戦史の探求

戦史の情報を整理し探求するサイトです。 古今東西の全てを対象とし、特に戦況図や作戦図に着目しながら戦略・作戦・戦術について思索します。

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  騎馬戦士よ!ラワ戦法などに首を突っ込まず、
  自らの命を惜しむがいい。

プーシキン詩作『騎馬戦士』(1829年)
(鈴木淳一, "В.В.コージノフ『19世紀ロシア抒情詩論(スタイルとジャンルの発展)』翻訳の試み(3)", p.67より抜粋)
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 ラワという軍事単語は現在はあまり使われません。ただ戦史を調べていく中で特定の人々、例えば旧日本軍の戦術書籍を読む方々はこの言葉に出会い、なぜ固有名詞化されているか気になったかと思います。
lava_various

 本件はよくある話ですが、調べれば調べるほどわからなくなるテーマでした。ラワとは戦術的概念であるという説明の他に、フォーメーション寄りの解釈をしているものが少なからずあったからです。資料元のロシア国内ですらこの解釈に混乱があるという話を見た時、どれか1つの書籍にあるものをそのまま主張するのではなく、複数の資料を列挙して示しておくことにしました。ですのでラワとは何かの普遍的定義を導くのではなく、複数解釈ある背景を説明する方に比重を置きました。
 かなり厄介なテーマでしたがようやく調べが進んだので簡易ながら覚書を残します。同じく興味を持つ人がいつか現れ、調べた時に少しだけ助けになれたら幸いです。続きを読む

 機動防御とは何か、そして陣地防御とどのようにわけるべきなのかという議論は一見簡単に見えて非常に根深い問題を抱えています。

【機動防御を巡る米軍の混乱】
http://warhistory-quest.blog.jp/20-Mar-23
何がモバイルなのか
 それについて前回の記事で簡単にその一部に触れましたが、まだわかりにくかったかもしれません。Walters少佐の論文のp.38に記されているように、このテーマはともすれば衒学的になってしまいがちです。
 それでも本テーマは現代の防御ドクトリンを考える上で重要な価値があると思います。この困難な道を研究する人々の何かの刺激になればと思い、本記事にはこの問題を考える上で参考になる資料の一部を訳せるだけ訳しました。特に1993年にWalters少佐が提出した論文を中心としています。
 目次は下記となります。最初に用語の説明を教範中から抜粋した後で論文試訳を行い、最後にそれらを踏まえた上で幾つかの年代の教範の実際の記述を記すこととします。教範の翻訳はエリア防御とモバイル防御両方の範囲を含みます。もしかしたら論文よりも教範の文章を先に読んだ方がいいかもしれません。

用語解説
・2001年版FM3-90 Tactics 第8章_防御作戦の基礎(MBAとFEBA、Battle positionの定義)
・1954年版FM100-5 Operations 第296項_主逆襲と局地逆襲

論説翻訳
・1964年論考_Infantry_防御マニューバ_歩兵学校の定期誌でのモバイル防御問題の論考
・1973年論考_Militery Review 12月号_柔軟対応ドクトリン
・1994年論文_Mobile Defense : Extending the Doctrinal Continuum_モバイル防御の混乱について新条件を組み込んで解決しようとした論文(本文全翻訳)

教範中のエリア防御とモバイル防御の記述
・1954年版FM100-5 Operations 第9章_防御
・1960年版Landing Party Manual_第10章_防御_陸戦隊の教範中でのモバイル防御とポジション防御
・1993年版FM100-5 Operations 第9章_防御の基本事項
・2015年版FM3-90-1 Offense & Defense _第7章_エリア防御(縦深防御と前方防御)
・2019年版ADP3-90 Offense and Defense_エリア防御とモバイル防御そして後退行動の定義続きを読む

 「カバゾス将軍が37の戦闘指揮訓練プログラムの先任管轄者としての経験を述べた所によれば、指揮将校学生を含むあらゆる(米軍の)指揮官は少なくとも一度は彼らが機動防御と呼んだ作戦を実施してきたという。さらに続けて彼は断言した、現在に至るまで機動防御を1度でも実際に実行した指揮官は1人も存在しない、と。」 
G.L.Walters少佐, (1993), "Mobile Defense : Extending the Doctrinal Continuum", p.2 より抜粋)
   
 「戦術について真面目に取り組む学生なら皆、現在の米陸軍ドクトリンに組み込まれている2つの基本マニューバ形態の概念的な理解を深める必要性にすぐに直面する。」 
(米陸軍歩兵学校, (1964), "Infantry", p.27)
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 本記事は日本で機動防御と呼ばれる防御形態について、特に米軍の解釈とそこに巻き起こった混乱に関する基礎情報を記します。別途製作する論文及び教範の抜粋試訳を読む際の基盤にして頂けたら幸いです。誰もがわかっているようでいざ話してみると詳細が一致せず、米軍の教範に書かれていることを深く考察すると様々な疑問点が生まれ出でます。むしろ教範を1つしか読まない方がその迷路に入らずに済み、年度別版や実戦用の師団や旅団の教範など複数を読み進めていくと謎が深まっていきます。
 本稿は混乱を紹介するものであり、解答を示すものではありません。この難題に関する考察や資料が何かあればどうか教えてください。
counterattack in mobile defense and area defense


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 循環移動射撃(カルーセル、トラゥザーズ)戦法について紹介した前回の記事に続き、それを組み込んだ戦術的行動について調査しましたので記載しようと思います。
 機甲の循環移動射撃が組み込まれ得る戦術は様々あり、現在シリアでの実戦やロシア軍の演習で試されています。いずれも極めて強力なものであり、相手がもしそれを把握しておらず巧みな対処ができなければ破滅的な影響をもたらし得ます。それらは真新しいものではなくむしろ歴史的に幾つもの巨大な実績をあげた戦術の現代への適合と統合という意味での進化に近いものでした。循環移動射撃戦法がもたらす効果はその戦術を構成する一要素として、例え循環移動射撃が単一では敵に重い損害を与えていなくとも、全体の戦果に対し大きな貢献をしています。
 以下の事項について特に着目して記述しました。

・偵察‐打撃コンプレックスの活用
・機甲のノマド式運用
・長時間制圧射撃と別チームの移動支援
・誘引からの分断、包囲、逆襲(マニューバラブル防御の一部)
カルーセル_偵察からの打撃

関連
前回の循環移動射撃(タンク・カルーセル、ファイヤ・カルーセル、タンク・トラゥザーズ)、シリア式塁壁に関する調査記事。
リンク→タンク・カルーセル戦法_機甲による循環移動射撃
http://warhistory-quest.blog.jp/20-Apr-15

攻撃時に後退を含む頻繁な移動を許容し、継続的な射撃を行うタイプの戦闘技法とそれを用いた包囲戦術の事例
リンク→弾性の包囲概説と戦例
http://warhistory-quest.blog.jp/18-Apr-12
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現在ロシア軍が訓練とシリアでの実戦データ収集を続けている機甲による戦法『タンク・カルーセル』について記述します。関連する『タンク・トラゥザーズ』戦法と『シリア式塁壁』についても触れることにします。

 内実は循環移動射撃戦法と呼ぶべきものであり、基本コンセプトは古くから続くショット&アウェイです。科学技術進歩に伴い複合的に進化した機甲車両と砲兵隊によって、このコンセプトを現代戦の中で実践する手法として再び現れました。ロシア軍、シリア軍、ウクライナ軍による実戦運用と訓練が進められており、米軍も少しずつ研究を続けています。
 長所と短所の両方があるこの戦法の特性について調査して判明した範囲で説明し、次に戦術の中でこの戦法がどう活用されるのかをロシア軍の演習を例に記そうと思います。

 まだ不明点が多く実戦記録も十分でないため、別の資料や戦車運用の知見をご存じの方の意見をどうか伺いたく思っています。発展性と制限性の両方がある極めて興味深い戦法だと感じています。なにとぞご助力お願い致します。
Fire Carousel

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 「ある守備態勢をとっている相手に攻撃を仕掛ける場合、攻撃側は守備側よりも3倍以上の兵力を揃えておくべきである」という言い伝えがあります。これを攻撃側3倍の法則(3:1 rule)と呼び、歴史的にある程度の普遍性がある戦理だと捉えている人は数多くいます。また他の状況下での兵力比率についても数値が与えられている書籍を見かけることもあります。
 ですがこの兵力比率は本当に何らかの論理的根拠や歴史的統計から導きだされた法則なのかはかなり疑念をもたれており、激しく批判する研究者も存在します。

 本稿ではまず米陸軍が教範に採用している該当箇所を抜粋翻訳し、次に統計調査の1つを紹介した上で所感を幾つか書いてみようと思います。米陸軍の表だけしか見ない場合深刻な誤解を招きかねないため、必ず教範文章に目を通してください
 自分の結論を先に書いておくと、『米軍教範の成功戦力比表は実戦で適用できる法則と言えるだけの根拠は存在しないが、立案時の初期スタート基準としては有用であり、立案途中段階で修正を加えるのに役立つ』という意見です。

 また、FM6-0及びATP5-0.2は参謀が立案をする際に具体的にどう進めるかを把握するのに役立ちますので、参謀業務やウォーゲームについて興味がある方はぜひ目を通して見てください。
戦力比別成功率表

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