア防御なのである。
更にここでモバイル防御を考えても良い。モバイル防御は敵がかなりの前進をすることを許容するが、その前進はコントロールされなければならず事前に決めた作戦エリア内で打撃が実行される。もし更なる縦深にあるクリティカルな地域にまで到達されては、或いは打撃戦力が対処できないほど前線のあらゆる所が突破され敵がなだれ込んできてはモバイル防御は破綻するのだ。縦深のエリア防御とモバイル防御は共に領土を「部分的に」譲り、だが核心的な地域は奪われる前に、前者は各ポジションによる阻止火力と小規模な逆襲を用い後者は打撃戦力に頼ることで敵攻撃を失敗させる。これらの差異を説明するのに『領土域志向』という用語だけでは充分でなかった。
_________________________________________
「『エリア防御は領土域志向である一方でモバイル防御へ敵志向だ』といった過度に単純化したフレーズが使われたりする。別の好まれがちな説明は、エリア防御の意図とは領土域を保持することであり一方でモバイル防御の意図とは敵を撃破することである、と仮定することだ。これらの説明によって提起される疑問は明らかだ。例えば『エリア防御では敵の撃破は二次的な重要性であり一方でモバイル防御では領土域は放棄できる、ということを意味するのか?』というものだ。この疑問への答えは『いや、必ずしも正確ではない…。』だ。」(1964年 Infantryより抜粋。)
__________________________________________
また、モバイル防御の『敵戦力撃滅志向』というのも議論を呼ぶ表現だ。そもそもオリジナルのモバイル防御とは『戦力撃滅志向』ではなく『戦力志向』であったのではないか、という主張は注視するべきものだ。(Walters少佐の1993年の論文を別記事に翻訳したので参照のほど。)
Walters少佐は米軍の原初のモバイル防御を調査するにつれ、モバイル防御の最初の姿とは(想定される圧倒的な物量または大量破壊兵器を持つ)敵の攻撃の最も激しくなる前方付近に自軍戦力を集中させるのは撃破されるリスクを高めるものであり避けるべきだとして、後方に戦力を置いて『柔軟性』を得る戦い方をしようというものだったと考えるようになった。その柔軟性ある戦い方の中で打撃戦力を運用していたのだが、次第にそちらに基準の焦点が移ってしまい『戦力志向』から『戦力打撃志向』に変質したという主張だ。
少佐の指摘は非常に鋭いものであり、更に縦深防御とはモバイル防御であると主張する幾つかの論文が見られる背景も暗に示してくれている。そのオリジナルにおいて縦深のエリア防御とモバイル防御の概念は一部が混ざっていた。
__________________________________________
「(かつての)モバイル防御とは前線からその移動可能な戦力を立ち去らせ、敵の大量破壊兵器による打撃エリアと思わしき所をよけて、戦力比劣勢故に不可避となる敵の突破に対して『融通の利く』状態になることができる後方エリアへと移動させるものであった。モバイル防御は戦力志向であり、必ずしも戦力破壊志向ではなく、地域志向では確固として無かった。『戦力破壊志向』よりむしろ『戦力志向』というこの単一の、単純な言葉の中にモバイル防御を取り巻く混乱の大部分があるのだ。」(1993年 L.Walter少佐の論文より抜粋。)
「現行ドクトリンは以前のドクトリンでハイライトされていた分散と急速集結(dispersion and rapid massing)の重視をしていないようだ。」(Military Review 1973 p.17より抜粋)
__________________________________________
これらは現在の米軍の使う『意図(志向)』による基準の不安定性を証明するものだった。これに関連し主導権と柔軟性の議論もあるが、ここでは詳細は取り上げない。
個々の要素はそれ自体で明確な基準にならずどちらとも取れ、しかもそれは各人の各要素の重要性に関する価値観によって大いに上下するものだった。そしてその揺らぐ諸要素を組み合わせて作られた朧げな輪郭の防御コンセプトを「機動防御」と呼んだ。上述の提議はそのごく一部に過ぎずより詳しい考察と独自提案は多岐に渡る。米陸軍指揮幕僚大学での議論が紛糾しいくつも論考が掲載され、その教範の内容は激しくブレながら変遷を続けてきた。それでもドクトリン執筆者達は様々な試行錯誤をしとりあえずではあるが許容できる説明に落とし込んだ。主に戦力の集中性、移動性、志向性で特徴づけられたモバイル防御は、各々の要素の程度によって定義的紛糾はあろうが、防御の1つの形態が確かに存在することを示している。細部を修正する必要性は残り今後も記述は変わっていくだろう。当面の間米軍が抜本的刷新をしなければ破綻するような強大な敵と直接対峙することはないと予想されるので、問題は漸進的に解決を試みる時間が残っている。
以上をもって米軍のモバイル防御を巡る争論の基礎情報は紹介したものと考える。これを前提とした上で本題である論文及び教範の翻訳文へ移る。
以下には現在の米陸軍の教範中の防御の項目と、モバイル防御の定義的問題点についての論文の試訳を載せる。他にも多数の論文や教範があるのだが全て翻訳はできないため一部とする。試訳したのは下記部分である。
・1954年版FM100-5 Operations 第9章_防御
・1960年版Landing Party Manual_第10章_防御_陸戦隊の教範中でのモバイル防御とポジション防御
・1964年論考_Infantry_防御マニューバ_歩兵学校の定期誌でのモバイル防御問題の論考
・1973年論考_Militery Review 12月号_柔軟対応ドクトリン
・1993年版FM100-5 Operations 第9章_防御の基本事項
・1994年論文_Mobile Defense : Extending the Doctrinal Continuum_モバイル防御の混乱について新条件を組み込んで解決しようとした論文(本文全翻訳)
・2001年版FM3-90 Tactics 第8章_防御作戦の基礎(MBAとFEBA、Battle positionの定義)
・2015年版FM3-90-1 Offense & Defense _第7章_エリア防御(縦深防御と前方防御)
・2019年版ADP3-90 Offense and Defense_エリア防御とモバイル防御そして後退行動の定義
続き↓リンク
【翻訳資料_機動防御と陣地防御_教範と論文】
http://warhistory-quest.blog.jp/20-May-26
__________________________________________
__________________________________________
一応他の思考パターンも記しておく。
かつて米軍はドクトリンの最上階層において防御には(主に)2つの形態があるとしてその説明を始めた。もし定義を最も明確にしようとするなら、そのある1つの定義で作られる集合に対しもう1つの定義を補集合とすればよかった。簡単に言えば領土域志向とエリア防御を定義したのならモバイル防御を『非』領土域志向と定義する話だ。或いはモバイル防御に対し、非モバイル防御と呼ぶ方式だ。また、定義を付与する対象を統一することで基準を設けることは混乱を解消するために必須であったのにそれが為されなかった。例えば後方の部隊を対象にしたモバイル防御の条件に対になるのは同じくそれを対象にしたエリア防御の条件であるべきだった。だが実際は片方が後方部隊の条件を説明しているのにもう片方は前方部隊の条件を説明してしまったために曖昧さが生まれてしまった。なぜ補集合の表現を使用しなかったのか、するとどうなるのか、そこに答えがあるように思える。
一応は縦深性の有無や戦力割合は統一基準であり形式上は定義化が可能だった。だがこれらの統一基準で分けようとした時なにが起きたのかというと、それは「エリア」あるいは「モバイル」という既存概念を引き裂く事象だ。統一基準としなかった別構成要素が許容できないほど乖離した。複数統一基準を掛け合わせ、エリア防御集合とモバイル防御集合を独立させようと狭義化すると2集合に含まれない要素が増加する。かといって要素を広げたままだと積集合は巨大なものとなってしまう。
調査をして思い浮かんだのは、エリア防御が極めて広い範囲をカバーする概念でありモバイル防御の要素の殆どを内包する、つまりモバイル防御はエリア防御の部分集合となるのではないか、という考えだ。米軍が定義明確化を試みる際に元には無い統一基準(戦力割合など)を入れ込んだが、これらを除外して考えるとエリア防御を構成する条件はエリアと言う名を含め極めて包括的である。モバイル防御でない防御形態は容易に考えられるが、エリア防御でない防御は表現が難しい。定義修正の試みが完全な成功とならないのは、あるモバイル防御の定義が「それはエリア防御でも言える」という場合が大半だ。エリア防御ではないものを創り出そうと戦力割合などを持ち込むとモバイル防御まで削られている。
エリア防御の定義を拡大しその中にモバイル防御を入れ込んだり、或いは新たな名称の防御形態を最上位階層に置きその内部での有効な行動バリエーションとしてモバイル防御で重視されていた打撃や逆襲あるいは後方配置を取り扱う、といったような階層そのものの変更を行うことは実際の所できなくはないはずだ。というのもかつてアクティブ・ディフェンス導入の際にモバイル防御は作戦教範から一度姿を消し統一されたからだ。この部分集合化の発想を昔のドクトリン執筆者たちは実行したことがあるのである。また新たな分類を導入することを21世紀に入って行った実績もある。ただしアクティブ・ディフェンス統一化の際に起きた数多の問題、特に包括性を得ようとするあまり曖昧になりすぎるのを避けねばならない。内部バリエーションへのスムーズな道筋を立てる必要がある。幸いなことに既にエリア防御の下層に縦深防御と前方防御を設けており、ここと同じレベルにモバイル防御を入れて一部条件を修正して齟齬をなくすという案が現実的だと思われる。(ただ概念上は可能で論理分析に役立てるだろうが、それが将兵の実際の計画と作戦実施の際にどれほど効果的か確証が持てない。)
要するに防御コンセプトの最上層にモバイル防御を記して概念を分離することはやめるという意見だ。
_________________________________________
そしてもう1つのアイディアが、全く新たな統一基準の元に防御を分解して再構築する考えである。具体的提案はポジションを基軸とした防御形式にし、他要素を従属させるものだ。
実はこのアイディアにはモデルがある。それはロシア連邦の防御形態解釈である。ロシア軍はモバイル防御という形態を「米英日などが使う」と述べ、概念を把握しながらも自分達にその区分は採用していない。勿論モバイル部隊による打撃や誘引からの逆襲の概念が欠落しているわけはなく、彼らの分類の中にそれらは含まれている。ロシア軍は一部を攻撃行動の中に、そして防御の2形態である『ポジション的防御』と『マニューバラブル防御』を用いる。そして攻撃様態を『防御中の敵に対する攻撃』『後退中の敵に対する攻撃』『進撃中の敵に対する攻撃』を分けている。
ただロシア軍のポジション的防御とマニューバラブル防御も米軍と同じく、逆襲の所で少し概念的問題を抱えてはいる。それでも非常に明瞭で包括性と具体性を兼ね揃えている。
________________________________________
米軍でも防御概念は発展を続けている。既に21世紀に入ってから米軍は防御コンセプトにおいて、実践上では大きな影響がなかったとしても、概念上かなりの変革を成し遂げた。20世紀最後の作戦教範1993年版FM100-5と現行FM3-0を見比べた時、防御の章の一番初めの根本的な記述において明白なる違いがあったことに誰もが気付いたはずだ。1993年版までは防御には主に2つのフォームがあると言っていた。今そこに書かれる数は3つに変わっている。それはモバイル防御とエリア防御と共にマニューバラブル防御の概念に大きく関わるものだ。そしてロシアのマニューバラブル防御はソ連崩壊期に復活したコンセプトだ。将来米軍がどう変わるかはわからないが、彼らが現状に甘んじないことだけは確信を持って言える。
_____________________________________________
【ロシア軍のマニューバラブル防御】
リンク⇒後日作成
【米軍の陣地防御_エリア防御での前方防御と縦深防御】
リンク↓
http://warhistory-quest.blog.jp/20-May-15
_____________________________________________
終
__________________________________________
以上です、ここまで長い散文を読んで頂きありがとうございます。
本拙稿は次の資料翻訳のための前文として書き始めたものでした。殆どの米軍の論文はこの議論を当然知っているという前提で書かれているため、一応日本語化の際にはその前提を補足しておくべきかと思い記しました。少々肉付けはしましたが上述の話しだけでは到底不十分(個々の記述が少ないのはもとより組み合わせ検討が無さすぎる)なのでぜひ各論文に目を通して考察してみてください。
本稿作成にあたりドクトリンのADPやWW2後~現在までの全ての米軍作戦教範の防御項目に目を通し、より詳細な現場実践用のTactics関係と軍及び軍団教範や師団教範に旅団教範なども比べましたが…調べれば調べるほどわからなくなっていきました。その上で論文読み始めたらとんでもない目にあい、あれだけで力尽きました…。実践を考えるなら1つの年代だけに絞って知識を入れた方が混乱はないでしょう。独自解釈も考察の参考になり一概に米軍の定義と合致していないと否定するものではないと思います。
現在ならretrograde防御改革のおかげでエリア防御かモバイル防御かではなく3つの混在も考える必要があります。実践にいきなり大きな影響があるわけではありませんが、米軍のこの概念変化は素晴らしいことだと個人的には思っています。ロシアのマニューバラブル防御の話しは別途書きますが、こちらも国防省が言っているように現在進行形で発展中のものです。
本拙稿は迷路への入口ですので、この分野がお好きな方はどうか楽しんで来てください。何か思いついた時に教えて頂けると嬉しいです。
記事タイトルを「機動防御という幻」にしようかと思いましたが殴られそうなのでやめときました。
___【メモ】_____________________________________
・Dispersion is that characteristic which differentiates nuclear operations from nonnuclear operations in the defense.
・AR320-5の定義上の「防御エリア」が今は戦闘エリアと呼ばれるようになっている
・withdrawは撤退よりも接敵離脱または離隔と言う方が分かりやすい。
・PK=probability of Kill = 殺傷確率
・ingenuity = 工夫、指揮官の構想力
・entice=誘引する、drawも引き込むという意味で本文中で使用されている。
・Krasnovian =仮想敵国の名前 米指揮幕僚大学では共通名称。
・mobile striking force = 可動打撃戦力
・preemptive attack = 先制攻撃
・spoiling attack = 敵攻撃妨害攻撃
・house of cards = 砂上の楼閣
・countermobility=移動妨害性
・committed =関与約束済み と訳すのが後方部隊には一番
・sub-optimal =最適より下の、最も望ましいものではなく、より悪い
・intent graphic = 意図表現グラフィック。軍が使う戦況図のことを指す場合もある。
・local counterattack=局地逆襲、なのだがprimary=主要な逆襲がこれに当たることもあり、主逆襲がその部隊または防御のprimaryとは限らない。
・offensive-defenseなら攻勢防御なのだが、offensive-defensiveとイコールとしていいか保留。Military Review 第39巻1959年によるとoffensive-defensive=フランス語のretour offfensif=Hans Delbruckの定義上のcounteroffensive=リデルハートのbaited offensive=フラーのoffensive-counter-offensiveとされている。it is the combination of defensive and retrograde actions with the coutnerattack to destory the enemy. W.バルク中将の書籍の英語化でもこの用語が使われている。
・この混乱の大きな要因は戦場の流動化により攻勢と防御が分離できない事象が巨大化したことによる。
(G.L.Walters少佐, (1993), "Mobile Defense : Extending the Doctrinal Continuum", p.2 より抜粋)
「戦術について真面目に取り組む学生なら皆、現在の米陸軍ドクトリンに組み込まれている2つの基本マニューバ形態の概念的な理解を深める必要性にすぐに直面する。」
(米陸軍歩兵学校, (1964), "Infantry", p.27)
____________________________________________________________________________________本記事は日本で機動防御と呼ばれる防御形態について、特に米軍の解釈とそこに巻き起こった混乱に関する基礎情報を記します。別途製作する論文及び教範の抜粋試訳を読む際の基盤にして頂けたら幸いです。誰もがわかっているようでいざ話してみると詳細が一致せず、米軍の教範に書かれていることを深く考察すると様々な疑問点が生まれ出でます。むしろ教範を1つしか読まない方がその迷路に入らずに済み、年度別版や実戦用の師団や旅団の教範など複数を読み進めていくと謎が深まっていきます。
本稿は混乱を紹介するものであり、解答を示すものではありません。この難題に関する考察や資料が何かあればどうか教えてください。
___以下、本文_________________________________________
【言葉の前提】
※ mobile defenseの日本語化の際に「機動防御」をあてることが多いが(少なくともmaneuverを巡る概念的発展があった現在では)無用な混乱を生んでしまうため今回は避ける。機動とは何か、別の言葉の方が良いというよくある議論以前にこの場合はmobileの話しとなる。mobileは移動能力が高いこと/可動/運動可能が(拡張しない場合の)その意味である。モバイルだと明記することはソ連・ロシア軍のマニューバラブル防御との同一視の誤解を避ける上でも役に立つ。ロシアではmobile defenseを米英日などが使う防御バリエーションの1つと紹介した上で、自軍の基幹コンセプトにはポジショナル防御とマニューバラブル防御を用い、mobile defenseは採用していない。よって機動防御という語では何を指すのか不安定になってしまうので、「米軍の防御方式」を紹介する本稿ではモバイル防御と言う文字を使うこととする。
※日本で使われる「機動打撃」という言葉は米軍のモバイル防御の基幹説明文(FMのOperationsの該当章、1954年版~現在時点まで全ての版)には存在が確認できなかった。あるのはmobile striking forceであるが、このモバイルはforceにかかっている。他の文章を読んでもmobile forceやmobile reserveが登場してもmobile strikeで完結する言葉は現れない。(ニュアンスは部隊を移動させて打撃をするものだと伝わってはくるので個人的にはそれほど問題ある言葉だとは思っていませんが、米軍の概念を説明する際には一応避けておこうと思います。他では使うかもしれません。)
________________________________________
モバイル防御とは「何が」動くのか
モバイル防御を定義する上で考えるべき根幹的な質問は「何が動ける性質を持つのか」である。ここにエリア防御と区分するための特色性を見出すことに米軍は苦しんでおり、そして実はロシア軍と着眼点が違う所でもある。また「どういう動きなのか」も重要な要素だ。米軍ドクトリン上でその明確な指定はないが、文中でmobileだと述べられるのは各防御拠点の戦力とは別に置かれ、状況に合わせ投入する部隊である。mobile units/forceと記されている。恐らくそれに基づき、単純化して「部隊が移動して打撃する防御」がモバイル防御だと主張するのを見かけることがある。これはエリア防御を「陣地の阻止火力による防御」とイコールで捉えるのと同じ不具合を生じさせるものであり、米軍も教範中にそのような定義はしていない。モバイルの打撃戦力(striking force)または予備(reserve)は確かに重要であるが、それは防御システムを構築する1要素であってシステムそのものではない。モバイル防御に含まれてもそれ全体を定義はしてくれないのだ。
エリア防御の中に(予備)戦力のモバイル運用、特に逆襲が組み込まれていることからもそれは明らかにできる。
エリア防御の中のモバイル部隊による逆襲
「Considerable confusion existed with regard to the differences between the area and mobile defenses.
This was particularly true in the area defense when any maneuver was conducted in reaction to the enemy.」
(出典:U.S. Army, "Mobile Defense White Paper," (Draft), (Ft. Leavenworth, KS: 18 October 1993))
エリア防御において、モバイル部隊(mobile units)による逆襲は事実上ほぼ不可欠の要素である。エリア防御をしているある部隊の領域に突入してきた敵に対して、陣地からの阻止火力で減殺し更に予備(または後方梯隊)を投入することで決定的に敵攻撃を破綻させる、というのは至って普通の手順である。故に、エリア防御でのモバイル部隊運用とモバイル防御でのモバイル部隊運用の両方があるのに「モバイル部隊で打撃する」のを定義の基準としてしまうと両者の区分が混迷してしまう。最も初期に抱く疑問がこれだろう。恐らくこの軍事理論の詳細を重視しない書籍では、侵入してきた敵に対して部隊をモバイル運用して撃退すればそれを「機動防御」をしたと書いているのを目にするだろう。それは完全な誤りというわけではないのだが、米軍の定義上では不整合だ。
< 図1:2017年版FM3-0で使われている「エリア防御での逆襲」を示した図 >※図番号は修正、以下同様
逆襲について書かれた箇所を1973年Militery Review12月号の論考から抜粋する。
「エリア防御において、師団は2つの旅団をFEBAに沿って前方防御エリア(FDA)に展開し、そして1個旅団を予備に置いておく。(中略)その(エリア防御の)予備旅団はそのFEBAを回復するための逆襲に備えるよう指示される。(中略)もし敵突入が進展してしまったなら、各階梯の予備がその突入部内にいる敵戦力へ攻撃をしかけ、敵を撃退しそのFEBAを回復させるよう試みる。」
「モバイル防御の現行版において、師団は通常は2個旅団をFEBAに沿って前方に配置し1個旅団を予備として置いておく。(中略)通常は1個旅団が幾つかの所定ラインの前方で敵を遅滞及び封じ込めをするように指示される。もう一つの旅団は通常は防御するよう指示される。その防御を行う旅団には、その旅団及びその隷下各部隊が重要な局地的予備戦力を保持できるだけの充分な戦闘能力を配分される。(中略)予備旅団は逆襲する準備をするよう指示され、優先は遅滞行動をしている旅団の区域となる。」
上述で明らかなようにエリア防御でもモバイル防御でも初期配置概観(この場合2個旅団が前で守備をし1個旅団が予備として後方待機する)が同じになる場合がある。何個部隊かは場合によっては違うのでより概念的に言いかえれば「前方に部隊を置き敵減殺を担わせ、後方にも部隊を置きモバイル運用を行う」のは両方に共通するのである。防御の間隙を埋めたり守備要員の交代にも彼らは使われるが、特に逆襲を実施した場合にコンセプト上の差異が極めて曖昧になる。
< 左図2:師団のエリア防御での逆襲_右図3:モバイル防御での逆襲 >
1968年版師団教範のエリア防御とモバイル防御の図を基に逆襲を描いてみると、似た形が現れることになる。上図左がエリア防御での逆襲であり、右図がモバイル防御での逆襲である。両方とも後方の旅団内に置かれていた戦力を前方の旅団が防御している所に投入している。逆襲のためにモバイル部隊を投入するというコンセプトだけではエリア防御とモバイル防御の区別はつけられない。
戦力配分の割合による区別とその問題
「The Striking force is dedicated counterattack force in a mobile defense constituted with the bulk of available combat power」
(2019年版ADP3-90及び2017年版FM3-0第6-171項より抜粋)
米軍がこの混乱を解決するため要素として盛り込んでいるのが打撃戦力の『配分割合』である。最も頻出するのは『bulk of』 force(又はcombat power/unit)という言葉であり、「その指揮官が有する戦力の内の大部分」をどう扱うかで分けるというものだ。モバイル防御はその戦力の大部分をモバイル部隊に置きそれを打撃戦力と呼ぶ、というのが米軍の定義の一部である。(2019年版ADP3-90参照)
日本語では「陣地の阻止火力を主体とする防御」と「モバイル戦力の打撃を主体とする防御」という表現がある。一見意味がわかるように思えるが、防御における何の主体なのか、そして主体と言えるのはどんな水準になったらなのかをぼかした書き方になっている。(敵損失量 / 自軍戦力配分割合 / 決勝点となる所 / その他の内のどれなのか、そして何を持って主体と言える水準に達したかの不明瞭さ、複合条件の不安定性。)それを明確化するため米軍は「自軍戦力の」大部分であるとしたのである。この条件を条件主軸とした場合、WW2やその他戦争を記した各軍事史書籍の中で機動防御と呼ばれている事例の大半がその名にそぐわなくなるだろう。モバイル部隊を運用し逆襲していようとも、全体戦力割合で見て大部分が逆襲部隊に置かれていなければエリア防御と米軍の定義上では区分されるからである。
何%のことなのかが明示されていないのでこれも混乱の元だが、大部分と言うなら51%以上になると仮定する。戦力の物理的重心位置という観点において、その重さの大部分が打撃部隊に置かれていて彼らが移動すれば、部隊全体の重心も大きく移動するのでその様相はモバイルだと言える。エリア防御より戦力の重心の移動が大胆だ。
これを採用すれば一応は防御を2つに分けられる。ただ区分できるがそれが正しくモバイル防御の様相を表すかは別の話だ。上述の師団のモバイル防御の図3を見て、その予備戦力から1個大隊減らしたら他は全く同じだろうとエリア防御となってしまうことをすんなり受け入れるわけにはいかない。bulk of を60%以上あるいは40%だと議論することは本稿ではしないが、この条件を定義の基軸とするならいずれ必要になるだろう。
_________________________________________
それを許容したとしても混乱は続く。なぜなら保有部隊数だけでは矛盾する状況が幾つも発生するからだ。
例えば1973年Militery Reviewや1968年師団教範でのモバイル防御の初期配置について、師団司令部は隷下の3個旅団の内2個を前方のFEBA付近に置き、1個を後方予備としている。(そしてエリア防御も全く同じだ。)ここで旅団数で数えると前方の方が多いのでこれではモバイル防御ではないと言われてしまう。そのため「予備旅団は戦車の重部隊で4~5個の大隊から構成され、機甲騎兵スコードロンももし他に任務がなければ割り当てられる。」という文章を入れて大隊数で数えた時に予備の占める割合が50%以上になるように書いている。旅団数では無く大隊数で数えて初めて大部分だと言えているのである。もし大隊内訳が大きく違えばこれすら機能しないだろう。
つまり上位階梯指揮官の視点において、部隊数を基準とした配置ではこの定義は機能せず、中身を調べて初めて有効になるのである。よってこの「戦力の大部分をどこにおくか」はより正確に『物量』と記述しなければならない。
だがここで更に問題が起きる。物量と言っても部隊には機甲や歩兵など多種があり一概の計量ができない。
< 左図4:1973年版軍および軍団教範_モバイル防御の例 >
別兵科部隊の割合をどう評価するのか個々人の価値観で振れ幅がある。例えば機甲部隊所属の人員なら戦車2個大隊は機械化歩兵3個大隊より遥かに「重い」と言うかもしれないし、逆に歩兵部隊所属の人員は歩兵軽視を招きかねないことを避けるだろう。前方に4個機械化歩兵大隊+1個戦車大隊が守備につき、後方の予備に4個戦車大隊が打撃に従事する予定で置かれていた場合、これはエリア防御だと上述の定義で判断できるかといった議論になってしまう。
具体的に1973年の軍及び軍団教範において左図4がモバイル防御の例として図示されているが、逆襲戦力は物量が明らかにbulk of forcesでないにも関わらず彼らはそれをモバイル防御だと言っている。この場合はモバイル性質の強い機甲師団が打撃戦力として投入されているからモバイル防御と呼んでいるように思える。
モバイル的性質の戦力を機械化または機甲部隊と新たに定義し、「戦力の内の大部分が」ではなく「全モバイル部隊の内の大部分が」という定義に絞ることも考えらる。しかし現代の米軍の機械化水準では解決策とはならない。
_________________________________________
< 左図5:2個+3個大隊前方で4個大隊がモバイル部隊の防御_エリアorモバイル? >
そしてもし純粋な同一規模部隊だったとしてもこの定義をすんなり受け入れてよいだろうか。例えば大隊が同一物量だと仮定して、前方2個旅団の内のA旅団が2個大隊保有でB旅団が3個大隊保有であり、後方のC旅団が増強され4個大隊を有しているとする。前方は計5個大隊で後方のモバイル部隊が4個大隊なので、もしbulk ofの基準が51%以上だとするとこれはエリア防御になる。
これの違和感は逆襲戦力が他のあらゆる部隊より大規模でありモバイルの運用をしているにも関わらずモバイル防御ではない、と言っている所だ。
ここでもう一度教範や論文を読み返した時目に入るのが「major」といった『主要な』を表す言葉だ。主要とは相対的な位置づけであり51%以下であっても他と比べて最も多ければその言葉を使う可能性がある。上述仮定のA,B,Cの旅団の内で最も主要な部隊とはC旅団であり、大半の部隊による打撃ではないが、後方の主要部隊による打撃とは言えるのだ。これなら上述の軍団の図でも一応モバイル防御だと言える。
だがFMにもADPもmajorを定義の主軸にはしておらず、bulk ofの方が使われている。それに比較する階梯における部隊数が細かい場合、主要な部隊でもそれほど多くない可能性もある。多数の小規模部隊が連動して小規模逆襲をし総体として大規模な打撃となる場合はどう扱うかも考慮しなければならない。他にも、遠大な距離の戦線の各所を1つの火消部隊が駆け回って戦線各所を突破してきた敵を次々打撃して決定的な役割を担ったとしても、戦線全体の方が量が多いからエリア防御だと主張するのが戦力割合基準の定義なのだ。
防御概念の区別を考える際に、その逆襲部隊の量が多くないからモバイル防御では無いと単純に言っていいか慎重になる必要がある。戦力配分割合はおそらく重要な要素であるが、元に立ち返ってモバイル防御とエリア防御をそれぞれ特色づけている要素に目を向けることとする。
その前に無用な混乱を避けるために階梯(師団、旅団、大隊...など各々のレベル)の話を入れておく。
各部隊階梯での視点
「selective use of an area defense can be part of a theater’s mobile defense. Those elements designated to conduct area defense must understand their role in the larger campaign plan.」
(1993年版FM100-5 p.9-3より抜粋)
「The two levels of counterattacks are major and local counterattacks.」
(2017年版FM3-0第6-167項より抜粋)
立案時の混乱と誤解を避けるために必須の区分がある。モバイル防御とエリア防御を階梯ごとにしっかりと基準と整えて見るということだ。この区分は定義を直接もたらしてくれるものではないが、それを取り巻く多くの曖昧さを解消してくれるだろう。
なぜ立案時または命令文中に階梯視点区分が必須かというと、ある階梯の司令部の部隊全体で実施する防御形態がその隷下部隊個別の実施する防御形態と一致するとは限らないからだ。従属部隊各々の行動の組み合わせがその上位司令部の計画した防御形態である。図3をもう一度見ればわかりやすく、師団全体がモバイル防御をしている時でも前方に配備された旅団の区域内での視点でみればエリア防御または遅滞行動を前方旅団自身は実施している。
< 左図6:旅団のモバイル防御であり且つ師団のエリア防御 >
逆に左図6の例において、前方左側の旅団が有する3個大隊の内で後方に置かれていた1個大隊が戦力の大部分を有していると仮定すると、この旅団は旅団階梯でのモバイル防御を実施しているということになる。そしてこの旅団を有している上位階梯の師団司令部の視点では、師団の予備(後方の大部分戦力)を投入しておらず前方の旅団区域内で敵攻撃を撃退したため、師団はエリア防御を実施したことになる。
_____________________
時折この階梯区分をせず混同している書籍が見られる。師団あるいは軍団規模以下で行われたモバイル運用を指して機動防御を軍や軍集団が行ったと言われてしまうがこれは誤りだ。ただしこれも書き方が少し変われば正しくなる。例えば軍そのものがモバイル防御をしていなくても、軍司令部(司令官)の直接指示で隷下軍団や師団がそれをしたなら、「軍司令官は」モバイル防御を使ったと言える。軍事コンセプトを重視するなら、主語と使役動詞及び目的語をしっかりと省略せず書く方が良いだろう。
_____________________
この区分で見ると、ある階梯の部隊が自身の区域内で且つ自身の戦力だけでモバイル/エリアいずれにせよ防御に成功したら、その上位階梯部隊はエリア防御を成功させたということになる。
ある階梯の部隊がモバイル防御をしたとして、もしその隷下部隊を前方においたらそれら隷下部隊自身はエリア防御または後退行動を実施することになる。
階梯ごとに視点を分けた時、打撃戦力が自身の置かれていた最初の区域線を越えるか否かという要素は防御の実施に重大な差異を幕僚たちに与える。特に命令を出す際にそれは意義を持つだろう。
__________________________________________
階梯を分けた時、逆襲もまたそこにあった曖昧性が一部解消される。それは英語でmajor counterattackとlocal counterattack、日本語で主逆襲と局地逆襲と呼ばれる分類のことだ。凡そニュアンスやすることはわかるのだが、誰にとってのローカル/メジャーなのかが判然としない場合がある。
階梯で視点を分けると具体的に部隊規模名を書き、そして基軸となる階梯の主語を入れてローカルを使う際にはlower/higher echelonを判別できるようにれば無用な混乱を避けられる。上図の例で言えば旅団予備の大隊による逆襲なので旅団逆襲となり、師団にとっては下位階梯範囲内での逆襲、旅団にとっては自己階梯による逆襲、前方の大隊にとっては上位階梯による逆襲だ。
これらを踏まえた上で別要素の検証に移る。
縦深性
「A mobile defense requires an AO with considerable depth.」
(2017年版FM3-0第6-174項及び2019年版ADP3-90第4-18項より抜粋)
幾つかの教範中のモバイル防御の章内に、その戦闘/作戦行動をとる縦深が非常に深くなる可能性があることを示している記述がある。モバイル防御では戦力の乏しい前方配備部隊が突破されるか遅滞行動を執りながら大幅に後退する可能性があるため、自軍領域の奥深くで打撃戦力が駆け付けて決定的戦闘をすることを基本的に考慮しておくべきである。
しかし結論を言うと縦深性での区別は全くできない。自軍領域の深くでの戦闘はエリア防御でもあり得るものだからだ。例えば打撃戦力が集まらない場合に縦深に散らばった各防御ポジションにどんどん配置し、後退も許す(そして逆襲も複数回行う)ことで相手の突進の勢いを長大な領域で摩耗させ最後には止めてしまおうと言うのは特殊な発想ではない。縦深性で区別できるのではないかという主張は、エリア防御を前方防御のイメージで捉えていたり或いは陣地の阻止火力によるものだと言う狭義的認識をしているために引き起こされている。時折モバイル防御こそが縦深防御なのだと主張することすら見かけるが、縦深性の影響力はもっと広範に渡る。現代の米軍教範では明確にエリア防御の章内にDefense in Depthという項目を作っており、自軍の奥深くまで至る全領域での戦闘をする考えはモバイル防御であろうとエリア防御であろうと共通して組み込まれている。
________________________________________
「The mobile defense focuses on defeating or destroying enemy forces by allowing them to advance to a point where they are exposed to a decisive counterattack by a striking force.」
(2019年版ADP3-90第4-17項より抜粋)
「canalize the attacking forces into less favarable terrain」
(1954年版FM100-5及び2017年版FM3-0 Mobile Defenseの項目序文より抜粋)
またモバイル防御は殆どが敵を引き込むことになるが、ドクトリン上において相手を深く引き込むことは絶対的な定義にはならない。明文化された目標は「攻撃してくる敵戦力をより不利な場所へと方向限定」していき打撃戦力は防御側にとって「最も好ましい時と場所で」敵を攻撃するのであり、つまりもしそれが比較的前方で起こるならば遠慮なく打撃するであろう。現行のADP中にも「決定的逆襲に晒される地点へと敵が前進するのを許容することによって」と書かれておりあくまで許容するだけで「必ず深くまで前進させよ」とは書かれていない。奥地かどうかではなく晒される場所かどうかだ。(ただし、米軍の現行定義とは違うものだとしても、これをモバイル防御の重要要素と捉える考え方は非常に有意義な再定義をもたらす可能性があるので後述する。)
多くの場合で奥深く引き込む状況を想定しているのは、それにより敵攻撃の勢いが消耗して尚且つモバイル部隊との距離が縮まるという理想的状況に近づくからであり、少数の前方配備部隊だけで有利な機会をいきなり創れる現実性が低いからだ。
それにエリア防御での縦深防御の場合でも、前方は欺瞞の防御帯として置き敵に踏み込ませてから強固な主陣地帯の火力または逆襲で粉砕するのは普通の計画であり、かなりの距離を敵に進ませることもある。現代の防御形態において全く相手をエリア内に引き込まないのは極端な前方防御の場合のみであり、セキュリティまたは遅滞行動を合わせ程度の差こそあれ引き込みは発生する。
深く引き込むかどうかは定まった防御形態では無く指揮官が状況に合わせて選ぶ戦術的バリエーションである。
______________________________________________
「Commanders shape their battlefields causing enemy forces
to overextend their LOCs, expose their flanks, and dissipate their combat power.」
to overextend their LOCs, expose their flanks, and dissipate their combat power.」
(2019年版ADP3-90第4-18項より抜粋)
モバイル防御においてその広大な縦深の奥まで防御部隊は後退をすることができるので、敵が前進を(早く/長く)し過ぎて短期的なロジスティクス上の問題を発生させ瞬間的な戦闘能力低下を引き起こすことが期待できる。その瞬間を見逃さず打撃することが望ましいとされている。ただし当たり前だがこれは敵側の事情によるので必ず起きるとは言えず、あくまで狙う理想というだけだ。打撃に好都合の時と場所は諸条件を複合的に考えて決定される。
影響力は絶大ではあるがそもそも部隊規模が小さすぎるとあまり期待できないので、FM3-0第6-174項では「師団や軍団」といった規模が比較的大きい戦闘エリアを持つ階梯の時に敵連絡線を過度に伸ばすことを引き起こすのを言及している。
別の争論を呼んでいるのは『攻勢限界』だ。FMのモバイル防御の説明の中に「敵が(攻勢)限界に達した時に打ち負かすためにその予備戦力を使用する」と言う文があるために、奥地引き込みを連想させているだろう。ただこの言葉はもっと根本的に攻勢限界とは何なのかそして果たして実戦の計画上で有意義なのかという議論に入ってしまう。限界点ではなく限界エリアだというよく聞く話はまだ簡明な部類だ。その広い戦場と戦力に散らばる無数の変数を統合し相対的比較した限界点というのが予め定まるのか(結果論でなく、計画立案に使えるのか)は厄介な問題である。ADPのモバイル防御の項目にはこの単語は使用されていない。これ以上は話が逸れるのでここでは踏み込まないこととする。
ちなみに「攻勢限界に敵が達した時にそれを倒すために予備戦力を投入する」のはFM3-90-1に記されているように、エリア防御での逆襲でも為されるのでいずれにせよモバイル防御の特性扱いはされない。巧みな逆襲のためのノウハウと言うべきだろう。
______________________________________________
敵進撃方向についても議論がある。勿論自軍にとって都合の良い場所に誘引する理想的モバイル防御は望むべき姿であり教範中の説明事項に記されてはいる。ただ、前方部隊は敵進行方向限定を試みるがその少数戦力で耐えられない場合があるのは想定の範囲内であり(むしろそれ故にエリア防御を諦めモバイル防御にする傾向が冷戦初期の米軍には強く)、戦線のどこかが食い破られ突き進まれても駆けつけて強力な戦闘能力を投射できるようにとモバイル防御に期待している。打撃を実施する好ましい時と場所というのは相対的な言葉なのだ。それをある程度は防御側が選ぶことができるという点で主導権を奪いやすくなっている。自軍にとって都合の良い場所に敵を誘導することはモバイル防御の条件ではないと考えるべきだ。
或いは逆に、意図した方向への誘引を成功させることをモバイル防御の定義としてしまうのも一考の価値がある。ただしその場合は誘引が失敗したり予想外の場所での敵突進に対してモバイル部隊を投入するケースを別の定義に入れ込む必要がある。または最上層定義にはいれず、バリエーションの中に入れることも考える価値がある。(後述)
______________________________________________
なぜこの奥地引き込みの話をしたかと言うと、ある指揮官が正確かつ早期に敵主攻箇所を特定した場合の対応を考えたためだ。または情報機関が活躍し敵の攻撃が事前にあると教えてくれていた場合だ。その指揮官が優れた判断で迅速に主要なモバイル部隊をそこへ動かして防御成功し(そして次の場所へまたモバイル部隊を再移動させて防御したら)、それはモバイル防御と言うべきだろうか。
【敵攻撃妨害攻撃とその問題】
「If conditions are favorable, the offensive action may be launched early enough to strike the enemy in his attack position.」
(1954年版FM100-5, p.120, 第287項【Mobile Defense】より抜粋)
敵攻勢事前察知のケースで起こり得る理想の1つが『敵攻撃妨害攻撃(spoiling attack)』だ。この要素は名の通り攻撃的行動であり、FM中では攻撃の6形態の内の1つとして数えられている。敵攻撃が発起される前の準備段階で自軍が討って出てその準備中の敵に攻勢能力を失わせてしまおうという試みである。
これは逆襲と同じく、全体で見ると作戦的守勢期であるにも関わらず部分的に攻撃的行動を防御側が執る。長距離で運用できる火砲または航空戦力による攻撃妨害攻撃が主となるはずだが、敵領域奥へ迅速に前進する必要がある場合は地上戦力はモバイル部隊がそれを担う。それも強力な打撃力と速度を有する部隊だ。
情報が筒抜けで敵がまだ攻勢に出てこないと分かっていれば、大胆な指揮官は前線各ポジションの戦力を削ってこれを実施するだろう。もしかしたら「防御戦力の大部分を集めた打撃戦力」まで至るかもしれない。するとその攻勢的防御行動はモバイル防御の形と似通っていく。違いは敵が攻勢実施中であるかだけだ。それも逆襲とは攻勢中に敵攻撃が一時停止した際に行うのが好ましいという条件から見れば形状の差異は更に薄くなる。この大規模なモバイル部隊を用いた守勢での攻撃行動はモバイル防御と言えるのだろうか。
攻撃的行動であるので防御ではない、と言うだけでは不十分だ。なぜなら戦術的な攻撃行動としてのspoiling attackは、作戦的守勢の中での活動で起こり得るからだ。そもそも攻撃的行動でないから防御から除外すると言うなら逆襲も扱いを考え直さなければならない。米軍の定義においてspoiling attackという1要素は防御の項目の中にも存在している。(ただし米軍の現行教範の様に防御中の攻撃行動を決定的要素と見なすのではなく、ロシア軍のように防御そのものの決定的条件とは見なさず、別の視点で防御に関連した攻撃行動を位置づけることは有意義である。)
もしモバイル部隊を投入し敵を打撃するのがモバイル防御だとする狭義の話で済んでいれば敵攻撃妨害攻撃もそこに含まれるだろう。だが上述のようにモバイル防御の米軍内定義はモバイル部隊の有無では無く、エリア防御でも起こり得るため一概に言えなくなってしまっている。
________________________________________
実際に敵攻撃妨害攻撃が現行のFM3-90-1のどこに含まれているかと言うと、序盤の章で言葉の意味を説明した後にエリア防御の章内でどう運用されるかが記されおりモバイル防御の章にはspoiling attackは登場しない。一方でFM3-0のモバイル防御の範囲には敵の勢いを削ぐためにspoiling attackを1回かあるいはそれ以上計画するだろうと書かれている。(第6-178項参照) 1968年版師団教範では機甲部隊が討って出ることを強調する図となっている。
攻撃妨害攻撃は逆襲と同じくその扱いを米軍は測りかねており、bulk ofのような量的な区分も現在されていないため完全に浮いた存在となっている。冷戦中期に米軍は対ソ連開戦時に受動的となる想定で動いていたため攻撃妨害攻撃は一時期軽視されたこともあったのも影響しているかもしれない。
「現行ドクトリンは(中略)先制攻撃とFEBAで停止しない(敵の予備と支援火力を志向する)逆襲についての重視も失われている。」(Military Review 1973 p.17より抜粋)
これは引き込みが定義の一部かという議論を考え直す促進剤となるだろう。上述では現行の定義ではエリア防御でも縦深引き込みはあるから区別にならないことは明らかにしたが、それはエリア防御の中には引き込みをすることがあるというだけで、エリア防御とは引き込みをすると定義したのではない。モバイル防御での引き込み要素は、現行のドクトリンでは完全な条件とは言えないが、重大な要素であることは間違いない。もし引き込みの縦深距離を規模ごと(浅い深いの何らかの基準で)に規定した上で、それがあるか無いかを基準に再定義してしまうならば、それはもしかしたら意義を持てるかもしれない。例えばspoiling attackはエリア防御だと言えるし、モバイル部隊が前方へ駆けつけるのもエリア防御だ。
当然これでは小規模なモバイル部隊による縦深での逆襲はどうなのかと問われるし、他にも再定義する必要があり特にエリア防御が大規模な改定をしなければならず、その中で複数の問題が起きるだろう。
この思索で提起したことは今とは別のものを主基準として再定義した方が明確化するのではないかということだ。最初に「モバイルとは何が動くか」と言う問いで、予備または打撃戦力がmobileと書かれていると述べたがそれは果たして良い基準だったろうか。逆襲でのモバイル部隊運用はエリア/モバイル両方でするのにそれを基準にしてしまったが故にbulk ofに関する議論が必要になり、更に他の要素での定義が跳ねのけられてしまってる。もし引き込みを定義とした時、モバイルとは何が動いているのだろうか?
指揮官意図(防御志向)による区別
「The area defense is a type of defensive operation that concentrates on denying enemy forces access to designated terrain for a specific time rather than destroying the enemy outright.
The focus of an area defense is on retaining terrain where the bulk of a defending force positions」
The focus of an area defense is on retaining terrain where the bulk of a defending force positions」
「The mobile defense focuses on defeating or destroying enemy forces」
(2019年版ADP3-90第4-16及び4-17項より抜粋)
「A mobile defense is enemy force oriented.」
(2017年版FM3-0第6-175項より抜粋)
理論家の一部が好む表現がその防御の意図(志向)であろう。各意図というのは定義を明確にしやすく、しかも技術や編制が変化しても影響を受けにくい。この場合逆襲や陣地形状といったのものは全てその具象化のためのプロセスであり、防御コンセプトそのものに影響を与えない。
具体的に米軍が選び出したのはエリア防御とは「領土域志向(terrain oriented)」であり一方でモバイル防御とは「敵戦力撃破志向(enemy force destruction oriented)」である、という定義だ。
エリア防御の逆襲は領土域を保持または奪回が狙いとなるため、別に逆襲で敵を撃滅する必要はなく、敵を打ち倒し(defeat)したり攻撃を頓挫させて諦めさせることで退かせてしまっても良い。モバイル防御の逆襲はただひたすらに敵を撃滅することを狙いあらゆる手段を使うため、領土域は放棄しても良い。
だが実践されるモバイル防御とエリア防御の姿に明瞭なる差異をもたらしてくれはせず、この基準はかなり早期からあったものの米軍内の論議は続くことになった。そもそもエリア防御の逆襲だろうとモバイル防御の逆襲だろうと、敵攻撃を負かす(defeat)のと撃滅する(destroy)はすることになるとされている。「The mobile defense focuses on defeating or destroying enemy forces」(2019年版ADP3-90第4-17項)
領土域を護るために敵撃滅を狙う場合、戦力差があり敵撃滅をできるほどではないが戦力割合の大部分をモバイル部隊において移動して打撃させるのを試みた時はどう言えばいいのか、様々な疑問が生まれることになる。
他にも例えば1964年の歩兵学校での記事(翻訳別記事参照)に論述されているように、この志向基準だとエリア防御にも齟齬が生まれる。
エリア防御とはFEBAで(at)相手を撃退するものではなく、FEBA付近(near)の戦闘つまりその内部に敵が入られることを想定の範囲内とするものだ。そして縦深防御においてその戦闘範囲はかなりの敵前進を戦闘推移次第では許容する。この様相を説明するにおいて『領土域志向』という言葉は明瞭さを下げていく。誤りというわけではない。エリアという用語にポジションから修正したおかげで、幾つかのポジションを放棄する場合があり、エリア全体で見てそれが破綻しないように保持するのだという思想がしっかりと表現できている。縦深まで敵が進んでくるとしてもエリアを破綻させないということは即ち、後方にあるクリティカルな地域までは行かせないか、エリア全体として敵の侵攻をある程度(恐らく逆襲で回復できるように)コントロールするということになる。『領土域志向』と言いながら部分的または一時的には領土を譲ることを許容するのがエリア防御なのである。
更にここでモバイル防御を考えても良い。モバイル防御は敵がかなりの前進をすることを許容するが、その前進はコントロールされなければならず事前に決めた作戦エリア内で打撃が実行される。もし更なる縦深にあるクリティカルな地域にまで到達されては、或いは打撃戦力が対処できないほど前線のあらゆる所が突破され敵がなだれ込んできてはモバイル防御は破綻するのだ。縦深のエリア防御とモバイル防御は共に領土を「部分的に」譲り、だが核心的な地域は奪われる前に、前者は各ポジションによる阻止火力と小規模な逆襲を用い後者は打撃戦力に頼ることで敵攻撃を失敗させる。これらの差異を説明するのに『領土域志向』という用語だけでは充分でなかった。
_________________________________________
「『エリア防御は領土域志向である一方でモバイル防御へ敵志向だ』といった過度に単純化したフレーズが使われたりする。別の好まれがちな説明は、エリア防御の意図とは領土域を保持することであり一方でモバイル防御の意図とは敵を撃破することである、と仮定することだ。これらの説明によって提起される疑問は明らかだ。例えば『エリア防御では敵の撃破は二次的な重要性であり一方でモバイル防御では領土域は放棄できる、ということを意味するのか?』というものだ。この疑問への答えは『いや、必ずしも正確ではない…。』だ。」(1964年 Infantryより抜粋。)
__________________________________________
また、モバイル防御の『敵戦力撃滅志向』というのも議論を呼ぶ表現だ。そもそもオリジナルのモバイル防御とは『戦力撃滅志向』ではなく『戦力志向』であったのではないか、という主張は注視するべきものだ。(Walters少佐の1993年の論文を別記事に翻訳したので参照のほど。)
Walters少佐は米軍の原初のモバイル防御を調査するにつれ、モバイル防御の最初の姿とは(想定される圧倒的な物量または大量破壊兵器を持つ)敵の攻撃の最も激しくなる前方付近に自軍戦力を集中させるのは撃破されるリスクを高めるものであり避けるべきだとして、後方に戦力を置いて『柔軟性』を得る戦い方をしようというものだったと考えるようになった。その柔軟性ある戦い方の中で打撃戦力を運用していたのだが、次第にそちらに基準の焦点が移ってしまい『戦力志向』から『戦力打撃志向』に変質したという主張だ。
少佐の指摘は非常に鋭いものであり、更に縦深防御とはモバイル防御であると主張する幾つかの論文が見られる背景も暗に示してくれている。そのオリジナルにおいて縦深のエリア防御とモバイル防御の概念は一部が混ざっていた。
__________________________________________
「(かつての)モバイル防御とは前線からその移動可能な戦力を立ち去らせ、敵の大量破壊兵器による打撃エリアと思わしき所をよけて、戦力比劣勢故に不可避となる敵の突破に対して『融通の利く』状態になることができる後方エリアへと移動させるものであった。モバイル防御は戦力志向であり、必ずしも戦力破壊志向ではなく、地域志向では確固として無かった。『戦力破壊志向』よりむしろ『戦力志向』というこの単一の、単純な言葉の中にモバイル防御を取り巻く混乱の大部分があるのだ。」(1993年 L.Walter少佐の論文より抜粋。)
「現行ドクトリンは以前のドクトリンでハイライトされていた分散と急速集結(dispersion and rapid massing)の重視をしていないようだ。」(Military Review 1973 p.17より抜粋)
__________________________________________
これらは現在の米軍の使う『意図(志向)』による基準の不安定性を証明するものだった。これに関連し主導権と柔軟性の議論もあるが、ここでは詳細は取り上げない。
教範及び論文の翻訳箇所
「Ask a group of commanders to explain the mobile defense,
and you will receive as many answers as number of commanders you ask.」
and you will receive as many answers as number of commanders you ask.」
(G.L.Walters少佐, (1993), "Mobile Defense : Extending the Doctrinal Continuum", p.25より抜粋)
個々の要素はそれ自体で明確な基準にならずどちらとも取れ、しかもそれは各人の各要素の重要性に関する価値観によって大いに上下するものだった。そしてその揺らぐ諸要素を組み合わせて作られた朧げな輪郭の防御コンセプトを「機動防御」と呼んだ。上述の提議はそのごく一部に過ぎずより詳しい考察と独自提案は多岐に渡る。米陸軍指揮幕僚大学での議論が紛糾しいくつも論考が掲載され、その教範の内容は激しくブレながら変遷を続けてきた。それでもドクトリン執筆者達は様々な試行錯誤をしとりあえずではあるが許容できる説明に落とし込んだ。主に戦力の集中性、移動性、志向性で特徴づけられたモバイル防御は、各々の要素の程度によって定義的紛糾はあろうが、防御の1つの形態が確かに存在することを示している。細部を修正する必要性は残り今後も記述は変わっていくだろう。当面の間米軍が抜本的刷新をしなければ破綻するような強大な敵と直接対峙することはないと予想されるので、問題は漸進的に解決を試みる時間が残っている。
以上をもって米軍のモバイル防御を巡る争論の基礎情報は紹介したものと考える。これを前提とした上で本題である論文及び教範の翻訳文へ移る。
以下には現在の米陸軍の教範中の防御の項目と、モバイル防御の定義的問題点についての論文の試訳を載せる。他にも多数の論文や教範があるのだが全て翻訳はできないため一部とする。試訳したのは下記部分である。
・1954年版FM100-5 Operations 第9章_防御
・1960年版Landing Party Manual_第10章_防御_陸戦隊の教範中でのモバイル防御とポジション防御
・1964年論考_Infantry_防御マニューバ_歩兵学校の定期誌でのモバイル防御問題の論考
・1973年論考_Militery Review 12月号_柔軟対応ドクトリン
・1993年版FM100-5 Operations 第9章_防御の基本事項
・1994年論文_Mobile Defense : Extending the Doctrinal Continuum_モバイル防御の混乱について新条件を組み込んで解決しようとした論文(本文全翻訳)
・2001年版FM3-90 Tactics 第8章_防御作戦の基礎(MBAとFEBA、Battle positionの定義)
・2015年版FM3-90-1 Offense & Defense _第7章_エリア防御(縦深防御と前方防御)
・2019年版ADP3-90 Offense and Defense_エリア防御とモバイル防御そして後退行動の定義
続き↓リンク
【翻訳資料_機動防御と陣地防御_教範と論文】
http://warhistory-quest.blog.jp/20-May-26
__________________________________________
__________________________________________
一応他の思考パターンも記しておく。
かつて米軍はドクトリンの最上階層において防御には(主に)2つの形態があるとしてその説明を始めた。もし定義を最も明確にしようとするなら、そのある1つの定義で作られる集合に対しもう1つの定義を補集合とすればよかった。簡単に言えば領土域志向とエリア防御を定義したのならモバイル防御を『非』領土域志向と定義する話だ。或いはモバイル防御に対し、非モバイル防御と呼ぶ方式だ。また、定義を付与する対象を統一することで基準を設けることは混乱を解消するために必須であったのにそれが為されなかった。例えば後方の部隊を対象にしたモバイル防御の条件に対になるのは同じくそれを対象にしたエリア防御の条件であるべきだった。だが実際は片方が後方部隊の条件を説明しているのにもう片方は前方部隊の条件を説明してしまったために曖昧さが生まれてしまった。なぜ補集合の表現を使用しなかったのか、するとどうなるのか、そこに答えがあるように思える。
一応は縦深性の有無や戦力割合は統一基準であり形式上は定義化が可能だった。だがこれらの統一基準で分けようとした時なにが起きたのかというと、それは「エリア」あるいは「モバイル」という既存概念を引き裂く事象だ。統一基準としなかった別構成要素が許容できないほど乖離した。複数統一基準を掛け合わせ、エリア防御集合とモバイル防御集合を独立させようと狭義化すると2集合に含まれない要素が増加する。かといって要素を広げたままだと積集合は巨大なものとなってしまう。
調査をして思い浮かんだのは、エリア防御が極めて広い範囲をカバーする概念でありモバイル防御の要素の殆どを内包する、つまりモバイル防御はエリア防御の部分集合となるのではないか、という考えだ。米軍が定義明確化を試みる際に元には無い統一基準(戦力割合など)を入れ込んだが、これらを除外して考えるとエリア防御を構成する条件はエリアと言う名を含め極めて包括的である。モバイル防御でない防御形態は容易に考えられるが、エリア防御でない防御は表現が難しい。定義修正の試みが完全な成功とならないのは、あるモバイル防御の定義が「それはエリア防御でも言える」という場合が大半だ。エリア防御ではないものを創り出そうと戦力割合などを持ち込むとモバイル防御まで削られている。
エリア防御の定義を拡大しその中にモバイル防御を入れ込んだり、或いは新たな名称の防御形態を最上位階層に置きその内部での有効な行動バリエーションとしてモバイル防御で重視されていた打撃や逆襲あるいは後方配置を取り扱う、といったような階層そのものの変更を行うことは実際の所できなくはないはずだ。というのもかつてアクティブ・ディフェンス導入の際にモバイル防御は作戦教範から一度姿を消し統一されたからだ。この部分集合化の発想を昔のドクトリン執筆者たちは実行したことがあるのである。また新たな分類を導入することを21世紀に入って行った実績もある。ただしアクティブ・ディフェンス統一化の際に起きた数多の問題、特に包括性を得ようとするあまり曖昧になりすぎるのを避けねばならない。内部バリエーションへのスムーズな道筋を立てる必要がある。幸いなことに既にエリア防御の下層に縦深防御と前方防御を設けており、ここと同じレベルにモバイル防御を入れて一部条件を修正して齟齬をなくすという案が現実的だと思われる。(ただ概念上は可能で論理分析に役立てるだろうが、それが将兵の実際の計画と作戦実施の際にどれほど効果的か確証が持てない。)
要するに防御コンセプトの最上層にモバイル防御を記して概念を分離することはやめるという意見だ。
_________________________________________
そしてもう1つのアイディアが、全く新たな統一基準の元に防御を分解して再構築する考えである。具体的提案はポジションを基軸とした防御形式にし、他要素を従属させるものだ。
実はこのアイディアにはモデルがある。それはロシア連邦の防御形態解釈である。ロシア軍はモバイル防御という形態を「米英日などが使う」と述べ、概念を把握しながらも自分達にその区分は採用していない。勿論モバイル部隊による打撃や誘引からの逆襲の概念が欠落しているわけはなく、彼らの分類の中にそれらは含まれている。ロシア軍は一部を攻撃行動の中に、そして防御の2形態である『ポジション的防御』と『マニューバラブル防御』を用いる。そして攻撃様態を『防御中の敵に対する攻撃』『後退中の敵に対する攻撃』『進撃中の敵に対する攻撃』を分けている。
ただロシア軍のポジション的防御とマニューバラブル防御も米軍と同じく、逆襲の所で少し概念的問題を抱えてはいる。それでも非常に明瞭で包括性と具体性を兼ね揃えている。
________________________________________
米軍でも防御概念は発展を続けている。既に21世紀に入ってから米軍は防御コンセプトにおいて、実践上では大きな影響がなかったとしても、概念上かなりの変革を成し遂げた。20世紀最後の作戦教範1993年版FM100-5と現行FM3-0を見比べた時、防御の章の一番初めの根本的な記述において明白なる違いがあったことに誰もが気付いたはずだ。1993年版までは防御には主に2つのフォームがあると言っていた。今そこに書かれる数は3つに変わっている。それはモバイル防御とエリア防御と共にマニューバラブル防御の概念に大きく関わるものだ。そしてロシアのマニューバラブル防御はソ連崩壊期に復活したコンセプトだ。将来米軍がどう変わるかはわからないが、彼らが現状に甘んじないことだけは確信を持って言える。
_____________________________________________
【ロシア軍のマニューバラブル防御】
リンク⇒後日作成
【米軍の陣地防御_エリア防御での前方防御と縦深防御】
リンク↓
http://warhistory-quest.blog.jp/20-May-15
_____________________________________________
終
__________________________________________
以上です、ここまで長い散文を読んで頂きありがとうございます。
本拙稿は次の資料翻訳のための前文として書き始めたものでした。殆どの米軍の論文はこの議論を当然知っているという前提で書かれているため、一応日本語化の際にはその前提を補足しておくべきかと思い記しました。少々肉付けはしましたが上述の話しだけでは到底不十分(個々の記述が少ないのはもとより組み合わせ検討が無さすぎる)なのでぜひ各論文に目を通して考察してみてください。
本稿作成にあたりドクトリンのADPやWW2後~現在までの全ての米軍作戦教範の防御項目に目を通し、より詳細な現場実践用のTactics関係と軍及び軍団教範や師団教範に旅団教範なども比べましたが…調べれば調べるほどわからなくなっていきました。その上で論文読み始めたらとんでもない目にあい、あれだけで力尽きました…。実践を考えるなら1つの年代だけに絞って知識を入れた方が混乱はないでしょう。独自解釈も考察の参考になり一概に米軍の定義と合致していないと否定するものではないと思います。
現在ならretrograde防御改革のおかげでエリア防御かモバイル防御かではなく3つの混在も考える必要があります。実践にいきなり大きな影響があるわけではありませんが、米軍のこの概念変化は素晴らしいことだと個人的には思っています。ロシアのマニューバラブル防御の話しは別途書きますが、こちらも国防省が言っているように現在進行形で発展中のものです。
本拙稿は迷路への入口ですので、この分野がお好きな方はどうか楽しんで来てください。何か思いついた時に教えて頂けると嬉しいです。
2020年5月23日 戦史の探求 編纂者
記事タイトルを「機動防御という幻」にしようかと思いましたが殴られそうなのでやめときました。
___【メモ】_____________________________________
・Dispersion is that characteristic which differentiates nuclear operations from nonnuclear operations in the defense.
・AR320-5の定義上の「防御エリア」が今は戦闘エリアと呼ばれるようになっている
・withdrawは撤退よりも接敵離脱または離隔と言う方が分かりやすい。
・PK=probability of Kill = 殺傷確率
・ingenuity = 工夫、指揮官の構想力
・entice=誘引する、drawも引き込むという意味で本文中で使用されている。
・Krasnovian =仮想敵国の名前 米指揮幕僚大学では共通名称。
・mobile striking force = 可動打撃戦力
・preemptive attack = 先制攻撃
・spoiling attack = 敵攻撃妨害攻撃
・house of cards = 砂上の楼閣
・countermobility=移動妨害性
・committed =関与約束済み と訳すのが後方部隊には一番
・sub-optimal =最適より下の、最も望ましいものではなく、より悪い
・intent graphic = 意図表現グラフィック。軍が使う戦況図のことを指す場合もある。
・local counterattack=局地逆襲、なのだがprimary=主要な逆襲がこれに当たることもあり、主逆襲がその部隊または防御のprimaryとは限らない。
・offensive-defenseなら攻勢防御なのだが、offensive-defensiveとイコールとしていいか保留。Military Review 第39巻1959年によるとoffensive-defensive=フランス語のretour offfensif=Hans Delbruckの定義上のcounteroffensive=リデルハートのbaited offensive=フラーのoffensive-counter-offensiveとされている。it is the combination of defensive and retrograde actions with the coutnerattack to destory the enemy. W.バルク中将の書籍の英語化でもこの用語が使われている。
・この混乱の大きな要因は戦場の流動化により攻勢と防御が分離できない事象が巨大化したことによる。