戦史の探求

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タグ:軍隊の動き方

 米陸軍野戦教範のFM3-90 Tacticsの要点抜粋をだいぶ昔にしたのですが、今回はその補足資料として戦術的ミッションタスクについて記されたFM3-90 Appendix Bを翻訳紹介しようと思います。
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リンク→FM3-90 Tacticsの要点抜粋
http://warhistory-quest.blog.jp/18-Feb-27
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 戦術的任務上のタスクと呼ばれているものは例えば「脱出せよ」「拘束せよ」「突破口形成せよ」といった様に指揮官が部隊に任務命令を発する際に任務綱領に明示する「効果」や結果のことです。「中央部隊は前進せよ」といった指示はあくまで「行動」を表現するものであり、指揮官が戦術/作戦/戦略的に達成したい効果や目的そのものではありません。(任務の焦点はあくまで中央部隊が前進するという行動によって突破口形成をする、ということです。)効果は敵にもたらすものと自部隊にもたらすものに大別されます。
   
 こういった戦術的タスクについて各人で認識齟齬があると任務遂行がズレる危険性があります。ですのでいずれも理解しておくべき戦術的基礎事項とされています。またこれらの効果があるということを知っておかなければ指揮官が用いれる戦術の幅は著しく小さくなってしまいます。近代以前の戦史でもこれらの要素を把握しておくことは有用です。

 以下には指揮官が部隊に命令を出す際に明示するその戦術的ミッションタスクについて各々の説明を記載します。本文はあくまで米陸軍の任務綱領上での意味だということに注意してください。本文中にもありますが、一般的な用語とはやや違う、あるいは状況限定的な意味を持って使われています。(また、米軍の考える意味の軍事用語を日本語訳する上で、意味が分かりやすく誤解を招かないと個人的に考えている用語をあてています。)
 本サイトを訪れるくらいの人には大部分が既知だと思いますが、bypassとexfiltrate、secureはどうか目を通してほしいと思っています。
Tactical Mission Task
figb-1
block_Fix_Disrupt_Turn

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米陸軍大学出版から何十年にも渡って出されている季刊誌Military Reviewには色々と面白い記事があります。今回はその1940年6月号へ当時大尉だったReuben E. Jenkins(最終階級は中将)が寄稿した『Offensive Doctrines』の中に4種の包囲マニューバについて書かれているものがあったので一部試訳紹介してみます。 
 包囲マニューバは実戦例詳細部を分析し1つ1つにラベルを貼っていけば、その形態の数は実に多くなるでしょう。1つの戦例に複数の性質が存在することもあるためです。ですので本記事中の4つの包囲形態とはある視方をした場合に浮かび上がる特徴を基に4つ抽出したものとなります。
 その4つとは次の包囲形態になります。

密接包囲(Close Envelopment)
広範包囲(Wide Envelopment)
両翼包囲(Double Envelopment)
迂回攻撃(Turning Movement)

 章タイトルだけを見た時、単純に近接と広域に距離で分類したのだと連想してしまうかもしれません。しかし3つ目の両翼包囲に説明が移る段階でなぜ片翼包囲が無いのかといった違和感があるはずです。ここで自分は原著者は一体どのような基準でこの4形態のみを説明することとしたのだろうと興味を持ちました。
 幸い論述内容は簡潔ですぐに疑問は解けました。ジェンキンス将軍が包囲の説明で重視していたのは、各タイプごとに包囲マニューバを実行する「編制及びその指揮統制」手法が違うということでした。彼は指揮の実践に必要な内実に基づいて上記4タイプを認識すべき旨を強調した書き方をしており、幾何学的性質や距離は関係しますが本文の主眼にはされていません。

 以下訳に移りますが4形態の内容個々は特段珍しいことを述べているものではありません。ですがこの将軍の着眼点はたとえ当時と現代あるいは昔が違う様相の戦争だとしても、指揮手法の変化の重要性を再度考えさせてくれる価値のあるものだと思います。続きを読む

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