陣地防御機動防御について米陸軍の考え方の紹介をしようと思います。大半が教範または軍の論文の訳であり、補足説明は最初に少し書いであるだけです。陣地防御と機動防御はその名前は有名であり極めて重要な防御フォームであるにも関わらず、その中身の説明があまりに簡略化され(或いは名前だけから想像をして良くも悪くも話される)誤解を生んでいるのを見たことがあるかもしれません。本記事では米軍教範と論文によってその元の説明文の紹介を行います。
 …しかし本記事はその混乱を解くものではありません。なぜなら米軍のエリア防御とモバイル防御の説明には深刻な問題点があり、米軍内ですら混乱と論争があるからです。(もしかしたら誰かの論文で明解な答えを示してくれているかもしれませんが、少なくとも現在時点の米陸軍野戦教範及びドクトリン教範は問題を抱えたままです。)むしろ教範などを読み込まない部分的な理解である方が混乱はしないのかもしれません。ただそれでは重大な欠落が伴ってしまいます。ですので教範と論考の知識を深め、それ故に混乱へと踏み込み、深い考察をする入口として本拙稿を記そうと思います。
  
「戦術について真面目に取り組む学生なら皆、現在の米陸軍ドクトリンに組み込まれている2つの基本マニューバ形態の概念的な理解を深める必要性にすぐに直面する。」 
1964年 米陸軍歩兵学校 Infantry p.27より抜粋
エリア防御での逆襲
(上図は機動防御か陣地防御どちらだと感じるでしょうか。最初に考えて頂けると良いかもしれません。)

  非常に長くなるため本記事ではまず米陸軍がエリア防御(ポジション防御)と呼ぶものについてを抜粋します。また本文では陣地防御をエリア防御、機動防御をモバイル防御と元の英単語がわかるように記述します。

___以下、本文________________________________
 陣地防御と題には書いたが下記訳文にその単語は使用しない。というのも米陸軍ドクトリンの厳密な理解のために陣地防御という1つの言葉では不具合が生じるからだ。(米軍ドクトリン理解のため以外の記事では特に拘りはしない。)具体的にはポジションとエリアの2つの言葉の差異が原因であり、ポジション防御とエリア防御という2つの防御ドクトリン名の混乱を避けるためである。
(米軍将校達が述べているように米軍教範内では、多少違いはあるものの根幹的にはポジション防御の説明とエリア防御の説明は同じ防御方式を表現している。そしてその同じ内実を表現するのにより適切なのがエリア防御の方だった。)

 ポジションは地点または部隊のいる極めて限定的位置を指し示すのに対し、エリアはそれらポジションを含む包括的な所掌範囲を示すと言い換えられるかもしれない。訳語として誤解を避けられるのはポジションを陣地と訳す方だ。そしてエリアは陣地帯または領域/地域とするのが良いだろう。

 複数の陣地が連携を取った時、ある種の集団性を持つ地域ができる。それこそが米軍ドクトリン上で説明する防御形態だ。単数形ではない。
 戦史において最初は塹壕などの野戦築城の単一防御「線」あるいは強固な要塞という拠「点」を用いて防御システムを構築し説明していた。だが現実の防御システムには単一線や単一点で作られるものなどほぼ無く、もしそのようにしたら簡単に攻撃側によって破綻させられてしまった。そのため1つが壊されても周辺がフォローして防御全体を破綻させないようにするという、複数の連携性を即ちある程度の厚みを持った防御システムが採用された。線形の塹壕が(複)数線防御を形成したのも、全周防御の要塞化拠点を複数そのエリアの縦横に散らばらせるのも同じく縦深の重要性に着目したものだった。

1975_belt concept 特にWW1で数線防御は発展し洗練されていった。攻撃側が1つ目の塹壕を突破しても(第1線の多くは欺瞞又は偵察用で)少し後ろにある第2線(または第3線)こそが主抵抗線であり、突入側の砲兵支援が小さくなるのと対照的に防御側は砲撃が強化され、突入敵部隊はそこで力尽き停止すると逆襲を受けせっかくとった第1線も保持できず退却することになった。前方ラインが突破されても全体としての縦の厚みが突破されたわけではなくその厚みの中で勢いを吸収し停止させ、最終的に第1線まで回復するこの様相を見て「弾性(elastic)防御」と呼ばれることもある。(詳細は省く。ドイツの弾性防御ならTimothy T. Lupfer,(1981), "The Dynamics of Doctrine:the change in German tactical doctrine during the first world war"などを参照。
ネットで読める日本語記事では下記がLupferなどの書籍を基に弾性防御をわかりやすく説明してくれています。
【鋼鉄の嵐の中で「線的防御から弾性防御へ――ドイツ防御思想の転換」】↓リンク
http://hikasuke333.blog113.fc2.com/blog-entry-379.html

 更に突破手法も洗練されていき、また場所によっては塹壕を連続させられないような地形の所があったので、線では無く全周防御拠点を散りばめてある種の防御線を構築する方式が発展していった。線と点そして移動させる予備戦力のコンビネーションを用いるのも戦場では見られるようになった。

 この現実の事象を巧く表現するものが『ベルト(帯)』である。beltと言う単語はニュアンスに厚みを必ず含むため英語圏ではかなり好まれている。例えば1975年のMilitery ReviewにS.L. Canby中佐が寄稿した記事はベルトのわかりやすい話だろう。(左上図はその記事の図1)
 ベルトをそのニュアンスを保って表現するなら陣地帯が妥当だろう。塹壕陣地帯や拠点陣地帯によって防御を遂行するのである。

 こうして線的(linear)という言葉は現実の防御システムを表現するのにそぐわなくなった。といってもそれが消えたのではなく、防御要素(factor / element)の1つとして確固とした価値を発揮した。陣地も同じだ。ポジションは防御システムそのものというよりシステムを構築する防御要素の1つと言うべきなのだ。これこそが「米軍の陣地防御」を知る上で最初に踏まえておくことだ。陣地(ポジション)火力による迎撃のことを陣地防御と呼ぶのでは無い。陣地火力という要素を含んで構築される広範なシステムこそが米軍のドクトリン上で述べている防御である。
 更に縦深の重要性と分散性の増大は横長の防御イメージすら崩していった。ベルトすら違和感を覚える状況があることを理解していた米軍は、より適切な言葉を採用した。それが『エリア』である。エリアでの防御では陣前防御も陣内消耗も陣内決戦も全て内包する。

「エリア防御とは縦深を欠いた線的(linear)概念ではないことを暗に示している。」 
1964年 米陸軍歩兵学校 Infantry p.27

 実は米軍は最初にその防御コンセプトを表現する際にポジション防御という言葉をタイトルにしてしまっていた。名前はポジションなのに中身は上述の広範なシステムであったため、この名では齟齬があるとして修正の機運が高まり、そうしてついに1962年作戦教範で米陸軍はポジション防御からエリア防御へと表現を修正したのである。(そのため下記教範翻訳では意図的にpositionとareaをカタカナにし識別できるようにした。)21世紀に入ってからの教範では防御の基本事項の中にbattle positionという言葉の説明が入れられるようになり、こうしてエリアとの混用は完全に避けられるようになった。
 
 繰り返すが、陣地(ポジション)火力による防御こそが陣地防御なのだとは米軍はしていない。確かに最重要ではあるが、陣地火力単一でなされる迎撃はドクトリン上の防御フォームではなく、それを構成する基本要素の1つである。そして陣地防御すなわちエリア防御には他の複数の要素が絡みコンビネーションを創り防御力を発揮している。その他の要素は更にエリアという語の適性を増大させている。その要素の内の1つこそが『予備戦力の投入による逆襲』である。そして『縦深性』と『柔軟性』もそうだ。その意味で陣地の阻止火力を『主体』とする防御と言う方が適切であり、しかしまだこれですら説明が不足している。
 そしてそれこそがモバイル防御とエリア防御の差異について米軍内で半世紀を超す混乱と議論を起こした原因の一部である。下記に記す教範は解答ではない。教範ごとの差異があり、各々の説明文に論争を巻き起こす箇所がある。2020年時点で正式な教範の既述、例えばエリア防御での縦深防御の概念が完全に欠落している旧版すらある。エリア防御とは極めて広い意味を持ち、現場で有用にするため具体性を持たせると狭義のものとなってしまい欠落が生まれる可能性もある。モバイル防御でもそれは同じであり、この2つは相関しているのだ。

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以下翻訳

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 米軍の説明をスムーズに理解するために必要な防御エリアの各要素についての最低限の意味を先に記しておく。
図7-2_エリア区分


・FLOT = Forward Line of Own Troop
・Security Area
・BHL = Battle Handover Line
・FEBA = Forward Edge of the Battle Area
・MBA = Main Battle Area
・Rear Area (Support Area)
・各フェイズを表すPL = Phase Lineも使われる。
・CL = Contact Lineは最前の実際に接触している線で、FLOTと同じ扱いになることがある。
・EA = Engagement Area 交戦エリア、実際の交戦箇所。


2001年版FM3-90 Tactics 第8章_防御作戦の基礎

(略)

【主戦闘エリア_Main Battle Area】

【第8-11項】
 主戦闘エリア(MBA)とは、指揮官が自身の有する戦力の大部分を展開することを意図しそして敵攻撃を負かすための決定的な作戦を実施するエリアである。防御の際に指揮官の得る主要アドバンテージとは、戦闘が行われる場所を通常ならその指揮官自身が選ぶことになる、ということだ。敵突入を吸収したり(こちらが)準備しておいた交戦エリアへ方向限定し、(部分的に)優越する戦闘能力の効果を集中させることによって敵の攻撃を打倒するために、指揮官は隷下戦力を縦深的に相互に支援し合う各ポジションへと配置する。そのポジションの自然な防御力は戦線正面(横)の戦力配分と縦深の戦力配分の両方に直接的に相関している。加えて地形の自然的防御戦力を向上させるために、防御部隊は野戦築城および障害物を用いる。また主戦闘エリアには、防御部隊が敵を負かすか或いは撃滅するための決定的な逆襲の機会を創り出すエリアも含まれている。

【第8-12項】
 MBAはFEBAからから部隊後方境界まで広がっている。指揮官は識別可能な地形的特徴に沿ってその隷下部隊境界を配置し、前方の境を設けることでFLOTを越えてそれらを外へ拡張する。部隊の境は接近経路または重要地域を分断してはならない。戦場インテリジェンス準備(IPB)プロセスの成果とMETT-TCの各要素を用いた分析に基づいて、指揮官は主戦闘エリアを選ぶ。IPBプロセスは使用可能接近経路を敵がどのように使用する可能性が高いのかを明示する。

【戦闘エリア前方端_Forward Edge of the Battle Area】

 戦闘域前方端(FEBA)とは、地上戦闘部隊が展開されている一連のエリアの最前限界(援護部隊や遮蔽部隊が作戦行動を執っているエリアを除く)であり、火力支援、戦力配置、各部隊のマニューバなどを調整するために指定される。(JP1-02参照。)米陸軍では防御作戦においてのみFEBAを使用する。FEBAとは境ではなくむしろ指揮官の意図を伝えるものである。それは地上戦闘部隊の多くが展開するそのエリアの最前限界を示し、ただしセキュリティ戦力が作戦行動を執っているエリアを除く。MBAの戦力はセキュリティ担当部隊の後退作戦を捗らせるために、FEBAの前方へ一時的に移動することも可能である。指揮官は隷下部隊の火力支援とマニューバを調整するためにFEBAを指定する。MBAの最も前方の地点を指定する段階線(PL)がFEBAを示す。上級指揮官の計画した防御戦力による直接射撃の効果範囲をFEBAは表している。防御部隊はそのマニューバ計画の中でこのエリアに必ず取り組み、そして必ず調整地点での戦術的計画に関する情報を交換する。(図8-3は現在のFEBAと提案されたFEBAを図示している。)
fig8-3
< 図8-3_12月19日22:45現在のFEBAと提案された12月20日08:30でのFEBA >

【戦闘ポジション_Battle Positions】

 戦闘ポジションとは、敵接近経路の可能性がある所に向けられた防御位置のことである。戦闘ポジションは意図表現グラフィックであり、その防御戦力の大半の場所と全般志向性を表現する。戦闘ポジション(の表現)を指揮官が使うということはその範囲内にある隷下全戦力のポジションを指定するわけではない、なぜならそれは作戦エリア(AO)ではないからだ。(図8-4参照。)
fig8-4
< 図8-4 >
 大隊タスクフォース規模の部隊でも分隊規模の部隊でも戦闘ポジションを使用する。丘の地理的頂上、前方斜面、反斜面、あるいはそれらのエリアの組み合わせた各所を彼らは占拠しておくだろう。地形、敵能力、自軍能力に基づいて各ポジションを選定する。指揮官は己の作戦エリア内にある隷下の全ての部隊あるいは一部の部隊の戦闘ポジションを割り当てすることができる。(図8-5参照)
fig8-5
< 図8-5_点線箇所はまだそこにいるわけでは無いが将来移動してくる可能性のある戦闘ポジション >

(略)
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以下、米軍のエリア防御及びポジション防御についての説明翻訳開始

1954年版FM100-5「作戦」_ポジション防御とモバイル防御

【第9章:防御】
(略)

【第272項:所掌範囲】

 本章には2つの主要タイプの防御を含む。即ちポジション防御とモバイル防御である。本章で取り扱うのはそのグラウンド、兵員の戦術グループ、火力の編成、そしてその両タイプの防御の遂行についてである。防御に関連して運用される逆襲攻勢(counteroffensive)戦術は第8章「攻勢」で検証した原則事項に従う。防御に関連して用いられる遅滞行動部隊と掩護部隊は第10章「後退行動」で検証する原則事項に従う。
(略)

【第275項:防御の基盤事項】

【a】適切な地形活用
【b】セキュリティ
【c】相互支援
【d】全周防御
【e】縦深防御
【f】協調的火力計画
【g】協調的障壁計画
【h】柔軟性
(※各事項説明省略)

【第283項:防御タイプの選定】

(略)
【b】
 ポジション防御は、その場所の緊密に統合された組織にある固有の強みを活用する。その採用が好ましいのは次の場合だ。
 【1】如何なる犠牲を払ってでも保持すべきある地域が、任務において求められている。
 【2】敵のマニューバを行う空間を制限するような地形、そして自然の諸抵抗線をもたらすような地形である。
 【3】使用可能な戦力が主に相対的に移動能力が限定的な歩兵である。
 【4】地形と相対的航空優勢(の敵側優位性)が防御側予備戦力の展開されるかもしれない各地点への自由な移動を制限している。
 【5】そのポジションを編成するに充分な時間が使用可能である。
 【6】上位の階梯部隊において十分な量の予備戦力が利用可能となっている。

【c】
 モバイル防御は、その場所の統合された組織よりも、最大限のモバイル戦闘能力を重視する。その採用が好まれるのは次の場合である。
(略:モバイル防御と関連資料翻訳記事に載せる)

【第285項:ポジション防御】

【a】
 ポジション防御の理想的フォームは効果的相互火力支援がそのポジションの横幅と縦深全域にわたり存在するコンパクトな防御だ。その防御は一連の組織化され占拠された複数の戦術的拠点(局所=localities)を中心に構築される。これらの戦術的拠点は、それらを保持すればそのポジションの完全性を確保することになるので、その監視性と自然の防御効果を考慮しながら選定される。その戦闘ポジションは、縦横(特にかなりの縦深)にわたって不規則に配置された多数の相互支援防御エリアからなる抵抗ゾーンから構成され、それぞれが塹壕、個人壕、障害物、銃座を備えた全周防御を編成する。戦術的結束性をそれぞれの防御エリアに維持しておく。使用可能な火力の大部分は前方に展開され、そして予備戦力(その戦力全体の1/3を超えることは稀)は最初は拘置しておく。その(予備の)目的は逆襲をすること、縦深または側面にある阻止ポジションを占有すること、或いは防御されているエリアの守備兵と交代することである。

【b】
 この防御のコンセプトとは、そのポジション前方(陣前)での火力投射によって敵を倒すことによって、そのポジションの中に敵攻撃戦力を吸収することによって、或いは逆襲で敵を撃滅することによって、その戦闘ポジションが保持されるというものだ。

【第286項:ポジション防御のバリエーション】

【a】
 理想的ポジション防御であるならば防御の基盤事項の全てを最大限適用することが可能となる。けれどもそのような理想的状況はほとんど存在しない。従って、1つか或いはそれ以上の基盤事項の適用が制限されているバリエーション版を採用する必要がある。

【b】
 全ての基盤事項の最大適用をするにはその区域の前線があまりに広すぎる場合、指揮官はその任務に最小限の有害影響で済むようにどの基礎事項が犠牲にできるかを決断しなければならない。柔軟性を得るために強大な予備を保持することを状況が強いたならば、組織化された各戦術的拠点の間隔を増大させねばならず、従って相互支援の減衰を伴う。前方に最大限の初期火力が求められる状況ならば、予備を費やしてでも組織化された各戦術的局所の数は増加させねばならず、従って相互支援の増大が為されるが柔軟性と縦深性が損なわれる。

【c】
 ポジション防御のバリエーションの数を制限するのは、指揮官の構想力と使用可能な戦力の構成(火力支援)のみだ。ステレオタイプなポジションにするのは避けるべきだ。前方に最大限の初期火力投射を達するために編成された単一線の防御の形であったり、または強度と欺瞞の両方をもたらす一連の複線(数線)防御であったり、或いは敵の勢いを強制消費させるように縦横に(散らばって)編成された一連の各戦術的拠点というバリエーションになる可能性もあるのだ。

【第287項:モバイル防御】

(略:モバイル防御と関連資料翻訳記事に載せる)

____以上、1954年版FM100-5第9章抜粋翻訳終了_________________________________________

1960年_Landing Party Manualでの定義

【名称】Landing Party Manual
【出版】United States. Office of the Chief of Naval Operations
【出版年度】1960年

【第10章_戦闘原則_第50項_防御戦術】

a: 任務 
 (略)
b:実行
 任務はその戦闘ポジションの編制によって達成される。即ち敵突入の制限及び逆襲のための予備戦力の使用、そして敵情報の獲得/遅滞/乱雑化/欺瞞をするためのセキュリティ部隊の運用である。

c:防御の基盤事項
 (1)地形の適切な活用
 (2)セキュリティ
 (3)相互支援
 (4)全周防御
 (5)縦深的防御
 (6)協調的火力計画
 (7)協働障壁計画
 (8)柔軟性
(※各項目の説明省略)

【第10章_戦闘原則_第50項_防御の形態】

a:一般事項
 防御には2つの基本形態が存在する。ポジション防御とモバイル防御だ。その主要な違いとは防御する戦力の大部分についての使い方である。
 ポジション防御において、その戦力の大部分は選定された戦術的各拠点へと配置される。あてにしているのは、そのポジションを保ちそしてその各ポジション間の領域をコントロールするためのそれら(各局所配備戦力)の性能である。予備戦力は縦深を増大させるため、敵をブロックするため、突破されたポジションを逆襲によって回復させるために使用される。
 モバイル防御において、その戦力の大部分はモバイル打撃戦力に置かれる。残りの戦力が前方の各防御ポジション(各抵抗拠点、強化地点、監視ポスト、あるいはそれらのコンビネーション)へと配置される。その(モバイル防御における)前方の各防御ポジションは相互に支援し合うようにするが、そうならない可能性もある。そのモバイル戦力は最も望ましい戦術的位置及び時間で逆襲そして敵の撃滅をするために使用される。

b:形態の選定
 (1)防御の形態はその任務における防御戦力、自然地形、構成(文字判別不能のため中略)、敵戦力によって選定される。空の状況が予備戦力の展開に影響するのと同じように、季節、交代の許容性や上位階梯の予備戦力もその選択に影響してくる。

 (2)ポジション防御は地上の密接に統合調整された組織の最良の活用をもたらす。その採用が好まれやすいのは次の場合である。
  (a)ある領土域を如何なるコストを払ってでも保持しなければならない場合。
  (b)その地形が敵のマニューバの空間を制限しており、自然の防御戦力になれる場合。
  (c)使える自軍戦力が主に歩兵であり、可動性が制限されている場合。
  (d)地形及び相対的航空優勢が、展開する可能性のある各所への防御側予備戦力の自由な移動を制限している場合。
  (e)各ポジションを組織的構築するに充分な時間が使える場合。
  (f)上位階梯の部隊が十分な予備を使用できる場合。
 
 (3)モバイル防御はその地の(戦力配置)組織よりも優先してその移動可能戦闘能力を最大限活かす。それが好まれるのは次の場合である。
  (a)その任務が充分な縦深で戦闘を行うことが許可されている戦いである。
  (b)防御側がマニューバを行うのを促進する地理的状況。
  (c)防御側の可動性が攻撃側よりも優越している。
  (d)空の情勢が防御側に相対的な移動の自由を許している。(敵空軍の脅威が少ない)
  (e)ポジション防御を構築するに充分な時間が無い。
  (f)上位階梯の部隊が使用できる予備が限定的な。

 (4)(陸戦隊が受領する)可能性のある任務の形態故に、そして陸戦隊の大隊が通常使用可能な装備には制限があることが理由で、モバイル型防御の採用は滅多に実行可能にはならないだろう。従って本章の注意事項は、ポジション防御を強調するであろう。

c:ポジション防御
 理想的ポジション防御は相互火力支援の概念を防御エリアの横にも縦にも拡大する。それは一連の組織化され固められた戦術的な(複数の)拠点を中心に構築される。そのような各局所地点は視界と自然の防御力をもとに選ばれる。(文字判別不能のため中略 ability of the entire position.)その戦闘ポジションは複数の相互に支援し合いながら縦横に不規則に配置された防御エリアによって構成される。各々は全周防御を編成し塹壕や障害物、個人用壕、銃座を備えている。それぞれの防御エリアの戦術的結束性を維持しておく。運用可能な火力の主体は前方に展開される。予備(通常はその編制が保有する部隊の3つ目)を最初は(前方に)出さずに手元に留めておく。その予備の目的は逆襲を実施することや、縦深部や側面で敵をブロックする位置を占領すること、或いは各防御ポジションの(損耗した)守備部隊と交代するためである。大隊以下の階梯では、抵抗主線にいる部隊への火力支援という追加のそして重大な目的もある。ポジション防御のコンセプトは戦闘ポジションの前方で敵を火力により撃破すること、(敵がまだ進んできた場合)その戦闘ポジションの中で敵攻撃の戦力を吸収すること、そして逆襲によって敵を撃破することである。

防御のバリエーション
 理想的状況なら第10章第49項に示した防御基盤事項すべての最大適用が可能となる。だがしかし、そのような状況など滅多に存在しない。よって、基礎事項の内1つか時にはもっと削ったり制限的にしたバリエーションが採択されることは一般的に必須となる。

 (a)割り当てられた前線が全ての基礎事項の最大活用をするにはあまりに幅があり過ぎる場合、指揮官はどれを犠牲にするか決定しなければならない。柔軟性を増大させるために強大な予備戦力の保持を状況によっては指定されるかもしれない。そのような場合、戦術的な各局所間の間隔は広がらざるを得ない。従って相互支援は減衰してしまう。(逆に)状況によっては第1線での前方火力を最大化させることを求められる場合もある。これを生じさせるために、戦術的拠点の数は予備を費やして増大させなければならない。これにより相互支援は増大するであろうが、柔軟性と縦深性を代償にすることになる。
 (b)己が構想力、使用可能戦力の規模、支援をしてくれる兵器の存在によってのみ指揮官が使えるバリエーションの数は制限される。ステレオタイプの配置は避けるべきだ。バリエーションには、前方で最大初期火力を達成するために編成された単一の防御線の内のサブ・バリエーションも含められる。即ち、強度と欺瞞の両方をもたらすために設計された一連の複線(防御)幅広く縦深に組織された一連の戦術的拠点、それは攻撃してくる敵の勢いの消耗を強いるものだ。

第10章第50項終、第51項以降は略
____以上、翻訳終了_______________________________________

1973年Militery Reviewの柔軟対応を求める論考でのエリア/モバイル防御

【書籍名】Military Review (Professional Journal of the United States Army)第53巻第12号 
【出版年】1973年 12月号

【柔軟対応のためのドクトリン】

 柔軟対応戦略は核投入想定下での広範なスペクトラムで闘うことを必要とした。陸軍の全ての師団は1950年代の機甲師団と同じように3個旅団司令部制へと再編された。戦力は増強された。機甲師団は8個から11個大隊へと膨らみ、一方で歩兵師団は多くが機械化され5個戦闘グループから10個大隊制へと変わった。現在の米陸軍指揮幕僚大学での指導においては、これらの師団の運用という点では核兵器は戦術的ドクトリンへの影響は小さなものとされているようだ。核が活動的な状況とはルールと言うより除外とされている。
 2タイプの防御は2つのフォームの防御へと置き換えられた。詳細部比較において1960年代と1970年代の防御形態の違いは非常に明確だ。2つの防御フォームとはエリア防御(ポジション防御から置き換わったもの)とモバイル防御(微調整が現在も進行中)だ。モバイル防御とは敵を撃破するために主導権を奪取する攻勢的行動、防御的行動、遅滞行動のコンビネーションとして定義されている。エリア防御では、敵の戦闘エリア突破を防ぐために特定地域の保持を指定された期間行うこと試みられる。エリア防御での予備戦力は敵を立ち退かせる(eject)ために使用され、一方でモバイル防御での予備は敵を撃滅する(destroy)ために使用される。

 適切な防御フォームを定めるため、1950年代と同じ基本要素(任務、敵、領土域、相対的移動力、核、空域戦況)が用いられた。現行の師団用教範(FM61-100 Division)では師団において望ましいとされる防御フォームは指定されていない。けれども一般的には機甲師団の移動力と戦車戦力はモバイル防御に適していると考えられている。現行の師団レベルの教範では上位階梯の予備戦力の規模は、防御フォームを決める際の考慮事項としては言及されていない。だが基本ドクトリン教範であるFM100-5(Operations of Army Forces in the Field)では1つの要素として残り続けており、それはより大規模な部隊用教範であるFM100-15(Larger Units Theater Army-Corps)でもそうだ。

 モバイル防御の現行版において、師団は通常は2個旅団をFEBAに沿って前方に配置し1個旅団を予備として置いておく。
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(略:モバイル防御と関連資料翻訳記事に載せる)
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 エリア防御において、師団は2つの旅団をFEBAに沿って前方防御エリア(FDA)に展開し、そして1個旅団を予備に置いておく。前衛の各旅団は各々の区域を防御するよう指示される。これらの各旅団にはかなりの局地的予備戦力を保持できるようにするため充分なマニューバ戦力を与えられる。予備旅団は高いモバイル性能を持ち、しかし極めて軽く、一般的に大隊規模の部隊3個かそれ以下で構成される。その予備旅団はそのFEBAを回復するための逆襲に備えるよう指示される。

 ポジション防御におけるのと同じように、エリア防御は敵をFEBAで食い止めるようデザインされている。だがもし敵突入が進展してしまったなら、各階梯の予備がその突入部内にいる敵戦力へ攻撃をしかけ、敵を撃退しそのFEBAを回復させるよう試みる。
 エリア防御は大規模な戦力集中をFEBAに沿って行うことが求められる。核投入状況下での敵攻撃に対して極めて効果的であるにも関わらず、散開の規定は殆ど無く、それ(エリア防御)は核兵器によって容易に打破されてしまうように思われる。実際、教範では核投入環境下ではモバイル防御を採用するのが好ましいことが示唆されている。
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 核投入レベルと防御フォームやタイプの関係性とは何か?これこそが我々の議論の核心であろう。1960年代の野戦教範は戦争の全形態のための指針をもたらすものだと宣言しているが、核投入状況の範囲を扱った理論(1961年5月版FM17-100第2章、1968年9月版FM100-5第6-4項で概要が記されている)は無視されがちのようだ。両参照資料が述べる所によると、核投入行動にはいくつかのレベルがあり核兵器使用無しから無制限投入まである。核使用の上限あるいは無制限状態において、陸上マニューバの効力性は減少させられるか或いは消されてしまい、火力が戦闘能力の支配的存在になるだろう。この極端状況に無いのは、戦闘部隊の効果的マニューバが可能な程度の核投入レベルであり、そしてこのレベルですら多様な核の活動の程度がある。核投入無しの極端状況に近づけば、マニューバが支配的になり火力がサポート的になる。逆に核投入有の極端状況に行けば、火力が支配的になりマニューバはサポート的になる。(←要検証。疑問有)

 それぞれの核活動レベルに最適の防御のフォームまたはタイプを見つけようという試みにおいて、散開性をもたらす戦術が核投入環境下では最適だと思われた。一方で核投入の無い状況下では最も堅い或いは密な防御形態が最適のように思われた。最も堅い或いは密な防御フォームとは1960年代のエリア防御である。選択に影響を与える他の要素が中立的状態であれば、このタイプの防御は核の使用も脅威も無い環境下ではベストのようだ。
 1960年代のモバイル防御には防御側が核兵器無しで相対的に大規模な敵戦力を封じ込め撃滅するに充分な集結性があったようだ。けれどもこれと同じ特性つまり集結性が故に、防御側は核攻撃に脆弱となった。ターゲット分析プロセスが高速化されそして核兵器発射に必要な準備が削減されていったことで、その脆弱性は増大した。テクノロジーは、核兵器は移動している標的には投入できないものという想定を時代遅れにしつつある。従って現行ドクトリンとは反対に、モバイル防御は核活動レベルが増大するとあまり望ましいものでなくなっていくと思われる。マニューバを制限するほどの核兵器活動レベルにおいてモバイル防御は効果が無いようである。
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 1950年代のポジション防御の散開性は核兵器の投入される戦場でも防御側が生存することを可能とした。だが機甲師団の移動能力と衝撃効果はほとんど活用されておらず、そしてそれ故に、そのように(分散的に)配置された部隊は脆弱で大量集結が可能な敵に打ち倒されてしまうと思われる。核兵器が活発でないかあるいは使われない状況下では、ポジション防御の強化拠点は細部において敗北させられてしまうかもしれない。
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(略:モバイル防御と関連資料翻訳記事に載せる)
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1993年版FM100-5 Operations 第9章防御の基本事項

【名称】Field Manual 100-5 Operations 
【出版年】1993年 

【第9章2項:防御パターン】

 防御作戦の2つの主要フォームはモバイル防御とエリア防御だ。戦争の戦術及び作戦の両レベルにこれらを適用する。モバイル防御とは、あるポジションの中への敵の前進を許容しそこでモバイル予備戦力による逆襲に敵をさらすことによって攻撃してくる戦力撃破destruction)を志向する。エリア防御とは、組み合っている一連の各ポジションの中で敵を吸収すること(absorbing)によって、そして火力によって敵を大きく破壊すること(destorying)によって領土域の保持を志向する。

 これらの記述は各防御タイプの一般パターンを伝えているが、その防御の形態は両方とも静的要素動的要素を用いる。モバイル防御では、静的な防御ポジションは敵突入の縦深と横幅をコントロールするのに役立ち、そして逆襲を発起する場所を確実に保持しておくための助けとなる。エリア防御では、パトロールとインテリジェンス部隊そして予備戦力を緊密に統合し、各防御ポジション間の隙間をカバーし、必要に応じてそれらのポジションを補強し、指示に応じて(敵が侵入した)防御ポジションを逆襲する。防御側指揮官は両パターンを組み合わせ、静的諸要素を攻撃してくる敵に対し遅滞 / 敵進行方向限定 / 敵最終的停止するために活用し、動的諸要素(敵攻撃妨害攻撃や逆襲)を敵戦力の打撃及び撃破に用いる。これらの要素間バランスは敵 / 任務 / 戦力構成 / 移動能力 / 相対的戦闘能力 / 戦場の性質によって変化する。
【モバイル防御】

(略:モバイル防御と関連資料翻訳記事に載せる)

【エリア防御】

 指揮官は指定された領土域または施設に指定された時間の間敵がアクセスするのを阻止するためにエリア防御を実施する。ある特定戦域での戦役において、その戦域のモバイル防御の一部としてエリア防御は選択的に使用されることができる。エリア防御を遂行するよう指定されたそれらの部隊は、より広範な戦役全体の中におかれている自身の役割を理解しておかねばならない。エリア防御の際、防御戦力の大部分は土地を保持するために展開し、防御ポジションと小型のモバイル予備戦力のコンビネーションを用いる。各防御ポジションによってもたらされる静的なフレームワークを中心に防御を組織し、連動する火力をもって敵戦力の撃破を試みる。また、各防御ポジション間に突入してきている敵部隊に対し複数の局地的逆襲(local counterattacks)を用いる。セキュリティ領域または掩護(カバーリング)部隊もまたエリア防御の一部である。

 時折、自軍の状況が防御側に他に選択肢を与えてくれない場合や自軍が圧倒的数的不利で闘っている場合には、指揮官は鍵となる重要地域への敵アクセス拒絶またはそこを保持することが必要になる。そのような状況における成功の鍵とは、各ポジションを整備し更に兵員をそこに適応させ準備を整えるだけのことが時間内にできるようにあらゆるリソースを賢く活用することだ。これはずっと継続するプロセスであり、防御側がその地域の放棄を命じられた場合にのみ終了する。障害物と障壁の計画を最大限活用し、METT-Tの各要素によって実行すべきタスクとその優先順位が決定される。交戦エリアおよび火力管制&配分がエリア防御を成功させる鍵だ。

 作戦エリアの縦深を最大限活用するために、指揮官はMETT-Tの全要素(の影響度)を計量し、最も有利となる防御パターンを使用する。縦深にあるポジション防御は、相互支援を行う諸ポジションを戦場全体にもたらし、その諸ポジションによって攻撃側(敵)は次々と(我が方の)ポジション各々からの攻撃に晒されざるを得なくなる。そのような前方防御はおそらく必須であるが、縦深防御よりも実施が難しい。モバイル防御にはかなりの縦深が必要であり、それに対しエリア防御では状況に応じて様々な縦深になり得る

 指揮官はその保有戦力を適切な地形にある小隊/中隊/大隊の各戦闘ポジションに配置し、特定の志向性と方向性をもたせるか或いは火力投射区域を設定する。状況次第では、重要地域への敵侵入を阻止し別方向への移動を強いるために強化拠点の建設を指示もすることになるだろう。強化地点の建設にはかなりの時間と戦闘工兵支援を要する。幾つかのケースでは地形的制限、特定地域の保持の必要性、または敵戦力が脆弱で組織性が乱れている場合などがあるが故に、あまり縦深が無いエリア防御に成らざるを得ない可能性があり、その主な取り組みは充分前方でなければならない。図9-2を参照。
図9-2_エリア防御_1993年版FM100-5
____以上、1993年版FM100-5第9章2~3項翻訳終了_________________________________________

2015年版FM3-90-1 第7章 エリア防御_縦深内防御と前方防御

(略)

【エリア防御の計画】

(略)
【第7-24項】
 エリア防御を計画する際に、指揮官は2つ防御マニューバの形態の内から選ぶことになるだろう。防御する部隊は、縦深内防御(defense in depth)か前方防御(forward defense)のどちらかを編成できる。上位の指揮官はマニューバの形態を指示するか、従属部隊指揮官のマニューバ形態をふるい落とす制限事項を課すだろう。これらの制限には時間、セキュリティ上注意事項、特定地域の保持などが含まれ得る。これらの2つの展開選択肢は完全なる相互排他性を持つわけでは無い。防御している指揮官の部隊の一部が前方防御を実施している一方で、別部隊が縦深内防御を実施していることもあり得る。

(略)

【縦深防御_Defense in Depth】

【第7-30項】
 縦深防御は通常なら指揮官の好ましいオプションだ。縦深内防御を行っている戦力は、敵に繰り返し我が方の縦深的に配置された各相互支援ポジションに対し攻撃するのを強いることによって、敵の攻撃の勢いを吸収する。これらの諸ポジションの建設はかなりの工兵とその他リソース(生存性と移動妨害性に特化している)を必要とする。縦深性は我が方の火力支援アセットに圧倒的効果をもたらしきる時間を与え、そして防御側指揮官にその圧倒している(部分の)戦闘力の効果を攻撃してきている敵に集中投入する複数の機会を与えてくれる。また縦深性によって、敵の攻撃に適切に対応するための更に長い反応時間が防御側戦力にもたらされる。戦闘開始時からある行動過程に敵が入るまでの間、指揮官は攻撃してくる敵の意図と能力に関する追加情報を継続して集める。これにより敵戦力が予想外の方向へ防御主線を迅速に突破するリスクを低減することができる。

【第7-31項】
 また、敵が多くの精密誘導兵器や大量破壊兵器を使用できる能力を有している場合にも縦深防御を採用する。縦深防御の結果として自軍側戦力と施設が防御作戦エリア全体にわたって分散することになる。指揮官は大量破壊兵器の自軍への影響を低減するためにエリア・ダメージコントロール処置をとり、そして敵にとって有利な標的を与えないようにする。防御側戦力の分散の程度は、決定的地点に圧倒的戦闘能力を急速集中する敵能力と自軍戦力の能力の両方に相関して決まる。

【第7-32項】
 縦深防御を実施する際は、敵接近路とおぼしき所に沿って諸戦闘ポジションの連続的各レイヤーに防御戦力を配置する。(図7-4参照)
図7-4_エリア防御における縦深防御

指揮官は通常は次の場合に防御を実施すると決める。
・戦場の縦深全域にわたって闘うことが許されており、その任務が制限されていない。
・十分に前方で防御するに適していない地形で、その作戦エリア内の奥地にはより望ましい地形がある。
・その作戦エリアがその横幅に比べ縦に深く、そして十分縦深的に利用可能である。
・掩蔽と隠蔽がFEBA上または近辺には限定的にしかない。
・防御側よりも何倍もの戦闘能力を敵が有している。

【第7-33項】
 師団や軍団のような大規模部隊は縦深防御を用いることで、前方防御を採用した場合よりも広い戦線でエリア防御を遂行できる、なぜなら前方防御は戦力を再配置する時間またはスペースがないからだ。縦深防御では、敵の決定的作戦を特定するため及び主戦闘エリア(MBA)への敵侵入の深さをコントロールするために、その主戦闘エリアの前方部分においてセキュリティを行い戦力も投入することができる。それらの防御活動によって、これらの戦力は敵行動に対応する時間を防御側指揮官に与えてくれて、そして敵を排除するオプションである攻勢的なステップ(敵戦力の側面へ逆襲を実施するといったような)を踏むことができる。

【前方防御_Forward Defense】

【第7-34項】
 前方防御の場合、FEBA近辺にある前方の各防御ポジションから決定的作戦を実施する。(図7-5参照)
図7-5_エリア防御における前方防御
指揮官は使用可能な戦闘能力の大部分をFEBA沿いの交戦エリアに集中させる。防御エリアの中への重大なる敵突破を防止することがその意図だ。前方防御を遂行している指揮官は、FEBA沿いのこれらのポジションを保持するために闘い、敵の突入に対しては激しく逆襲を行う。けれどももし主防御ポジションを敵が突破したら、防御側は縦深を欠いているが故に敵の急速な拡張を許してしまうだろう。

【第7-35項】
 一般的に指揮官が前方防御を用いるのは政治的、軍事的、経済的、その他様々な理由で上位の指揮官から前方の地域を保持するように指示された時である。それ以外では、その作戦エリアの一部の地域が(自然障害を含め)防御戦力に好都合な時に前方防御を実施する。理由は次の事項である。
・FEBA沿いに最適な防御ポジションが配置されている。
・強靭な自然障害がFEBA付近にある。
・FEBA付近で自然に交戦エリアが発生する。
・その作戦エリアの後背部分の掩蔽と遮蔽が限られてしまっている。

_____以上、翻訳終了_____________________________________

2019年版ADP3-90

【名称】Army Doctrine Publication 3-90 : offense and defense
【出版年】2019年
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【防御作戦の3態】
 我が軍は敵の前進を阻むために3つの防御的作戦を運用する。

・エリア防御(Area defense)は地域に焦点を置いている。
・モバイル防御(Mobile defense)は敵戦力の移動に焦点を置いている。
後退行動(Retrograde)は自軍の移動に焦点を置いている。

【エリア防御】

 エリア防御とは、徹底的に敵を撃滅することよりむしろ、特定の時間ある指定地域に敵戦力がアクセスするのを阻止することに集中した類の防御作戦である。エリア防御の焦点は、それ自体で相互支援し合うよう準備された守備戦力の各ポジションの大部分のある地域を保持し続けることにある。諸部隊は各々のポジションを維持し、そして敵戦力位置と彼らの望む地域の中間地域をコントロールする。その決定的作戦はエンゲージメント地域への火力投射に焦点が置かれ、おそらく逆襲によって補完される。各指揮官は彼らの有する予備戦力を火力増強、縦深増大、ブロック、または逆襲によるあるポジションの回復をするために使用することができる。逆襲はイニシアチブを奪い取ること、そして敵戦力を撃滅することだ。全階梯の各部隊がエリア防御を実施することができる。1943年7月クルスクの戦いがソ連によるエリア防御の歴史上の参考例だ。(エリア防御を実施するにあたり縦深での防御と前方防御の使用における各長所と短所の検証はFM3-90-1を参照)
fig8-1

【モバイル防御】

(略:モバイル防御と関連資料翻訳記事に載せる)

【後退行動】

(略:モバイル防御と関連資料翻訳記事に載せる)

< 以上、Army Doctrinal Publication 3-90 Chapter 4 pp.4-3~4-4 翻訳 終 >

モバイル防御を巡る米軍の論争

 続きます。モバイル防御とは何か、モバイル防御とエリア防御の差異とは何かをぜひ考えてみてください。米軍の教範の文章を読むだけではその答えには不十分であり、米軍将校達の長き議論への入口となっています。

リンク↓
【機動防御を巡る米軍の混乱】
http://warhistory-quest.blog.jp/20-Mar-23

資料翻訳_機動防御と陣地防御_教範及び論文
http://warhistory-quest.blog.jp/20-May-26
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…ちなみに、本記事の一番最初の図は米陸軍野戦教範の「エリア防御」の章内にある逆襲を表現した図です。モバイル防御ではありません。