戦史の探求

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カテゴリ: 追撃戦

 米国指揮幕僚大学のロジスティクス分野の論文を今回は一部試訳し紹介しようと思います。
】Operational Logistics
著者】Michael Cyril Lopez 少佐(当時)
製作年度】2001年

 本論文は題の通りロジスティクスについて書かれていますが、いくつか注記すべき特徴があります。
 第1に、作戦レベルのロジスティクスに完全に絞られていることです。戦術レベル、本文中で言えば局地輸送の話はほとんどなく師団内部や軍団内部でどうやり繰りしたかなどは書かれていませんし、小技などは皆無です。戦域規模の計画立案と実戦での問題点調査に絞られています。故に多少抽象的ではあります。
 第2に、本文の分析はMETT-TCの体裁に従って行われています。論文のテーマの都合上短くされていますが、作戦レベルのロジスティクス用METT-TC分析の具体例と呼べるかもしれません。(先に後半の実戦例読んだ方がわかりやすいかもしれません)

 第3に、実戦例として湾岸戦争の砂漠の嵐作戦が取り上げられています。ロジスティクスの理論もほぼこの作戦を基盤に置いているので一般的なものとしてよいかは個々に注意が必要です。

 そして最後に、実戦分析に基づく追加考察として「米陸軍は湾岸戦争地上攻勢が終結せずにもし追撃が実施されていた場合、それはロジスティクス的にどのような影響があったか」を少佐はしています。

 湾岸戦争は米国軍(多国籍軍)の勝利で終わりましたが、陸軍は当初狙っていたイラク軍の撃滅という軍事目標の達成に失敗しました。大半の湾岸戦争書籍で撃滅失敗の論点となるのは「なぜ包囲できなかったのか」具体的に言えば第7軍団の攻勢中の前進停止です。これについて当初糾弾されたロジスティクスが足りず部隊が停止した説についてはパゴニス将軍を筆頭に否定する話が多くでています。第7軍団内の司令官たちの戦術的判断ミスだったのか、それはなぜ起きたかは激しい議論を米国で呼びました。
 しかし包囲は手段にすぎず、本論文は全くその議論は焦点になっていません。少佐の着眼点は全く別の所にあります。包囲失敗したという事実に基づきながらも軍事目標の敵撃滅を達成するために、バスラ市近郊で北へ撤退するイラク軍を、現実の停戦命令がなかったら作戦レベルの縦深で追撃することはできたのか…それを少佐は考察しています。最後の章に書かれたことだけでもぜひ読んで頂きたい興味深いものとなっています。
Operation Desert Storm_gif
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 米陸軍が公開してくれているACCPに短くまとめられたソ連軍の追撃戦に関する項目があったので紹介してみることにします。以下の文は核攻撃の可能性を含む追撃条件の下で、相手(ソ連軍)がどう考えて行動してくるか想定できるようにするために米軍が作った教練項目の1つです。(本文中に出てくるものはほぼ戦術核想定)
 いつもながら推敲していない直訳なのでご助言大変感謝致します。
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 米軍の追撃戦に関してはFM3-90 chapter7などをご参照下さい。ソ連とおおよそ類似する概念が書かれていますが完全に同じではありません。
Frontal PursuitCombination PursuitPursuit Control Measures
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以下、本文開始

 学習項目2:

後退作戦実施時の米軍へのソ連の脅威を知る

 ソ連の軍事辞典は「追撃」を以下のように定義している。

『撤退中の敵軍への攻撃、敵軍の最終的な破壊か捕獲を目的とする進行中の作戦または戦闘を実施する事である。敵主力部隊へ(火力投射)打撃し、容赦の無い精力的な並行追撃や追尾追撃を実施し、敵撤退進路を塞ぎ、そして敵軍の側面や後背を攻撃することにより撤退中の敵軍の破壊は達成される。』

 撤退中の軍を追跡するソ連軍によって使われる戦術に関して、この教練は貴方を習熟させるだろう。ここでのデータはまるでソ連軍将校が使用するために書かれたかのように表現される。それにより追撃作戦中のソ連指揮官の目を通して戦場を「見る」ことをアシストするだろう。
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