ローマ内戦において2人の優れた軍指揮官が衝突しました。1人はガイウス・ユリウス・カエサル、恐らくその名はローマ史のみならず全歴史上最も知られています。もう1人はグナエウス・ポンペイウス。マグヌス(偉大なる)という尊称と共に呼ばれる彼は若くしてローマ史上屈指の軍事功績を挙げ、強力なコネクションを地中海全周域に持つ人物でした。
 一般的には『内乱記』に依拠したカエサルの視点を軸に軍事推移を説明する方が多いですが、本稿は「カエサルの敵」側に比重を置きポンペイウス及び元老院が何を計画し行動に移していったかを記すこととします。そしてポンペイウスの軍事計画を理解することは、カエサルが(時にギャンブルと呼ばれるほどの)リスクを冒した作戦行動をとった理由を説明することに繋がります。2人の計画と行動は合理的で、会戦での戦術のみならず戦略‐作戦の領域で各個たる意味を持っていました。戦略上の位置づけを把握することは、2人のとった幾つかの戦術的行動に関する疑問への回答ともなると思います。

 Sheppard(2006)は 2人の対決を専門に扱った書籍の副題を『巨神たちの激突(Clash of the Titans)』としています。まさしくポンペイウスは絶大な力を持ち、カエサルへ最大の敵として立ちはだかりました。本稿は両者の合理性と作戦失敗へ到ったその背景をポンペイウスを主眼に記していくこととします。
Pompeius Strategy

続きを読む