戦史の探求

戦史の情報を整理し探求するサイトです。 古今東西の全てを対象とし、特に戦況図や作戦図に着目しながら戦略・作戦・戦術について思索します。

カテゴリ: 現代戦

 循環移動射撃(カルーセル、トラゥザーズ)戦法について紹介した前回の記事に続き、それを組み込んだ戦術的行動について調査しましたので記載しようと思います。
 機甲の循環移動射撃が組み込まれ得る戦術は様々あり、現在シリアでの実戦やロシア軍の演習で試されています。いずれも極めて強力なものであり、相手がもしそれを把握しておらず巧みな対処ができなければ破滅的な影響をもたらし得ます。それらは真新しいものではなくむしろ歴史的に幾つもの巨大な実績をあげた戦術の現代への適合と統合という意味での進化に近いものでした。循環移動射撃戦法がもたらす効果はその戦術を構成する一要素として、例え循環移動射撃が単一では敵に重い損害を与えていなくとも、全体の戦果に対し大きな貢献をしています。
 以下の事項について特に着目して記述しました。

・偵察‐打撃コンプレックスの活用
・機甲のノマド式運用
・長時間制圧射撃と別チームの移動支援
・誘引からの分断、包囲、逆襲(マニューバラブル防御の一部)
カルーセル_偵察からの打撃

関連
前回の循環移動射撃(タンク・カルーセル、ファイヤ・カルーセル、タンク・トラゥザーズ)、シリア式塁壁に関する調査記事。
リンク→タンク・カルーセル戦法_機甲による循環移動射撃
http://warhistory-quest.blog.jp/20-Apr-15

攻撃時に後退を含む頻繁な移動を許容し、継続的な射撃を行うタイプの戦闘技法とそれを用いた包囲戦術の事例
リンク→弾性の包囲概説と戦例
http://warhistory-quest.blog.jp/18-Apr-12
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現在ロシア軍が訓練とシリアでの実戦データ収集を続けている機甲による戦法『タンク・カルーセル』について記述します。関連する『タンク・トラゥザーズ』戦法と『シリア式塁壁』についても触れることにします。

 内実は循環移動射撃戦法と呼ぶべきものであり、基本コンセプトは古くから続くショット&アウェイです。科学技術進歩に伴い複合的に進化した機甲車両と砲兵隊によって、このコンセプトを現代戦の中で実践する手法として再び現れました。ロシア軍、シリア軍、ウクライナ軍による実戦運用と訓練が進められており、米軍も少しずつ研究を続けています。
 長所と短所の両方があるこの戦法の特性について調査して判明した範囲で説明し、次に戦術の中でこの戦法がどう活用されるのかをロシア軍の演習を例に記そうと思います。

 まだ不明点が多く実戦記録も十分でないため、別の資料や戦車運用の知見をご存じの方の意見をどうか伺いたく思っています。発展性と制限性の両方がある極めて興味深い戦法だと感じています。なにとぞご助力お願い致します。
Fire Carousel

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 BTG = Battalion Tactical Group = 大隊戦術グループ(大隊戦術群)は現代ロシア連邦軍が改革の成果の1つとして実戦投入している編制です。NATOの通常とは違うこの部隊に対し米軍は強い関心を抱いて調査を進めています。

 BTGについて少し話を見かけたので、今回は以前参考資料として以前紹介した米軍指揮幕僚大学外国軍事研究室が発表した『Russian Way of War』という現代ロシア軍の戦争手法解析論文から関連個所を抜粋翻訳してみようと思います。
 ロシアの戦争観や作戦レベルや戦術レベルの考え方、ミッションコマンドについても触れられているので大隊戦術グループ以外でも興味深い記述があります。
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別に書いた参考資料紹介
リンク→【現代ロシア陸軍の基本戦術、装備、軍部構造、近代化理論基盤_2016】
http://warhistory-quest.blog.jp/19-Nov-28

リンク→ソ連軍士官学校での教材上の作戦術
http://warhistory-quest.blog.jp/19-Sep-20
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Battalion Symbol

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 米国指揮幕僚大学のロジスティクス分野の論文を今回は一部試訳し紹介しようと思います。
】Operational Logistics
著者】Michael Cyril Lopez 少佐(当時)
製作年度】2001年

 本論文は題の通りロジスティクスについて書かれていますが、いくつか注記すべき特徴があります。
 第1に、作戦レベルのロジスティクスに完全に絞られていることです。戦術レベル、本文中で言えば局地輸送の話はほとんどなく師団内部や軍団内部でどうやり繰りしたかなどは書かれていませんし、小技などは皆無です。戦域規模の計画立案と実戦での問題点調査に絞られています。故に多少抽象的ではあります。
 第2に、本文の分析はMETT-TCの体裁に従って行われています。論文のテーマの都合上短くされていますが、作戦レベルのロジスティクス用METT-TC分析の具体例と呼べるかもしれません。(先に後半の実戦例読んだ方がわかりやすいかもしれません)

 第3に、実戦例として湾岸戦争の砂漠の嵐作戦が取り上げられています。ロジスティクスの理論もほぼこの作戦を基盤に置いているので一般的なものとしてよいかは個々に注意が必要です。

 そして最後に、実戦分析に基づく追加考察として「米陸軍は湾岸戦争地上攻勢が終結せずにもし追撃が実施されていた場合、それはロジスティクス的にどのような影響があったか」を少佐はしています。

 湾岸戦争は米国軍(多国籍軍)の勝利で終わりましたが、陸軍は当初狙っていたイラク軍の撃滅という軍事目標の達成に失敗しました。大半の湾岸戦争書籍で撃滅失敗の論点となるのは「なぜ包囲できなかったのか」具体的に言えば第7軍団の攻勢中の前進停止です。これについて当初糾弾されたロジスティクスが足りず部隊が停止した説についてはパゴニス将軍を筆頭に否定する話が多くでています。第7軍団内の司令官たちの戦術的判断ミスだったのか、それはなぜ起きたかは激しい議論を米国で呼びました。
 しかし包囲は手段にすぎず、本論文は全くその議論は焦点になっていません。少佐の着眼点は全く別の所にあります。包囲失敗したという事実に基づきながらも軍事目標の敵撃滅を達成するために、バスラ市近郊で北へ撤退するイラク軍を、現実の停戦命令がなかったら作戦レベルの縦深で追撃することはできたのか…それを少佐は考察しています。最後の章に書かれたことだけでもぜひ読んで頂きたい興味深いものとなっています。
Operation Desert Storm_gif
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 マルチドメイン作戦の一環として宇宙関連の軍事要素はその重大性を拡大し続けています。衛星を用いた通信あるいは画像観測は地上部隊や航空部隊の作戦に大きく影響し、計画立案時には適切に宇宙関連能力を配分することは必要不可欠となりました。しかし宇宙関連能力を全ドメインと統合し協調した作戦行動を取るための手法は発展段階にあり、まだ米軍ですら空白と呼べる問題事項があるようです。

 米陸軍の宇宙作戦将校には、米陸軍宇宙及びミサイル防衛司令部/陸軍戦略司令部の計画立案に携わっているJ.V.ドリュー2世少佐という人物がおられます。少佐はたびたび陸軍向けに、統合運用の視点から宇宙関連機能がどう使われるのか、あるいはどういう制限があるのかといった説明を非常にわかりやすく説明してくれています。
 今回はこのドリュー少佐が米陸軍季刊誌に寄稿した2つの論文を基に記そうと思います。翻訳している箇所も部分的にありますが推敲しておらず略も多いため、メモ書き程度だと思って読んでいただけたら幸いです。
Visualizing the Synchronization of Space systems

 前半はマルチドメイン作戦をする上で宇宙関連の基本事項(宇宙の3地域、軍事作戦に影響する宇宙環境、責任所掌)を記し、後半には実際に上級司令部での演習で使用されたチャート図を用いたクロスドメイン調整の例の説明を書くこととします。
 宇宙関連能力、例えば衛星などに対する知識理解を他分野の人々がそこまでしていない場合もあり、色々と苦労が起きていることが仄めかされています。チャート図は実際にどういう風に作戦コンセプトが固められていくのかがわかりやすいので、そこだけでも読んで頂けたら嬉しいです。
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冷戦期、西ドイツをワルシャワ条約機構から防衛するためNATO軍が配備されていましたが、その中でもよく議論されたフルダ・ギャップと呼ばれる場所があります。そこはドイツ中央部に位置し、東ドイツの領土が最も突出した箇所に面している所です。北ドイツ平野に比べ中央~南部は山が多く侵攻には手間がかかります。ただここは天然の障害物となれる大きな河川のフルダ川と山系が国境沿いにあるのですが、そこを越えると大きな障害が無く一挙にフランクフルト周辺の広大な平野と人口・産業地帯そして米軍の重要後方拠点まで進出できてしまうため注目されました。
標高_ドイツ中央部東西ドイツ地図_高速道路

 1980年米軍の高級将校たちがある会議にWW2のドイツ国防軍でその名を馳せたヘルマン・バルクとフォン・メレンティン両将軍を招きました。その目的はフルダ周辺に配備されている米陸軍第5軍団の兵棋演習でした。
 米軍側はデピュイ大将、オーティス中将、ゴーマン中将を筆頭に、軍団区域の南を担当する歩兵師団の戦術プランを説明しドイツの両将軍の質疑に答えました。一方でドイツの両将軍はその場で戦場や戦力の説明を受け、それから軍団区域の北の第3機甲師団の戦術プランを彼らが考え話すことになります。この両者のコンセプトや経験は米軍関係者にとって参考になるものでした。
 兵シミュレーションなどを作成しているBDM社の協力の下、彼らは4日間の戦術的な分析議論を行い、後に会議内容をまとめたレポートをデピュイ大将が作成しました。

 William E. Depuy, (1980), "Generals Balck and Von Mellenthin on Tactics: Implications for NATO Military Doctrine"

 今回はこのレポート内容について記そうと思います。一部翻訳している箇所もありますが、基本的にデピュイ大将の書いている文の要点を内容を把握できる程度にメモ書きしたものとなります。
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 先に自分ならどうするか考えてみて頂けると、後々の思索が深まると思います。ですのでまず始めに戦域およびソ連軍の戦力と初期配置のみにした図を貼っておきます。地形は上図を参照ください。AlsfeldからBad Hersfeld中心までは直線距離33.5㎞です。
 米軍は第5軍団所属の第3機甲師団が北に、第8機械化歩兵師団が南に配置されます。戦力詳細は次のようになりますので、よければこれをまずどこに初期配置するか考えてみてください。
第3機甲師団の域内戦力
  機甲=6個大隊
  歩兵=5個大隊(全て機械化)
  砲兵=8個大隊(全て自走砲化)
  騎兵=3個大隊(機甲偵察車両)

第8機械化歩兵師団の域内戦力
 機甲=5個大隊
 歩兵=6個大隊(全て機械化)
 砲兵=9個大隊(全て自走砲化)
 騎兵=2個大隊(機甲偵察車両)

 ※師団サイズは米軍第3機甲師団は約15000人、ソ連の戦車師団は1個あたり12000人前後としてください。
 ※1960年代のIvashutin将軍の文書によるとソ連の作戦は核兵器使用の有無に関わらず実行可能とされた。
NATO演習_00
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