戦史の探求

戦史の情報を整理し探求するサイトです。 古今東西の全てを対象とし、特に戦況図や作戦図に着目しながら戦略・作戦・戦術について思索します。

タグ:戦略

 ローマ内戦において2人の優れた軍指揮官が衝突しました。1人はガイウス・ユリウス・カエサル、恐らくその名はローマ史のみならず全歴史上最も知られています。もう1人はグナエウス・ポンペイウス。マグヌス(偉大なる)という尊称と共に呼ばれる彼は若くしてローマ史上屈指の軍事功績を挙げ、強力なコネクションを地中海全周域に持つ人物でした。
 一般的には『内乱記』に依拠したカエサルの視点を軸に軍事推移を説明する方が多いですが、本稿は「カエサルの敵」側に比重を置きポンペイウス及び元老院が何を計画し行動に移していったかを記すこととします。そしてポンペイウスの軍事計画を理解することは、カエサルが(時にギャンブルと呼ばれるほどの)リスクを冒した作戦行動をとった理由を説明することに繋がります。2人の計画と行動は合理的で、会戦での戦術のみならず戦略‐作戦の領域で各個たる意味を持っていました。戦略上の位置づけを把握することは、2人のとった幾つかの戦術的行動に関する疑問への回答ともなると思います。

 Sheppard(2006)は 2人の対決を専門に扱った書籍の副題を『巨神たちの激突(Clash of the Titans)』としています。まさしくポンペイウスは絶大な力を持ち、カエサルへ最大の敵として立ちはだかりました。本稿は両者の合理性と作戦失敗へ到ったその背景をポンペイウスを主眼に記していくこととします。
Pompeius Strategy

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 BTG = Battalion Tactical Group = 大隊戦術グループ(大隊戦術群)は現代ロシア連邦軍が改革の成果の1つとして実戦投入している編制です。NATOの通常とは違うこの部隊に対し米軍は強い関心を抱いて調査を進めています。

 BTGについて少し話を見かけたので、今回は以前参考資料として以前紹介した米軍指揮幕僚大学外国軍事研究室が発表した『Russian Way of War』という現代ロシア軍の戦争手法解析論文から関連個所を抜粋翻訳してみようと思います。
 ロシアの戦争観や作戦レベルや戦術レベルの考え方、ミッションコマンドについても触れられているので大隊戦術グループ以外でも興味深い記述があります。
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別に書いた参考資料紹介
リンク→【現代ロシア陸軍の基本戦術、装備、軍部構造、近代化理論基盤_2016】
http://warhistory-quest.blog.jp/19-Nov-28

リンク→ソ連軍士官学校での教材上の作戦術
http://warhistory-quest.blog.jp/19-Sep-20
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Battalion Symbol

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現在オーストラリア軍では急速に変化する世界情勢、技術性能、そして軍事理論に対応しようと政府を含めた全体で取り組んでいます。
 今回紹介するのは技術進化の個別事例ではなく、変化に対応するための根本的な備えを身に着けようという基幹コンセプトです。

 その基盤となるのが「適応戦役化」という考えです。事前に計画していたことだけでは対処できず新たに逼迫した習得すべき事項が生まれる、つまり変化に適応するアクションを取ることになると豪軍は考えています。必ず将来的にその個別の適応化事項について「学習」をするが故に、豪軍がすべきことは「学ぶ方法を学ぶ=Learn how to learn」組織・意識・システムを作ることとされています。
 そのための1つが特に司令官・戦略レベルで有効とされる適応化サイクルあるいはASDAサイクルと呼ばれるコンセプトです。豪軍はそれを「正しく課題を解決する」よりもまず「正しい課題を解決する」ように戦略・作戦レベルで変化に適応しなければならない、そのためのツールとしています。
The Adaption Cycle_ASDA loop
※ Discovery Actionからスタートし最低一周してからDicisive Action(かつDiscovery Action)へと移るという意味の図。

 一見するとジョン・ボイド大佐のOODAループに似ていますが、ASDAサイクルはそれと対立はしない別の理論です。本文中にも説明がありますが最後の訳者追記箇所に補足を入れました。
 以下にはAaptation Cycleが述べられた第4章についての訳文を記載します。…意外と長いと感じられる方は【4.9】項、【4.10】項、【4.15】項にとりあえず目を通していただければ要旨は把握できます。

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以下、訳文

【題】陸軍の将来的陸戦運用コンセプト_ARMY’S FUTURE LAND OPERATING CONCEPT
【製作】豪陸軍総司令部_HEAD MODERNISATION AND STRATEGIC PLANNING - ARMY
AUSTRALIAN ARMY HEADQUARTERS

【発行年】初版発行2009年、改定2012年

第4章 適応戦役化_Adaptive Campaigning

【序論】

【4.1】
 将来的な安全保障の複雑性に対応する陸軍は適応戦役化を実施することになる。適応戦役化は次のように定義される。
『紛争解決及び国益を進展させるための統合的政府全体アプローチへの軍事的貢献の一部として地上軍により遂行される行動』
国防白書2009で説明されているように、適応戦役化が狙いとするのは平和的に政治的談話を促進し、国益に繋がる条件で状況を安定化させるように全体環境へ影響を及ぼしそして形作ることだ。

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