戦史の探求

戦史の情報を整理し探求するサイトです。 古今東西の全てを対象とし、特に戦況図や作戦図に着目しながら戦略・作戦・戦術について思索します。

カテゴリ: 資料

 マルチドメイン作戦の一環として宇宙関連の軍事要素はその重大性を拡大し続けています。衛星を用いた通信あるいは画像観測は地上部隊や航空部隊の作戦に大きく影響し、計画立案時には適切に宇宙関連能力を配分することは必要不可欠となりました。しかし宇宙関連能力を全ドメインと統合し協調した作戦行動を取るための手法は発展段階にあり、まだ米軍ですら空白と呼べる問題事項があるようです。

 米陸軍の宇宙作戦将校には、米陸軍宇宙及びミサイル防衛司令部/陸軍戦略司令部の計画立案に携わっているJ.V.ドリュー2世少佐という人物がおられます。少佐はたびたび陸軍向けに、統合運用の視点から宇宙関連機能がどう使われるのか、あるいはどういう制限があるのかといった説明を非常にわかりやすく説明してくれています。
 今回はこのドリュー少佐が米陸軍季刊誌に寄稿した2つの論文を基に記そうと思います。翻訳している箇所も部分的にありますが推敲しておらず略も多いため、メモ書き程度だと思って読んでいただけたら幸いです。
Visualizing the Synchronization of Space systems

 前半はマルチドメイン作戦をする上で宇宙関連の基本事項(宇宙の3地域、軍事作戦に影響する宇宙環境、責任所掌)を記し、後半には実際に上級司令部での演習で使用されたチャート図を用いたクロスドメイン調整の例の説明を書くこととします。
 宇宙関連能力、例えば衛星などに対する知識理解を他分野の人々がそこまでしていない場合もあり、色々と苦労が起きていることが仄めかされています。チャート図は実際にどういう風に作戦コンセプトが固められていくのかがわかりやすいので、そこだけでも読んで頂けたら嬉しいです。
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冷戦期、西ドイツをワルシャワ条約機構から防衛するためNATO軍が配備されていましたが、その中でもよく議論されたフルダ・ギャップと呼ばれる場所があります。そこはドイツ中央部に位置し、東ドイツの領土が最も突出した箇所に面している所です。北ドイツ平野に比べ中央~南部は山が多く侵攻には手間がかかります。ただここは天然の障害物となれる大きな河川のフルダ川と山系が国境沿いにあるのですが、そこを越えると大きな障害が無く一挙にフランクフルト周辺の広大な平野と人口・産業地帯そして米軍の重要後方拠点まで進出できてしまうため注目されました。
標高_ドイツ中央部東西ドイツ地図_高速道路

 1980年米軍の高級将校たちがある会議にWW2のドイツ国防軍でその名を馳せたヘルマン・バルクとフォン・メレンティン両将軍を招きました。その目的はフルダ周辺に配備されている米陸軍第5軍団の兵棋演習でした。
 米軍側はデピュイ大将、オーティス中将、ゴーマン中将を筆頭に、軍団区域の南を担当する歩兵師団の戦術プランを説明しドイツの両将軍の質疑に答えました。一方でドイツの両将軍はその場で戦場や戦力の説明を受け、それから軍団区域の北の第3機甲師団の戦術プランを彼らが考え話すことになります。この両者のコンセプトや経験は米軍関係者にとって参考になるものでした。
 兵シミュレーションなどを作成しているBDM社の協力の下、彼らは4日間の戦術的な分析議論を行い、後に会議内容をまとめたレポートをデピュイ大将が作成しました。

 William E. Depuy, (1980), "Generals Balck and Von Mellenthin on Tactics: Implications for NATO Military Doctrine"

 今回はこのレポート内容について記そうと思います。一部翻訳している箇所もありますが、基本的にデピュイ大将の書いている文の要点を内容を把握できる程度にメモ書きしたものとなります。
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 先に自分ならどうするか考えてみて頂けると、後々の思索が深まると思います。ですのでまず始めに戦域およびソ連軍の戦力と初期配置のみにした図を貼っておきます。地形は上図を参照ください。AlsfeldからBad Hersfeld中心までは直線距離33.5㎞です。
 米軍は第5軍団所属の第3機甲師団が北に、第8機械化歩兵師団が南に配置されます。戦力詳細は次のようになりますので、よければこれをまずどこに初期配置するか考えてみてください。
第3機甲師団の域内戦力
  機甲=6個大隊
  歩兵=5個大隊(全て機械化)
  砲兵=8個大隊(全て自走砲化)
  騎兵=3個大隊(機甲偵察車両)

第8機械化歩兵師団の域内戦力
 機甲=5個大隊
 歩兵=6個大隊(全て機械化)
 砲兵=9個大隊(全て自走砲化)
 騎兵=2個大隊(機甲偵察車両)

 ※師団サイズは米軍第3機甲師団は約15000人、ソ連の戦車師団は1個あたり12000人前後としてください。
 ※1960年代のIvashutin将軍の文書によるとソ連の作戦は核兵器使用の有無に関わらず実行可能とされた。
NATO演習_00
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 現代ロシア陸軍の指揮管理の基本事項について非常に巧くまとめた論文の紹介です。
 タイトルは『ロシア流戦争手法 - ロシア陸軍における軍部の構造、戦術、近代化』となっています。軍部全体の人事組織や階級章、兵器の説明から分隊~旅団までの基本配置なども図示されています。各項目の詳細部には深く立ち入るものではありませんが、総括して視る英語版ハンドブックとして良いものとなっています。

原題】:The Russian Way of War - Force Structure, Tactics, and Modernization of the Russian Ground Forces
公開】:2016年
発刊部署】米陸軍調査センター外国軍事研究オフィス(Foreign Military Studies Office)

 下記軍事サイトの書籍説明文と各著名専門家コメントが最も端的に本書を表現しています。
https://www.mentormilitary.com/The-Russian-Way-of-War-Ground-Forces-Tactics-p/gra-rwow.htm

「強大なるソ連陸軍はもういない。チェチェンで出くわした無謀なるロシア陸軍ももういない。今あるのは近代化され、より人的に洗練され、核兵器脅威下でマニューバ戦闘のためによりよい装備を持ちよりよいデザインを為されたロシア陸軍である。この本はユーラシアの強大国の戦術、装備、軍部の構造、そして理論的基盤についての資料となるだろう。」

 英国のCharles Dick戦闘研究調査センター前所長、モスクワの軍事科学教授Vadim Kozyulin博士、Ruslan Pukhovモスクワ戦略&技術研究センター所長らが賛辞を送っていますが、どれもソ連崩壊後と現在のロシアのギャップを埋める、2008年からの改革の成果を反映した現代ロシア軍についてのここ10年で最もまとまった本であるという趣旨です。ソ連分析の専門家として高名なD.M.Glantz大佐は本文にもまえがきを送っています。
 本文の大半はロシア政府が公開している複数の軍事資料を図含め丁寧に英語化(図はほぼそのまま)して整理していると思われます。
戦術核攻撃_敵予備へ_1988
 以下にはその一部を図を中心に紹介し、おおよそ本書の雰囲気が伝わればと思っています。文章翻訳などはしておらずメモ書きだけですので、きちんとした説明が為されている原本をどうかご参照ください。

 あとロシア式の戦況図と兵科記号を覚えるのに役立つ気がします。ロシア式戦況図が好きなんで同志が増えてほしいです。
___以下部分的抜粋紹介________________________
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現在オーストラリア軍では急速に変化する世界情勢、技術性能、そして軍事理論に対応しようと政府を含めた全体で取り組んでいます。
 今回紹介するのは技術進化の個別事例ではなく、変化に対応するための根本的な備えを身に着けようという基幹コンセプトです。

 その基盤となるのが「適応戦役化」という考えです。事前に計画していたことだけでは対処できず新たに逼迫した習得すべき事項が生まれる、つまり変化に適応するアクションを取ることになると豪軍は考えています。必ず将来的にその個別の適応化事項について「学習」をするが故に、豪軍がすべきことは「学ぶ方法を学ぶ=Learn how to learn」組織・意識・システムを作ることとされています。
 そのための1つが特に司令官・戦略レベルで有効とされる適応化サイクルあるいはASDAサイクルと呼ばれるコンセプトです。豪軍はそれを「正しく課題を解決する」よりもまず「正しい課題を解決する」ように戦略・作戦レベルで変化に適応しなければならない、そのためのツールとしています。
The Adaption Cycle_ASDA loop
※ Discovery Actionからスタートし最低一周してからDicisive Action(かつDiscovery Action)へと移るという意味の図。

 一見するとジョン・ボイド大佐のOODAループに似ていますが、ASDAサイクルはそれと対立はしない別の理論です。本文中にも説明がありますが最後の訳者追記箇所に補足を入れました。
 以下にはAaptation Cycleが述べられた第4章についての訳文を記載します。…意外と長いと感じられる方は【4.9】項、【4.10】項、【4.15】項にとりあえず目を通していただければ要旨は把握できます。

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以下、訳文

【題】陸軍の将来的陸戦運用コンセプト_ARMY’S FUTURE LAND OPERATING CONCEPT
【製作】豪陸軍総司令部_HEAD MODERNISATION AND STRATEGIC PLANNING - ARMY
AUSTRALIAN ARMY HEADQUARTERS

【発行年】初版発行2009年、改定2012年

第4章 適応戦役化_Adaptive Campaigning

【序論】

【4.1】
 将来的な安全保障の複雑性に対応する陸軍は適応戦役化を実施することになる。適応戦役化は次のように定義される。
『紛争解決及び国益を進展させるための統合的政府全体アプローチへの軍事的貢献の一部として地上軍により遂行される行動』
国防白書2009で説明されているように、適応戦役化が狙いとするのは平和的に政治的談話を促進し、国益に繋がる条件で状況を安定化させるように全体環境へ影響を及ぼしそして形作ることだ。

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低空域の軍事活用は現在驚異的な進化の最中です。技術的発展はそのドメインの戦闘の様相を変え戦術・作戦に新たな可能性をもたらし、陸海空軍は様々な観点から新たな軍事思想を検討しています。
 以前その1つ、ハースト少将の提唱した『戦術空域コントロールと作戦空域コントロール』を紹介しました。
リンク→http://warhistory-quest.blog.jp/19-Apr-13

 今回は2019年の米国防大学季刊誌掲載ドハティ米空軍大佐の論文の一部を紹介したいと思います。近い将来技術的発展がもたらすであろう、極低空を含んだ領域の地形的特性とその領域での戦闘作戦についての考察です。
 極低空を含んだ領域と言ったのは低空域の一部のみを指すのではなく、そこに地上から伸びる様々な物体とその隙間各要素も含むためです。この空と陸が混ざる領域のことを『空の岸辺(Atmospheric Littoral)』とドハティ大佐は呼びました。

 軍事において海岸部で、そして海岸を越え展開する活動は水陸両用作戦と名付けられ、陸のみとも海のみとも違う独自の扱いが必要とされる領域となっています。技術的進化は海岸と同じ様に空と陸の混ざる領域の軍事的可能性を拡張しつつあります。空と陸の軍事的性質が共に在り、強い相互作用を持続的に及ぼす領域で遂行される戦闘に着目し、大佐は『空岸作戦』というコンセプトで発展させようと試みています。
Colombian soldiers_outskirts of Medellin
< 画像:foreignpolicy より >

 下記の論考訳文は大佐が「一例」と述べられているように、現実的に直面しているドローンに主眼を絞ったものですが、空岸作戦の一部をイメージしやすいものかと思います。読まれる際は米空軍畑エリート将校の視点という所を念頭に置くと面白いかもしれません。
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以下抜粋訳文  

空岸コントロールによる陸上戦闘での優位性確立

著:George M. Dougherty米空軍大佐 2019年7月 統合軍季刊誌94号 第3四半期
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 英軍野戦教範1997年 想定され得る敵勢力(GENFORCE)の分析、作戦術および戦術ドクトリンより抜粋。ただし内容はソ連期の書籍からの抜粋がほとんどです。
 本稿は敵勢力が軍事計画及び行動時に使うであろう計算式について述べたものです。つまり敵勢力がどう解釈しているかが記されています。
※1997年英軍教範のGENFORCEはほぼロシアを暗に示している内容
公式集_突破幅_必要戦力_準備砲撃達成目標_進軍速度
以下 説明
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【第12章 指揮統制と通信】 
第2項 戦場の計算
ノルマに関する章

一般則

 兵術(ミリタリー・アート)とは実に適切に付けられた名だ。なぜなら軍事作戦を支配するのは事実に基づく戦争の各法則科学的現実であり、それを理解し適用する上で創造性が必要となるからだ。敵勢力の解釈では、これらの科学的に確実な事物を完全に把握することは最初の必須ステップであり、それなしには技巧は確固たる基盤を持てないとされる。敵勢力はほぼ全ての戦闘は数学的な計算におとしこめると考えている。これがなぜコンピュータが指揮官たちに極めて快く受け入れられたかの理由の1つであり、それらが敵軍の部隊統制システムに奇妙なまでに実によく適合しているかの理由でもある。
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