戦史の探求

戦史の情報を整理し探求するサイトです。 古今東西の全てを対象とし、特に戦況図や作戦図に着目しながら戦略・作戦・戦術について思索します。

カテゴリ: 軍事理論

 ソ連とロシアで使用されてきた戦術レベルの中隊及び大隊防御フォーメーションの説明と、技術発展の中で別のフォーメーションに改革すべきだとし提案された新型案の紹介をしてみようと思います。
Trefoil formation by a company
 20世紀末のソ連において(もしかすると21世紀のロシア軍内の一部でもまだ) 議論された防御隊形があります。 それはトレフォイル=三つ葉と呼ばれた隊形です。これは極めて大胆な変化を防御の基盤にもたらし得る発想でした。
 強大な軍事力を有する敵と対峙する戦場において、ソ連軍内では従来の防御隊形では技術的発展や新たな性質に十分対応できないと考え、新型フォーメーションを提案した者達がいました。今回はまずWW2から現代まで使用されている従来の2梯隊型防御フォーメーションを説明した上で、次に新型案を巡る議論の一部を訳します。
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 軍事的文脈おいて全滅とは部隊の3割が死傷したことをいう、という言説は一般にまで浸透しつつあるようです。ただこの言説が何を根拠に言われているのか辿るのは難しく、かなり朧げなものです。この言説は日本だけでなく諸外国でも類似的なフレーズが広まっており、確かに軍人にもそれを使う者はいますが公的な一致は無いというのが実情です。
 本拙稿は誰が言い始めたかという起源調査ではなく、実戦データの統計を見ることでこの死傷率N%で機能喪失の言説がそもそも正しいのか、実戦の運用に足るものなのかをテーマとします。そのために米国で行われた調査論文の結果を紹介しながら書いていきたいと思います。
死傷率N%機能喪失言説

 戦史を学んでいる人々にとっては予想通りの結果でしょうが、調査の過程で浮かび上がった幾つかの事象の方が興味深いかもしれません。先に結果を書いて、後半にそれらを記述しました。
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 機動防御とは何か、そして陣地防御とどのようにわけるべきなのかという議論は一見簡単に見えて非常に根深い問題を抱えています。

【機動防御を巡る米軍の混乱】
http://warhistory-quest.blog.jp/20-Mar-23
何がモバイルなのか
 それについて前回の記事で簡単にその一部に触れましたが、まだわかりにくかったかもしれません。Walters少佐の論文のp.38に記されているように、このテーマはともすれば衒学的になってしまいがちです。
 それでも本テーマは現代の防御ドクトリンを考える上で重要な価値があると思います。この困難な道を研究する人々の何かの刺激になればと思い、本記事にはこの問題を考える上で参考になる資料の一部を訳せるだけ訳しました。特に1993年にWalters少佐が提出した論文を中心としています。
 目次は下記となります。最初に用語の説明を教範中から抜粋した後で論文試訳を行い、最後にそれらを踏まえた上で幾つかの年代の教範の実際の記述を記すこととします。教範の翻訳はエリア防御とモバイル防御両方の範囲を含みます。もしかしたら論文よりも教範の文章を先に読んだ方がいいかもしれません。

用語解説
・2001年版FM3-90 Tactics 第8章_防御作戦の基礎(MBAとFEBA、Battle positionの定義)
・1954年版FM100-5 Operations 第296項_主逆襲と局地逆襲

論説翻訳
・1964年論考_Infantry_防御マニューバ_歩兵学校の定期誌でのモバイル防御問題の論考
・1973年論考_Militery Review 12月号_柔軟対応ドクトリン
・1994年論文_Mobile Defense : Extending the Doctrinal Continuum_モバイル防御の混乱について新条件を組み込んで解決しようとした論文(本文全翻訳)

教範中のエリア防御とモバイル防御の記述
・1954年版FM100-5 Operations 第9章_防御
・1960年版Landing Party Manual_第10章_防御_陸戦隊の教範中でのモバイル防御とポジション防御
・1993年版FM100-5 Operations 第9章_防御の基本事項
・2015年版FM3-90-1 Offense & Defense _第7章_エリア防御(縦深防御と前方防御)
・2019年版ADP3-90 Offense and Defense_エリア防御とモバイル防御そして後退行動の定義続きを読む

 「カバゾス将軍が37の戦闘指揮訓練プログラムの先任管轄者としての経験を述べた所によれば、指揮将校学生を含むあらゆる(米軍の)指揮官は少なくとも一度は彼らが機動防御と呼んだ作戦を実施してきたという。さらに続けて彼は断言した、現在に至るまで機動防御を1度でも実際に実行した指揮官は1人も存在しない、と。」 
G.L.Walters少佐, (1993), "Mobile Defense : Extending the Doctrinal Continuum", p.2 より抜粋)
   
 「戦術について真面目に取り組む学生なら皆、現在の米陸軍ドクトリンに組み込まれている2つの基本マニューバ形態の概念的な理解を深める必要性にすぐに直面する。」 
(米陸軍歩兵学校, (1964), "Infantry", p.27)
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 本記事は日本で機動防御と呼ばれる防御形態について、特に米軍の解釈とそこに巻き起こった混乱に関する基礎情報を記します。別途製作する論文及び教範の抜粋試訳を読む際の基盤にして頂けたら幸いです。誰もがわかっているようでいざ話してみると詳細が一致せず、米軍の教範に書かれていることを深く考察すると様々な疑問点が生まれ出でます。むしろ教範を1つしか読まない方がその迷路に入らずに済み、年度別版や実戦用の師団や旅団の教範など複数を読み進めていくと謎が深まっていきます。
 本稿は混乱を紹介するものであり、解答を示すものではありません。この難題に関する考察や資料が何かあればどうか教えてください。
counterattack in mobile defense and area defense


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 陣地防御機動防御について米陸軍の考え方の紹介をしようと思います。大半が教範または軍の論文の訳であり、補足説明は最初に少し書いであるだけです。陣地防御と機動防御はその名前は有名であり極めて重要な防御フォームであるにも関わらず、その中身の説明があまりに簡略化され(或いは名前だけから想像をして良くも悪くも話される)誤解を生んでいるのを見たことがあるかもしれません。本記事では米軍教範と論文によってその元の説明文の紹介を行います。
 …しかし本記事はその混乱を解くものではありません。なぜなら米軍のエリア防御とモバイル防御の説明には深刻な問題点があり、米軍内ですら混乱と論争があるからです。(もしかしたら誰かの論文で明解な答えを示してくれているかもしれませんが、少なくとも現在時点の米陸軍野戦教範及びドクトリン教範は問題を抱えたままです。)むしろ教範などを読み込まない部分的な理解である方が混乱はしないのかもしれません。ただそれでは重大な欠落が伴ってしまいます。ですので教範と論考の知識を深め、それ故に混乱へと踏み込み、深い考察をする入口として本拙稿を記そうと思います。
  
「戦術について真面目に取り組む学生なら皆、現在の米陸軍ドクトリンに組み込まれている2つの基本マニューバ形態の概念的な理解を深める必要性にすぐに直面する。」 
1964年 米陸軍歩兵学校 Infantry p.27より抜粋
エリア防御での逆襲
(上図は機動防御か陣地防御どちらだと感じるでしょうか。最初に考えて頂けると良いかもしれません。)

  非常に長くなるため本記事ではまず米陸軍がエリア防御(ポジション防御)と呼ぶものについてを抜粋します。また本文では陣地防御をエリア防御、機動防御をモバイル防御と元の英単語がわかるように記述します。
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 循環移動射撃(カルーセル、トラゥザーズ)戦法について紹介した前回の記事に続き、それを組み込んだ戦術的行動について調査しましたので記載しようと思います。
 機甲の循環移動射撃が組み込まれ得る戦術は様々あり、現在シリアでの実戦やロシア軍の演習で試されています。いずれも極めて強力なものであり、相手がもしそれを把握しておらず巧みな対処ができなければ破滅的な影響をもたらし得ます。それらは真新しいものではなくむしろ歴史的に幾つもの巨大な実績をあげた戦術の現代への適合と統合という意味での進化に近いものでした。循環移動射撃戦法がもたらす効果はその戦術を構成する一要素として、例え循環移動射撃が単一では敵に重い損害を与えていなくとも、全体の戦果に対し大きな貢献をしています。
 以下の事項について特に着目して記述しました。

・偵察‐打撃コンプレックスの活用
・機甲のノマド式運用
・長時間制圧射撃と別チームの移動支援
・誘引からの分断、包囲、逆襲(マニューバラブル防御の一部)
カルーセル_偵察からの打撃

関連
前回の循環移動射撃(タンク・カルーセル、ファイヤ・カルーセル、タンク・トラゥザーズ)、シリア式塁壁に関する調査記事。
リンク→タンク・カルーセル戦法_機甲による循環移動射撃
http://warhistory-quest.blog.jp/20-Apr-15

攻撃時に後退を含む頻繁な移動を許容し、継続的な射撃を行うタイプの戦闘技法とそれを用いた包囲戦術の事例
リンク→弾性の包囲概説と戦例
http://warhistory-quest.blog.jp/18-Apr-12
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