戦史の探求

戦史の情報を整理し探求するサイトです。 古今東西の全てを対象とし、特に戦況図や作戦図に着目しながら戦略・作戦・戦術について思索します。

September 2019

 英軍野戦教範1997年 想定され得る敵勢力(GENFORCE)の分析、作戦術および戦術ドクトリンより抜粋。ただし内容はソ連期の書籍からの抜粋がほとんどです。
 本稿は敵勢力が軍事計画及び行動時に使うであろう計算式について述べたものです。つまり敵勢力がどう解釈しているかが記されています。
※1997年英軍教範のGENFORCEはほぼロシアを暗に示している内容
公式集_突破幅_必要戦力_準備砲撃達成目標_進軍速度
以下 説明
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【第12章 指揮統制と通信】 
第2項 戦場の計算
ノルマに関する章

一般則

 兵術(ミリタリー・アート)とは実に適切に付けられた名だ。なぜなら軍事作戦を支配するのは事実に基づく戦争の各法則科学的現実であり、それを理解し適用する上で創造性が必要となるからだ。敵勢力の解釈では、これらの科学的に確実な事物を完全に把握することは最初の必須ステップであり、それなしには技巧は確固たる基盤を持てないとされる。敵勢力はほぼ全ての戦闘は数学的な計算におとしこめると考えている。これがなぜコンピュータが指揮官たちに極めて快く受け入れられたかの理由の1つであり、それらが敵軍の部隊統制システムに奇妙なまでに実によく適合しているかの理由でもある。
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 ソ連軍将校教練コースの最高学府の1つ、通称としてはヴォロシーロフ士官学校で知られる場所で使われていた教材を一部紹介しようと思います。

当時の名称は『Military Academy of the General Staff of the Soviet Armed Forces named for Marshal К. Е. 』
現在はロシア連邦で『Voroshilov Military Academy of the General Staff of the Armed Forces of Russia』

 少なくとも1973~75年に使われていたこの軍学校講義資料は、本校の生徒であったアフガニスタン軍所属Ghulam Dastagir Wardak大佐がコピーしてアフガンへ持ち出しました。彼はアフガニスタン軍事大学に勤め、勃発した戦争で指揮官としての手腕を発揮します。1981年に彼は米国へ脱出しレジスタンス組織を作ります。そして米国との友好関係を育み後に秘匿し続けたこの資料を渡しました。米軍のソ連軍事専門家たちが集まり英訳が為され『ヴォロシーロフ・レクチャー』として各600頁ほどで3巻にまとめて出版されました。ソ連のドクトリン、戦略、作戦術、戦術に関する解釈といったソ連軍最重要事項について説明し、参謀や将軍の軍事的思考の基幹となる資料です。
ヴォロシーロフ レクチャー
 1巻は特に戦略原則や編制に戦争準備、2巻は指揮統制や航空に文民や経済との軍事的関係、3巻は作戦から戦術規模の原則が多めです。
 これを読む前に注意すべきことは、この資料は『冷戦期のソ連軍将校が実践的に身につける』ための教材であるということです。米軍や日本の各研究者の独自解釈や自国への適用を背景に持つ解説ではなく、概念を議論するための学術的論文でもない、特定の用途が背景にあることを念頭において下さい。
 今回は紹介のため3巻第1章"Operational Art"について試訳します。(WW2や21世紀、ソ連以外の国を想定した作戦術理論とは違う箇所がいくつかあるはずです。作戦術理論は時代と共に変化するものであり、固定概念とすべきでないことはソ連軍教本中にも述べられています。)

 英訳は多数の軍人が関わり語彙などで入念な翻訳校正が為されています。故に誤解を避けるため本文は少しくどい表現が為されており(何がするか、何のためかなどの言葉が省略されず繰り返されるなど)やや読み難いかと思います。今回の試訳もほぼ直訳としました。また文中の現代は冷戦当時を意味します。

 本来このような場末のサイトで一部紹介されて終わるべきものではないと強く思っています。この極めて貴重かつ高度な資料が、本分野に長けた日本の研究者の手によって多くの注釈をつけて翻訳され世に出てほしいと願っています。

以下試訳_______
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