戦史の探求

戦史の情報を整理し探求するサイトです。 古今東西の全てを対象とし、特に戦況図や作戦図に着目しながら戦略・作戦・戦術について思索します。

タグ:ドイツ

冷戦期、西ドイツをワルシャワ条約機構から防衛するためNATO軍が配備されていましたが、その中でもよく議論されたフルダ・ギャップと呼ばれる場所があります。そこはドイツ中央部に位置し、東ドイツの領土が最も突出した箇所に面している所です。北ドイツ平野に比べ中央~南部は山が多く侵攻には手間がかかります。ただここは天然の障害物となれる大きな河川のフルダ川と山系が国境沿いにあるのですが、そこを越えると大きな障害が無く一挙にフランクフルト周辺の広大な平野と人口・産業地帯そして米軍の重要後方拠点まで進出できてしまうため注目されました。
標高_ドイツ中央部東西ドイツ地図_高速道路

 1980年米軍の高級将校たちがある会議にWW2のドイツ国防軍でその名を馳せたヘルマン・バルクとフォン・メレンティン両将軍を招きました。その目的はフルダ周辺に配備されている米陸軍第5軍団の兵棋演習でした。
 米軍側はデピュイ大将、オーティス中将、ゴーマン中将を筆頭に、軍団区域の南を担当する歩兵師団の戦術プランを説明しドイツの両将軍の質疑に答えました。一方でドイツの両将軍はその場で戦場や戦力の説明を受け、それから軍団区域の北の第3機甲師団の戦術プランを彼らが考え話すことになります。この両者のコンセプトや経験は米軍関係者にとって参考になるものでした。
 兵シミュレーションなどを作成しているBDM社の協力の下、彼らは4日間の戦術的な分析議論を行い、後に会議内容をまとめたレポートをデピュイ大将が作成しました。

 William E. Depuy, (1980), "Generals Balck and Von Mellenthin on Tactics: Implications for NATO Military Doctrine"

 今回はこのレポート内容について記そうと思います。一部翻訳している箇所もありますが、基本的にデピュイ大将の書いている文の要点を内容を把握できる程度にメモ書きしたものとなります。
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 先に自分ならどうするか考えてみて頂けると、後々の思索が深まると思います。ですのでまず始めに戦域およびソ連軍の戦力と初期配置のみにした図を貼っておきます。地形は上図を参照ください。AlsfeldからBad Hersfeld中心までは直線距離33.5㎞です。
 米軍は第5軍団所属の第3機甲師団が北に、第8機械化歩兵師団が南に配置されます。戦力詳細は次のようになりますので、よければこれをまずどこに初期配置するか考えてみてください。
第3機甲師団の域内戦力
  機甲=6個大隊
  歩兵=5個大隊(全て機械化)
  砲兵=8個大隊(全て自走砲化)
  騎兵=3個大隊(機甲偵察車両)

第8機械化歩兵師団の域内戦力
 機甲=5個大隊
 歩兵=6個大隊(全て機械化)
 砲兵=9個大隊(全て自走砲化)
 騎兵=2個大隊(機甲偵察車両)

 ※師団サイズは米軍第3機甲師団は約15000人、ソ連の戦車師団は1個あたり12000人前後としてください。
 ※1960年代のIvashutin将軍の文書によるとソ連の作戦は核兵器使用の有無に関わらず実行可能とされた。
NATO演習_00
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 AirLand Battleと機略戦の理論を押し進めていた冷戦末期の米軍がこのコンセプトを自国なりのやり方で導入するために、委任戦術Auftragstaktikが根付いた将兵がどういった行動を取れたのか、研究した論文についての試訳です。
 前半はAuftragstaktikとはどういうコンセプトだったのか、その歴史の概略と共に記されています。
リンク↓【試訳_委任戦術とその歴史概略】
http://warhistory-quest.blog.jp/19-Dec-15

 この後半は論題通りの主箇所、チル川の戦いにおけるドイツ第11装甲師団の戦例について書かれています。
恐らくドイツ側の説明はほぼ不要なほど有名ではあると思いますが
・ソ連の天王星作戦によりスターリングラードで包囲された第6軍
・マンシュタイン元帥のドン軍集団が解囲を試みた冬の雷雨作戦
・ソ連が南部に展開するドイツ軍全体の崩壊を試みた(小)土星作戦
に関係しています。

 スターリングラード解囲のためのドイツ軍攻勢とは別に、その直前からソ連第5戦車軍はチル川突出部を潰そうと継続的な攻勢を仕掛けました。そこで第48装甲軍団は敵を撃退するために苦闘することとなります。
 互いに思い通りに行かなかった点は多々あるものの、その戦闘内容は教訓に富んだものであると米軍は解釈しており、本論文はそれを具体的にAuftragstaktikが根付いた指揮と統制に着目し記述しています。
図3_1942年18日~19日_第11装甲師団のチル川沿いでの逆襲
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 以下、試訳

Order Out of Chaos : チル川の戦いにおけるドイツ第11装甲師団の活動

【著者】Robert G. Walters 米陸軍大尉 (当時)
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 委任戦術や訓令戦術と訳されることが多いアウフトラークスタクティーク=Auftragstaktik(Führen mit Auftrag)に関し、米陸軍で指揮と統制のスタイル研究のために作成された公開論文の試訳をしてみようと思います。本文書は抽象的概念を論じるものではなく、具体的導入のためにWW2ドイツ軍の戦例を研究しているものです。

 長いので本記事は前半部のAuftragstaktikとは何か、そしてその歴史の概略が書かれた部分について翻訳します。本編ともいえる後半部はヘルマン・バルク将軍率いるドイツ第11装甲師団の1942年チル川の戦いなどの実戦記録となっており、次の記事で載せようと思います。
 また、少々読み難いかもしれませんが本文はそのままAuftragstaktikと記すこととします。原文もそうしており英語のMission-type Tacticsとしていないためです(理由も本文内にあります)。

 本論文の背景には、中・遠距離の核攻撃とワルシャワ条約機構軍の突進によって引き起こされる流動的かつ高速化した現代戦の中で、米軍が欧州に配備されている各部隊を指揮する可能性を考えなければならなかったために研究が必要だったという背景があります。参照されている米陸軍野戦教範は1986年度版であり、AirLand BattleドクトリンとManeuver Warfare理論が密接に関係しています。
51voUT51fQL
(内容的には完全にバルク将軍が主なのですが表紙はマンシュタイン元帥。確かに元帥も関わっていますが…少しバルク将軍が不憫です。)
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 以下、訳文

Order Out of Chaos

】オーダー・アウト・オブ・カオス:1942年12月7日~19日でのチル川の諸戦における第11装甲師団による委任戦術の適用に関する研究
Order Out of Chaos : A Study of the Application of Auftragstaktik by the 11th Panzer Division During the Chir River Battles 7 - 19 December 1942

著者】Robert G. Walters 米陸軍大尉 (当時)
論文提出年度】1989年3月
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スコットランド国立図書館公開戦史資料

 スコットランド国立図書館(National Library of Scotland)が所蔵公開している資料の紹介です。
軍事地図ページアドレスは下記で、ここからいくつか分野ごとに資料へと繋がります。
https://maps.nls.uk/military/ 

 この図書館サイトの特徴的な利便性は、文章目次に加えてグラフィック地図から地点クリックで図版を辿れるようにしていることです。特に塹壕地図集は使いやすく充実しており塹壕戦愛好家(?)の間では有名だそうです。
 極めて簡潔に使用法解説を図書館サイトでしてくれているので日本語紹介する必要無い気がしますが…一応書いておきます。

第一次世界大戦塹壕図集

『WW1西部戦線塹壕MAP集』 →説明ページリンク
https://maps.nls.uk/ww1/trenches/info2.html

 図版集グラフィックインデックス →リンク
https://maps.nls.uk/geo/find/#zoom=8&lat=50.0508&lon=2.8399&layers=60&b=1&point=0,0

【使用方法】
 グラフィック図版集を開くと使用方法がでます。毎回出るので右下にある「使用方法を再度表示はしない」をクリックしておくほうがいいかと思います。
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 使い方は至ってシンプルで、地図上の茶色枠で囲われた箇所をクリックすれば該当する塹壕図が右側に一覧で表示されます。時期が短文で書かれているので目当てのものを選べば図版が表示されます。
 図版データはどれもかなり巨大でズームアップしないとよく見えないかと思います。フルサイズダウンロードは購入すれば見れますがほぼ必要ないほどスコットランド国立図書館のサイトの利便性は良いかと感じます。
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 またこのグラフィック地図状態からそのまま左側にある「Find a Place」で条件を変えれば他の地図集のグラフィックインデックスへも直接飛べます。例えば英国の19世紀の住宅地図が見たければGreat Britain, Ordenance Surveyをカテゴリ選択すれば良いだけです。
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 21世紀の日本では地図の公開は広く行われていますが、近代において詳細地図は軍事最重要情報の1つとして機密扱いの物もあり調査保管も軍関係の部署が担当しました。
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 以下は軍事地図ホームから見られる各カテゴリの紹介です。
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消えないことを祈る自分用メモ 原文ロシア語です。

2008年発行のロシア軍学校における論文
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『(ロシア軍将校から見た)アメリカ軍の各部隊一般組織編成・武装・戦術』
Организация, вооружение и тактика действий частей и подразделений иностранных армий
Учебное пособие г. Тольятти 2008 год

https://studfiles.net/preview/6218863/page:12/
→ リンク

ロシア視点からどこを重視しているのか確認用資料、一部ドイツ軍分析もあり
該当領域:中隊以上
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russsian analysis

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 『オーストリア・ハンガリー帝国最後の戦争 1914-1918年
   ( Österreich-Ungarns letzter Krieg 1914 - 1918)
 オーストリア国立図書館がデジタル化した著作権フリーの書籍を公開してくれています。
 
 良質な、という表現では足りないほど素晴らしい第一次世界大戦の軍事資料です。
 ドイツ語ですが大量かつ巨大な戦況図が公開されています。

 主な作成者はエドムント・グライズ=ホルシュテナウ氏。
 オーストリア連邦副首相、オーストリア・ハンガリー帝国将校(WW1時)、ドイツ国防軍将校(WW2時)という経歴を持つ人物にして、同時に軍事史家であるという驚きの方です。

 歴史の概略本ではなく、徹底的に詳細にオーストリアの参画したほぼ全ての欧州戦線での部隊配置、補給、増員などが網羅されている完全に純粋な軍事記録です。

国立図書館の参考ページにこちらを御覧ください。 →リンク
http://digi.landesbibliothek.at/viewer/image/AC01737446/4/#topDocAnchor

※画像がかなり巨大ですのでご注意ください。
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