古代ローマ、この強大な国家には何度か変質をした転換点がありました。その内の1つが前1世紀に起きたガリア戦争及びローマ内乱期です。これらの戦争の中で幾人かの優れた将軍、そして後世で研究されることになる高度な戦術と作戦が記録されることになります。この転換期にユリウス・カエサルは絶大な影響をもたらし歴史上において比類なき人物としてその存在を刻み込みました。
 彼の賛同者は最高の賞賛を与え反対者は最大の批判をし、歴史に興味を抱かない人々の間ですら名を覚えさせてしまうほど、カエサルはあまりにも魅力的人物なのでしょう。軍事面においてもカエサルは単に会戦に勝ったというだけでなく高度かつ複雑な軍事理論を遂行しており、極めて卓越した将なのは間違いありません。

 ただ、あるいは故にと言うべきでしょうが、彼と戦った者達もまた忘れられるべきではない活躍をしています。政治、外交、軍事、文才、コミュニケーション能力…ほぼあらゆる面で圧倒的に優れていたカエサルに対しそれでも戦いを挑んだ人々の存在は何かの意味を残したのだと思います。
 今回はその中のティトゥス・ラビエヌスという人物の戦史を紹介したいと思います。人物の伝記はBlake Tyrrellが記してくれていますので本稿ではテーマとはせず、幾つかの軍事理論の方を主題としその実戦例としてラビエヌスの戦史記録を取り上げることとします。(よって紹介する会戦の時系列を意図的に並べ替えます。)

 かつて副司令官としてカエサルと共に戦い、後にカエサルを相手に戦い、そしてカエサルに会戦で勝利した1人の軍人の記録です。

BCE52_Battle of Lutetia_4
続きを読む