戦史の探求

戦史の情報を整理し探求するサイトです。 古今東西の全てを対象とし、特に戦況図や作戦図に着目しながら戦略・作戦・戦術について思索します。

タグ:ロジスティクス

 クレフェルト氏(Martin Levi van Creveld)はイスラエルの軍事研究者であり、1977年に彼が発表した『Supplying War: Logistics from Wallenstein to Patton』は大きな反響を生んだ。補給戦というタイトルで邦訳もあり、ロジスティクス分野の歴史を扱ったものとしては最も知名度のある本だろう。その内容は特に近世欧州からWW2までの軍補給発展史を著述、体系化しており、わかりやすいものとなっている。
 ただ、知名度を得たからこそ各専門家たちの目に触れ、そして詳細な批判を受けることになった。相当数の誤りを含んでおり、発行から約半世紀たった現在では安易に引用してよい書籍ではないことが明らかになっている。以下にはその代表的な批判と『補給戦』の位置づけを記す。
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 概して、主な指摘されている誤謬は次のものである。

 ①正しき姿への「一貫した進化」という進歩史観的な思想。
 ②「補給は事前に細かく定めておかないほうが上手く行く」という彼のテーゼは歴史的根拠が薄弱かつ誤りが含まれ、専門家からは支持されていない。
 ③現地調達の多様性(少なくとも破壊的略奪、非破壊的な徴収、購入)への理解の欠落からくる誤謬。
 (関連:現地調達を「自らの手で」するものと、「現地機関に」させる方式の個別分析の不足。現地調達の定義そのもの。エタップ方式を知らなかったこと。)
 ④「移動する野戦軍への後方からの陸上輸送による食料補給は近世期はまるで不十分であって略奪に依存していた」と言う事実と異なる記述。
 ⑤革命期に発生した兵士の質的変化の軽視および18世紀ルイ14世期軍隊の限界の欠落に基づく「ナポレオンのような機動力への大胆な渇望が17~18世紀の諸軍指揮官には欠けていたために、その移動力を現出させられなかった」というミスリード。

詳細部は後述するが、例えばこのようなものがある。
・粉ひきとパン焼きを容易と誤認して、その負担の補給システム像への影響を見落としたこと。
・一見根拠をしっかりしているようで、内実は偏った/見落としのある計算。
・重量に基づいたせいで発生したマイノリティ必需物品の軽視、食料の扱いと調査不足から来る補給システム像の誤認。全体比率の計算ミス。(飼料と食料が混同されてミスリードしていることも含む)
・社会経済基盤の成長による影響比較の欠落
・戦争目的の差異の戦争様態への影響を考えていないこと
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 個人的に(クレフェルトのせいではないと思うが)、破壊的略奪か後方からの運搬かという2項対立イメージの固着化(近代のイメージを、昔の時代にも反映してしまっていること)は近代以前の補給システム像を誤らせていると感じる。それは史実の探究だけでなく、洗練された軍事システムの研究が為されない事にも繋がっているかもしれない。
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 ローマ内戦において2人の優れた軍指揮官が衝突しました。1人はガイウス・ユリウス・カエサル、恐らくその名はローマ史のみならず全歴史上最も知られています。もう1人はグナエウス・ポンペイウス。マグヌス(偉大なる)という尊称と共に呼ばれる彼は若くしてローマ史上屈指の軍事功績を挙げ、強力なコネクションを地中海全周域に持つ人物でした。
 一般的には『内乱記』に依拠したカエサルの視点を軸に軍事推移を説明する方が多いですが、本稿は「カエサルの敵」側に比重を置きポンペイウス及び元老院が何を計画し行動に移していったかを記すこととします。そしてポンペイウスの軍事計画を理解することは、カエサルが(時にギャンブルと呼ばれるほどの)リスクを冒した作戦行動をとった理由を説明することに繋がります。2人の計画と行動は合理的で、会戦での戦術のみならず戦略‐作戦の領域で各個たる意味を持っていました。戦略上の位置づけを把握することは、2人のとった幾つかの戦術的行動に関する疑問への回答ともなると思います。

 Sheppard(2006)は 2人の対決を専門に扱った書籍の副題を『巨神たちの激突(Clash of the Titans)』としています。まさしくポンペイウスは絶大な力を持ち、カエサルへ最大の敵として立ちはだかりました。本稿は両者の合理性と作戦失敗へ到ったその背景をポンペイウスを主眼に記していくこととします。
Pompeius Strategy

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 米国指揮幕僚大学のロジスティクス分野の論文を今回は一部試訳し紹介しようと思います。
】Operational Logistics
著者】Michael Cyril Lopez 少佐(当時)
製作年度】2001年

 本論文は題の通りロジスティクスについて書かれていますが、いくつか注記すべき特徴があります。
 第1に、作戦レベルのロジスティクスに完全に絞られていることです。戦術レベル、本文中で言えば局地輸送の話はほとんどなく師団内部や軍団内部でどうやり繰りしたかなどは書かれていませんし、小技などは皆無です。戦域規模の計画立案と実戦での問題点調査に絞られています。故に多少抽象的ではあります。
 第2に、本文の分析はMETT-TCの体裁に従って行われています。論文のテーマの都合上短くされていますが、作戦レベルのロジスティクス用METT-TC分析の具体例と呼べるかもしれません。(先に後半の実戦例読んだ方がわかりやすいかもしれません)

 第3に、実戦例として湾岸戦争の砂漠の嵐作戦が取り上げられています。ロジスティクスの理論もほぼこの作戦を基盤に置いているので一般的なものとしてよいかは個々に注意が必要です。

 そして最後に、実戦分析に基づく追加考察として「米陸軍は湾岸戦争地上攻勢が終結せずにもし追撃が実施されていた場合、それはロジスティクス的にどのような影響があったか」を少佐はしています。

 湾岸戦争は米国軍(多国籍軍)の勝利で終わりましたが、陸軍は当初狙っていたイラク軍の撃滅という軍事目標の達成に失敗しました。大半の湾岸戦争書籍で撃滅失敗の論点となるのは「なぜ包囲できなかったのか」具体的に言えば第7軍団の攻勢中の前進停止です。これについて当初糾弾されたロジスティクスが足りず部隊が停止した説についてはパゴニス将軍を筆頭に否定する話が多くでています。第7軍団内の司令官たちの戦術的判断ミスだったのか、それはなぜ起きたかは激しい議論を米国で呼びました。
 しかし包囲は手段にすぎず、本論文は全くその議論は焦点になっていません。少佐の着眼点は全く別の所にあります。包囲失敗したという事実に基づきながらも軍事目標の敵撃滅を達成するために、バスラ市近郊で北へ撤退するイラク軍を、現実の停戦命令がなかったら作戦レベルの縦深で追撃することはできたのか…それを少佐は考察しています。最後の章に書かれたことだけでもぜひ読んで頂きたい興味深いものとなっています。
Operation Desert Storm_gif
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 WW2北アフリカ戦役での米軍Sustainmentに関して総評を行った論文について、一部を試訳したものです。思いつきでやっただけで特に読み返すなどしておらず不備があるかと思いますのでご指摘いただけると助かります。
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公開日】1991年5月6日 

論題

 北アフリカ戦役:ロジスティクス査定(The North Africa Campaign : A Logistics Assessment)

著者

 マーク・D・キッチン( Mark D. Kitchen)
遂行組織
 アメリカ陸軍指揮幕僚大学(U.S Army Command and General Staff College)

論文概要

 本研究は北アフリカ戦役におけるロジスティクスの諸作戦について分析する。対象とするのは1942年、北西アフリカへ上陸した連合軍に後続した米国地上部隊支援に関して、ホールセイルとリーテイル *1  領域の準備と実施についてである。本分析は1943年5月のチュニジアでのドイツ軍降伏までを論述する。
 
 この戦役におけるロジスティクス面での試みは現代のエアランドバトル・ドクトリン構想に関して研究される。人材調整、燃料供給、武装化、修理そして輸送の各分野がそれぞれ査定される項目は予測性、統合調整、継続性、反応性即興性といったドクトリン上の必須事項である。

主題用語

トーチ作戦、北アフリカ戦役、北西アフリカ(WW2)、ロジスティクス、維持支援、チュニジア戦役、WW2ロジスティクス

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