戦史の探求

戦史の情報を整理し探求するサイトです。 古今東西の全てを対象とし、特に戦況図や作戦図に着目しながら戦略・作戦・戦術について思索します。

21世紀初頭において無人機の技術は発展を続けており、各軍は非常に多岐にわたるトライ&エラーを繰り返しその活用方法を模索している。その際に、単にドローンと言う単語を用いると、その多様な機械の種類をひとまとめにしてしまうこととなり誤解や混同が生まれやすい。それを避けるために2010年代に米軍及び露軍は軍事用ドローンの分類規定を設定し、現在もそれに基づき研究を進めている。細分化を深くしすぎ尚且つ組み合わせを増やしすぎると(特定の研究の深掘りには良いが)、戦術/作戦/戦略上の実践的運用に有意でなくなってしまうため、可能な限りシンプルかつ汎用的な分類法が求められているからである。
 正しい共通イメージを抱いた状態で論文を読み進めることができるよう、発表を行う際にはこの分類のどれに該当するかを示すことが望ましい。軍事用無人機(ドローン)には大別し無人航空機(UAV=Unmanned Aerial Vehicle)と無人地上機(UGV=Unmanned Ground Vehicle)が存在する。現時点ではUGVよりUAVの方が軍事転用が進んでおり、以下には両軍の軍事用UAV分類を紹介する。

 ※機体を強調するVehicleではなく、通信や処理などの各コンポーネントを含めたシステム全体を扱いUAS(Unmmaned Aircraft System)を用いることもある。

米軍式分類:5グループ法

 米軍内では昔、米陸軍や米空軍、海兵隊が各々独自に自分たちの考えている運用法を提案するために別個の分類法を提示していたことがあり、『Tier(階層)』という用語が用いられ各Tierはおおよそ大きさごとに分かれていた。
 その混迷を収めより分かりやすくするため、2008年11月に統合軍参謀本部は『5 Groups』を定め国防省(DoD)の承認を経て各軍で統一させた。[出典1]

【米軍式】



サイズ カテゴリー 総最大離陸重量 通常時飛行高度 速度
小型 グループ1 0~20ポンド
(0~9 kg)
1200フィート未満(AGL)
(366 m)
100ノット未満
(185 km/h)
中型 グループ2 21~55ポンド
(10~25 kg)
3500フィート未満(AGL)
(1067 m)
250ノット未満
(463 km/h)
大型 グループ3 56~1320ポンド
(25~599 kg)
18000フィート未満(MSL)
(5486 m)
250ノット未満
(463 km/h)
増-大型 グループ4 1320ポンド以上
(600 kg)
18000フィート未満(MSL)
(5486 m)
規定なし
最大型 グループ5 1320ポンド以上
(600 kg)
18000フィート以上(MSL)
(5486 m)
規定なし

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1944年ベラルーシ攻勢はソ連のWW2における軍事的発展の集大成と言える作戦だった。バグラチオン作戦とも言われるこの攻勢は複数の方面軍が同時的に攻撃をしかけ、連続で作戦行動し、そして作戦的縦深で連結するものだ。その計画と調整には作戦術の概念が大いに作用し、各国では様々な研究が為され続けている。

 この広大な作戦には膨大な分析事項があるのだが、その中でも特に話題にされるのが、ロコソフスキーが提唱したとされる『同時的な2方向主攻』である。
バグラチオン作戦の主軸を示した図
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 バグラチオン作戦立案の過程において、広く知られるエピソードは次のようなものだ。
 「スタフカや参謀本部、そして各方面軍司令官を交えて、バグラチオン作戦の主攻に関し様々な議論が為される中、ロコソフスキーは2つの主攻を同時的に発起することを提唱した。従来の戦理に従うなら1つの主攻とそれを支える助攻であるので、他の将軍たちは戦力の分散になる彼の提案に反対した。しかしロコソフスキーは頑として意見を曲げなかった。2度、ロコソフスキーをスタフカは呼び出し納得させようとしたが彼は譲らず、そして最後にスターリンが『実際に担当する方面軍指揮官がこれほどかたくなだということは、その攻勢はよく考え抜かれた末の判断なのだろう』と言ってロコソフスキー案を許可したのだった。」
 この逸話は2010~2012年にかけてロシアの放送局チャンネル1で作られた大祖国戦争戦史ドキュメンタリー『Великая война(英:Soviet Storm: World War II in the East)』の第11回にも採用されている。様々な英語文献でも、時には日本でも2つの主攻という言葉は使われており、それがロコソフスキーの発案だというエピソードはロシア内外に広く浸透している。
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 ただ、これに関して様々な誤認をしているケースを見ることがある。本稿はまずバグラチオン作戦における2つの主攻とは何かを記し、次にその立案過程における上述のロコソフスキーのエピソードの信憑性に疑念が投げかけられていることに関し近年の検証の一部を紹介する。
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 2022年8月22日にANNA Newsがアップロードした動画において、ロシア/DPR軍の塹壕強襲の戦術が、その接近と突入の手法がはっきり分かる形で映っていた。前後の戦況報道からして8/21が戦闘の日付けである。
 戦車歩兵戦闘車歩兵UAV砲兵により構築される敵陣地突入戦法はシステマチックであり、DPR/ロシア軍が現在展開しているロシア・ウクライナ戦争の第2期以降の陣地戦でスタンダード化されているものに近いと推測される。本戦闘方法が今後も現代通常戦で一般化されるかは不明だが、非常に有用なサンプルの1つとなるだろう。

 公式発表はないが、動画内の施設から座標は自分でわりだした。ドネツク前線中央Pisky町の西にある大型道路沿いに作られた周到陣地である。




DPR Assault tactics against trench

分析詳細は記事後半に各場面画像付きで添付する。

◆ 確認できる主な事象は下記。

車両前進時移動速度:ほぼ一定。10km/h前後の低速
0:03 開けた草地を前進するT-72及びBMP-2。車間距離約35m。
0:12 全景確認可能。道路逆側(右側)に友軍戦車の姿は無い。この左側からのアプローチのみ。
  既に最初の戦車による行進間射撃が行われている。 発射時の推定距離280~360m
 ※さらに支援砲撃も実施中。3発以上。
0:19 戦車行進間射撃 2射目
0:25 UAVがトンネルを確認。隠れている敵が出てくる可能性が高い場所。
1:02 戦車行進間射撃 3射目 (※動画編集で途中が切り取られている可能性有。)
1:25 支援砲撃。 画面上端中央部に着弾の噴煙発生確認。 戦車から約140~160m位置
1:38 4発目の戦車行進間射撃。 距離約120~140m
1:47 BMPの行進間射撃。
2:20 UAVが歩兵の接近ルートの防風林を確認。
2:25 戦車は停止直前に主砲使用。側方射撃。40~50mほどの近距離に着弾。
2:31 戦車及びBMPが突入口そばで停止。車間距離は行進中とほぼ変わらず。
2:37 行進中より速く、12秒後に停止状態で戦車が連射。
2:45 UAVが再び歩兵の接近路を確認。
2:51 戦車主砲発砲。
3:02 戦車主砲発砲。85m先の林。11秒での連射。
3:11 BMPが奥へ発砲。直前まで機関砲は正面方向を向いていたが、戦車と同じ側方へ変え射撃。
3:19 画面中央の防風林内に歩兵の動き確認。
3:22 BMPの連射確認。奥を狙っている。
3:25 戦車主砲を数秒前に撃ったらしき発煙。 80m距離に着弾煙確認できず、奥の250m位置と思われる。
   次弾まで11秒間隔で逆算し3:20で発射と推定。
3:31 戦車主砲発砲。80m位置着弾。直前の映像で塹壕も無く人もいない。誤射?威嚇?
3:39 奥の塹壕内にウクライナ兵の動く姿確認。戦車から240~250m位置。
   既に傍で燃え始めており、3:20秒頃に撃った弾と推定される。または支援砲撃。
3:50 戦車主砲発砲。
3:54 UAVが戦車の後ろ側の塹壕に敵が居ないか念のため警戒。
4:19 戦車主砲発砲。
4:22 歩兵が横の防風林から出て野原を小走りで突っ切り、味方のBMP停車位置へ向かう。1つ目の分隊9名。
4:28 戦車が後退開始。
4:42 戦車は射撃時に使っていた射線が開けた箇所からずらしてから反転、後退再開。
4:45 野原を横断中の2つ目の歩兵分隊確認。その間、先頭の分隊はBMPの影に隠れ止まる。
4:50 先頭の分隊が突入口へ向け再度小走りで前進。
5:09 戦車が向きを変え撤退しながら後部の対空機銃を周辺へばらまいている。
   狙いはつけず60度範囲を20数秒間で制圧射撃している。
5:17 戦車がスモークを展開。 後部機銃の制圧射撃は継続。2つ目の分隊はスモークの隣を突入高へ向け前進。
5:18 先頭の分隊の兵士が塹壕突入口へ到達。後続は縦隊のまま迅速に入口の塹壕内に集結。
5:45 2つ目の分隊が入口の塹壕で集合完了。
6:23 歩兵が塹壕内を前進している姿が確認。
6:25 歩兵の進む100m先に煙が上がっている。1分前の映像では無かったので新たな着弾=支援砲撃。
6:28 BMPが離脱を十秒前に開始している。
   スモーク跡から既に戦車が後退済みなのが確認できる。後退ルートは来た道と全く同じ。地雷対策。
6:30 全景再確認。 逆側は全く車両のアプローチ跡が無い。 
   支援砲撃が縦深数百mに渡り数発実施されているのが見える。
   手前のトンネルと奥のトンネル位置にも煙。継続的に燃えている可能性有。

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 本稿は1977年にソ連で主に高級将校向けに作成された書籍『戦車の打撃:大祖国戦争の記録に基づく、方面軍の攻勢作戦における戦車軍』の第4章の抜粋試訳を中心にし、幾つかの補足を入れる。
添付4_戦車軍の戦闘作戦

 本研究記録は、大規模な通常戦とは攻勢側に甚大な被害を伴うということを明示している。この損失量は、大半が1944年以降の作戦においてであり、ソ連が明確に巨大な戦力的優位性をドイツに対して有してからの時期において実施され、そして『成功した攻勢』の中で発生しているのだ。突破口形成済み箇所への投入をされた部隊より更に、突破口形成をする部隊は強固な抵抗にあいながら任務をやり遂げる。そこには膨大な兵士の血と壊れた車両を踏み越える以外の道などなく、それを前提とした上で作戦を立案し、戦争を開始しなければならない。具体的には主に、機甲車両の大量損失が勝敗関係なく発生するため、それを補う計画と体制を整える必要性を実戦例に基づき訴えている。燃料弾薬の第3項、人的損失補充の第4項については別途作成する。
___以下、本文_________________________________________

第4章 序文

 独ソ戦での方面軍が実施した攻勢作戦の中で、戦車軍は方面軍攻勢の作戦的縦深で戦闘作戦を実行した。敵は強力で卓越した技量を有していた。時に戦車軍は他の諸兵科連合軍から離れ独立して戦闘し、そして重い損失に苦しんだ。
 人的損失について、軍レベルで最大10~15%(※これは戦力差が拡大した1944年以降。1943年後半期攻勢は20~30%。第4項に後述)、軍団または旅団では最大40~50%、大隊では70~80%にまで達することがあった。大半の事例で、戦車軍は人的および装備の深刻な不足に苦しみながらも、作戦を継続し敵を打破した。

 攻勢作戦における戦車軍の実戦経験の研究は、この数年間の戦争中にはありとあらゆる措置がとられ、何よりも高い士気を保ち、兵士の戦闘能力を維持しそして回復させたことを明らかにした。
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 16世紀、中~西欧において銃の性能と戦術の発展は、他の様々な要素と絡み合いながら戦場の様相を少しずつ変えつつあり、異なった度合いながらその事象は世界各地でも見られました。今回は西アフリカ戦史において重大な契機と捉えられ、そして幾つかの誤解をかつてされていたBattle of Tondibiについて記します。

 この戦例の中では戦史で注目される幾つもの事象を見ることができ、非常に意義の深いものとなっています。

・火薬技術と戦列銃兵について全く未知の軍が、火薬にあまりにも偏った依存をした軍と対決した
・モロッコ軍歩兵において銃兵が占めた割合が50%を超え、更に殆ど槍兵がおらず戦闘した可能性がある
・銃兵vs騎兵の発生
・銃兵vs弓兵の直接的対決が起きた
・包囲戦術の敗北
・牛の突撃または塁壁化戦法
・砂漠を横断する長期行軍とその膨大な損失
・会戦に勝利できても後の広域の統治支配を行える軍ではなかった
・宦官の指揮官
1591battle of Tondibi_GIF

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2020年9月末から開始されたアゼルバイジャンとアルメニアのナゴルノ・カラバフ戦争は年内に停戦合意に到り、その期間の短さから44日間戦争と一部で呼称されている。内戦やテロ掃討戦では無く国家同士の戦争であることからシリアやイラクの内戦とは違った着目の仕方をされた。両国のリソースが中小規模であったことは、そこで見られた軍事的事象を先進諸国に適用できるかに関し慎重になる必要性を生んでいる。それでもこの戦争で両国の軍隊は諸外国が注視する意味のある様々な教訓を示してくれた。その1つは作戦‐戦術レベルにおける伝統的なマニューバの有効性である。

 ※本稿は政治的な活動とプロパガンダ、情報戦、諸外国の支援は範囲外とし、アセットを有した状態から発起された軍事作戦のみを対象とする。
azerbaijan offensive 2020

 結論から述べると、アゼルバイジャン陸軍の行った作戦は古典的な迂回マニューバである。また、その手法も伝統的な戦線突破及びその後の拡張メソッドそのままだ。航空戦力は著しい脅威を継続的にもたらし、砲兵は偵察の情報を基に戦果を挙げ、機甲は作戦的に重大な役割を果たし、そして歩兵はその足で戦闘終結のための決定的なタスクをこなした。各兵科の投入タイミングと位置は見事な水準で調整されていた。
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